| 賑やかな町並。外国の品物を置いた店、行商の人々、裕福そうな男女。この町は活気に |
| 溢れ、華やかな雰囲気に包まれていた。 |
| この町に旅回りの劇団がやって来た。団員それぞれ荷物を運びながら、華やかな町の |
| 様子に心踊らされる。 |
|
|
| 女優1 | さすが北京ね。人が沢山いるわ。 |
| 女優2 | こんなに沢山の人がいる町でお芝居できるなんて夢みたい。 |
| 男優1 | 長い時間馬車で揺られて来た甲斐があったってもんだ。 |
| 男優2 | おい、町の見物は後にして、さっさと荷物運んじまおうぜ。 |
| (みんな荷物を纏めている。) |
| |
| 女優1 | ところでランティエ。ずっと気になってた事があるんだけど。 |
| ランティエ | 何?
|
| 女優1 | (ランティエの荷物を差す)これは何かな? |
| ランティエ | あっ・・・ええっと。 |
| 女優1 | 彼からの贈り物でしょ? |
| ランティエ | 何で知ってるの! |
| 女優1 | ランティエは嘘がつけないわね。顔にしっかり書いてあるもん。で、何もら |
| ったの? |
| ランティエ | あとでね。 |
| 女優1 | い−じゃない、見せてぇ。 |
| 女優3 | 何々?どうしたんですか? |
| 女優1 | いいからあんたもやりなさい。見せてぇ。 |
| 女優3 | は、はい。見せてぇ。 |
| 女優2 | どうしたの? |
| 女優3 | よく分かんないですけど、やるんです。 |
| 女優2 | はぁ。(とりあえず)見せてぇ。 |
| ランティエ | 分かったわよ。(みんなを隅に寄せる。フリフリのキャミソ−ルを出す) |
| 女優1 | わぁ、素敵。 |
| 女優2 | フランス製ね。いいなぁ。 |
| 女優3 | でも・・・なんで下着なんですかね? |
| 女優1、2 | そりゃ、あんた。ねぇ。 |
| 女優3 | (分かっていない)え−。 |
| 女優2 | まぁ、子供にはわかんないと思うよ。さ、片付け片付け(二人ハケる) |
| 女優1 | ランティエ。ウェイチンとはどうする気なの? |
| ランティエ | うん、一応ウェイチンが有名になったら、結婚しようって。 |
| 女優1 | ふ−ん。そりゃ、一生無理かもね。 |
| ランティエ | ちょっとぉ。 |
| 女優1 | わっ、ごめん。 |
| [女優1逃げる。ランティエそれを追いかけるようにハケる] |
| 座長 | 今度の劇場は我々の劇団にはもったいないぐらい大きな場所だぞ。 |
| 男優1 | よくそんな劇場を借りれたもんだな。 |
| 座長 | なんでも昔火事になって、大勢の人間が死んでしまったそうだ。 |
| 男優2 | ああ・・・聞いた事あるな。確か有名な役者も死んだっていうあの火事だろ |
| ウェイチン | (いきなり割り込む)それ、ソン・タンピンの事? |
| 座長 | (うなずく)そうだ。 |
| 男優3 | さすがウェイチン。ソン・タンピンの話になると飛んでくるな。 |
| ウェイチン | あの名優の劇場で芝居ができればみんなの励みにもなると思って、わしは思 |
| い切って借りたんだ。ありがたく思えよ。 |
| 男優1 | 騙されるな。きっと火事になって大勢死んだ曰く付きだから安く借りれたん |
| だぜ。 |
| 座長 | お前、なんでそれを知ってるんだ。 |
| 男優1 | あれっ、本当だったんだ。さ−て、おい荷物運んじまおぜ。 |
| (男優達、荷物を持ってハケる) |
| 座長 | さてはお前、またわしの部屋へ金をすくめに入ったのか(ハケる) |
| ウェイチン | ソン・タンピンの劇場で、芝居が出来るのか・・・・。 |
| [ウェイチンうれしそうにハケる] |
| [荒れ果てた劇場。舞台と客席は残っているものの、屋根は抜け落ち土埃だらけのとて |
| も劇場には思えない風貌である] |
|
|
| 座長 | なんだ、これは・・・・。ほとんど全部焼け落ちてるじゃないか。 |
| 男優1 | これじゃ、片付けなけりゃ稽古もできねぇな。 |
| 女優2 | 屋根もないわよ。雨が降ったら公演中止? |
| 座長 | こんな所に金を払うのか! |
| 男優3 | オレ、管理人を探してきます。(ハケる) |
| (みんな、こわごわ中の入り様子を見る。立派だったろうシャンデリア、埃 |
| まみれのカ−テン) |
| ウェイチン | 元は立派だったんだろうな。もったいない・・・・。 |
| 女優1 | どうして火事になんかなったのかしら。 |
| 座長 | 原因ははっきりしていないが、芝居で使用した蝋燭の火が緞帳に燃え移った |
| らしいという話だ。 |
| 男優2 | 凝った装飾が、身を滅ぼしたって事か。 |
| 女優2 | ねぇ、ソン・タンピンってどんな人だったんですか?
