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★ジオジオからのメッセージ
           




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429号


コロナ禍の中ですが、一学期中に3校の小学校からお声をかけていただいて、選書会を行いました。

スマホやアイパッド、パソコンによる情報やゲームが生活の中に当たり前のように存在する今、はたして本に対する子どもたちの思いは どうなのだろうかと危惧する気持ちを、今年も嬉しく吹き飛ばしてくれました。
体育館に並べた本に、いっせいに向かっていく子どもたちの姿に、いつもながら嬉しさがこみあげます。

本の中にある、知らなかった世界、知らなかった人生、驚きや幸せ、喜びや怒りへの共感、納得、疑問…そういうものとたくさん出会う ことで、なにかしら生きていく力を蓄積していってくれたら…と、私のひそやかな願いです。

二学期には、リクエストしてくれた本たちが、図書室の本棚で待っていると思います。想像するだけで私までわくわくです。


日本の敗戦から76年目の夏です。
私たちは新型コロナ感染の渦中にいて、不安の中でマスクを離せず暑い夏を過ごしています。

孫のいる私の世代も、もう太平洋戦争時の体験はありません。
戦争など決して望んでいなかったはずなのに、国の狂気を止められな かったのはなぜだろうか、という問いは残り続けます。
仕方なかったと片づけられるのだろうか…と。

日本の敗戦は、同時に日本の侵略によって多大な被害と犠牲を強いられたアジアの人々にとっては解放の喜びにつながるものです。
戦争の責任とともに、そのことは、決して忘れないで、子どもたちに語り継がなくてはいけないと思います。

民主主義とはいえ権力のある為政者の思惑の中に、私たちの命と暮らしがあること、それは今も変わりません。
新型コロナ対策の迷走と混乱は、そういう政治を許し続けてきた私たちの責任でもあると思います。

一人一人は小さな力であっても、国を変えようという意思が集まれば、確実に国を変えられる。そう実感したいと心から思います。
その権利と手段は私たちの手中にあります。この時代、大人が何を選択するのか子どもたちが見ています。選挙には必ず行きましょう。



「ぼくは 川のように話す」  ジョーダン・スコット 文 シドニー・スミス 絵   原田 勝 訳    1600円+税  

吃音をもつカナダの詩人を支え続けた父親のことば 

「ほら、川の水を見てみろ。あれがおまえの話し方だ」

ぼくにはうまく言えない音がある。口の中で根をはやし、舌にからみつく。のどの奥にひっかかる。
ぼくは石のようにだまったまま、先生にあてられませんようにとちぢこまっている。
クラスのみんなの笑い声がたえられない。


放課後、お父さんはぼくを川へつれていった。川はあわだち、うずをまき、波をうって、くだける。

「おまえは川のように話しているんだ」

泣いてしまいそうなとき、だまりこんでしまいそうなとき、このことばを思い出そう。 どうどうとしたこの川を思いうかべよう。

少年の心の揺れを見事に表現した絵と詩人による言葉で、少年の解放されていく姿が伝わり心打たれます。
あとがき「ぼくの話し方」の中で

"吃音によって、ぼくは人と深く結びついていると感じ、同時に、ほんとうにひとりなのだとも感じます。"

すべての人によりそう言葉です。




「学校が大好き アクバルくん」        長倉洋海 写真・文    1400円+税

長倉洋海さんの新シリーズ「ともだち、みつけた!」の一冊目です。

アフガニスタンの山の上の小学校。
子どもたちのカメラに向けられたまっすぐな表情に魅入られます。
鉛筆がとても大切なアクバルくんです。だって魔法の道具ですから。
先生の言葉に、真剣に聞き入る子どもたち。後ろ向きになっておしゃべりしている子ども。けんかをはじめる子ども。
先生の質問にちょっと自信なさげに手をあげる子ども。のびのび遊ぶ休み時間。


きっと日本の子どもたちも学校で同じような表情を見せていると思います。

伝わってくるのは、みんな、学校が大好きだということ。
山の風景。澄んだ空気。はじけるような子どもたちの笑顔。心洗われる写真絵本です。
子どもたちの未来への可能性が心強く伝わってきます。

