オーパーツのケーススタディ


超古代文明ネタが割とイイ感じで進んでいます。

で、今回はオーパーツその1という事で・・・。

 

オーパーツに関しては色々考えるところがあるのですが、

今回はそういう意味でケーススタディとも言える「これ」について。

 

地中海のアンティキシラ島沖で紀元前65年頃の沈没船からサルベージされた遺物で、

腐食が進んでいるけれど意味ありげな青銅の塊、

俗に「アンティキシラの歯車機械」と呼ばれている物です。

ちなみに発見されたのは1900年。

 

発見された当時で判明していたのは、

記載されていたギリシャ文字と製作年の紀元前82年という事だけ。

その後、デレク・プライスというケンブリッジ大学の教授がこれを調査、

X線写真などから歯車の構成を割り出し、

1971年に復元に成功したとの事。

その後、1985年にシドニー大学のアラン・ブロムリー教授が再調査、

デレク・プライスの幾つかの間違いを修正し、

それを元に時計職人フランク・パーシバルが新たな復元模型を完成させます。

2002年9月の事です。

 

問題はこの先でしてね。

 

オカルト本などに書かれているこの機械の特徴は・・・。

太陽・月・水星・金星・火星・木星・土星の運行(相対位置)を正確に表示できる

当時のギリシャには、天体に関するこれほどの知識も、天文観測技術も無かった

歯車、つまり作動ギアに関する技術も、当時のギリシャには存在しなかった

だから、これは超古代の科学技術の産物なのだ!アトランティスとかね!

素材には一部チタンが使用されていた

 

ネットでたまたま見つけたんですが、

チタンって、どっから出てきた話なの・・・。

いまだに脚色が進んでるという事でしょうか。

 

表の一段目に関しては後ほど。

 

まず問題にしたいのは表の二段目〜四段目、

要は「昔のギリシャの技術では作れなかった」という点。

まあ、当時の技術では作れるはずのない物、

「場違いな遺物=オーパーツ」

という訳なのですが、

本当に当時の技術で作れるはずがなかったのでしょうか?

 

紀元前300年ごろ興った「ヘレニズム文化」という時代をご存知でしょうか?

文化に関する細かい説明は専門の方に任せますが、

この時代、有名な「大図書館」、

そして研究機関と言える「ムーセイオン」

が、アレキサンドリアに作られました。

で、この噂を聞きつけた多くの哲学者や科学者が

アレキサンドリアに集結するのですが、

さて、いったいどんな人たちだったのでしょう?

 

 

エウクレイデス

ピタゴラスの後継者ともいえる幾何学者で、

英語読みの「ユークリッド」といえば知らない人はいないと思います。

聖書に次ぐベストセラーとなった『幾何学原論』を著した人です。

仮定をつかった解法とか、比率とか、まあ色々です。

『幾何学原論』は現代数学の基礎と言われており、

と、言うことは、裏を返せば

現代数学の基礎はこの人が作ったという事です。

 

 

ヘロフィロス

この人は医学者です。

「系統立てた解剖」を最初に行った人で、

周りから「肉屋」と言われるほど膨大な解剖を行ったそうです。

その膨大な解剖から、

人間の中枢はアリストテレスの言う心臓ではなく、脳であることを発見した人です。

ちなみに、「カテーテル」という医療器具は、

彼の弟子が発明したものです。

 

 

アリスタルコス

この人はすごい天文学者です。

 

月の満ち欠けについて観測しているうち、

光源である太陽がかなり遠い位置にある事に気がつきます。

(この時代、地球も月も球体であるという考え方は既にありました)

で、半月の時の月と太陽の角度から距離を割り出し、

『遠い位置にあるにもかかわらず見た目の大きさが月とさほど変わらないのは、

太陽がそれだけ大きいからだ。

アリストテレスは「地動説」を唱えているが、

地球よりも大きい太陽が地球の周りを回るのは不自然だ。

むしろ「地球が」「太陽の周りを」回っているとしか考えられない。

そして太陽の動きは、地球自身が回転しているから動いて見えるのだ』

という理論を発表します。

これは、コペルニクスより1800年も早く発表された

『地動説』

というわけです。

しかし、この説は奇しくもガリレオのそれと同じような運命をたどります。

 

ですが、彼の後継者や支持者が

彼の理論を自身の論文等に書き残していたおかげで、

(アルキメデスの「砂粒の計算」等)

今日まで消えずに残ったという事です。

 

ちなみに、コペルニクスも『地動説』の初期の論文では

彼の説を引用している旨を記載していたそうですが、

有名になった途端、その部分をけずってしまったとか・・・。

 

 

アルキメデス

この時代を生きた学者の中ではトップクラスの人です。

有名なのは「エウレーカ!」と叫んで裸で街中を走った話、

ではなく、

王冠の金の純度を調べた話で、

後にこれを元に比重や浮力に関する一般原理を確立します。

テコの原理もこの人。

巨大反射鏡でローマの軍船に火をつけたりもしました。

今でもエジプトで使用されている「螺旋揚水機」もこの人の発明。

タンクローリーの中でくるくる回ってるやつね。

『円周率』も、ほぼ正確に算出しています。

歯車を使った『距離計』も発明しています。

現代の『距離計』と同じ原理、同じ構造だそうです。

 