|
| 男優1 | 知らねぇのか? |
| ウェイチン | 名優さ。西洋に渡って、向こうの演劇を学び、それをこの中国に持ち帰った |
| んだ。この国の西洋演劇の先駆者さ。 |
| 男優1 | 豪華な舞台装置に幻想的な芝居は、瞬く間に全国土の評判になったんだ。 |
| おまけに女受けする顔に、甘い歌声と来てるから、若い女のお客が沢山見に |
| 来てみんな、ポ−ッ っとして見てたんだってさ。 |
| 男優2、3 | い−なぁ。 |
| ランティエ | ウェイチンの憧れの人よ。いつも自分の演技にソン・タンピンを引き合いに |
| 出すの。 |
| ウェイチン | 憧れじゃない。目標だ。 |
| 男優2 | 無理無理、お前になんかソン・タンピンの一セリフにだってかなわないぜ。 |
| 女優2 | そうそう、町中の女の子を酔わせちゃうのよ。ウェイチンに出来るわけない |
| わよ。 |
| ウェイチン | そりゃ、今は無理かもしれないけど、きっといつか、頑張ればなれるさ。 |
| (劇団員達、ジャレ合う) |
| ツァイ | ソン・タンピンなど目指した所で、三文役者には変わらんだろう。 |
| 裕福な者らしい出で立ちでツァイホイが入ってくる。供と妻が続く。 |
| 男優3 | 座長、芸術局長のツァイさんです。 |
| 座長 | (コロッと愛想良く)これはこれは、局長。わざわざお出で頂くとは光栄で |
| ございます。 |
| ツァイ | ただたまたま通りがかっただけだ。ソン・タンピン、ソン・タンピンと騒ぐ |
| 声が聞こえたからな。 |
| (まるで汚物を見るような目つきで劇場の中を眺める。それかウェイチン |
| の側に寄り、じろじろ眺める) |
| お前か?ソン・タンピンに憧れてるっていうのは? |
| ウェイチン | は・・・・はい。 |
| ツァイ | (馬鹿にしたように笑う)止めておけ。確かに奴は役者として派手で奇抜で |
| 優雅だったが、それだけ人の反感も買っていた。注目された分だけ敵も作っ |
| た。そしてこの劇場が火事になり、大勢の人が死んだらどうだ。 |
| ソン・タンピンは地獄へ娘達を連れ去った・・・。そう言って奴は罵られま |
| るで悪魔の使いだった様に忌み嫌われた。この劇場は荒れ果てたまま放置さ |
| れ、奴の死体も見つけてやろうとはしなかった。 |
| 女優1 | え・・・・じゃあ。 |
| ツァイ | そうだ。奴の死体は今もこの劇場のどこかに転がってる事だろうよ。ま、十 |
| 年前もの話だから、すでに骨になっているはずだがな。 |
| (みんな、口々に怖がる。) |
| ツァイ | (ウェイチンを見る)名優と伝説になっても、そんな惨めな死は御免だろ? |
| (自分から離れて劇場を見ている妻を見る。妻に近づくと、持っていたステ |
| ッキでなぐりつける) |
| ツァイの妻 | (殴られ、怯えたように体を丸める)あっ。 |
| ツァイ | 出掛けた時は、私以外のものを見るな! |
| ツァイの妻 | も、申し訳ありません。申し訳ありません。申し訳ありません・・・ |
| ツァイ | 一度言えば分かる。 |
| ツァイの妻 | (震えながら頷く)はい・・・。 |
| ツァイ | (少し妻の様子を見る)今日は、お前にドレスを作ってやるんだったな。と |
| んだ寄り道をしてしまった。行くぞ。 |
| (ツァイ達ハケる) |
| 座長 | ツァイ様。ここでお会いできましたも何かの縁、ぜひ今度お近づきに・・・ |
| (機嫌を取るように後を追う) |
| ランティエ | (立ち尽くすウェイチンの手を取る)気にすることないわ。それでも、ソン |
| ・タンピンはこの国を魅了した名優には違いないんだもの。 |
| ウェイチン | うん・・・。 |
| 女優1 | ねぇ、ランティエ。なんだか怖くなって来たわ。行きましょうよ。 |
| 男優1 | 俺たちもそろそろ宿舎でも、見に行こうぜ。 |
| 男優2 | そうだな。明日はこの劇場を使えるようにしなきゃならないから、今日中に |
| 荷物を運び込もう。 |
| 女優2 | ランティエ、行こう。 |
| ランティエ | うん・・・ウェイチンは? |
| ウェイチン | 僕は・・・もう少し見ていくよ。 |
| ランティエ | そう。じゃ、先行ってるから。 |
| (劇団員全員出ていく。ウェイチン一人、廃墟の劇場を見渡す。突然、不思 |
| 議な声が聞こえる。) |
| ユンエン | ね、きっとよ。明日もこの場所で。 |
| (ウェイチン、不思議そうに辺りを見回す。しばらく劇場の中を見渡す。) |
| ユンエン | どこにいるの?ずるいわ、隠れてないで出てきてよ。 |
| (ウェイチン怖くなって、劇場から飛び出す。) |
| [ウェイチンが劇場へ入ってくる] |
| ウェイチン | (こわごわ入ってくるが、何も変わった様子がないのでホッとする)やっぱ |