"学びは、未来にはばたく翼" 長倉洋海さんの言葉です。




「図書館ラクダがやってくる 子どもたちに本をとどける世界の活動」     マーグリート・ルアーズ 著    斉藤 規 訳     1400円+税   

図書館は建物の中だけではなく世界には移動する図書館があります。
その移動はバスや船だけではなく、ゾウやロバ、手押し車などびっくりする方法で本を届けている国もあります。
多くの場合、へき地に住む人々に本を届けるための手段で、地域の人々にとっては待ち遠しい重要なイベントです。
世界中の図書館員やボランティアから送られてきた報告と写真をまとめた絵本です。


世界13か国のそれぞれの国の移動図書館の様子が写真とともに報告されています。
トラックや船、ケニアやモンゴルのようにラクダで、タイはゾウで。自転車の移動図書館もあります。
パプアニューギニアでは本を詰めた箱を背負って尾根を超え運びます。
どの国も、本を待つ人々、特に子どもたちの様子に心あたたかく嬉しい気持ちになります。
なぜ大変な苦労をしてまで本を届けるのか。


アゼルバイジャンの図書館員の言葉が紹介されています。

「図書館は、空気や水と同じくらい大切なものなのです」図書にかかわる人たちの共通の思いです。  





                               

 2021.8.


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新刊より

    
   


福音館書店

「街どろぼう」    junaida        
「michi」「の」「怪物園」に続くjunaidaさんの作品。
長い間 作者の心の中にあったお話が、宝石のような心に沁み 入る絵本になりました。装丁もすてきです。
大きな山のてっぺんでひとり暮らしていた巨人は あまり にさびしくて、ある夜、ふもとの街から一軒の家を持ち帰ります。
朝になって「ここでいっしょにくら しましょう」と言った巨人に、その家のお父さんは「しんせきの家ももってきてくれませんか」
巨人は、 たのまれるままつぎつぎに街の家を持ち帰ります。
巨人のまわりはにぎやかになりましたが、巨人は、あいかわらず さびしく、ひとりぼっちのまま…。
ある夜明け前、巨人が山を下りて、街のあった場所に見つけたのは…。
1500円+税


ほるぷ出版

「きみとぼくがつくるもの いっしょにみらいをいきていくためのけいかく」  オリヴァー・ジェファーズ さく  tupera tupera やく  
不確かな未来にむけて、きみとぼくが、いっしょにいきていくために何をしたらいいのだろう。
道具がいる。ばらばらにしてくみたてる。生きていく時間を合わせるための時計をつくろう。
あたたかい家。時にはかくれるためのあな。 きみをまもるとりで。いろんな人たちを迎える入口。お茶をするテーブル。
どこへでもいける道。こわれない船。大事なものをしまう小屋。
でも計画をたてるのに疲れたからぼくらをあたためてくれる焚火にあたろう。
だいじょうぶ、未来はいっしょにつくっていけばいい。
大人の不安も含めて、子どもたちに呼びかけるメッセージです。
1600円+税


福音館書店

「水族館 いきものとひとのいちにち」 ほりかわあやこ さく   
水族館に勤務していた経験がある作者のはじめての絵本です。
水族館の一日を描きます。
内部の俯瞰図やコマ割りの絵で、魚や生きもの、支えるスタッフの仕事の様子がとてもわかりやすく、楽しめます。
水をきれいにするための装置。お客様を喜ばせるためのショーや水槽の舞台裏。
魚や生きもののためのごはんの準備。
一日が終わって、お客様が帰ってからも、まだまだ仕事は続きます。明日の準備があります。
それ以外にも、卵をかえしたり、あかちゃんを育てたり、病気を治したり…。飼育の記録、企画、広報、運営。それに 宿直の仕事も。
長い一日です。生きものと一緒の仕事は大変ですが楽しそうです。
1600円+税   


あすなろ書房

「火星は…」スザンヌ・スレード 文  千葉茂樹 訳   三河内 岳 監修
直径は地球の半分。地球のとなりにある赤い星"火星"
火星の一年は地球の687日。平均気温はマイナス60度。生命体は存在しないと考えられている。
そんな火星から探査ロケットに搭載されたHiRISE(高解像度撮像装置)で撮影された写真が送り続けられている。
その写真は火星のさまざまな地質の様子を見せてくれる。
砂丘、渓谷、クレーターや火山、溶岩流など。
息をのむような鮮明な火星の写真絵本。
未知の世界です。いつか人類が降り立つ時がくるのでしょうか。
1800円+税


