医療制度改革関連法案、衆院本会議で可決(H18/5/18)→公的保険給付改悪・医療給付費抑制のみ先行
今回の改革での公的保険給付見直しは下記の内容であった.

(1)高齢者患者負担:70歳以上の高齢者のうち、現役並みの所得の者は、現役と同様に3割負担とする.
(2)食費、居住費の負担:療養病床に入院する高齢者は、低所得者に配慮しつつ、食費、居住費の負担を見直す.
(3)高額療養費の自己負担:高額療養費の自己負担限度額は、低所得者に配慮しつつ、賞与を含む報酬総額に見合った水準となるよ
    う引き上げる.人工透析患者のうち所得の高い者は自己負担限度額を引き上げる.入院にかかる医療費は、医療機関窓口での支払
    いを自己負担限度額にとどめることを検討する.
(4)現金給付:傷病手当金や出産手当金は、支給額への賞与の反映などの見直しを行う.出産育児一時金を現行の30万円から35
    万円に引き上げる.
(5)レセプトIT化:医療機関などが審査支払機関に提出するレセプトと同機関が保険者に提出するレセプトは、2006年度からオンライン
    化を進め、11年度当初からすべてがオンラインで提出されるものとする.
(6)その他:保険料賦課基準となる標準報酬月額の上下限の範囲拡大や標準賞与額の見直しを行う.公的年金等控除などの見直し
    で、現役並みの所得に該当する高齢者等の負担は2年間の経過措置を講ずる.

今回関連法案は、ベッド数の削減を柱にした医療費適正化策、今年10月からの高齢者負担(現役並み所得者の人数は、基準の勝手な見直しで予測倍近くの約200万人)・高齢者医療制度支援保険料の負担等、公的保険給付改悪が先行している.しかも、審議時間も充分でなく、強行採決を愚行.社会的関心が強い、産科、小児救急、へき地医療などの医師不足や、がん対策などは論議のみで施策なし.今後、新高齢者医療制度・療養病床(医療費膨張の温床?)大幅削減と続き改悪は止まるところを知らない.それなのに、生活習慣病予防はメタボリック症候群の概念を発表して不安を煽っただけである.支払は済ませたが、商品は届かないという気分なのである.以下に、審議中の厚生省案を記載.
1:医療療養病床大幅削減
厚生省は「医療療養病床は医療費膨張の温床」と考えており、大幅削減案を提示している.25万床を11万床とし、新構想の新・医療療養病床として15万床にするという.追加の4万床は、介護療養病床13万床を9万床削減した残4万床を繰入れるとのことで、介護療養病床は制度廃止となる.2012年3月までに達成予定というから大騒動である.そして療養病床の扱いが、これまた神がかり(役人がかりか?相当細部まで管理される).
1) 医療療養病床における高齢者の居住費・食費を保険給付からはずす
a 70歳以上に適用し、患者負担とする
b 保険から外す金額は介護保険と同額.食事4万2千円、居住費1万円.低所得者対策は、介護保険と同様
c 負担対象外:人工呼吸器、中心静脈栄養等を要する患者、脊髄損傷で四肢麻痺がある状態、難病患者
d 2008年4月から、対象年令を65歳以上とする
2) 医療療養病床の医療法の人員基準の引き上げ
a 療養病床の位置づけを、「主として長期にわたり療養を必要とする患者を入院させる病床」から「医療必要度の高い患者を受入れる病床」とした(いわゆる社会的入院を拒否).
b 医療法の基準を、「看護職員6対1+看護補助6対1以上」から「看護職員4対1+看護補助4対1以上」に引き上げる.
3) 介護療養病床は制度廃止
a 2012年3月末日で全廃
b 介護療養病床の受け皿は、特定施設(有料老人ホーム)、老健施設を検討.
1)は個人の負担増.介護保険での導入を模倣.2)医療側の負担増.報酬がカットさているのに雇用を増やさないといけない.更に、医療療養病床は、入院基本料が細部にわたって削減されている.IT化等の義務施策を考えれば、高齢医師や病院減らしと考えられる.3)現在、特養(待ち人数34万人)・老健施設は満床状態である.23万床が削減されると、受入態勢が2012年3月までに整うことは難しいといわれており、行き場のない老人が居宅で戸惑うことになる.有料老人ホームが整備されるのだと思われるが、これは在宅扱いで個人負担増となる.医療費削減は厚労省のもくろみどおりであるが、実情を全く考慮せず、机上空論を粛々と進めていくのである.共同通信による改革法案審議の内容は以下のとおりであり全くお粗末.
医療制度改革関連法案が18日、衆院を通過し参院に送付された.医師不足の問題や 医療費の将来推計をめぐる疑問などは、衆院での審議では未消化なままで、参院での課 題として残された.
 【医師不足】衆院厚生労働委員会での質疑で、もっとも時間が費やされたのは、地域での小児科、産科医などの不足問題.野党側は地方で医療崩壊が進んでいるとし、国が 医師不足対策に取り組むべきだと迫った.厚生労働省は、日本の医師の総数自体は必ずしも不足しているとはいえないと説明.地域、診療科による医師の不足は、都道府県ごとに設置する医療対策協議会が地域の実情に応じて検討し、医療従事者が協力すべきだとの考えを繰り返した.
 【生活習慣病】厚労省は、生活習慣病対策を推進することで、2025年度で医療給付費を約2兆円抑制できるとしている.内臓脂肪型肥満に糖尿病などの症状を併せ持つ メタボリック症候群の人は、正常な人に比べ医療費が高くなるとの研究結果に基づいた 考えだ.しかし、野党側は、この研究は対象者が約2800人で少なすぎ、細かく分析するとこうした異常が必ずしも高い医療費につながらないなどと指摘した.
 【負担増】野党は患者の負担増も強く批判.従来の医療改革でサラリーマン本人の自己負担割合が3割に増えた上、所得の格差拡大などで、医療機関での窓口負担分を支払 えない患者が増大し、多額の未収金が発生していると主張した.その上で、法案の一連の負担増がさらに医療機関の経営を圧迫すると追及したが、厚労省は公的保険などの財政上、負担増はやむを得ないとの答弁を繰り返した.
 【医療費推計】与野党双方から、現行制度のままでは国民医療費が2004年度の3 2兆円(予算ベース)から25年度には65兆円に膨らむとの厚労省の推計値が過大ではないかとの疑問が出た.小泉純一郎首相は「推計通りには、必ずしもいかないが、専門家に任せることにしている」と答弁しただけだった. [共同通信]              
2:混合診療拡大