| りさっきのは、幻聴だったんだ。そうだよ、こんな廃墟に人がいるわけない |
| んだ(不安そうに見回す)。それに、今は夜だし、なおさら人なんていない |
| はずだ(また見回す)。声なんて聞こえる訳がないんだよ。 |
| ユンエン | (声だけ)タンピン。 |
| ウェイチン | (はっとする)・・・・。分かったぞ。おい、みんないるんだろ?また座長 |
| のヘソクリ盗んで、酒盛りでもやってるんだな。付き合い悪いからって酒の |
| 魚に脅かそうなんて子供じみた事するなって。・・・・・なぁ・・・・。い |
| ない・・・・のか。 |
| ユンエン | (声だけ)いつまでも、ずっと一緒にいて。 |
| ウェイチン | わぁぁぁ! |
| (あわてて逃げようとする。出口(幕際)で、再び驚く。) |
| わ−! |
| マ− | (明かりを持って出てくる)何事ですか? |
| ウェイチン | マ−さん!マ−さんこそ、こんな時間に、ここで何を。 |
| マ− | 夜の見回りも私の仕事ですよ。 |
| ウェイチン | 今、女の人の声を聞いた。ソン・タンピンの名を呼んでいた。 |
| マ− | 声・・・? |
| ウェイチン | 今日劇場へ来てすぐに、女の人の幻も見た。そこで、「明日もこの場所で」 |
| とか言ってたんだ。 |
| マ− | ・・・・そうですか。 |
| ウェイチン | マ−さん?何か知ってる顔だな。この劇場で一体何があったんですか? |
| 十年前の火事。本当に緞帳に明かりの灯が燃え移った事故だったんですか。 |
| マ− | それは嘘だ!! |
| ウェイチン | 何があったのか教えてください。・・・教えてくれるまで、行かせませんか |
| らね。 |
| (マ−逃げようとするが、ウェイチンがことごとく邪魔をする) |
| マ− | ・・・・はぁ、負けましたよ。 |
| (二人座る。) |
| マ− | 10年前。この劇場がまだ建築中だった時に、私は刑務所を出ました。路頭 |
| に迷っている時に運良くソン・タンピンに拾われ、私は彼の世話役になりま |
| した。世話役になって最初に知った事は、この劇場は彼の設計によるものだ |
| という事です。彼は自分の芝居を成功させるために、まず劇場づくりから始 |
| めたのです。西洋で学んでいた時に見た、オペラの劇場をこの国に建てたか |
| った、と言っておりました。初めてこの劇場を見た人々は、あまりの立派さ |
| に、誰も彼の設計だとは気がつきませんでした。建物の立派さに驚かされ、 |
| 装飾の美しさ目を奪われ、そしてソン・タンピンの演じるロミオに魅了され |
| たのです。 |
| |
| [廃墟の劇場が昔の美しい劇場になる。ボックス席右にはユンエン、左には |
| 若い頃のツァイ。舞台では、ソン・タンピンがロミオを演じている] |
| |
| ロミオ | (歌)いとしいあなたを決して離さない。 |
| そのぬくもりをいつも感じていたい。 |
| 熱い恋の歌が心から溢れ出る。 |
| どうか聴いて僕の捧げる歌を・・・ |
| |
| マ− | ソン・タンピンの演じるロミオは、大胆で新鮮でした。評判を聞きつけて、 |
| 遠方から金持ち達も見に来たり、若い娘達が一目ソンの姿を見ようと通って |
| いたので、劇場は連日満員でした。 |
| |
| (歌) |
| ロミオ | 夜にきらめく星の様に |
| 二人の愛は真実 |
| ジュリエット | もう一度強く私を抱きしめて |
| この時間が永遠に続くように |
| ロミオ | お願いだから言わないで |
| この愛が今夜で終わるとは |
| |
| マ− | 美しい容姿と歌声は、女性たちの憧れの的でした。しかし、当のソンの意中 |
| の人は、財閥ドゥ・ファシャンの令嬢ユンエンただ一人だったのです。 |
| |
| ジュリエット | 私の気持ちは変わらないわ |
| 移り気な月に愛は誓わないで |
| ロミオ | 夜空にきらめく星のように |
| 僕らの愛は真実 |
| ジュリエット | もう一度強く私を抱きしめて |
| この愛が永遠に続くように |
| ロミオ | お願いだから言わないで |
| この愛が今夜で終わるとは |
| 二人 | 別れるなんて悲しすぎる |
| 時間よ |
| 止まって |
| いつまでも・・・・・ |
| (暗転) |
| |
| [舞台に幕が引かれている]
|
| ユンエン | (幕前をブラブラし、タンピンを待つ) |
| シェンテン | お嬢様。 |
| ユンエン | お前かぁ・・・・なあに、先に帰っていいって言ったでしょ? |
| シェンテン | ですがお嬢様。今日は旦那様がお客さんが来るから家にいるようにって。そ |
| ろそろ戻らないと、怒られます。 |
| ユンエン | 分かってるわ。お客はさっき向かいの席にいた、ツァイよ。あのバカ息子、 |
