「これから10日間で、平原殿にはフローラ姫としての起居振舞や話し方などを勉強していただくことになります。それから聡殿」
「オレも何かやるの?」
「あなたには、姫の従者になっていただきます。2年前になくなった従者で、グレンという者がいまして、そのものの死亡はまだ報告していませんので、今日から聡殿はグレンと呼ばせていただきます。そのものは聡殿と同じような黒髪に黒い瞳をしていましたので。よろしゅうございましょうか」
 2年も前に死んだのに、死亡届を出していなかったの?
 この国ってそれだけ悠長なのかな。
 あたしはずいぶん関係ない事を考えていた。
「オレはかまわねーけど。従者ってのは、いわゆる付き人だよな。何をすればいいんだ?」
「公式行事の際には、姫のお供をしていただければけっこうです。姫が自室におられる時には隣の部屋で寝起きをして、姫をお守り下さい。姫のお世話は待女がいたしますので、特別になさることはありません」
「そばにいればいい、ってこと」
「その方が姫も安心でしょう。私は護衛隊長ですから、いつもお側にいるという訳にはまいりません。これからはグレンが、姫をお守りして下さい」
 姫の身代わりというのは、あたしが思っていたよりも、ずっと大変な仕事のようだった。
 あたしはいろんな人をだまさなければいけないんだ。
 フローラ姫の父親である王様や、そのまわりにいる様々な重臣達。
 召使や一兵卒まで。
 もしばれたらどうなるんだろう。
 あたし、殺されちゃうかもしれない。
 あたしだけじゃなくて、それに加担したユーリルや若原君も。
 あたしの責任は重大なんだ。
 軽い気持ちでできることじゃないんだ。
 あたし、少し恐くなっていた。
 長ければ40日間も、あたしはまわりの人すべてをだまさなければいけない。
 それはとても恐ろしいことだった。
次へ
扉へ
トップへ