若原君には、自分の一言がどんなにあたしを嬉しくさせるのか、判っていないのかな。
 自分の笑顔がどんなに魅力的なのか。
 あたしの心をこれほどゆるがしてしまう事。
 あたし、これまでよりも、ずっと若原君が好き。
 教室で若原君のこと盗み見ていたあのころより、何倍も好きになったの。
 若原君の目には、あたしはどんな風に映っているの?
 少しでも好きだなんて、考えてくれる?
 でもその質問は、あたしの口からもれることはなかった。
 1番聞きたいけど、1番聞けない事だから。
 こんなにすてきな若原君に、好きな人がいない訳がない。
 その人に好かれていない訳がない。
 あたし、そのことを若原君の口から直接聞くのが恐かった。
 聞かなくてもいいよね。
 今だけ、夢を見てもいいよね。
 ひとり占めしていても。
「ひょっとして眠くなった?」
 考え込んでいたあたしに、若原君がそっといった。
「そうでもないけど…でも、あたしもしかしてこの部屋で寝るの?」
「そうだよ」
 この部屋…異様に広いよ。
 あたし、こんな広い部屋で寝たことない。
 落ち着かなくて、眠れないんじゃないかな。
「若原君もこの部屋で一緒に寝よ?」
 その時の若原君のびっくりしたような顔に、あたしもびっくりしていた。
 一瞬、どうして若原君が驚いているのか、判らなかったの。
「お前、それ、本気?」
 しどろもどろって感じで若原君は言ったの。
 この急激な若原君の変化に、あたしはさっき自分が言ったことを思いだそうとして…
 え? 嘘! あたし、何かすごい誤解されるようなこと言ってる!
「あ、あの、それはですね、その…」
 あたしがやっと自分の失言に気付いたから、誤解を解こうと、一生懸命言葉を捜した。
次へ
扉へ
トップへ