| 私に結婚を申し込むつもりなの。芝居中も舞台じゃなくてず−っと私の方ば |
| かり見てたわ。ああ、気持ち悪い!ね、考えられる?いつもヘラヘラして、 |
| 父親を通さなければ自分の言いたい事も言えないの。そんなのが私の夫よ。 |
| シェンテン | (笑う)ソンさんとは正反対ですもんね。 |
| ユンエン | でも・・・お父さまは、この結婚を望んでる。ツァイ家はこの辺りの実力者 |
| だし、工場の土地はツァイから借りてるし・・・・。 |
| シェンテン | 若い者は年長の者の命令に従っていればいい・・・。旦那様の口癖です。 |
| ユンエン | ね、シェンテンお願い。私の味方になって。 |
| シェンテン | (戸惑う)・・・はい。 |
| ユンエン | (お金を握らす)これで新しい服でも買いなさい。 |
| (シェンテンハケる。再び一人になる) |
| ユンエン | (歌う)僕らの愛は真実・・・もう一度強く抱きしめていて・・・・ |
| タンピン | (後ろから抱きしめる)わっ! |
| ユンエン | きゃ!もう、遅いわ。 |
| タンピン | ごめんごめん、着替えに手間取ったんだ。な、星空を見に行こう。 |
| ユンエン | ええっ? |
| タンピン | 行こう。 |
| (タンピンがユンエンの手を引っ張ってハケる。舞台の幕があく。そこには星 |
| 空が見える。) |
| ユンエン | (上を見ながら)きれい。劇場の屋上にこんな場所があったのね。 |
| タンピン | 気にいったかい? |
| ユンエン | 素敵。 |
| タンピン | ・・・僕たち、会って今日でどのくらいになった? |
| ユンエン | 丁度、一年ね。 |
| タンピン | 覚えてたね。 |
| ユンエン | 当たり前よ。 |
| タンピン | 一年経ったら、君をここへ連れてこようと思ってた。(抱き合う) |
| ユンエン | (ちょっと離れる)他の女の子にもそう言って、連れてきたの? |
| タンピン | いや・・・君だけだ。(抱き合う) |
| (二人座り込んで、空を見上げる) |
| ユンエン | タンピン。 |
| タンピン | ん? |
| ユンエン | 父に・・・私たちの事、気づいたかもしれない。 |
| タンピン | (しばらく黙ってる)・・・君の事を頼みに、挨拶に行くよ。 |
| ユンエン | 父は保守的で頑固な人よ。それに・・・・ |
| タンピン | (起き上がる)それに・・・僕が・・・役者だからか? |
| ユンエン | (タンピンの背中に寄り添う)愛してるわ。 |
| タンピン | 僕だって・・・・ |
| ユンエン | (何か言おうとするが止める)ねぇ、何があっても愛してくれる? |
| タンピン | ・・・・誓うよ。(寄り添う) |
| |
ユンエンの家
|
| ユンエン父 | ユンエンはまだ戻ってこないのか? |
| ユンエン母 | ええ・・・多分、お芝居を見に。 |
| ユンエン父 | あの役者の所か・・・・、困ったものだ。ツァイさんがお待ちだと言うのに |
| ユンエン母 | ツァイさんは何と? |
| ユンエン父 | 息子さんがユンエンの事を気に入ったそうだ。ツァイ家にユンエンが嫁げば |
| わが家は安泰。ユンエンも不自由なく暮らせるのに・・・・役者などに入れ |
| 込むとは。すぐに連れ戻せ。 |
| ツァイ | 父さん、ユンエンまだかな?ユンエ−ン、ユンエ−ン(ヘラヘラしている) |
| ツァイ父 | 息子よ。今日はあきらめろ、ユンエンは来ない。 |
| ツァイ | え−、そんなぁ、困るよぉ。僕ユンエンと結婚したいよぉ。 |
| ツァイ父 | 美しいが、気が強くておてんばなあの娘がそんなに好きか? |
| ツァイ | ・・・へへへ、大好き。 |
| ツァイ父 | ・・・わかった。お前がそんなに好きなら父さんが何とかしよう。結婚は一 |
| 週間後だ。 |
| ツァイ | (うれしそうにはしゃく)本当?わ−い、ユンエンと結婚だぁ。(ハケる) |
| ツァイ父 | ・・・・芸術局長。 |
| 芸術局長 | (出てくる)はい。 |
| ツァイ父 | 君の権限で、あの役者、なんとかできないのか? |
| 芸術局長 | ソンは役人の間では受けがよくありません。奴の芝居の内容は不謹慎です。 |
| 奴を追放処分にすると言えば、役人達も協力するでしょう。 |
| ツァイ父 | そうか、では君に任せよう。ところで、息子は事に芸術に興味を持っている |
| のだ。君の所でどこか息子に合ったポストは空いていないものだろうか? |
| 芸術局長 | ツァイさんの息子さんがウチに来ていただけるなど、願っても無いこと。丁 |
| 度相応しい席が空いております。 |
| ツァイ父 | (上機嫌で)そうか、また芸術局には寄付をさせてもらうよ。ソンの事はよ |
| ろしく頼んだぞ。 |
