「ありがと」
よっこに鏡を返して、あたしは1度教室を見回していた。
「なんか騒がしくない?」
「職員室が変なんだって。先生達が行ったり来たりしてて。何かあったんじゃないかって…ほら、今日なおこが日直でしょう?」
よっこの言葉に、あたしは再び教室を見回していた。
なおこのまわりには、人垣が出来ていた。
しきりにしゃべりつづけてる。
その時、いつもより少し遅れて、先生が入ってきていた。
いつもの挨拶をすませたあと、先生は少し困ったようにしゃべり始めていた。
「みんなにききたいことがある。実は、若原が昨日いなくなったらしいんだ。誰か何か知らないか?」
みんなが一斉にざわざわし始めていた。
あたしもびっくりしてあたりを見回した。
もちろん、若原君がいるはずもなかった。
いつも元気で、クラスの人気者の若原君。
サッカー部で、将来有望の新人。
顔も愛敬があって、背も高くてカッコよかった。
勉強もよく出来て、入学式のとき、新入生代表の挨拶をした。
その若原君が、いなくなった…?
「いつからいなくなったんですか?」
きいたのはよっこだった。
「それがな。昨日の夕食のときはいたんだ。それから2階の自分の部屋に入って、お母さんがお風呂の時間に声をかけたときはもういなかったらしい。荷物もほとんどなくなっていなくて、靴もはいて出てないし、玄関に来た様子もないんだ。それで昨日から捜してるんだが。…誰か、昨日の若原がいつもと違ったこととか、気付いたことはないか?」
みんな、誰も何もいわなかった。
あたしも昨日の若原君の様子を思い出して、でも、いつもと違うことなんて、少しも思い当たらなかった。
いつものように元気で、サッカーのこととか、夏休みのこととかを、大きな声で話していたから。
あたしも聞きながら、とっても羨ましく思ったの。
どうしてこんな人がいるんだろう。
勉強もできて、スポーツもできて、みんなの人気者の若原君。
あたし、若原君がすごく気になっていた。
きっと、若原君が好きなんだって、そう思ってた。
あたしはいつも若原君を見ていたから。
こっそりトランプ占いをして、相性が少しいいって喜んでた。
その若原君が、誰にも何も告げずに、突然いなくなってしまったなんて…。
次へ
扉へ
トップへ