つぎの日、あたしは目覚めると、まるでそれを見越したかのように、部屋のドアがノックされた。
「はい」
入ってきたのはユーリルだった。
「フローラ姫、お加減はよろしゅうございましょうか」
今日は薄いブルーのトーガを着て、あたしに礼をつくしていた。
後には1人の年配の女性が付き従っていた。
「おはよう。部屋が広くてなかなか寝付けなかったけど」
「それはいけません。もう少しお休みになられますか?」
本当に心配そうに、ユーリルは言った。
ユーリルは本当にきれい。
どんな表情も、全てしっくりきてしまうの。
この人には哀愁でさえも似合ってしまう。
「大丈夫」
ユーリルは1歩さがって、うしろの女性と並んだ。
「フローラ姫の乳母のメリルです。今日から姫様のお世話をさせていただきます。その、私では行き届かない面もあると思いますので」
昨日、あたしは結局パジャマで過ごしていたの。
部屋をでたときにそのままだったから。
ユーリルがあたしのために洋服を用意してくれようとしたんだけど、男のユーリルは、姫の洋服を選ぶことが出来なかったんだ。
たぶん、照れていたんだと思う。
あたしが選ぼうにも、それがどんなものか判らなくて…
メリルはきっと、そのために来たんだ。
今までおじぎをしていたメリルが、顔をあげてあたしを見たとたん、はっとした。
「姫様…」
その目には涙があった。
初めてユーリルがあたしを見たときと同じように。
「なんて、そっくりな。なんてお美しい…」
あたしの顔に美しいなんて形容、まさかユーリル以外の人が付けるとは思わなかったから、あたしはかなり面食らっていた。
護衛隊長のユーリルがそういうのは、なんとなく納得出来ていたの。
主君の娘だもの、少しは本気で思っているんだろう、って。
でも乳母のメリルまでそういうなんて、もしかしてこの国では、家臣にそういう教育でもしているのかしら。
「メリル、この御方は姫様の身代わりを名乗り出てくれた方なのだ。平原茜様という。ただ、今後はフローラ姫とお呼びするように」
「判りました。…フローラ姫様、メリルと申します。今日から10日間に渡ってお世話さし上げますので、よろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくお願いします」
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