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天皇は男が継承するものである

          花田達夫

前書き

 平成16年11月、小泉首相は女性天皇が出現する事について、国民も賛成だろうと語ったという。皇室典範の改正を視野に入れた発言である。この発言が「世の中は男女平等だし、天皇が女性であってもいいじゃん」程度の認識から発せられたものであるなら、日本国の総理が日本の背骨である天皇の皇位継承について、無知である事をさらけ出したということになる。自国の文化の根底を知らない。これほど無責任な政治家もいないということになる。靖国神社の事も先の大戦のことしか頭にないようである。無知な政治家は国を過つ。しかし、大方の日本人も首相と同じ程度の認識で女性天皇を考えているのだろうと思われる。
 
 天皇は男性でないといけない。その理由の一つにはこれまでそうだったということがあり、もう一つはそうでなければならないからである。



万世一系と女性天皇

 天皇は皇統の男系の男性によって継承されてきた。現行の皇室典範もそうなっているのは、これまでがそうだったからである。天皇に男子が生まれない事態を予測できないわけでもないのに、そうした文言になっている。それは、「皇統の男子」が継ぐというのは「天皇の息子」が継ぐという事と同じではないからである。つまり天皇に男子が生まれなかった場合、過去の天皇に連なる皇統(皇統とは男系のこと)の男子(平たく言えば男系の親戚筋の男子)が天皇を継ぐと言うことである。だから皇室典範第一条を改正する必要はない。
 では、女性天皇の存在について考えてみよう。
 過去八人(二度天皇になった人がいるので代としては十代)の女性天皇が存在する。この事実は上の記述と矛盾しはしないだろうか。実は女性天皇は緊急事態における代理の天皇、中継ぎの天皇として機能していたのであり、次代の天皇は元の皇統の男系の男性が引き継いでいるのである。ピンチヒッターであるのでレギュラーの地位を脅かすものではなかった。。
 このように、天皇の系譜はいわゆる万世一系を守ってきているのである。1500年にもわたって、苦労して維持されてきたのである。これまで天皇は男性だった。よってこれからも男性であるべきだ、というのは一つの見識であろう。

 大方の人が考えていないのは、女性天皇と女系天皇の区別についてである。小泉首相も混同しているのではないかと推測する。日本には女性天皇はいても、女系天皇は一人もいないのである。それは血統の話である。
 女系天皇とは女性天皇の子が天皇になる事を言う。これまでも女性天皇の子が天皇になった例はある。しかしそれは系図上、女系天皇とみなす必要がなかった。なぜなら、その女性天皇の結婚相手が天皇であったり、皇統の男系男子なのであるから、天皇の継承は皇統の男系男子で行われているのである。
 では、女系天皇、つまり女性天皇の夫が皇統の男系男子でなくて(つまり臣下、または庶民であって)、その間に生まれた子が天皇になったことがあるかというと、そういう事態は天皇の歴史では起きていないのである。今後もし起きれば王朝が変わるということである。革命である。万世一系が終わるということである。

 男系も女系も皇統ならいいではないかとして、双方とも認めるならば、現実問題として系図の管理が大変になる。皇位継承者がどんどん増えてしまう。また女系に関しては男親が不明でも天皇になりうるのであり、そんな天皇を国民が認めるだろうかという事もある。問題は単に皇統の血を引くといった遺伝学上、生物学上の平等性とは異なるのである。我々がいわゆる「父なし子」をどことなく差別するのは、血の系統は父から受け継ぐものと思っているからではないか。この「どことなく」思うというのが何に由来するのかも考えて見ないといけないだろう(男性しか持たないY染色体の遺伝を考えている人もいる。周知のように、男性はXY、女性はXXの性染色体を持つ。このうちY染色体は男性からしか遺伝しないので、万世一系の天皇には天孫のニニギノミコトからのY染色体が今上の天皇陛下まで遺伝していると言うわけである)。生物学上根拠がなくとも文化的根拠があるのだろう。また、女系というのは男系という系統があってはじめて規定されるのであり、その逆ではないという事も考慮するべきである。つまり男系が正統であると言う事である。男親が不明であってもいいような女系は正統足り得ないので、そんな女系天皇を敬う事ができるかという事である。

 女系天皇が出た場合、その後をどうするのか。男系で行くのか、女系もありとするのか。血統の混乱は大変なものになるだろう(西洋の王国の血統は変遷が激しく、王朝の交替は常態である)。皇室は万世一系で来たからこそ尊いのであり、そうでなければ隣の家と何ら変わらない。
 天皇は皇統の男系の男性によって継承されると言うのは、過去1500年に渡って十分に吟味された考えなのである。これ以外に血統を繋ぐ方法はないのである。この系譜をささえる考えは、「男女平等だから女性も天皇に」などという軽い思想ではないのである。

 それでも、革命があってもいいじゃないかという前に、もう一つの理由を述べて置こう。天皇が男でないといけない理由である。



稲作信仰・伝統

 皇統の男系の男子による万世一系を、なぜそんなにしてまで守らなければならないのか。それは日本国の国の成り立ち(国体)に関わってくるからである。我々の父祖たち、古代人たちは自分たちの国をどのように思っていたのかという事である。