| 芸術局長 | はい、お任せを(ハケる) |
| ツァイ父 | ・・・・追放か。そんな事でどうにかなるような奴が役者などやっていまい |
| あの人種は雑草にようにしぶとく、貪欲だからな。おい、いるか。 |
| 手下 | 御用でしょうか。 |
| ツァイ父 | (何か耳打ちする) |
| 手下 | はい。ではさっそく(ハケる) |
| |
| |
| 劇場の屋上 | |
| [タンピンがオルゴ−ルを聞かせている] |
| ユンエン | 素敵な曲・・・・・(聞きほれた所で、オルゴ−ルを閉じる)なんで、止め |
| ちゃうの?もっと聞かせてよ(取り返そうとする) |
| タンピン | ダメだ。 |
| ユンエン | 意地悪!意地悪するとツァイと結婚しちゃうから。 |
| タンピン | (元気をなくす)本気で言ってるのか? |
| ユンエン | ふ−ん! |
| タンピン | (もう一度オルゴ−ルを流す)この曲に、歌詞を付けるんだ。 |
| ユンエン | 歌詞? |
| タンピン | 完成したら君だけに聞かせるよ。君に捧げる歌だ。 |
| ユンエン | 楽しみだわ。じゃあタンピン、お願いしていい? |
| タンピン | ん? |
| ユンエン | その歌は、満月の夜に歌って。 |
| |
| マ− | この夜の二人は世界で一番幸せだったに違いありません。二人は純粋に愛し |
| 合っていました。ユンエンもソンを今を輝く名優ではなく一人の男として。 |
| ソンもユンエンを資産家の令嬢ではなく一人の女として。しかし二人がいく |
| らそう言う気持ちでいたとしても、周りはそうは思わないのが世の中という |
| ものです。ユンエンの父親がツァイの結婚を早める案に乗ったのも、ソンと |
| いう金にもならない男との縁を早く切りたかったからでしょう。それが、全 |
| てを狂わす鍵になるとは知らずに。 |
| |
ユンエンの家
| タンピン | 絶望の果てに青ざめた顔 |
| どうかもう一度目を覚まして |
| なんとむごい仕打ちだろう |
| 切ない悲しみに涙が頬を伝う |
| 君は二度とこの胸に戻らない |
| 二人の愛は花のように散った |
| 過ぎ去った日々を追憶するだけ |
| 夢の中でしか君に会えない |
| どんな暗闇でもきっと見つけ出す |
| 君をどこまでも追いかけていこう |
| この世では結ばれなかった恋 |
| でも真実の愛を僕は信じよう |
| 今夜の別れが天の定めならば |
| いつか天国で一つになれる |
| 永遠に・・・・ |
| (拍手喝采) |
| |
| シェンテン | (劇場内をタンピンを探すように歩き回る。そこでマ−を見つける) |
| あの・・・ |
| マ− | (シェンテンを見る) |
| シェンテン | これを、ソンさんに渡していただけませんか?大切な手紙なんです。絶対に |
| 本人に渡してください。お願いします(ハケる) |
| マ− | (手紙を開く)1週間後、私はツァイ家に嫁がねばなりません。お願いです |
| 私と逃げてください。満月の夜に劇場で・・・・ユンエン。 |
| この手紙をあの時読んでいれば・・・・。私はシェンテンの顔を知りません |
| でした。ソン・タンピンの所には毎日手紙が来ています。その手紙も熱心な |
| ファンからの物だと思った私は、そのまま服の中にしまってしまったのです。 |
| (ユンエンの部屋 ユンエンが小さな窓かの方を眺めている。その向こうに |
| はソンの劇場があった) |
| ユンエンはソンとの駆け落ちを信じて疑わず、部屋にある小さな窓から月を |
| 眺めていたそうです。満月になるのをずっと待ちわびていたそうです・・。 |
|
|
| [公演の終わったタンピンが楽屋に戻る。化粧を直して、衣装のチェック。 |
| ファンレタ−を何枚か見てみる。その時、入口の扉に誰か訪ねてきた] |
| タンピン | はい?(扉を開ける) |
| 手下1 | ソン・タンピンさんですね? |
| タンピン | え・・・・。 |
| 手下1 | (ビンに入っている塩酸をタンピンの顔にかける) |
| タンピン | う・・・うわぁぁぁ!(顔を抑えて、部屋の奥へ倒れ込む) |
| 手下1 | (叫ぶタンピンを見ながら、もう1つの容器を取り出し、油を部屋の中にま |
| く。そしてマッチを擦り、それを部屋の中に落とす。部屋は火に包まれる) |
| |
| [ユンエンの小窓から赤い光りが流れ込む。人々のざわめき、逃げまどう悲鳴その中 |
| で悪夢のような言葉がユンエンの耳に届いた] |
| 声 | 火事だ−!ソン・タンピンの劇場が火事だ−! |
| ユンエン | (顔を引きつらせる)・・・ねえ・・・うそ・・・ねぇ、ちょっと・・・・ |
| 誰か・・・・ねぇ!お願い!誰か、誰でもいいの、ここを開けて!タンピン |
| が大変なの!行かなくちゃ、タンピン・・・タンピン・・・・お願い!開け |
