つぎの日も、そのつぎの日も、若原君は戻ってはこなかった。
 授業も普通に戻って、テストが返され、夏休みの宿題がだされた。
 始めのころは若原君の話題で持ちきりだった教室も、少しずつ、若原君がいないことに慣れ始めていた。
 宇宙人にさらわれたとか、神隠しにあったとか言っていた男の子たちも、だんだん自分のことで忙しくなっていたようだったし。
 でも、若原君がいなくなったことで、みんなの中には1つの空洞が出来てしまった。
 楽しい話をしていても、突然話題がとぎれて、しんとなる。
 そんな事をくり返すたび、あたしたちは若原君の大きさに気付たの。
 若原君の存在が、どれほどクラスの中に大きかったかを。
 ほかの誰がいなくなったとしても、こんなにも寂しくなることはなかったと思う。
 いなくなったのがあたしだったら、きっと1日で忘れられていたんだと思う。
 みんな堪えていた。
 あたしもものすごいダメージを受けていた。
 でも、あたしは目立たなかった。
 みんなが同じ思いだったから。
 それだけにはあたし、感謝をしていた。
 あたしの好きな人が若原君じゃなくて、その人がいなくなったのだとしたら、あたしの落ちこみだけが目立ってしまっただろうから。
 自分の気持ちが誰にも知られなかったことだけ、あたしは感謝していた。
 そして、若原君がいなくなって、今日で10日が経とうとしていた。
 1学期最後の日が訪れていた。
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