ユーリルって、あたしは知らない。
 でも、この人は若原君の友達なんだ。
 今までの若原君は、あたしには手の届かない、遠い人だった。
 その若原君を、こんなにもあたしに近付けてくれた人。
 あたし、その人に感謝したい気持ちだった。
 若原君が行方不明にならなければ、きっとあたしは平凡な暮らしのままでいたから。
 こんなにも若原君とたくさん話せたのは、きっとその人のおかげだったから。
 あたし、その人と会ってみよう。
 それが若原君の本当の望みだったから。
「あたし、その人と会ってみたい」
「そう言ってくれて助かった。ありがとう。――ユーリルいるんだろ。出てきてもいいよ」
 若原君がそう言ってほんの2、3秒。
 あたしと若原君の間に、かすかに影のようなものが現われ始めた。
 それはだんだん濃い影になって、やがてはっきりとその姿を現わした。
 その人は、まるで目が醒めるように美しい人だった。
 どんな材質でできているのか判らないような、ブルーの髪。
 象牙色のつややかな肌。
 すうっと筋の通った形のよい鼻。
 いく分赤みを帯びた、小さくまとまった唇。
 そして、髪と対になるような、まっ青な瞳。
 それらが絶妙なバランスで顔の中に配置されていて、この世のものとは思えないような、見事なまでの美貌を作り上げていたの。
 あたしはユーリルにみとれていた。
 そしてユーリルも、あたしの顔を見つめていた。
 そして何かを思いきるように、あたしの前に膝まづいたの。
「姫…フローラ姫…」
 涙さえ浮かべて、ユーリルはあたしを見ていた。
 そしてあたしの手を取って、軽く口付けしたの。
 あたしは驚いて、手をひっこめてしまった。
「姫、お捜し申し上げておりました。さぞかしおつらい目にあわれたことでしょう。でも、このユーリルが参りましたからには、心配はございません。今すぐにリカーモンドにお送り申し上げます」
 あたしは呆然として、ユーリルのすることを眺めているだけだった。
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