広い食堂で3人きりの夕食を済ませたあと、あたしはもともとの姫の部屋へと通された。
 そこはさっきの部屋なんかとは比べ物にならないくらいの、絢爛豪華な部屋だったの。
 若原君の言った通り。
 さっきの倍はありそうな広さ。
 ここまで広くなると、畳に換算することなんて出来ないの。
 しいて言えば、音楽室並みの広さってところかな。
 真中にはテーブルと椅子が3脚。
 少しはなれてソファがあった。
 ドレッサーに簡単な宝石箱。
 天蓋付きのベッド。
 たっぷり襞の入った、ビロードのカーテン。
 そこは2階だったから、窓にはしっかりと木の扉が入っていた。
 そして、2枚の肖像画。
 左の1枚は、王冠をかぶった男の人だった。
 これはきっとフローラ姫のお父さん。
 そして右の1枚は、きれいなドレスを着た、20代後半くらいに見える女性。
 銀色のティアラをしているから、きっと姫のお母さんだろう。
 でも、ほかのどんな状況で見たとしても、あたしはこの人が姫のお母さんだって確信したと思う。
 この人はあたしによく似た顔をしてたから。
 姫のお母さんは、姫を産んでから2年足らずで、この世を去っていた。
 姫はさらわれなかったとしても、お母さんとは会えなかったことになる。
 でも姫は、あたしにそっくりだというユーリルの言葉を信じるならば、こんなにもお母さんの王妃にそっくりに成長したの。
 姫はきっと毎日、この肖像画を眺めていたことだろう。
 ただ、お父さんに会える日を夢見て。
 いったい誰が姫をさらったの?
 16年間も会えなかった親子を引き離すような、そんなひどいことがどうして出来たの?
 あたし、自分のためでなく、出来るだけ早く姫が帰れるように祈りたかった。
 今どこで何をしているのか判らないけど、この祈りが姫に通じるように願った。
 そして、あたしが一通り部屋の点検を終えると、ノックの音がして、若原君が顔をだしていた。
「平原…じゃなくてフローラ姫。お加減はいかがですか?」
 若原君、ちょっとおどけたような感じで、あたしに礼をつくして見せる。
 あたし、気持ちがほぐれて、思わず顔がゆるんでいた。
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