「混合診療」とは、保険診療と保険がきかない診療(保険外診療)を組み合わせるものです。現法では「混合診療」は原則禁止ですので、保険がきく診療と保険外診療を組み合わせると、保険がまったく適用されず全額患者負担になります.但し、一部の例外が認められており、、、「高度先進医療」や歯科医療の「金属床」の総入れ歯、「差額ベッド」など、、、特定療養費制度と呼んでいます.
今回の医療改正法案では、この特定療養費制度の呼称を替え、新たに「保険外併用療養費」を創設しました.その対象に、「高度先進医療」、「必ずしも高度でない先進技術」、欧米で承認された「国内未承認薬」などにも拡大適用しました.また、「差額ベッド」に加え、「制限回数を超える医療行為」(リハビリなど)も新たに対象としています.厚生労働省は、「保険外併用療養費」の創設で、いままで「例外」とされてきた「混合診療」を拡大する計画です. 
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「混合診療」の適用拡大は、保険外診療を診療行為に組込まれることが意味します.現法でも、多くの保険外診が既に組込まれている歯科診療では、医科に比べれば患者負担が大きのはご存知でしょう.
これまでの日本の医療制度は、保険外だった技術・薬を、安全性・有効性を検証し保険の適用に取り込んできたのです.保険外診療が広がると、今迄保険内の診療行為が医療費抑制の名の下に、その適用を外されることも考えれ公的保険の範囲が狭められことにもなります.又、新しい医療技術や新薬に保険が認められないと、自己負担が増えるので良い医療を受けられるのはお金のある人だけになるかもしれません.「お金の有る無しで、診療に差がついてしまう」こととなり、公的医療保険制度の土台が崩れてしまいます.
「混合診療」の拡大、公的保険の範囲縮小は、医療を受ける際に保険外の自費診療分に備える必要が生じてきます.それを民間医療保険市場は歓迎しているのです.混合診療を認めることで、日米の保険会社の新たな保険事業参入のお膳立てをすることになるのです.つまりアメリカ型の診療制度に近づくわけです.

3:検診の義務化と生活習慣病対策
国民医療費の約3割を占め、死亡数では6割を占める「生活習慣病」の有病率・予備群を減少させることによって、2025年度の医療保険からの給付率を削減することができるとしている.その目標は、「生活習慣病」の有病率・予備群を25%減少させることである.このため今回の改正では、「特定健康診査」と「特定保健指導」の概念を打ち出し、実施については国保や被雇用者保険の保険者の責務とし、「生活習慣病」の有病率・予備群の管理を強いるのである(この計画では75歳以上の高齢者は除外されている).但し、この財源等に関しての計画は不明である.
検診業務に関しては、今でも民間委託体制であるのでこれに拍車をかけることは必定で、民間医療保険に続いて、検診・保健指導分野も新たな資本参入を誘導することになる.これまでの医療の公共性は皆保険制度が守ってきたわけであるが、今度の改革はこれをなし崩しにしてしまう様相をはらんでいる.