◎ワッキー登場◎

 あれは昨年のことだ、冬も終わりに近づいた頃ひとりの男が同居することになった。
 彼は若く体格の良い男だった・・・と思う。
 そして彼との同居生活が始まった。

 始めは礼儀も正しくぼくもうっとうしいながら元気な青年だと思っていた!
 だが、じょじょに奇妙なことが起こり始めたのだ。
 その事件とは朝早く(早すぎ!)からペペロンチーノを作り、一日中スパイシーな香りが台所を埋め尽くすのだ。
 しかも、どういうことか毎日&毎日作り続けるため、周囲に置いてあるものまで匂いが付着し始めた(当然だわな)
 その被害は匂い以外にもフライパンの油があたり一面に飛んでいるためベタベタになっているのだ。
 まさに売れないペペロンチーノ屋さんの台所が再現されているようだ。
 それを見て、ぼくはため息しか出なかった。
 また彼のことを考えると頭が痛くなった。

 その上、彼の残していった香りは台所だけではなく寝室まで侵入してきた!
 おかげで、ぼくの生活の場は日々スパイシーな戦場となってしまった。
 その感じは、朝起きるとなにもしてないのに辛い感じがして。
 立ち上がろうと思うと匂いが飛び込んでくるのだ。
 でもって台所では相変わらずペペロンチーノが製造されている様子。
 朝から「ふぅー」っとため息をつき・・・二度寝。

 夜、仕事から帰って来て玄関を開けると臭いがする。
 ぼくが知っている匂いだ、なんだろう?
 そうだペペロンチーノだ!(同時にため息)
 そしてその匂いをシャワー洗い流して眠りについたときでも、スパイシーさは容赦なく襲い掛かってきた
 なんと、巨大なスパゲティの先端がぼくに向かって突っ込んでくる
 そしてぼくはその巨大なスパゲティに巻きつかれ身動きがとれない
 良く見るとそれはペペロンチーノで中心に少し芯があるアルデンテ状態だ!
 っと思ったところで目覚ましがなった。
 こんな夢まで良く見るようになってしまった。

 このままではいけない、イケてない
 そう思ったぼくは彼と戦うことにした

 戦うためには武器がいる、ぼくは武器について考えた
 匂いに対抗する手段としては?
 そうだ、くさいものには蓋(フタ)をするというではないか!
 だから蓋・・・。
 彼にするのか?それともフライパンにか?
 フライパンにするのは可能だとしても、彼に蓋をかぶらせるのは難しいだろう。
 可能は可能だろうが、はたして効果はあるものだろうか?
 気になったぼくは蓋を手に入れるため、近くのホームセンターに向かった
 初めは屋外用の水色大きいゴミ箱の蓋を買うつもりで向かったのだが、
 値段を見てみると意外と高い!
 こんなことに投資するのもどうかと思い、蓋ならなんでも良いことにして
 200円ぐらいの安い鍋の蓋を買ってきた

 ぼくはまず、かぶりやすいように鍋蓋の上部のつまみにひもを取り付けてかぶりやすいようにした。
 これで彼も喜んでくれるだろう。
 ぼくはわかりやすいように彼の部屋の前に蓋を置いておいた。
 彼はかぶってくれるだろうか?
 彼は部屋から出てきたときに蓋が邪魔だったのか横に退けた。
 なんと彼は喜んではくれなかったようだし、かぶりもしなかったのだ!
 だから、そのまま・・・この計画終了した
 蓋もそのままで・・・。
 蓋は今でも、彼にかぶられるのを待っているだろう。

 しかし、ぼくには第二段の考えがあった!
 彼をちらっと見ながら「世の中そんなに甘くない」と心の中で言ってみた

 ぼくの第二段とは当然、匂いに対抗する武器のことである
 このコンセプトは『匂いは消せ、さもなくばごまかせ』である
 すなわち、消臭剤あーんど芳香剤の匂い対策用の最強タッグである

 そこで、ぼくも武装するべく消臭剤&芳香剤を購入することにした。
 そう考えていたぼくは蓋を買いに行くついでに薬局にも寄っておいたのだ
 
 早速、ぼくは新しいぼくの仲間を使用した!
 使用感はなかなか良い、効果もそれなりにありそうだ
 数日後、徐々にだが部屋に平和が戻りつつある
 これも彼らのおかげだ感謝しなければ、ぼくにも笑顔が戻りそうだ!

 だが、彼の攻撃はそれだけではなかったのだ。
 彼のあとにお風呂に入ると不気味な臭いが漂っているではないか!
 初めは風呂も古いからたまたまだと思っていたのだが、確立が高すぎる。
 彼の後じゃない場合はそれほど匂いがしないのに彼のあとでは明らかに異なる匂いがする

 やはり、その日はたまたまだと自分に言い聞かせて次の日、その次の日と繰り返したが匂いはキツイ
 もしやと思い、ぼくは彼のいないときに、彼の部屋の隙間から匂いをかいだ
 
 なんと、鼻がもげるような臭いがぼくを襲い、ぼくは一瞬で撃退された。

 ぼくの信じたくなかったことが現実だとわかった
 これが現実、「現実はそんなに甘くない」そうぼくはこの匂いで言われた気がした
 これはたぶん『ワ○ガ』だ

 これからは彼のことは「ワッキー」と呼ぼう、そう決めた
 ぼくの戦いはまだ始まったばかりだ。