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★ジオジオからのメッセージ
           




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370 号


9月です。ようやくの秋の気配です。心地よい朝夕の空気に身も心もほっとしますね。
あれだけぼやいた暑さも、すーっと忘れていくのが不思議です。

リオオリンピックの夏でもありました。日本のアスリートたちの活躍に、地球の反対側からも熱気が伝わってきました。
より 強いもの、より 速いもの、より 美しいものをめざし、競い合い、勝者が称賛され、国の名誉となっていく平和の祭典。
スポーツの 勝敗を楽しみながらも、同時に重い現実から目をそらせられない夏でもありました。


「障害者なんていなくなればいい。」 相模原事件の動機は衝撃的なものでした。
しかし同時に私たち社会に、また私たち一人一人の 心に、無関係ではすまされない大きな問いを投げかけられる事件であったように思います。
何をもって“障”なのか、“害”なのか…。思いはそこにも至ります。
生まれた限りは、命も生も個人のものであり、社会にとって国にとって 有益かどうか、役に立つかどうかで決められるものでは決してないはずです。
むしろすべての人間の生きる権利を保障すべきが国で あり、人間社会がめざしていかなければならないものです。

それを理解した上でも、どこかで人間に優劣をつけてしまう意識があることは事実です。もちろん私自身の中にも。
それはもしかして国の威信がかかるオリンピック、パラリンピックにもつながっていくものかもしれないと思います。
我が国の首相が唱えた国民総活躍社会という言葉にも事件と同じ不気味さを感じます。

人には、それぞれに能力に差があり、個性があり、そこで生まれる幸福や不幸などの感情も、みんな違って当たり前です。

違うこと、それが普通です。

能力に基準を設けて社会の“普通”を決められるとしたら、それは力の強いものに、利用されるだけの社会になってしまいます。
残念なことに、今、そういう“普通”を保たなくては生きづらい社会であるというのも現実です。
そして、侵してはならない尊い人間の命と、その人生を、ゆがんだ動機で奪った若者の思想を生んだのも、私たちの社会だということを忘れてはならないと思います。

子どもたちは、その社会で育ちます。
人は生きていること、そのことが尊く、自分をそして他者を大切にすることが、みんなの幸せにつながるものだという確信を、持たせてやりたい。
きれいごとだと一笑されるかもしれないけれど、自省をこめて、心からそう思います。




多数決ってなに?

小学校の学級会などで 「では、多数決をとります。」 という言葉には、強い力がありました。
多数決で決まったことには、どれだけ異論があろうと従わなければいけない。
それが民主主義だと、それが正しいことなのだと信じさせられてきたように思います。

多数の力ってほんとに正しいのかだろうか…。
それに従っていれば、必ずいい方向にいくのだろうか…。
それ以外に正しい決定方法がある のだろうか…。
今、子どもたちにこう聞かれたら、私たち大人はどう答えたらいいのでしょうか。
多数決で決まることが、必ず正しくて、力を持つことは、何か違う…と感じながらも、ちゃんと説明できないもどかしさを感じます。
そんな思いに答えてくれる かこさとしさんの絵本がありました。

18歳初選挙ということで緊急復刊しました。1983年に書かれた旧版の“あとがき”です。


     どこでどう取り違えたのか、「民主主義」を少数派を排除黙殺する多数決処理法とか、
     「論議はさせても実利は渡さぬ」 手段とだけ考えるおとながふえ、
     絶対多数党とか「数の論理」とかが まかり通る世となってきました。
     この本は、少数でもすぐれた考えや案を、狭い利害や自己中心になりやすい多数派が
     学び、反省する、最も大切な 「民主主義の真髄」をとりもどしたいという願いでかいたものです。
     「民主主義のヌケガラ」と後世から笑われないために、私たち自身が反省したいと思っています。

                  かこさとし(1983年発行の旧版掲載文)

「 かこさとし◇しゃかいの本 こどものとうひょう おとなのせんきょ」  かこさとし 作・絵     1600円+税 

町のあちこちに候補者のポスターがはられ、お願いの大きな声が流れます。選挙がはじまりました。
町のこどものひろばでも、ちょっとしたさわぎがおこっていました。
遊ぶところが少ない町で、児童館の前のひろばは、休みになると子どもたちでいっぱいになり、けんかや争いがおこります。
こどもたちが相談し、投票で決めることになりました。
結果、野球チームの票が多くて、休みの日は野球チームが使うことになり、
使わない時だけ、ドッジボールやおにごっこなどで遊ぶことに決まりました。
多数決だから守らなくてはいけません。ところがもめごとが続きます。
そこで、数が多いよりことよりも、いい考えを選ぶことが大切ではないかという意見がでました。




