高コレステロール治療開始の値は?

アメリカでのフラミンガム研究や日本の久山町研究では、心血管系の障害のリスクはコレステロールのみならず、高脂肪食、糖尿病、高血圧、喫煙、心電図異常のような多くの因子が危険因子であることがわかりました. 一方、Multiple Risk Factor Intervention Trial という疫学調査では、コレステロール値の違いや食事療法の有無で心疾患の発症率に差はなく、コレステロールも食事療法では低下しないという報告もあり混乱が生じています.

日本でコレステロールに関する臨床試験「Japan Lipid Intervention 」通称J-LITが、初めて行われ報告されました.その成績は各医学誌に掲載されているところです.J-LITは、コレステロールが220mg/dl以上の35歳から70歳までの男性と、閉経後の女性を対象とし、心筋梗塞、脳血管障害発作の新鮮例(発症一ヶ月以内)、コントロール不良の糖尿病患者、重篤な肝疾患と腎疾患、二次性の高脂血症、癌その他の悪性疾患患者を除外した約5万2千人の対象に、シンバスタチンを6年間服用させた疫学調査です.比較対照の薬はありません.その結果、シンバスタチンに顕著なコレステロール低下作用のあることが証明されましたが、注目すべきは死因とコレステロールとの関係です.総死亡数は840人でした.以下、その解析です.

ガンは総コレステロール値が低いほど死亡率が高く、完全に逆相関の関係にあり、総コレステロール値が高いほどガンにならず、280mg/dl以上の超・高脂血症患者が一番低い値でした.心筋梗塞、その他の心疾患、突然死、脳血管系疾患、その他の血管系疾患、その他、原因不明、事故・自殺の項目の総死亡率は、コレステロール最低値群(180mg/dl未満)で最大となり、次が最高値群(280mg/dl以上)でした.心筋梗塞の死亡率は基準群(200〜219mg/dl)に比し、最低値群は、なんと8倍、ガンは2.6倍に増えているのです.一方、280mg/dl以上の群では心筋梗塞や突然死が増えており、余り総コレステロール値が高いのも良くないことが明らかになりました. 総死亡率からは、総コレステロール値が200から280mg/dlの範囲では殆ど差はないということです.
安全域を考えれば、総コレステロール値のみからは

相対リスクの無い方 :200-260mg/dlは無治療
相対リスクの有る方 :200-240mg/dlは無治療
心血管系の既往者 :200-220mg/dlは無治療

治療もこの範囲に保つ事が良いと考えます.コレステロールと心血管病変にはJカーブが存在するということです.コレステロールのコントロールはスタチン系が最も優れます.下げ過ぎないようにすべきです.