そんなあたしを見て、若原君は逆に冷静に戻っていた。
 1つ溜息をついて、言ったの。
「…判った。平原はオレのこと男だと思ってないだろ。…ああ、ショックだ。自分では少しは男らしいと思ってたんだけど」
 頭をかかえた若原君に、あたしは言うべき言葉が見つからなかった。
 あたしが言いたかったのは、単に部屋が広すぎるって、それだけだったの。
 若原君はやさしかったから、ぜんぜん危険だと思わなかった。
 でもそれが若原君を傷つけることになるなんて…
「ごめんなさい!」
 そんな精一杯のあたしの言葉に、若原君はちょっと悲しそうに言った。
「もういいよ。だけどオレ、どんなに平原に頼まれてもお前と同じ部屋に寝るつもりないから。それだけはちゃんと言っておかないと」
 あたしの見ている前で、若原君は立ち上がっていた。
「隣の部屋にいる。なにかあったら呼んで。おやすみ」
 そう言うと、若原君はあたしがおやすみを言うまもなく、部屋からでていってしまった。
 若原君、本気で怒ってた。
 あんなにやさしかった人を、あたし怒らせちゃったんだ。
 今度こそ本当に、あたしは嫌われてしまったのかもしれない。
 もう二度と、あたしに笑いかけてくれないかもしれない。
 話しかけてくれないかもしれない。
 側にいてくれないかもしれない。
 本当にそんな事になったら、あたしはどうすればいいの?
「若原君…」
 あたし、もう1回若原君に謝ろう。
 そして、なんとか許してもらおう。
 それでも側にいたくないって言われたら、その時は諦めよう。
 若原君を好きな気持ちも、若原君に側にいてもらいたいって想いも。
 だってそれは仕方のないことだから。
 あたし、こんな自分が嫌いだから、こんな自分を少しでも好きになってもらえるなんて、うぬぼれることすら出来ないもの。
 あたしでさえ嫌いなのに、若原君に好きになってもらおうなんて、そんな虫のいいことないもの。
 そう決めると、あたしはそのままベッドに入った。
 その夜は、なかなか眠ることが出来なかった。
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