 我が国は別名「大八洲豊葦原の瑞穂の国」という。米を作る事を信仰の対象にしていた人々が支配していたと思われる。米は地上に降臨する孫のニニギノミコトに天照大神が授けて、それを植え育てて食料とせよといったものである。稲作をするという事は天照大神に感謝するという事である。そういった人たちが作り上げた古事記や日本書紀によれば、日本を支配する頂点は天照大神の子孫に伝わる事になっている。この子孫が天皇である。
 天皇は稲作民の地上の神である。そして男系によって万世一系を執拗なまでに続けてきたのは、そうでなければ天皇の勤めが果たせないからである。では天皇の勤めとは何か。
 代代の天皇は即位のときに大嘗祭を行う。これの核心は秘儀であって誰も知らないのであるが、推測されるところによると、次期天皇は降臨した天照大神と共食をし、一夜をともにして「天皇霊」を引き継ぐと考えられている。この儀式を「マドコオウブスマ」の儀式というらしいが、これは男性にしかできないとされているのである。
 天皇の勤めとは大嘗祭を行うことで、稲の豊作の保証を神々から得ることである。それによって人々が安寧に暮らせるようにするのである。天皇がいる限り日本は瑞穂の国であり、五穀豊穣が約束されているのである。現皇室が日本を巡って植樹祭や海の祭などに出席されているのは、その象徴である。日本の八万神は天皇に従うのだから。天皇を最高敬語で語るのはそういった意味があるのだ。
 そして天皇が天皇である由縁は天皇霊を引き継いでいるかどうかに懸かっているのである。この引継ぎの儀式が男性にしか行えないということが、天皇は男でなければならないという深層の理由である。この意味で過去の女性天皇は正式の天皇ではなかったということができる。つまり皇位継承は男性にしかできないというのが、もともとの天皇制の始まりから規定されていたのである。これは信仰の世界であり、現代の男女平等思想とは何の関係もない事である。

まとめ

 新旧の皇室典範が皇位継承を「皇統の男系の男子」と書いているのは、成文法の時代に合わせただけであり、法律で規定しようがしまいが、皇位継承に関しては間違いようがなかったのである。最近の皇室典範改正論議の要点は、単に女性も天皇になれるようにしようと言うだけのもので、「中継ぎ」の女性天皇を認めるという事以上に踏み込んではならないのである。

 中継ぎでない女性天皇を認める、つまりそこから新たな女系天皇が始まるというのは、天照大神の子孫が知ろし召してきた万世一系の御世が終わって、新たな信仰(それがなんだかわからないが)に基づく新王朝が始まるという事である。「国体」が変わるということである。なぜなら女性天皇は天照大神から天皇霊を受け継げないのであるから。新皇室はこれまでの皇室とは異なる性格を持つことになる。
 稲を作る農耕社会なら、天皇は男系でなくてはならなかった。いま天皇になるのが女性でも構わないという声が出てくるのは、その背景にすでに日本が農耕社会でなくなったということがあるだろう。新王朝は日本国のアイデンティティをどこに置くのであろうか。その正統性を確立するために新たな「古事記」や「書紀」を作らなければならないだろう。それを日本国民は認める用意があるだろうか。別の言い方をすれば、日本人は米を捨てる事ができるだろうかということである。餅や日本酒や米焼酎や米にまつわる風俗・祖先からの伝統を断ち切るつもりがあるのかということである。女系を認めるというのはそういうことである。(西洋の王国の制度は参考になりえないのである。)
 
 さてそうすると、新たに女系天皇が出たときに、必ずやこれまでの皇統から天皇を担ぎ出す勢力が出てくるだろう。やはり日本は農耕社会に基礎を置くべきであると考える勢力である。これは日本を二分してしまう。そうしたときどう事態を収拾するのだろうか。天皇制が確立する前の古代には王朝交代があったとする考えもあるが、今後それを認めるのだろうか。農耕社会と非農耕社会の系譜を交代で続けるのだろうか。事態が混乱すれば国民は嫌気がさし、天皇制を廃止する方向にむかうかもしれない。国体の危機となる。
 実は現皇室に限らなければ皇統の男系の男子は存在するのである。「皇統」の定義を現皇室の子孫とする必要はないのである。戦後の米国は天皇制を廃止する方向で多くの宮家を廃止した。今はすでに占領下ではないのだから、法律を変えて宮家を復活させ皇統の範囲を広げればいいのである。皇室典範の改正とはそういうことでなければならない。つまり元に戻せばいいのである。万世一系が続いてきたのは皇統の範囲が広かったからである。なにも現皇室ばかりが唯一の皇統ではないのである。
 
 安易に女性天皇を認め女系天皇に道を開こうとするのは、天皇制を廃止しようとする考えにつながるのである。(共産党は女性天皇を認めると言い出した。将来の天皇制廃止を目指しているのである。)天皇がいなくなった時、我が国の神々を統治するものがいなくなるのである。国が解体するのである。よって女性天皇を認めるのはいいが、それは中継ぎとしてであり、必ずその次は皇統をさかのぼってでも男系の男子を天皇に戴くという事でなければならない。
(2004/12/8)