そのユーリルが、真剣な目をして、あたしに言ったの。
「平原茜殿、無理を承知でお願いいたします。私たちの国のフローラ姫は、悪い人間によってどこかにさらわれてしまいました。私たちは今まで20日の間、フローラ姫を捜しつづけて参りましたが、依然手がかりはつかめておりません。フローラ姫は本来でしたら今現在、王宮までの1月の距離を、馬車に乗って旅していることになっています。その間は作法により、姫は顔を隠しておられます。私たちは姫の影武者をたて、今現在をしのいでおりますが、あと10日で姫の馬車は王宮にたどりついてしまうのです。そうなれば、御父上であらせられる国王とも顔を会わせなくてはなりません。ですが今の状態では、あと10日で姫を見つけることは絶望なのです」
話の途中から、あたしはユーリルの言いたいことが見えてきていた。
でも、それを言うことでユーリルの話の腰を折るつもりもなかったし、それより、あたしはこの先が、自分の想像の通りでないことを祈っていたの。
「無理なお願いであることは重々承知しております。ですがどうか、私たちに力を貸して下さい。姫が見つかるまでの数10日間、姫様の影武者となって下さい。この通りお願い申し上げます」
ユーリルは絨毯に頭をこすりつけるように、あたしの前に平伏していた。
あたしは困っていた。
だってあたしは、普通の女の子だったから。
平凡すぎるほど平凡で、何のとりえもない女の子。
自分のことを大嫌いな女の子。
引っ込み思案で目立たなくて、何かをする勇気もなくて…
あたし、こんな自分が大嫌いだった。
あたしに姫の影武者なんて、出来るはずがない。
「オレからも頼むよ平原、この通りだ」
若原君まで、ユーリルと同じポーズをして、あたしにお願いしていたの。
あたし、こんなに必要とされているの?
この人達には、あたしのたった一言がこれほど重要なの?
あたし今まで、こんなに自分が必要とされたこと、あっただろうか。
こんなにまで求められたこと、今までなかったの。
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