伝説の超大陸


南方大陸に関する話が一段落しましたし、

リクエストもあったという事で、

他の超大陸も扱ってみようという事で。

 

 

ー地球変動学(テクトニクス)ー

超大陸という事に関して述べるのにオカルト雑誌と同じ土俵に立つのも何なので、

まずは、地質学をメインに追いかけてみようと思います。

 

 

大陸形成に関して19世紀頃に一般的だったのは、

『地向斜論』という考え方でした。

簡単に言ってしまうと、

海底地殻の盆地になっている箇所に土砂が堆積し、

やがて大陸になったという考え方です。

この理論の論拠となっているのは2点あります。

場所によって同年代の地層の厚さが異なったり、傾斜したりしている事

海洋地殻を構成する岩石と大陸地殻を構成する岩石が異なる

1点目は、まあ見た目のイメージです。

2点目に関して詳細を述べましょう。

 

「地殻」と一言でまとめられがちですが、

海底と大陸とでは、構成する岩石が異なるという地質学的特長があります。

 

海底を構成するのは、主に「玄武岩」と呼ばれる種類の岩石です。

中央海嶺から海底地殻が形成される際に出来る岩石がこれにあたりますが、

海底にしか存在しない訳ではありません。

ちなみに、玄武岩の語源は兵庫県の玄武洞から来ています。

 

大陸地殻を構成するのは、主に安山岩や花崗岩です。

安山岩は主に造山運動の際に出来る岩石で、

まあプレート同士が衝突した場合に出来る岩石です。

花崗岩はマグマの冷却によって作られる岩石です。

 

ちなみに安山岩の語源はアンデス山脈で、

英名のアンデサイトも同じ。

花崗岩は、「御影石」という石材名が有名ですが、

これは神戸市の御影という場所で切り出された石のブランド名が始まりです。

 

微妙に話が本筋から逸れていますが、

大陸地殻と海底地殻の組成の違いは、

後々大きなポイントとなりますので覚えておきましょうね。

 

 

−地向斜論の問題点−

地向斜論では説明できない大きな問題がありました。

それは2点。

 

生物の分布

生物分布や、古生物学での化石分布に関して、

地向斜論は無力でした。

大洋を隔てた場所に同じ生物種が存在するというのは、

大きなミステリーでした。

 

氷河記の痕跡

19世紀から20世紀の初めにかけて、

氷河記というのはホットな話題でした。

この時代は、過去の氷河記周期から考えると、

20世紀以降は氷河記に突入すると信じられていました。

氷河期の痕跡、つまり氷河痕の分布が面白く、

フィンランドなどにある分には誰もが納得なのですが、

タイやサウジアラビアにまで存在していたので、

当時の地質学者や気象学者にとっては大きな悩みの種でした。

 

 

−生物分布の解明をしよう!−

と、いう事で、生物分布の証明をするべく様々な説が登場します。

まずは代表的な初期の説を2つ。

 

漂流説

何故か初期の本流であった説ですが、

これは、生物が流木にのって大洋を渡ったというものです。

植物の運搬は鳥が担当しました。

しかし、まともに考えると何億年も前からコンスタントに

動物達が大冒険を続けなければ成立しないわけです。

しかも、その後の繁殖を考えると、

「ノアの箱舟」定期便が出ていない限りはどうにもなりません。

この説は、明確に否定される事もないまま、

自然消滅に近い形で消えてしまいました。

 

 

大陸陸橋仮説

いくら何でもそりゃ無茶でないの?

と、思ったかどうかは分かりませんが、

イギリスのフィリップ・スクレーターが1874年に提唱した説です。

生物学者であった彼は、レムール(キツネザル)の分布について調査を続け、

「かつてインド洋上に大陸が存在し、陸橋の役を果たした」

という仮説を提唱しました。

これが(皆さんお待ちかねの)大陸陸橋仮説で、

この陸橋を「レムリア」と命名しました。

 

この説は当時の理論物理学者達からの横槍が入り、

結果、この説は追いやられてしまう事になります。

ちなみに理論物理学者というのは、

物理学会の最高峰の人たちで、

ホーキングやアインシュタイン、ファインマンといった人たちが

これにあたりますかね。

これら大御所たちがダメ出しをしてしまうと、

みんな「そうかな」と思ってしまうのは今も昔も変わらないという事ですね。

 

ちなみに彼らは「ありえないから違う」と言った訳ではありません。

1.有史以来のどのような大災害でも大陸の浮沈に影響するものが無い

2.海底地殻より軽い大陸地殻が海底に沈む理由が考えられない

レムリア大陸消滅に関する理由を説明する理論が存在しない為、

結果的に存在自体も否定せざるを得ないというのが結論でした。

 

 

この説が、スクレーター氏の想定外の分野で大ブレイクします。

神智学者のヘレナ・ブラバツキーや人智学者のルドルフ・シュタイナーが、

この説に飛びつくことになります。

特にブラバツキー夫人は相当気に入ったようで、

レムリア人などを考え出したり、

場所も太平洋に移動させたりと、

好きなようにいじくりまわしています。

 

 

−大陸移動説の登場−

ドイツの地質学者アルフレッド・ウェゲナーが1912年、大陸移動説を提唱します。

これがアフリカ大陸東岸と南米大陸西岸の海岸線が酷似している事に

インスピレーションを受けたというのは有名な話です。

ただ、厳密には大陸が移動しているというのではなく、

玄武岩の海底地殻に大陸地殻が浮いているという、

大陸を流氷のようなイメージとして捕らえた理論でした。

 