紀元前75年、

ローマの政治家キケロがロードス島(シチリアかも)で財務官をしていた時、

アルキメデスの発明した天球儀を見て感激し、

その事を記録に残しています。

太陽、月、5つの惑星の運動を示し、

日食や月食の様子も再現できる半球型の天球儀で、

一説では水力で動いていた、とも言われています。

また一説では、キケロが見た物は「アンティキシラの歯車機械」そのもの、

または、それに類するものだったのでは、とも言われています。

 

ちなみにこのキケロという人、

アルキメデスの大ファン、っつーか敬愛していたそうで、

後年、打ち捨てられていたアルキメデスの墓を発見し、

単身、とても丁寧に修復したそうです。

 

 

ヘロン

この人は幾何学者なのですが、

割と色々なものを発明しています。

サイフォンの原理を使った「自動噴水機」を筆頭に、

火力エンジン、

スロットマシン、

聖水の自動販売機、

蒸気機関、

自動ドア、

などなど、本業以外で様々に活躍しています。

 

実際、「アンティキシラの歯車機械」を作ったのは、

アルキメデスかヘロンのどちらかじゃないか?」

と言われているくらいです。

 

 

ヒッパルコス

この人は天文学者。

850個ほどの星を網羅した「天体一覧表」を作成した人です。

この人の最大の業績は、

『春分点歳差』の発見です。

歳差運動というのは地球の自転軸の首振り運動の事で、

(概念自体は紀元前800年ごろ既にあったそうですが)

それが100年で1度ほど動くというのを算出しました。

また、彼の算出した太陽年も、

365日5時間55分12

と、当時としては信じられない正確さで算出しています。

また、三角測量法を考えたのも、

分度器を発明したのもこの人。

 

 

 

さて、くどくど書いて何が言いたかったかというと、

どうもオカルトファン(もしくは多くの人)の間に、

『昔の人は文化的にも技術的にも稚拙だった』

もしくは、

『テクノロジーというのは右肩上がりに進化している』

というステレオタイプな考え方があるんじゃないの?

という事です。

 

最初の表をもう一度・・・。

太陽・月・水星・金星・火星・木星・土星の運行(相対位置)を正確に表示できる

当時のギリシャには、天体に関するこれほどの知識も、天文観測技術も無かった

歯車、つまり作動ギアに関する技術も、当時のギリシャには存在しなかった

だから、これは超古代の科学技術の産物なのだ!アトランティスとかね!

素材には一部チタンが使用されていた

 

チタンは論外。

アトランティスも論外。

っつーか、アトランティスはそのうち一章割いて書こうかと思ってます。

 

当時、既に天体や惑星の運行に関する知識も

『アンティキシラの歯車機械』を作るには十分すぎるほどあったし、

歯車に関しては、アルキメデスやヘロンがバンバン使ってます。

特に距離計は、ローマ街道の里程標を配置する際に大活躍しています。

(ヘロン作の距離計という説もあります)

そもそも、「アンティキシラの歯車機械」に類する機械を

アルキメデスが作っていたという記録が、

実際に残っている訳ですし。

 

つまり、

「当時の人間に作れるはずがない!」

というフォン・デニケンとかが好きな理屈は、

その時代を生きた人が生み出した知識や技術、

さらに、その人たちの存在自体を否定して初めて成り立つ理屈だと言う事です。

 

そういう意味では、ずいぶん失礼な理屈だと思うのですが・・・。

 

 

ただ、最後になりましたが、

表の一段目の「太陽・月・その他惑星の運行を表示出来る」に関しては、

ちょっと分かりません。

僕の持っている資料や記憶では、

この機械は太陽と月の運行をシミュレートするくらいしか出来ないと思ったのですが・・・。

記憶違いなのか、知らないだけなのか、

ただの脚色な気もするし、

アルキメデスの機械と一緒くたになってる気もするし。

 

 

と、言うわけで、復元模型の写真と、

クリストファー・ジーマンがテキサス大学で講演した際の資料の一部を紹介。

 

これが復元模型。

中心の2枚のガラスプレートに太陽と月が書いてあるのが分かるでしょうか?

右のハンドルを回すと、これがクルクル回ります。

外側の円に書いてあるのは12星座で、

太陽が黄道のどの位置に来ているのかが分かるようになってます。

 

これが裏面。

上の針で日食や月食の起こるタイミングが分かります。

下は月の満ち欠けを表示します。

 

左が現物の写真、右はX線撮影後に製図に書き起こしたもの。

 

これが復元模型を図式化したもの。

講演の際書かれた文字が残ってますね。

 

これが各歯車の構成図です。

太陽や月の運行、月齢などは

どれか一つを基準にして、後はギア比で求めているそうです。

 

 

オカルト好きを自称するのであれば、

オカルト本には頼らず自分で調べてみるのも大事。

と、思うんだけど、どうでしょう?

 

 

この話はひとまずこれで終わりです。


BACK  HOME