浦島太郎


マシン復帰第一弾という事で、

今回は『浦島太郎』についての話です。

 

『浦島太郎』と言えば、知らない人はいないほどに有名(多分)な話ですが、

その解釈に関しては実に色々あります。

ただのおとぎ話であったり、

「竜宮城=「琉球」であったり、

コンタクティ(宇宙人と遭遇した人)の話であったり、

ありのままの実話だと思っている人もいるようです。

 

色々な解釈について、あれこれと論じてもナニなので、

ここはひとつ、『浦島太郎』の話を過去へさかのぼってみようと思います。

 

最初は、一般的な浦島太郎の話。

虐められている亀を助ける

亀に「礼がしたい」と言われ、竜宮城へ

乙姫に迎えられ、踊りや食事の歓待を受ける

三日たって、さすがに帰りたくなる

みやげ(?)に玉手箱を渡され、「絶対開けるな」と言われる

読者は、「じゃあ渡すなよ」と突っ込みたくなる

故郷に帰ると、見たことのない風景。それもそのはず、出発してから三百年たっている

ショック

悲嘆に暮れ、玉手箱を開けると煙を浴びて老人に

ダブルショック

と、おおむねこの様な話です。

 

もともとこの様な話だったのでしょうか?

少し過去にさかのぼってみましょう。

 

『御伽草紙』の中に、浦島太郎の話があります。

南北朝期〜江戸時代初期の間に成立した昔話集だそうで。

要約すると、こんな感じです。

漁師の浦島太郎はいつもの様に漁をしているが、何日たっても魚が釣れない

クサクサしてたら、亀を釣り上げる

「逃がしてやるから、この恩は忘れるなよ」などと言いながら亀を逃がす

後日、漂流している一艘の小船を見つける

小船には女性が乗っていて、「故郷まで連れて行ってほしい」と言われる

頼まれるまま故郷へ

女性の故郷は「常世の国」で、四季折々の花が咲き乱れている

(何故か)そこでそのまま結婚、その女性と一緒に暮らす

しばらくすると、浦島太郎がホームシックになり、「一旦帰りたい」

「一旦帰ると、もう戻ってこれない」と、女性は悲しむ

さらに、自分は亀の化身だったと、衝撃の事実を明かす

浦島太郎の世界と常世の世界では時間のたち方が違うので、浦島太郎の時間を封じていた玉手箱を浦島に渡す

当然、開けるなと言われる

故郷に帰ると、見たことのない風景。それもそのはず、出発してから三百年たっている

ショック

悲嘆に暮れ、玉手箱を開けると煙を浴びて老人に

ダブルショック

と、こんな感じ。要約したのは、単に手抜き。

面倒だし、先は長いし・・・。

詳しくは原典を参照してくだされ。

 

ポイントとなるのは、表中で黄色になっている箇所でしょう。

浦島太郎は亀を助けたわけでなく、釣ってます。

あまつさえ、逃がす時に恩着せがましく「この恩は忘れるなよ」などと言っているし。

次が、浦島太郎がたどり着いた場所が竜宮城でなく、常世の国だという点。

そして、乙姫が亀の化身に変わっている点。

最後は、玉手箱の意味が明かされている点。

 

ここでは、竜宮について少し掘り下げてみましょう。

中国では、色々な場所をつかさどる神様がいます。

山、道、街、川、湖、などなど、いたる所に担当者がいます。

その中で、川の神や湖の神が住んでいる宮殿が「竜宮」と呼ばれます。

つまり、(海に限らず)水のあるところには大抵、竜宮があるわけです。

中国の古典などでは、竜宮の妃に嫁いだ男の話などもあったりします。

 

この考えは日本にも伝わってきたようで、

現在でも、「竜宮」と呼ばれる場所は各地にあります。

竜宮神社のある山梨県、

竜宮淵のある山口県など、

インターネットでちょっと調べれば大量にHITします。

便利になったものですな。

 

御伽草紙の成立年代を踏まえて考えると、

少なくとも江戸時代までは竜宮というのはあまりメジャーではなかった様です。

もしくは、江戸時代以降は常世の国の知名度が無くなっていったのかも知れません。

今でも、あまり聞かないし・・・。

 

さて、ここでさらにさかのぼってみましょう。

次は、なんと『日本書紀』です。

正確には、日本書紀の「雄略記二十二年秋七月」のくだり。

これは短いので、原文を載せたいところなのですが(楽だし)、

原文そのままは色々とナニなので、あえて口語訳として載せます。

 

『秋七月に、丹波国の余社郡管川(よさのごおりつつかわ)に

瑞江浦島子(みずえのうらしまのこ)という漁師がいました。

ある日、大亀を釣り上げます。

(注:大亀の古訓はカハカメ、つまりスッポンとの事)

その大亀がたちまち女性の姿に。

ついムラムラと来た浦島子、その場でその女性を妻にします。

(ソフトな表現)

で、その女性に従って海に向かいます。

やがて蓬莱山に到着し、仙人などにあったりします。

詳しくは、別巻にあります(原文:語は別巻にあり)。』

 

ポイントは、

ついムラムラと来てコトに到ってしまった浦島が人間としてどうか?