| て!お願い・・・お願い・・・お願いだからぁぁぁ!うあぁぁぁぁ! |
| |
| マ− | この火事でタンピンは焼死。警察は事故死と断定し、事件にはなりませんで |
| した。かわいそうに、一人残されたユンエンはツァイ家に嫁ぎました。しか |
| し、タンピン と深い関係だった事が発覚し、あのボンボンのツァイを暴力 |
| 男に豹変させ、ユンエンは傷物と言うことで家を追い出されたのです。ユン |
| エンの実家も尻軽な娘を北京一の名家に押しつけ侮辱したという噂が立ち、 |
| 商売ができなくなりました。両親はユンエンを見捨て、北京を去りました。 |
| 見捨てられたユンエンは、気がふれてしまい彼女の面倒は侍女だったシェン |
| テンが見ています。多くの人が亡くなった劇場は、夜になると何処からとも |
| なく悲しい歌声が聞こえ、幽霊が出るという噂が立ち、人々は劇場を恐れ近 |
| づかなくなりました。そしてユンエンは今でも・・・ |
| (気のふれたユンエンが劇場にやって来る) |
| 満月の夜になると鞄を持って、タンピンが迎えに来るのを待っています。 |
| ウェイチン | ・・・・・・ |
| マ− | 女の声を聞いたというのも、あなたがこの劇場でお芝居をなさる縁と関係が |
| あるのかもしれません。さ、私の知っている事はこれで全部です。もういい |
| ですか? |
| |
| [マ−去る。ウェイチンしばらく呆然としている。回想の劇場ではユンエンが |
| | 今日もこなかったという顔で、劇場を去っていく] |
| |
| 暗転 |
| [女優達が町中でチラシ配りをしている。(客席で行う)] |
| 女優1 | 陳劇団の「熱血」です。どうぞ! |
| 女優2 | 「熱血」です。見に来てください。 |
| ランティエ | お願いします。 |
| 女優3 | この劇場でやります。よろしくお願いします。 |
| |
| [舞台では男優達が舞台の片付けと仕込みを行っている] |
| 男優1 | そっちはどうだ? |
| 男優2 | こんなもんだろ(出来具合を見せる) |
| 男優1 | そうだな・・・こんなもんだな。 |
| 男優3 | おい、ここに幕なんて張れるのか? |
| ウェイチン | 滑車はちゃんと付いているから、張っても大丈夫だよ。 |
| 男優3 | やだぜ、幕を張ったせいで柱が折れたとかさ。 |
| [男優3とウェイチンで幕を張る。大分舞台も使える状態になってきた。そ |
| こへチラシ配りを終えた女優達が帰ってくる] |
| 女優1 | へぇ、随分片づいたじゃない |
| 女優2 | 一時はどうなるかと思ったわ |
| ランティエ | 幽霊とか出そうな雰囲気だったもんね。 |
| 女優3 | お客さん、たくさん来てくれるといいですよね。 |
| みんな | ど−かなぁ。 |
| 女優3 | ちょっと、それが劇団員の言う事ですか。 |
| 男優1 | そりゃ今までは地方で娯楽が少ないから、何とか客も入ってたけど、ここは |
| 北京だぜ。 |
| 女優1 | それもここの人達はソン・タンピンが活躍してたのを見てる訳だしね。 |
| 女優2 | 一応私たちもミュ−ジカルではあるけど。 |
| 男優2 | 話面白くないんだよね。 |
| 女優3 | そんな事思いながら今までやってたんですか!? |
| 男優3 | だからって、脚本家に文句言えるほど、俺たちも偉くはないだろ。 |
| ランティエ | 「本が悪い」って言っても「役者が悪い」って言い返されるのがオチよ。 |
| ウェイチン | でも、ソン・タンピンだったら・・・・ |
| 男優2 | おい、あちらさんは一流の売れっ子だったんだぜ。引き合いになんか出すな |
| よ。 |
| 男優1 | まぁ、オレ達は身分相応の事をやればいいのさ。 |
| (不満顔のウェイチン。 そこへ座長が入って来る) |
| 座長 | う−ん、舞台は使えるようになったな。よし、練習始めるぞ。 |
| みんな | (口々に)え−。今から−。疲れた−。嘘でしょ−。 |
| 座長 | うるさい!やると言ったらやるんだ。ほら、最初の歌の所をやるぞ。 |
| (みんな支度をする) |
| |
| 演技中(この世のものとは思えないようなつまらなさ) |
| |
| (ウェイチンが歌うのを止める) |
| 座長 | なんだ?ウェイチン。どうして歌を止める? |
| ウェイチン | ・・・ソン・タンピンなら、こんな芝居はしない! |
| 座長 | (逆ギレ)またソン・タンピンか!お前がソン・タンピンと比べられる程の |
| 役者か?三文役者め! |
| (ウェイチン、台本を叩きつけて出ていく) |
| ランティエ | ちょっと、ウェイチン(後を追う) |
| 男優1 | ウェイチン(座長をちらりと見て、後を追う。みんなも後をおう) |
