「フローラの花。フローラ姫」
「ここはフローラ姫が庭を見るために使っていた部屋なんだってさ。この屋敷全体がフローラ姫のものだけど、フローラの居住区はもっと奥の方にあって、そこはここなんかとは比べ物にならないくらい豪華絢爛だよ。オレ達庶民にはまさに目の毒だ。…そろそろ中に入ろう。日が沈むと急激に寒くなる」
フローラ姫はここで何を思って暮らしてきたんだろう。
まだ見ぬ両親にあう日を楽しみに、たった1人で暮らしてきたんだろうか。
やっとあえると思った矢先にさらわれてしまうなんて…
あたしは見たこともないフローラ姫のことを思って、悲しい気持ちになっていた。
部屋の方に戻ってすぐに、ドアの方からユーリルが入ってくるのが見えた。
ユーリルはやわらかそうなトーガを着ていて、甲胄姿の若原君とは対照的な印象をあたしに残した。
「平原茜殿。お目覚めになられましたか」
ユーリルは、2時間前よりは明らかに、生きた目をしていたの。
そのことが、ただでさえきれいな顔に、魅力を上乗せしていた。
本当に溜息がでるくらいきれい。
あたし、また少しユーリルにみとれていた。
「ユーリル、平原茜っていうのは、平原のフルネームなんだ。オレ前に教えただろ? オレ達の名前は名字と名前に分かれていて、普通はたいていどちらかを呼べばいいんだ。お前も、平原か茜か、好きな方で呼ぶようにしろよ。何か変だから」
「そうですね。…でも、これから私は平原茜殿の事をフローラ姫の名で呼ぶことにいたします。平原茜殿、それでよろしゅうございましょうか」
あたしはききながら、考えていた。
確かにあたし、フローラ姫の身代わりになってもいいって、そう言ったの。
「それでいいです。そう呼んで下さい」
「ここでは話がしづらいですから、場所を替えましょう。ついてきて下さい」
3人で廊下にでると、そこは中庭に面していた。
中庭にも様々な花が植えられていて、かすかに花のかおりがしていた。
少し行ったところで右に曲がって、その2つ目のドアを入ると、そこはソファのある部屋だった。
あたし達はソファに座って、やがてユーリルが話し始めた。
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