そんなあたしの気持ちは、若原君には伝わってしまったみたいだった。
「平原。ひょっとしてオレ、お前のこと傷つけた?」
 あたし、はっとして顔をあげかけたけど、泣いているときのあたしの顔って最悪だから、うつむいたままでいたの。
「そんなつもりはなかったんだ。傷つけたのは悪かったよ。だけどオレは、ほんとにお前を傷つけるためにこんなこと言ったんじゃなかったんだ。…オレってほんとにデリカシーがないのな。女の子に顔の話をすることが、どんな影響を与えるかなんて、まるっきり判ってねーの。でもな、オレほんとにお前を傷つけようと思ってたんじゃなかったんだ。むしろ、お前が喜ぶと思ったんだ。国中で1番美しい姫と、お前がそっくりだってこと。お前が国中で1番美しいって言いたかったんだ。リカーモンドでは、お前が1番美しいんだって言いたかったんだ」
 若原君があたしを慰めようとしているのが、あたしには判っていた。
 その気持ちだけで、あたしは救われたような気がしていた。
 誰にでもやさしい若原君。
 あたしにもやさしかった。
 若原君は本当に、あたしをばかにしようとしたんじゃないんだ。
 それだけで、あたしは嬉しかった。
「ごめん、謝るよ。オレ今日お前に謝るような事ばっかしてるな。今までのこと全部含めて、謝るよ。この通り!」
 あたしの目の前で、若原君は土下座したの。
 あたしはびっくりして…でも、これはあたしが悪いの。
 もう怒ってないって、もう悲しんでないって、若原君に伝えなかったから。
 ちゃんと伝えなきゃ。
 あたしの気持ちを、きちんと伝えなければ。
「若原君ごめん! あたし怒ってないし、傷ついたけど、でももう判ったから。若原君悪くないから、もう謝らないで。そんな、そんな格好しないで」
 あたしの言葉に、若原君は顔を上げた。
 そして、ちょっと笑った。
 あたしのために笑ってくれる。
 あたし、しあわせものだ。
 こんなに若原君が心配してくれるんだから。
「よかった。これ以上嫌われたくないもんな。――そこで、さっきの話の続きだけど、オレ、ユーリルを待たせてるんだ。この部屋の近くでオレ達を見てる。ここに呼んでもいいかな」
 あたし、泣き顔をもとに戻したくて、タンスのひきだしからハンカチを取りだしていた。
 そして顔を拭いて、何とか顔をあげられた。
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