この理論に対しても理論物理学者が横槍を入れます。

これも「そんなバカな」と一蹴したわけではありません。

大陸地殻を構成する安山岩などに比べると、

玄武岩は硬いうえに融点も高いという特徴があります。

硬い地殻の上を軟らかい大陸が「漂う」ということは

物理的に証明しえない事なので、ありえないと結論付けられてしまいました。

 

ウェゲナーは1930年にグリーンランドで行方不明となってしまいますが、

この説も、ウェゲナー想定外の場所でブレイクします。

地向斜論の壁について研究していた気象学者(氷河記研究)や

古生物学者達がこの説に惚れ込みます。

この説さえ正しければ、

サウジアラビアの氷河痕でさえ理由が証明できますし、

古生代(約4億年前)から続く奇怪な生物分布もこれで証明できます。

 

ほとんどの文献で大陸移動説の空白期間とされているこの時代に、

彼ら底辺の研究者達によって大陸移動の証拠探しが展開されます。

 

やがて海洋底調査による海嶺での地殻隆起の発見や地磁気偏向の調査などによって

彼らの努力は実を結びます。

海洋底拡大説やプレートテクトニクスを経て、

現在のプルームテクトニクスに発展していく訳です。

 

 

ー誤訳から登場した超大陸ー

地質学の基礎と、そこから派生したレムリア大陸に関して述べましたが、

今度は地質学とは全く関連しない分野から登場した超大陸です。

 

太平洋の超大陸『ムー大陸』

ムー大陸といえばチャーチワードですが、初出は彼ではありません。

1864年、フランスのシャルル・ブラッスールが、

宣教師が残していたマヤの古文書を入手し、独自に解読。

そして、その古文書には古代の大災害で水没した大陸「ムー」に関する

記載があると主張したのが全ての始まりでした。

 

実際、マヤ文字は英語よりも漢字に近い、いわゆる「表意文字」で、

英語圏のブラッスールには全く予想もできない読み方でした。

結果として、全ての文字をアルファベットに置き換えて解読した彼の方法では

完全な誤訳でしかなかったのですが・・・。

 

大陸陸橋仮説が登場した際、

ルドルフ・シュタイナーはこの説を引き合いに出して、

「ムーやレムリアといった大陸が存在する以上、アトランティス大陸も存在しえる」

と、主張しています。

 

 

どこの誰かは知らないけれど

満を持してジェームス・チャーチワードが登場します。

1926年、彼は「失われたムー大陸」を出版し、

太平洋にかつて存在し、1万2000年前に水没したムー大陸の存在を主張します。

 

彼は東西8000キロ、南北5000キロの超大陸が存在し、

人類は20万年前にそこで誕生したと主張しました。

そして高度に発達した文明が存在し、

地上のほぼ全域(アトランティス含む)を植民地にしていたとも主張しています。

ムー大陸が水没したプロセスに関しての彼の理論は、

ムー大陸は地下に巨大なガス帯が存在する「風船の大陸」で、

まあ、風船が割れたからしぼんじゃったと、そんなところです。

 

 

ちなみにチャーチワードという人は、

存在すら疑問視されるほど謎の人です。

そもそも彼は将校としてイギリス陸軍に在籍していた際に駐留したインドで

行者から「ナーカルの石版」を見せられ、

それを独自に解読したそうです。

ですが、彼の主張が正しければ、その時彼は16歳。

16歳で将校(大佐)というのは、まず考えられる事ではありませんし、

イギリス側も否定していたりします。

謎の人というより、経歴を詐称していただけというところでしょうか。

 

 

彼が何者であったのかはともかくとして、

個人的に気になるのは「彼の説そのもの」です。

 

ムー大陸に存在した国家が世界の頂点であった時代は

平和な時代であった、と彼は主張していますが、

彼はムー大陸人は白人、植民地であったアフリカや南米は有色人種であった事を

しつこいほどに主張しています。

本当にしつこいです。

20万年前から白人は支配者としての資質を持って存在し、

有色人種は従属者としての資質を持って存在しているという主張です。

おそらく白人至上主義者であったのでしょう。

 

そして成立年代なども全く無視して(知らなかったのかも)、

モアイもピラミッドも全て同時代の産物としています。

他にも、モアイは灯台として機能し、航海者を見守っていたと主張していますが、

実はモアイは内陸側に向いていて海を向いているものは一体も無いとか、

ツッコミ所は満載です。

 

彼のナーカル文字解読法も根拠が不明で、

しかも実物が存在するかどうかも謎。

解読の手順が説明できないという事は、

解読方法に法則がないという事で、

つまるところ、根拠が無いと言われても仕方ないと思いますが。

 

 

ツッコミ所満載のためか「学会に無視された」と言われていますが、

実は、無視したわけじゃありません。

真面目に調査が行われ、

大規模な海洋底調査が何度も実施されました。

現在でも、継続的に行われています。

太平洋海底の地殻組成は玄武岩質、つまり通常の海洋底であった事。

海底の堆積物が1万2000年よりも前から積もり続けていた事。

(つまり、遥か昔から海底であり続けたという事)

これらの事実から、

太平洋にムー大陸のような大陸は存在していなかったと結論付けられています。

 

むしろ、こういった調査の方が無視される傾向にあるようですが・・・。

 

 

 

結局のところ

レムリア大陸は地質学的にも根拠は無く、

インド亜大陸からアフリカまで分布するレムールの

「広域に分布する謎」

を説明する為の仮説の中の一つでしかなく、

ムー大陸に至っては、

単に誤訳によって存在が主張されたものでしかありません。

 

これらの存在が議論され続けた理由は、

その存在を支持し続けたオカルティスト達の活躍、

もしくは、ある種のロマンからくるものだったのでしょう。

 

 

 

 この話はひとまずこれで終わりです。


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