その時あたしは、とっても幸せな夢を見ていたの。
夢の内容は覚えていなかったけど、夢の中のあたしは、とても満ち足りた気持ちでいた。
いつもと同じ寝覚めの瞬間、あたしはまわりがずいぶん明るいのに気がついていた。
あれ? あたし、カーテン閉め忘れたの?
急激に現実に引き戻されたあたしは、眩しかったけど、とにかく目を開けようとした。
「あ、気がついたみたいだ」
男の人の声! あたしの部屋に、男の人がいる!
そのことにあたしがパニックして、あわてて目を開けると、あたしの顔を覗き込むようにして、信じられない人がいたの。
「若原、君…?」
その時、あたしの頭の中に、現実がよみがえってきていた。
あたしの部屋に、若原君がきたんだ。
そして、あたしをあの部屋から連れだした。
でも、それから先の記憶がなくて…
そう言えばここ、あたしの部屋じゃない。
「パラレルワールドを移動するんで、四次元空間に入ったとたん。お前ぶっ倒れたんだぜ。気分はどうだ?」
この部屋は、とても広かった。
明るく感じたのは、部屋の壁の1つがほとんどなかったから。
天井がものすごく高くて、ピンク系のレースのカーテンが引かれていた。
よく見るとあたしが寝ているのは天蓋付きのベッド。
花模様が刺繍されたベッドカバーは、あたしのベッドカバーなんかとは桁違いだった。
遥か遠くには、恐ろしくお金がかかっていると思われるドレッサーに、同じ白で統一された書きもの机。
壁にはビロードのカーテンが幾重にもかけられていて、そのとぎれたところにはしゃれた暖炉が置かれていた。
枕元には、それ1つが芸術なんじゃないかと思われるような陶器があって、なかには水がはられていて、あたしの頭の上には、その水でしぼっただろうタオルが置かれていた。
「もう元気になったか?」
心配そうにしている若原君。
あたし、ちゃんと答えなきゃ。
「大丈夫。心配かけちゃって…」
「オレが悪かったんだ。移動のときショックがあるってこと言い忘れてて。自分が丈夫だから、人のことまで気がまわらなかったんだよな。ごめん」
本当にすまなそうに、若原君は謝った。
あたしまた、若原君に謝られてる。
あたし本当に謝られてばっかりだ。
若原君は少しも悪くないのに。
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