と、いう事ではなく、

浦島太郎が浦島子と表記されている事、

つったのが亀でなくスッポンだったという事、

到着したのが常世の国でも竜宮でもなく、蓬莱山だったという事。

 

昔は大亀とかいてスッポンを意味していたのなら、

後世になって言葉どおり「亀」になってしまった事は簡単に想像できます。

 

蓬莱山というのも、蓬莱山自体が常世の国にある山の事なので、

そういう意味では、御伽草紙の記述と大差ない様な気がしますが。

 

さて、浦島子に関してですが、

ここでは太郎という名前は出てきません。

「瑞江浦島子」というのが、本当の名前なのでしょうか?

それはともかく、そもそも太郎って?

 

古典文学の諸先生が言うには、昔話などで、

登場人物の名前がいまいち不明な場合には、

とりあえず「太郎」とつける風潮があったそうです。

「八郎太郎」とか、「あか太郎」とか、例を挙げればきりがないのですが・・・。

「浦島太郎」も、そのひとつと考えてよいのでしょうか。

いいんだろうな、きっと。

 

浦島が会ったという「仙人など」については、後述。

 

さて、「語は別巻にあり」、

つまり、日本書紀の記述は別の書物を参照しているということですが、

それは何でしょう。

 

さらにさかのぼってみましょう。

次は、『万葉集』です。

万葉集九巻1740にその記述、というより歌があります。

要約すると・・・。

 

『春の日に住吉の岸に出て釣り船を見ていると、昔の事を考えるなぁ。

水江浦島子(みずえのうらしまのこ)がカツオもタイも釣れず、

七日ほど海に留まっていると、

海若(ワタツミ)の神の娘にあって「事成りしかば」

(昔の人はイロイロと手が早かったようで・・・)

一緒に常世に行き、

海若の神の宮にあるスゲー宮殿で不老不死で暮らしましたとさ。

・・・と、なるはずだったのに、馬鹿なことで

「一度家に帰って父母にあい、明日また帰ってくる」

と、浦島子が言い出す。

相手の女性が、

「またここへ帰ってくるのであれば、この箱は絶対に開けないでね」

と、きつく言います。

で、住吉の実家に帰ると、家も里も荒れ放題。

家を出てから長い年月がたってしまった事を知りショックを隠せない浦島子。

で、つい浦島子が箱を開けると、たちまち白い煙が・・・。

で、浦島子はたちまち老人になり死んでしまいましたとさ。

反歌

常世べに住むべきものを剣刀(つるぎたち)己が心から鈍やこの君

(常世にずっとすんでいられたのに、バカな奴だと心から思うよ)』

 

ポイントは、

出会った女性といきなりコトに到ってしまった浦島が人間としてどうか?

と、いう事ではなく、

到達したのがまた「常世」だという事、

浦島が即死しているという事、

浦島が『日本書紀』と同様「浦島子(うらしまのこ)」と呼ばれている事、

妙に浦島をバカにしているという事でしょうか。

 

『万葉集』で、既に「常世」となっているところを見ると、

やはり、「竜宮」は江戸以降と考えるのが妥当なようです。

 

ちなみに、浦島が即死してしまうのは

後にも先にも万葉集ぐらいです。

 

やれやれ、長い話になってきたな・・・。

 

 

ところが、最後に一つ、

『日本書紀』や『万葉集』にもさかのぼる、

本当の原典と思われるものが存在します。

 

それは、『丹後国風土記』です。

これも口語訳。長いよ。

 

『丹後国風土記に言うには、与謝郡日置里に筒川村があった。

ここに、イケメンで風流な筒川島子という人がいた。

俗に言う水江浦島子とは、この人のことである。

これは、国司である伊預部馬養連(読めない・・・)が記している事と相違ない。

以下に、おおよそを記す。

雄略天皇の時代、島子が漁に出て三日三晩なにも釣れずにいると、

ある日五色の亀を釣り上げる。

はてと思いながらも船に置き、しばらくして一眠りすると、

その亀が他に比べようがないほどの美女に代わっていた。

「こんな所に、どうやって来たのでしょう?」

と島子が言うと、女性が

「風流な人が独り海に浮かんでいるのを見て、お話がしたくなって風雲に乗って来ました」

と、答える。さらに浦島が

「その風雲は、どこからやってきたのでしょう?