講談社

「動物 なぜなに 質問箱」  答える人 小菅正夫     絵を描く人 あべ弘士   
元旭山動物園園長で獣医師の小菅正夫さんが、動物に関する子どもたちからの質問に答えます。
大きい動物は どうやってねるの?
動物にも性格のちがいってある?
どうしたらウサギと仲よくなれるの?
パンダはなぜ白・黒なの?  などなど。
びっくりしたり、納得したりの回答にユーモラスな絵を描いてくれるのは、元旭山動物園の飼育係で絵本作家のあべ弘士さん。
動物から教えられることいっぱいです。
1600円+税


福音館書店
「正吉とヤギ」  塩野米松 文 矢吹申彦 絵   
南の小さな島で、おじいとおばあと暮らす正吉。
父さんは戦争に行き、母さんは大きな島の工場で働いている。兄ちゃんもお国のためだと大きな島にいったきりだ。
ある日、おじいが「正吉のヤギ」だと言ってヤギの子をつれてきた。
笑い、怒り、心配し、遊び、正吉とヤギの幸せな毎日が続いていく。
南の水平線にたくさんの軍艦が見え、上空を飛行機が飛ぶ。
夏休みが終わって島の子どもたちは安全なところに疎開することになった。
正吉とヤギの別れ、それは永遠の別れに…。 魚雷で沈んだ疎開船"対馬丸"。静かで深い怒りが…。
1400円+税  


小学館

「カイトとルソンの海」   土屋千鶴     
瀬戸内海で村上水軍が活躍した時代。たくみな舵とりをする父さんはカイトの自慢だった。
朝鮮や明よりも遠い南方の国にでかける大船団で長い航海から帰った父さんは、 肌の色がちがう言葉もわからない少年をつれてきた。
ルソンと名をつけ、ともに暮らすことになる。
ルソンの気配りのできる優しい性格は家族に受け入れられ、カイトとも友情で結ばれていく。
が、やがて別れの時が…。
日本にくるまでのルソンの物語も語られる。
因島には、村上水軍が遠くタイより数人の男女を連れて帰ったという民話が伝わっている。
1300円+税 


くもん出版

「縄文の狼」 今井恭子   岩本ゼロゴ 絵       
移動しながら狩猟生活をしていた縄文時代の早期、赤ん坊の時にオオカミにさらわれ、奇跡的に巣から連れ戻されたキセキ。
ともに育ったオオカミの子との深い絆は、やがてオオカミと犬との間に生まれたツナグに引き継がれる。
捨てられていた船で激流にのまれ海に流されたキセキとツナグを助けたのは、海辺で定住して生活する人たち。
その暮らしはキセキにとって驚くことばかりだった。
そして少女アオバとの出会い。
遺跡から、犬が大切にされていたと思われる一万年前。
暮らしが変わっていこうとしていた時代から紡ぎだされた物語に、想像力がふくらみます。
1500円+税


NHK出版

「こどもサピエンス史 生命のはじまりからAIまで」 ベングト=エリック・エングホルム 著 ヨンナ・ビョルンシェーナ 絵 久山葉子 訳              
私たちホモサピエンスと呼ばれる現生人類が現れたのは約30万年前。
地球の歴史や生命の歴史を考えると人類の歴史はとても短い。
その短い時間で、よつんばいで動き、木に登っていた人間が、AIを考えだし、ロボットを作るまでになった。
その間にどんなことがあったのだろうか。
元になったベストセラー「サピエンス全史」を、ユーモラスなイラストとともに、とてもわかりやすく描きます。
二本足で歩き、脳が発達し、火を得て、進化とともに暮らしは豊かに便利になっていきます。
やがて人類は自然の状態を変え、先住民を追い出し、侵略や戦争も繰り返すようになります。
文明や知識や能力は人間を幸せにしたのでしょうか。
未来のために今、人間の知恵をどう使うべきか考える時が来ているのでは…。 
ご家族で、ぜひ!
1800円+税




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