| 座長 | (怒りのやり場の困って、ウェイチンの台本にあたる) |
| 暗転 |
| [ツァイが通りかかる。男二人がくっついてる] |
| ツァイ | (劇場の前で立ち止まる)そういえば、ここの劇場で芝居をやっている劇団 |
| がいたな。 |
| 男1 | はい、陳劇団とかいう旅回りの劇団です。 |
| ツァイ | 公演はしているのだろう。評判を聞かないが・・・・ |
| 男2 | 最悪です。芝居が終わっても客は拍手もしません。 |
| 男1 | 退屈すぎて寝ている者はいいです。中には芝居の最中に話をしていて役者の |
| 声も聞こえない時もあります。しかし、誰も文句もいいません。 |
| 男1 | だいたい話の内容がつまらないのです。「熱血」ですよ。男女が手を取り合 |
| って共に国家の為に敵と戦うぞ!なんて今更はやりませんよ。 |
| ツァイ | ふん、確か若い役者がソン・タンピンに憧れていると言っておって、止めて |
| おけと忠告してやったが、それ以前の問題だったようだな。 |
| 男1 | 劇場代も二週間未払いです。座長はもう少ししたら何とかなると言っており |
| ましたが、ありゃ無理でしょう。 |
| ツァイ | 後一週間だけ、待ってやれ。それでも目処がたたなかったら、金目の物を取 |
| り上げて追い出せ。 |
| 男2 | はい、ではそのようにいたします。 |
| 男1 | (劇場を見上げて)そろそろ、幽霊の噂も下火になって来た頃ですし、この |
| 劇場も取り壊しますか? |
| ツァイ | いや、この劇場は一人の役者のせいで大勢の者が死に大勢の者が不幸になっ |
| た。成り上がりが己の技量を見誤った末にどうなるかという教訓の為に、こ |
| の劇場は残しておいた方がいいのだ。 |
| 男2 | そういえば・・・あの女はまだこの劇場に来ているのか? |
| 男1 | ああ、あの気の狂った。時々フラフラとやって来るようだ。ボロボロの衣服 |
| にボロボロの鞄を持って、夜通し待っているそうだ。あの頃は誰もが見ほれ |
| る美人だったのに・・・ |
| ツァイ | (ステッキで鋭く地面を叩く)あの女の話はするな。(ハケる) |
| 男1 | も、申し訳ございません。(後を追いかける) |
| 男2 | ツァイさん(同じく) |
| 劇団員全員が隠れている。座長がそろそろと顔を出す。 |
| 座長 | (様子を探る)よし、行ってしまったみたいだ。 |
| (全員が出てくる) |
| 男優1 | どうするんです。客は来ないし、劇場代は払えないし。 |
| 女優1 | 取り立てが来たらこうやってまた隠れてるんですか? |
| 座長 | こうなったら、何かいい方法がないかみんなで考えようじゃないか。 |
| (全員座り込む) |
| 全員 | う−ん・・・・う−ん・・・・う−ん |
| 女優3 | (突然立ち上がる)私! |
| 座長 | おっ、なんかいい考えでも浮かんだか? |
| 女優3 | お父さんに連絡取って、迎えに来てもらいます。 |
| 座長 | な、なに? |
| 男優3 | オレも・・・・ずっと家業を継げって、言われてたんだよな。 |
| 男優1 | 明日っから働き口でも探すか。ついでに美人の恋人も。 |
| 女優1 | 私も国に帰ってお見合いしようかな。 |
| 座長 | おいおい、待ってくれよ。 |
| 女優2 | だって、このままだったら、私たちのお給料もでないんでしょ。 |
| 男優2 | 座長と心中なんて、死んでも嫌だよ。 |
| 座長 | 待ってくれ。そうだ、いい考えがあるぞ。夜逃げだ! |
| みんな | ・・・・行こうぜ。(ハケる) |
| 座長 | 待ってくれって。おい。(ハケる) |
| (男優女優劇場から出ていく。) |
| ランティエ | みんなの気持ち分からないでもないわ。お客さん入らないし、お金もらえな |
| いんじゃね。 |
| ウェイチン | でも・・・・みんなで知恵を出せばきっといい考えが浮かぶはずなのに。 |
| ランティエ | ウェイチンはお芝居ができれば満足な人だもん。 |
| ウェイチン | そんな事ない。お客さんが拍手してくれないような劇団なんかゴメンだ。だ |
| けど、みんな気のいい奴だし、一緒にいて楽しいから。 |
| ランティエ | ウェイチンらしいわ。大丈夫よ、みんなやめちゃったりしないと思う。あん |
| な事言ってたけど、みんなだってお芝居するの好きなんだから。もちろん私 |
| もよ。 |
| ウェイチン | それはよく分かってるよ。それにしても。こんなんで、いつになったら有名 |
| になれるのかなぁ。 |
| ランティエ | 有名にならなきゃ、結婚してあげないから。貧乏生活なんてまっぴらよ。 |
| ウェイチン | なんだよ。結局ランティエも、みんなと一緒なんじゃないか。 |
