Q&A 日本の医療費(医療保障制度)
1:本邦の医療保険制度を教えて下さい.
2:皆保険である為の欠点を教えて下さい.
3:老人保険について教えて下さい.
4:老人保険拠出金制度とはどのような制度ですか?
5:国民の医療費の現状はどうなっているでしょうか?
6:混合診療とは?

1:本邦の医療保障の特徴は国民皆保険にあります.職業により以下の保険のどれかに加入することが義務付けられている国の強制保険です.
   加入する保険を自由に選ぶことは出来ません.「国民の平等性」を謳った制度で、保険料を納めた国民は保険料に関わらず国の定めた基準の医
   療が平等に受けられます.
   老人に関しては、別に老人保険制度が定められております.これは、被用者保険と国民健康保険の共同事業として運営されています(後述).
保険の種別 加入保険名 構成割合% 保険者 被保険者数 被保険者像
  被用者保険 共済組合 7.9 共済組合 7872万人 公務員の従事者と家族.組合数82
組合管掌健康保険 25.0 健康保険組合 大企業の従事者と家族.組合数1817
政府管掌健康保険 29.1 中小企業.
船員保険 0.2 船員組合 船員.
国民健康保険 国民健康保険 37.7 地方自治体 4763万人 自営業・5人未満の企業・年金生活者
日雇特例健康保険 日雇特例健康保険 0.1
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2:皆保険は万人平等である為の不利益がある.それを箇条書きし、その対応を述べる.
 a)医療に掛からなくとも(保険を使わない)、保険料は支払わなければならない.
    →アメリカを例にすると保険に入る入らないは自由である.アメリカでは民間保険に加入するので、日本の生命保険以上に加入に厳しい制限が付
       いている。又、リスクが大きければ保険料も高額であるので、この点での不利益は大きくない.


  b)加入保険による保険料徴収に格差がある.保険料は低所得者ほど負担が大きくなり、国民健康保険は更に負担が大きい.
    →皆保険という性格からは所得税のような直接税で納付するのが平等であるが現実には難しい.国保においては低所得層に軽減措置が設けれ
      ており、被用者においては負担率が同じなら組合内の再配分効果もあると思われる.これとは別に、保険行政では保険事業の不足分は税金
      で補填する制度があるので、完全な社会保険方式といえない面もある.


  c)一部負担金にの保険間の格差がある.所属組合で負担金格差がある上、本人・家族別でも負担の不公平がある.
    →一応格差は2倍以上にならないようになっている.又負担額が一定額を超えると全額償還され調整制度がある.従って極端な不平等にはなら
       ない仕組みはできている.


  d)給付における格差がある.医療の基本給付は同じであっても、健康の予防増進・分娩費等々で組合の給付が異なる.
    →各保険者によって加入している物の所得レベルや病気の掛かりやすいリスクは異なる.保険者運営なので、加入者の所得が多く病気に罹患し
       ない被保険者が多いところは給付を高く出来るし余力もあるが、その逆では財源に余裕は出来ないから致し方ない.但し、何箇所かの医療機
       関に自由に受診できるメリットは民間保険では到底出来ないメリットである.保険の種類を選ぶことは出来ないが、どの保険でも基礎給付に差
       別がないのが一番のメリットと思われる.



総括)日本の保険制度は個々に不利益は認められるが、平等の観点から諸外国の模範となっている.この制度を危くしているのは、老人保険の運営
      が下手な為である.次に老人医療に関して述べる.
3:老人医療制度の変遷は以下を参照.老人は所得が低く病気の置換率も高いので、老人保険という別立ての保険制度を創設した.当初
    (s48)、老人医療の自己負担分は政府が全額援助し、医療費の無料化の大看板を掲げた.が、老人医療費の増大により維持困難と見るや、
    昭和58年に老人保険拠出金制度を創設した.以後、拠出金分担の改定、一部負担の導入、老人加入率上下限の引き上げなど姑息的な対
    応を繰り返している.平成12年に介護保険を導入したが、老人保険の肩代わり的要素も否定できない.又、平成13年以後は老人保険そのも
    のではなく、健康保険法改正の中で論議に終始し、しかも迷走している.老人の自己負担率が増える傾向にあるのは客観的事実である.
年次 法制 特徴
昭和48年 老人福祉法改正 老人医療の自己負担を公費で負担(医療費はが無料!)
昭和53年 老人保険法改正 特別保険料の新設
昭和58年 老人保険法施行 老人保険拠出金の導入、一部定額負担の導入
昭和62年 老人保険法改正 老人保険拠出金算定法の改定、一部負担金改定、老人保険施設創設
平成4年 老人保険法改正 一部負担金改定、在宅介護体制の充実、公費負担率改正
平成6年 健康保険法改正 老人保険施設の整備、老年保険福祉審議会設置
平成7年 老人保険法改正 老人保険拠出金に係わる特別調整、老人加入率上下限の引き上げ
平成11年 老人薬剤負担臨時措置 薬剤一部負担負担を公費で負担
平成12年 介護保険法施行 医療から介護部分を分ける?
4:老人保険は当初、自己負担金を全額公費負担、s58より拠出金制度を取り入れた.つまり、公費、自己負担金、国民健康保険からの拠出金
    で運営する制度になったのである.拠出金の割合は国が決定する.老人の増加により拠出割合が増加し健康保険に大きな負担を与えている.
    12年の国勢調査で本邦の人口は12,689 万人.70歳以上2,187万人で高齢化率17.2%.当初、老人保険利用者は9%であったという.急速に
    高齢化が進み利用率も急上昇.国の予想が甘く対応も遅れ、拠出金は増える一方となる.
拠出金の負担の変遷は下記.
老人保険財源
昭和48年
昭和58年
平成12年 ←   年度拠出金は7兆円      →
平成14年
 ? 政策で割合減.金額は増加
平成18年

