「オレの責任で平原を守らなきゃいけないんだな」
「その通りです。グレン、これからはあなたは私の部下です。
 グレン! お前に姫の警護を命ずる!」
 若原君は勢いよく立ち上がった。
「は、命にかえまして!」
 真剣に、本当に真剣に、若原君は言った。
 それだけ2人は真剣なんだ。
 あたしがこんなところで迷ってるなんて、いけない。
 あたしも真剣に姫にならなければいけない。
 あたしの対応に、ユーリルと若原君の命がかかっているのだから。
「ありがとう…」
 ユーリルはただひとこと言って、そして、顔の表情を隠すようにうつむいた。
 そんなユーリルに、若原君はそっと近づいていったの。
 そして肩を抱いて、隣に腰かける。
 ユーリルははっとして顔をあげた。
「大丈夫だよ。姫は必ず帰ってくる。お前の仲間が捜してるんだろ? あんがい平原が身代わりになる前に、無事で戻るかもしれないじゃないか。ほら、仲間を信じようぜ。オレも仲間だから」
「グレン…聡殿」
「隊長殿、元気を出して下さい。隊長がそんな顔をされていたら、某も悲しいのであります。隊長殿はいつも毅然としていて下さい。それが我々の願いでありますから」
 そう言った若原君は、もうすでに従者のグレンだった。
 そして、若原君の言葉に、ユーリルも元気づけられたようだった。
「私は聡殿に出会えてよかった。平原殿にも。私は幸運だ」
「そうだよ。ユーリルは運がいいんだ。だから間違いなく姫も見つかるよ」
「ありがとう」
 こうして、あたし達のこれからが決まった。
 あたしは明日からの10日間で、姫としての教育を身に付ける。
 若原君は従者グレンとして、あたしの警護にあたる。
 ユーリルは姫捜しをとりあえず仲間にまかせて、あたしの教育に全面的に当たってくれることになった。
 そうして、この美しい離宮に、初めての夜が訪れようとしていた。
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