と、問いかけると、女性は

「天上の仙の家から来ました。そう疑わず、親しく語らいましょう」

と。島子は相手が神女だと聞いて疑わしく思っていると、女性が

「私は、天地日月が終わってもあなたと共にいたいと思っています。

あなたはどうなのでしょう」

と、問いかける。で、浦島は

「もう何も言うことはありません。これ以上何を疑いましょう」

と。

そして女性は島子を眠らせ、女性の住む所へと向かう。

 

やがて大きな島に着く。玉を敷き詰めたような地面やすばらしい楼閣など、

見たことも聞いたこともない場所にたどり着く。

女性が先に門の中へ入って行き、島子が待っていると、

やがて七人の童子がやってきて

「これが亀比売(カメヒメ)の夫か」

と言う。また、八人の童子がやってきて

「これが亀比売の夫か」

と言う、それで島子は、彼女が亀比売である事を知る。

やがて女性が戻ってきて、島子が童子の事を話すと、

「七人の童子は昴星(すばるぼし:プレアデス星団)、

八人の童子は畢星(あめふりぼし:ヒアデス星団)です」

と、答える。

 

そして女性の父母にあい、人間世界と仙都の違いを話し合い、

人間と神が偶然出会えた喜びを語り合った。

そこで大いに歓待を受け、島子は亀比売と共に暮らす事になる。

 

やがて、島子は残してきた両親が恋しくなり、帰郷したいと思うようになる。

その様子に亀比売が気づき、島子に問うと、島子は

「古人が言うに、少人は故郷を懐かしがり、死する狐は巣のある丘で死ぬと言います。

昔はそんな事はないと思っていましたが、今はそれがよく分かります」

と、答える。

「帰りたいのですか?」

と、女性が言うと、島子は、

「親元を離れ、遠い神仙の国に来ていますが、恋しい思いは断ちがたいのです。

願うなら、再び帰って両親に会いたいのです」

と。亀比売は

「金石の様に硬く、共に永遠を誓い合ったのに、なぜそんなことを言うのです?」

と、嘆き悲しむ。

 

二人はしばらく語り合い、ついに亀比売は島子の帰郷を許す。

父母共に悲しみながらも、島子を送り出すことになる。

そのとき、亀比売は島子に玉厨子を渡し、

「私を忘れず、また会いたいと思うならば、決してこれは開けないでくださいね」

と言う。

 

やがて島子は筒川につく。

村々を眺めると、人も物もあまりにも変わり果て、昔の面影がない。

土地の人に問いかけると、

「昔、水江浦島子という者がいたが、漁に出たきり帰らなかったという。

そんな三百年以上も前の話をなぜ聞くのです?」

と、答える。

 

両親にも会えぬまま数日が過ぎ、亀比売への恋しさもつのり、

つい浦島は玉厨子を開けてしまう。

すると、またたく間に島子の若々しい体は、風雲にのって蒼天に飛び去ってしまった。

島子は、もう二度と亀比売にあえない事を悟り、大いに泣く。

そして、涙を拭って

「常世辺に雲立ちわたる水の江の浦島の子が言持ち渡る」

(常世へと雲が上っていく、あれは私の言伝をを持って行っているのだ)

と、歌うと、神女の心地よい歌声が聞こえてくる。

「大和べに風吹きあげて雲離れ退き居りともよ吾を忘らすな」

(大和の方からの風で雲が分かれる様に離れ離れになっても、

私を忘れないでくださいね)

島子は、恋しさに耐えられず、さらに歌う。

「子らに恋ひ朝戸を開き吾が居れば常世の浜の波の音聞こゆ 」

(あの子を想いながら戸を開いて座っていると、

常世の浜で聞いた波の音が聞こえるよ)』

 

ここで最大のポイントは、

この長い話を口語約した自分の凄さでしょうか。

いや、マジで。最後の短歌なんか、ホントがんばったよ。

つーか、合ってればいいんだけどね。

 

それはともかく、

ここでのポイントは、

浦島の本名らしき「筒川島子(つつかわのしまこ)なる名前が出てきた事、

「常世の国」という名称が出てこない事、

もしくは、到達地は神仙の国だという事、

あと、浦島太郎のベースが、

実は悲恋の物語だったという事でしょうか。

 

神仙の国?

 

さて、ここで今まで特に触れなかった「常世の国」について。

「常世の国」という概念は、日本の古い海洋信仰に出てくるものです。

海の彼方にある、海の神が住む楽園で、そこの住人は

不老不死なのだそうで・・・。

まあ、神サマだからね。

海自体が海の神さまの司る場所であって、

海岸というのはその境界にあたるそうでして。

で、神様のいる場所から神社への道のりに鳥居を置こうとすると、

小島に置くか、海中に置くかするしかない訳で。

見たことあると思いますが。

 

ただ、神仙というのは、どうでしょう。

中国ではメジャーな「神仙思想」というのは、

元来日本には存在しなかった筈です。

『古事記』や『日本書紀』等も含め、昔話の類でも

「仙人」という名称自体も出てきません。

少なくとも自分はそう記憶しておりますが。

 

してみると、浦島太郎の本当の起源は、中国大陸のものなのでしょうか?

 

 

 

この話はひとまずこれで終わりです。


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