あたしの夏休み、合唱部にあたしがいなかったら、何かが変わる?
 登校日に出席しなかったら、みんな気付いてくれる?
 突然あたしが消えてしまったら…きっと両親だけは、あたしを心配してくれる。
 でも今あたしに必要な事って、求めてくる手を握り返してあげることなのかもしれない。
 なんたって、あたしの好きな若原君が、こんなにもあたしを必要としているんだから。
 あたしがいなかったら、この人達は本当に困ってしまうのだから。
 さっき若原君は言ってたの。
 王様にばれたら、ユーリルの首が飛びかねないって。
 このユーリルは今、命を賭けてあたしに頭を下げてる。
 あたしの返事1つで、この人の命はなくなってしまうかもしれないんだ。
 あたしには人の命を左右する力なんてない。
 きっとない。
「判った。あたし、協力する」
「本当に?」
「それでいいのですか?」
「そのかわり、あたしを2学期が始まるまでには帰して」
 あたしの夏休み、若原君とユーリルにあげる。
 大好きな若原君と、初めて見る完璧な美少年のユーリルに。
「2学期というのはいつ始まるのですか?」
「40日後だよ。オレもそれ以上の時間を拘束する訳にはいかないと思う。この社会ではそれ以上は無理だ」
「判りました。それ迄に本物の姫を捜しだします。1日も早く姫を捜しだして、必ずや平原茜殿をこの世界に帰して差し上げましょう」
 そうしてあたしは、ユーリルの住む世界、リカーモンド王国に行くことを決めた。
 両親が心配するといけないから、短い書き置きを残して。
 それは、つぎのような文章だった。

『若原君を見つけました
必ず連れ戻してきます
安心していて下さい
        茜
追伸
このことは夏休みが終わるまで
誰にも言わないでください 』
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