「そんなに謝らないで。あたしも悪かったんだから。…ところで、ここはどこ?」
今あたしが1番知りたいこと。
若原君は気を取りなおしたように、笑いながら言った。
「ここはフローラ姫が16年間暮らしていたハドルの離宮だよ。今は誰もいないから、とりあえず連れてきた。時間はもうすぐ日が沈むところ。お前、2時間くらい眠ってたんだぜ。このまま朝まで目覚めないかと思った」
「あたしの部屋からでたとき、確か夜の9時ごろじゃなかった?」
「時差があるんだ。正確には判らないけど、5時間くらいじゃないかな。外にでてみる?」
若原君に助け起こされるように、あたしはベッドから起き上がった。
ベッドの脇にあった、サンダルとスリッパの中間くらいの履き物をはいて、長いカーテンのところから部屋の外にでた。
視界は思ったよりもずっと開かれていた。
右の山の方に、今まさに夕日が沈もうとしている。
遠くに山が見えて、その手前には畑や村が所々に点在していた。
あたしがいるのは、少し小高い丘の上のよう。
離宮のそばには民家はほとんどなくて、そのせいか城壁のような物はぜんぜんなかった。
庭には見たことのないような花がたくさん咲き乱れていて、様々な色があったけれど、よく見るとそれらはすべて1種類の花だった。
隣の若原君は、夕日に染まる花々を見ながら、静かに言った。
「この花、コスモスとバラをあわせたような形だろ。これがフローラなんだ。ここはフローラの庭ってよばれてる。フローラ姫が1番愛した庭なんだって」
「フローラの庭…」
あたしは庭におりて、花の1つに触れた。
手の平にすっぽりと入るくらいの大きさ。
真ん中はコスモスのようで、そのまわりにはぎざぎざの花びらが、バラのように幾重にも取り巻いている。
色も、赤や黄色やピンクやブルーがあって、すべて同じ濃さのものから、グラデーションのかかったものまで、数え切れないほどの種類があった。
きっとこの花は、今が時期なんだ。
花のことはよく判らないけど、それらが懸命に咲いていることだけは判った。
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