あと10日もすると、夏休みが始まる。
 あたしの夏休みは、中学の頃と変わらない。
 クラブは合唱部。
 でも歌は上手じゃない。
 中学のころ、ブラスバンド部に入りたくて、でも間違えて入った合唱部。
 入りなおすことも出来なくて、結局3年間ずっと続けたの。
 その時の先輩に誘われて、断わり切れなくて、結局高校でも続けるはめになった。
 でも、それはそれでけっこう楽しかった。
 運動部みたいに厳しくない、気楽な先輩達。
 女の子たちの、楽しいおしゃべり。
 誘ってくれた先輩は、高校生になって、とってもきれいになっていた。
 やさしくて、歌が上手で、いつもあたしを可愛がってくれた。
 居心地のいいクラブ。
 でもそれだけのクラブ。
 2学期には文化祭があったから、夏休みは毎日練習があった。
 それであたしの夏休みはおしまい。
 あとはお盆に田舎にいくだけ。
 夏なのに、海に行く予定もない。
 クラスの友達が誘ってくれても、クラブ活動が優先。
 でも、それでもいいかなって思ってる。
 あたしには、平凡以外の生活なんて似合わないから。
 あたし、いつものように教室に向かっていた。
 1年6組は5階の教室。
 階段はしんどいけど、隣は音楽室。
 よって、部活に行くには1番近い。
 朝は音楽室は素通りして、うしろのドアから教室に入った。
 今日はなんとなく、みんながそわそわしている気がしたの。
 真ん中へんの自分の席に鞄をおいて、いつもの友達に声をかけた。
「おはよう、よっこ」
「おはよう、ひら。顔にまつ毛ついてるよ」
「え? ほんと?」
 あたし、よっこの貸してくれた鏡を見ながら、まつ毛をさがして取った。
 今日は余分に顔見ちゃった。
 ちょっと損した気分。
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