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16色戦線異常なし

1982年に初代の発売開始となったPC-9801は元々、ビジネスユースをターゲットにしていたため、グラフィック性能にそれほど重きを置いていませんでした。640×400と言う解像度は当時のパソコンでは非常に解像度が高いものでしたが、これは漢字を表記するために必要だったからです。

こうした日本語のサポートなど使いやすさ(当時のNECは技術的に非常に優れていました)とシェア拡大の相乗作用で人口に膾炙するようになると、ホビーユースの比重が重くなってきました。

これに呼応して、最初は8色カラーだったものが、4096色中8色のパレット表示、次いで4096色中16色の表示までできる(とは言え、当初はそれもオプションでした)ようになりました。これが1986年頃、名機PC-9801VMが発売になった頃の姿です。

その頃は、ハードディスクなど標準装備のはずもなく、FDDが2基搭載、メモリーは256kB程度が一般的でした。漢字ROMがJIS第2水準までようやく標準装備になり、「夏目漱石」を「夏目そう石」と書かずに済むようになった、そんな時代でした。(PC-9801に限らず、かつて漢字ROMは日本語表示に必須のものでした。ところがコンピューターの性能向上に伴い、ソフト的に処理できるようになりました。DOS/V機があっと言う間にPC-9801シリーズを駆逐できた背景はそこにありました。)

その後、PC-9801VXPC-9801RXと言う具合に続々と名機が登場するのですが、4096色中16色の状態が続きました。

この状況に見切りをつけ、富士通ではFM-TOWNSを、シャープはX68000をそれぞれ投入してきましたが、国民機の圧倒的なシェアを切り崩すことはできませんでした。

困ったのがゲームのプログラマーでした。彼らは16色をいかに使い回すかに腐心したのです。特に、国民機の底辺を支えていた、いわゆる「美少女ゲーム」のプログラマーやグラフィッカーの苦労は計り知れないものがありました。

世代が代わるごとにメモリーが増えてメガバイト級になっても、ハードディスク(と言っても当時はSASIと言う1世代前の規格で、せいぜい40MBしかありませんでした)を内蔵するようになっても、グラフィック性能は変わらなかったのです。

本格的に3DCGをするには外付けで数百万円もするグラフィックボードをつける以外にはありませんでした。現在では当たり前の16MBのヴィデオRAMも、当時の水準からすれば驚異的なものでした。そのようなものを普通の人が持てるはずがありません。ましてホビーユーザーともなれば、別なことにお金をかけたいはずです。

かような状況でプログラマーやグラフィッカーたちは知恵を絞りました。タイルパターンの使い方、パレットに赤、黄、緑、青、白、黒の原色を必ず確保すると言う呪縛からの解放など、地道に難題をクリアしていきました。

そして、とても16色とは思えない映像を世に送り出すに至ったのです。

この状況が変わったのが、いわゆるPC-9821シリーズの登場からでした。ここでNECはWindows対応を前面に打ち出し、DOS/Vフォーマット(1.44MBフォーマットのことです)のFDサポートと合わせて256色対応にしたのです。

しかし、依然として世の中に出回っているPC-980116色対応です。特にWindowsはビジネスユースをターゲットにしていたため、ホビーユースの人が必ずしも256色対応の国民機を持っているとは限りません。しばらくの間、これまで培ってきた技術を存分に生かすことができました。蛇足ですが、こうしたゲームを家庭用ゲーム機に移植することが増えたのも、この時代からです。移植するゲームのジャンルの選別で成功したのがPlayStationで、失敗したのがSegaSaturnや今では極めて入手困難な3DOでした。(いずれも「次世代ゲーム機」としてポストスーパーファミコンの座を争っていました。)

しかし、Windows95登場の頃になると、256色はおろか、High Color65536色)やTrue Color(約1677万色)が当たり前になり、かつてのプログラマーやグラフィッカーの苦労は昔語りになってしまいました。

その置き土産が、Windows対応になってもなお幅を利かせるアニメ画ゲームです。こうしたゲームがインターネット時代になり、日本発のOTAKU文化として世界に広がったのは何とも不思議なものです。

NHKスペシャル「プロジェクトX」にすら登場しない「技術者たちの苦悩と克服」の一つを若い方にも知っていただければ、幸いです。

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