「これから戦場に向かいます」    写真と文  山本美香           1600円+税 

ジャーナリスト山本美香さんが、シリアの内戦で銃弾に倒れて4年。
戦場最前線からの声と写真は、何事もなく日常の中にいる私たちと同時刻に
理不尽な戦火の中で、苦しみ傷つく人たちの姿を伝えてくれます。
使命感と恐怖のはざまでシャッターを切る緊迫した写真。
両足を無くした少年の表情。戦車で遊ぶ子どもたちの笑顔。破壊された日々の 暮らし。
17年間戦場を歩き続けてきた山本美香さんの平和への思いがつまっている写真集です。
「未来を創るのは、子どもたちや若い人たち」行動を共にしていた佐藤和孝さんにつねづね言っていた言葉だそうです。
遺志を引き継いで、私たちは、少しずつでも平和に向かわねばなりません。


 2016.9



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今月の新刊より




ポプラ社


「あ そ ぼ」 エルヴェ・テュレ さく たにかわしゅんたろう やく  

色の遊びの絵本。「まるまるまるのほん」「いろいろいろのほん」に続いて3冊目です。
たいくつしているきいろいまる。
ぼくといっしょにあそぼ。線の上をなぞって、おして、ぐるぐるまわって、
ローラーコースター。かんらんしゃ。
青や赤とかくれんぼ。
ちょっとこわいトンネルもあるよ。
こどもたちの心に 楽しいストーリーが自由にひろがることと思います。
最後の“またあそぼうね“ がいいですね。 
 1300円+税 


ひさかたチャイルド

「だちょうさんのたまご」谷口國博 文 村上康成 絵       
だちょうさんがたまごをあたためています。
鳥のあかちゃんは最初に見たものをお母さんと思います。
もうすぐ生まれそうなのに、あれあれ だちょうのおかあさんがどこかへ行ってしまいました。
たまごは ぴしっと ひびが…。
えりまきとかげさん、やまあらしさんがやってきます。
あかちゃんがおかあさんだと思ったらたいへん。
「だちょうのおかあさーん、はやくもどってきてくださーい。」
ぴしっ ぴしっ      はらはらドキドキです。 
1300円+税


金の星社

「しげちゃんとじりつさん」  室井 滋 作   長谷川義史 絵    
「しげちゃん」2冊目です。
バアちゃん子のしげちゃん。バアちゃんがもたせてくれたお守りを二つ、いつも持っている。
成績表に“自立を!”って書かれていた。
お母さんは「バアちゃんと寝るのは禁止。今日から一人で寝なさい。」
一人で寝ていると天井はこちらをにらむ目だらけに!
「あれが自立(じりつ)さんだ!」
こわくなってやっぱりバアちゃんのふとんにもぐった。
バアちゃんは、なんとかしげちゃんを自立させようと一計を…。
室井滋さんのバアちゃんとの思い出です。
1300円+税


岩波書店

「あおのじかん」 イザベル・シムレール 文・絵  石津ちひろ 訳     
とても詩的な“あお“の絵本です。
おひさまがしずみ よるが やってくるまでの ひととき
あたりは あおにそまります。 あおのじかんです。
黄昏時の色、あおは少しずつ深みを増して変化していきます。
アオカケス、ホッキョクギツネ、アオガラ、スミレサギ、ブルーモンキー…など
あおい生きものたちが、夜を待ちながら時を過ごします。
夜の闇につつまれるまでの見事なあおの色の変化を、時間を追って描きます。
1700円+税


ロクリン社

「平太郎の おばけやしき 稻生物怪録絵巻より」寮 美千子 文 
備後三次に江戸時代から伝わる稻生物怪妖怪絵巻。その絵をその まま生かした絵本です。
稻生平太郎は肝がすわっていると評判の少年侍。
16歳の時、相撲取りの権八と肝試しをすることになり比熊山へ。
百の怪談話をしてろうそくを消すと化け物が現れるといわれているのに出てきません。
ところがふた月ほどたつと平太郎の家に、一つ目のけむくじゃらが現れたり、女の生首がとびだしてきたり、 家が水だらけになっていたりと、毎夜毎夜、妖怪 やお化けたちがあらわれます。
ところが平太郎はまったく動じることがありません。
これは実話ともいわれています。
まだまだ妖怪は次々と…。続編「おばけの親玉」刊行予定。   
1600円+税 


