今まで普通に話していた若原君が、この時言葉を切ったの。
 そして、あたしの顔をまじまじと見たの。
 あたしも、今まで冷静に(とは言えないかもしれない)話をきいていたのに、突然の若原君の視線に、耳までまっ赤になった。
 うつむいてしまって、若原君、ちょっと声をあげて笑った。
「どんな顔してたと思う?」
 きかれても、あたしには答えられなかった。
 姫っていうくらいだからきっと、すごい美人か何かで、ひょっとしたら若原君、その姫に一目惚れしちゃったのかもしれない。
 そんなこと、あたしに言いたくて、あたしのところに来たって言うの?
 だとしたらあたし、きっとこの場で泣き出しちゃう。
「ユーリルは、この国で1番の美しい姫だって言ったんだ。この国1番てところがすごいと思わないか? オレ、話半分にきいてたんだけど、…まあ、姫っていうくらいだから、多少でも美しければ、この国1番くらいの尊称がついてもおかしくないからな。オレ、そんなに期待してなかった。でも、その肖像画を見たとき…」
 あたし、もう絶望的。
 先なんかききたくなかった。
 でも、そんなあたしの目の前で、若原君は満面の笑顔をして、あたしに言ったの。
「オレ、びっくりしてた。姫の顔って、平原にそっくりだったんだ」
 若原君がそう言ったときのあたしの気持ち、いったい誰が判るだろう。
 あたし、もちろんびっくりしてたけど、つぎの瞬間、とても悲しくなっていた。
 あたし、少しも美しくなんてないから。
 若原君もきっとそう思ったの。
 だからこんな風に笑っているの。
 ちっともきれいじゃないフローラ姫が、国1番の美しい姫だったから。
 それが、あたしと同じ顔だったから。
 あたし、若原君にばかにされたと思った。
 それがとっても悲しかった。
 自分が美人じゃないことくらい、あたしは知っているの。
 でも若原君に言われたくなかった。
 心の中で思っているとしても、こんな風に面と向かって言われるなんて、こんな残酷なこと、ほかにあるんだろうか。
 それも、どうでもいい人じゃなくて、あたしが大好きだった若原君に。
 こんなに悲しい事、他にあるとは思えない。
 こんなに悲しい思いが…
「平原?」
 あたし、いつの間にか泣いていた。
 若原君は心配して声をかけてくれた。
 でも、あたしの今の気持ちをいって、どうなるだろう。
 美人じゃない子が、美人じゃないって言われても、それは本当のことだから。
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