老人自己負担金 老人一部負担金
健康保険拠出金 各保険は均等分担
行政負担金 国と自治体で均等分担
拠出金制度の趣旨は、「趣旨は70歳以上の人と65歳以上の寝たきり老人にかかる老人医療費の財源は、本人が一部を負担、残りは国が20%、
  都道府県と市町村が5%ずつ出し、残りの70%は企業の健保組合や市町村の
国民健康保険などからの拠出する」というものです.老人医療費は
  H9年度以降、毎年10兆円を超えて
いる.平成12年の保険料の内、7兆が拠出金、国が2兆強、地方が1兆拠出して10兆を想定したが、老人
  医療費は10兆9000億だった.
・この拠出金が負担になって、組合管掌保険の経理を圧迫している.組合保険はそもそも本人と家族の保障(退職者も含まれる)で、老人が占める
  割合はきわめて低い.保険料を徴収してない老人の分を拠出しなければならない理由はあるのか?拠出の割合も不公平だといって拠出しない企
  業が出始めています.というのは、組合管掌保険は行政の補助を受けていないからです.
そこで国はH18年までに拠出金の負担率を50%に引き上
  げる方針を打ち出し健保保険の拠出金負担を軽減する考えです(図参照).但し、これにより行政負担が増えるので、この財源をどこかに求めるか
  が問題です.国は明言しておりません.

・この財源、国が公共事業の割合を外国並みにすれば簡単です.税を生む企業こそが資本と思っている行政では情けない!
・老人負担の割合は国保が一番多いけれども、実際は1/2になっている.一方、高齢者が少ない政府管掌保険は1.25倍、更に少 ない組合保険の
  負担率は2倍になります.
全体で平等に再配分されていると言えないことはないですが...
総括)拠出金制度は負担率を適切にすれば皆保険の趣旨には馴染んでいるが、今は格差が大きすぎる.国は新しい老人保険制度を考えているようです.
5:国民医療費は下記の如く増加の一途をです.平成11年では30兆9300億円.これは国民所得の8.4%に当たります.そのうち老人医療は、11兆
   8000億円で総医療費の38%を占めています.国民所得に対する伸びは前年比3.7%ですが,老人医療費は、前年比8.4%の伸び.そのうち、
    4.1%が老人人口増によるもので4.3%が医療の質の向上による伸び.国民所得の伸びは0.2%.この状況で医療費が伸びるのは問題だから、
   総医療費を何とか抑えられないかとう議論が医療費抑制策の発端となりました.
   平成11年以後の老人医療費は抑制効果が出ているようであるが、介護保険にお金が流れて算入を逃れただけで、抑制されたとはいえない.
年次 国民医療費 自己負担 保険料 自治体 国民所得に対する割合%
  昭和50年 6兆4779億 8375億 3兆4636億 1兆8725億 2984億 5.22
昭和60年 16兆 159億 1兆9185億 8兆7038億 4兆2551億 1兆0946億 6.15
平成 7年 26兆9577億 3兆1705億 15兆2137億 6兆5132億 2兆0265億 7.16
平成10年 29兆8251億 4兆4004億 15兆7790億 7兆2811億 2兆3345億 7.84
平成13年 31兆 234億 4兆6841億 16兆4769億 7兆7339億 2兆3977億 8.46
H13比率% 100 15 52.6 24.7 7.7

更に詳しくはここから
6:日本の医療費は、通常Aで構成されています.
健康保険は、国の基準より質の低い医療は黙認しているが、私費であっても質の高い医療を原則として認めていません.そこで混合診療の議論が生まれます.現在の医療費は概ね下記のようにになります.
A: 健康保険適用給付費              自己負担費
     保険診療は通常Aで黄色の部分が自己負担分.治療によってはBの場合もあり、保険適用外の治療を含むので、Bの治療を受けている方は
     、医療費の全額が自己負担とされます.これは国が混合診療を認めていない為、費用全額を自己負担しなければなりません.これは不公平.
B: 健康保険適用給付費              自己負担費 健康保険適用外費用の負担
     今回、国は混合診療を認めて、Bの場合の不合理を無くし医療費を軽減すると言っています).
C: 健康保険適用給付費              自己負担費 健康保険適用外費用の負担
     確かにBがCとなれば、保険適用のない費用は保険で補われる形になり医療費は軽減します.しかし、ここに落とし穴があるのです.
     一度、混合診療を認めると、Dの医療費構成が導入される可能性が大きくなります.つまり、今迄保険適用となって費用も、保険適応をはずし
     てしまう事態が予想されるのです.そうなると、黄色の部分が自己負担分ですから負担額は返って増えてしまいます.
D: 健康保険適用給付費 保険から外される部分 自己負担費
   又は
D': 健康保険適用給付費 保険から外される部分 自己負担費 健康保険適用外費用の負担
     こうなると、緑色の部分が減り黄色の自己負担分が増えてしまうのがお判りと思います.90%以上の医療は、Aの構成ですので自己負担増は明
     らかですし、Bであっても近い将来には、結局、自己負担が増えてしまうのです(医療機関の収入が増えるわけではありません).
我々は、下図
    Eの如く、健康保険適用外費の保険適応を求めているのです.自己負担は減り、政府の負担が増えますので、財源なしと一蹴
    されているのが現実です.

E: 健康保険適用給付費              自己負担費 健康保険適用外 費用の負担
    今求めているのはこの図です.