小峰書店

「もしも地球がひとつのリンゴだったら」  デビッド・J・スミス 文  スティーブ・アダムス 訳 千葉茂樹 訳 
地球って大きすぎてよくわかりません。
でも地球の大きさをリンゴ におきかえてみると…。
リンゴの4分の1が海。8分の1が人間が くらせる土地。
32分の1の土地で地球上のすべての人間の食べ物を 生産しています。
「大きな」ものを目にみえて手でさわれるものに ちぢめてみると世界がちがってみえてきます。
地球の歴史を1年間 にちぢめたら大みそか近くになってようやく 人類の登場です。
地球上の水がコップ100杯だ としたら人間が飲めるのは1杯。
世界中のお金が 100枚のコインだったら世界の人口の半分で1枚 のコインを分けあっています。
びっくりな結果 がたくさん見えてきます。う~ん!!
1500円+税


ポプラ社

「ファーブル先生の昆虫教室 本能のかしこさとおろかさ」  奥本大三郎 文  やましたこうへい 絵     
昆虫の生態をくわしく観察したフランスの昆虫学者ファーブル。
そのファーブル先生が楽しいイラストと写真で、昆虫の本能の「かしこさ」「おろかさ」を、わかりやすく、また楽しく説明してくれま す。
スカラベ、クワガタムシ、セミ、ツチガスリ…14の虫たち。
こんな小さな生きものに、こんな知恵が!と驚くことばかりですが、
本能ゆえ時には笑ってしまう ようなことも。
ファーブルの生態研究の方法もおもしろい。
朝日小学生新聞に連載されたものに 加筆、写真や図を増補した本です。オススメです。
1800円+税


評論社

「月は、ぼくの友だち」 ナタリー・ハビット 作  こだまともこ 訳        
配本にも使わせてもらう「時をさまようタック」の作者です。
1960年代、アメリカ。
ジョーは月をながめるのが大好きな天文学者を夢見る少年です。
両親を亡くしておばあちゃんと二人で住むジョーは
夏休み、一人で遠いミドヴィルの町に行き、親戚のマイラおばさんと過ごすことになりました。
その町にはポーランドから移住し、エンジンに使う部品を発明して大金持ちになったボルダーウォールさんが住んでいました。
ジョーと出会ったボルダーウォールさんは、ジョーを養子にしたいと…。
お金?月? ジョーは今までだまっていた科学者になる夢を話します。
1400円+税


福音館書店

「せなか町から、ずっと」 斉藤 倫  junaida絵     
くじらなど小魚にすぎないとほうもなく大きいマンタのような海の王。
満天の星で輝く美しい鳥にあこがれ、その鳥に近づこうとして海に落ち、そのまま何年も何百年もただよっているうちに、
いつのまにか島とかんちがいされ、人間や動物が住むようになり町ができた。
くしゃみしたり身ぶるいしたり、海にもぐれば洗い流すこともできたけれど、そうしなかった。
せなかからは、町のいろんな声が聞こえてくる。
あまのじゃくなカーテン。涙でできたはちみつ。はこからでないネコなど。
ぜんぶ、わしのせなかで起こったこと。
大きなせなかに抱かれた “せなか町”でおこった心地よい風にふかれるような物語。
心あたたかくなる短編集です。  
1400円+税


偕成社

「アリスのうさぎ」  斉藤 洋 作  森泉岳土 絵   
大学卒業の年、一年間はきつい仕事はダメと医者から言われた僕は、
決まっていた就職を断り、図書館でアルバイトをすることになった。
まかされたのは<児童読書相談コーナー>
そこを訪れる人から聞いた話が4話。
有名私立中学に通う男の子の入試問題集の話「天使の本か 悪魔の本か」
絵画コンクールにまつわる「美術館の少女」
山の中でうさぎに出会い「ふしぎの国のアリス」のような体験をした女の子「アリスのうさぎ」
同僚の教師が挙げた真冬の結婚式で見た女性「白い着物」
どの話も不思議で奇妙で、ちょっと怖い奇譚集。
図書館のシーンでちらりとでてくる本は同じ偕成社から出ている斉藤洋さんの「七つの怪談」3冊シリーズです。
1300円+税




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