| ランティエ | 当たり前でしょ。さ、私も団長と話し合ってこよっかな。みんなを止めさせ |
| ないように説得しなくちゃね(ハケる) |
|
|
| ウェイチン | 客が入らないのは、やっぱりみんなが言う様に芝居の内容がつまらないから |
| でもこれはしょうがないよなぁ。僕が劇団に入って以来、上演項目はあれだ |
| ったんだ。多分うちの劇団あれしかできる演目ないんだろうな。 |
| (劇場を見回す)ソンタンピンはきっとこの劇場で、毎日絶賛の拍手を受け |
| ていたんだろうな。ここには真紅の緞帳があって、舞台には大がかりで幻想 |
| 的な装置があって、客席には満員のお客さんが自分だけを見ている。 |
| (芝居の歌を歌う)歌い終わると同時に、ものすごい拍手、席を立ち上がる |
| 人もいる。(客席に向かって)ありがとう!ありがとう! |
| (突然上から物が落ちてくる。ウェイチン驚いて上を見る) |
| だれだ?やっぱり誰かいるんだな?出てこいよ!僕はそう簡単に、驚いたり |
| しないんだぞ! |
| (黒マントにフ−ドのすっぽり被り、顔も見えない男が現れる) |
| タンピン | 私は、ソン・タンピンだ。 |
| ウェイチン | (ものすごく驚く)嘘だ。・・・ソンタンピンは死んだと。 |
| タンピン | 黙れ! |
| ウェイチン | ・・・・はい。 |
| タンピン | お前の歌声を、ずっと聞いていた。いい声をしている。 |
| ウェイチン | あ、・・・どうも。 |
| タンピン | 有名になりたいか? |
| ウェイチン | え・・・ |
| タンピン | 答えろ |
| ウェイチン | 僕は・・・劇団を何とかしたい |
| タンピン | お前は有名になりたいか、と聞いているんだ! |
| ウェイチン | はい・・・なりたい。 |
| タンピン | そのピアノの中に、脚本がある。それを上演しろ。 |
| ウェイチン | (言われたとおり脚本を出してみる。)ロミオとジュリエット・・・ |
| タンピン | 劇団から一週間だけ時間をもらってこい。それから毎日ここに来るんだ。稽 |
| 古は私がつけてやる。 |
| ウェイチン | はい! |
| タンピン | ただし、これは二人だけの秘密だ。 |
| ウェイチン | 分かりました。 |
| タンピン | 誰にも言うな。 |
| ウェイチン | 絶対に。 |
| タンピン | 行け(去る) |
| ウェイチン | (脚本をめくる)ソン・タンピンがやった「ロミオとジュリエット」だ。・ |
| ・・・これを、僕が・・・。座長!座長−!!(ハケる) |
| [無表情のツァイが庭を眺めている。そこへ座長が入ってくる] |
| 座長 | (拱手して)ツァイ局長。今日はお招きに預かり、大変光栄でございます。 |
| 妻 | あの・・・・、私はもう休んでも・・・。 |
| ツァイ | (山積みの肉まんを指さす)あそこの肉まん、あれを全部食え。 |
| 妻 | (唖然とするが夫の鋭い視線に気がつき、その傍らに行くと、肉まんを貪り |
| 食う) |
| 座長 | (気を取り直して)局長、わが劇団は小さい所ですが、役者の中には将来有 |
| 望な者が沢山おります。これを機に、芸術局の方から援助を頂けないでしょ |
| うか。 |
| ツァイ | 役者達はまだか? |
| 座長 | いえ、あのもう少しお待ちいただければ。 |
| (そこへウェイチンとランティエが来る。ランティエはオシャレをして来て |
| いるが、ウェイチンは普段着のままだった。) |
| 座長 | ああ、来たな。芸術局長のツァイさんだ。さ、挨拶をしろ。 |
| (二人、緊張のあまり、手を握る。そんな様子で、ツァイは二人が恋人同士 |
| であることを知る。) |
| ツァイ | お前、ソン・タンピンの真似がうまいな。 |
| 座長 | はい、そうなんです。 |
| ツァイ | 私はソンを知っているが、演技の表情までそっくりだ。 |
| 座長 | ええ、本当に聞けば聞く程、ソンタンピンに似ているんです。これぞ、ソン |
| タンピンの再来! |
| ツァイ | ソン・タンピンに教えてもらったのか? |
| 座長 | 局長、ソン・タンピンは10年前に亡くなっており、ウェイチンが会うこと |
| は・・・・ |
| ツァイ | (座長に)お前に聞いていない。(ウェイチンに)どうなのだ? |
| ウェイチン | 座長の言う通り、いくら僕がソン・タンピンに憧れていても、10年前に誰 |
| かに殺されたのでは会える訳がない。 |
| ツァイ | ・・・・・ほう。 |
| 座長 | こら、ウェイチン。ソンは事故死だぞ。 |
| ツァイ | でも、ソン・タンピンにそっくりだ。 |
| ウェイチン | あれは、ソン・タンピンの真似ではなく、僕の個性です。 |
| ツァイ | では、ここで歌ってみろ。私が判断してやろう。 |
| 座長 | そうだ、ウェイチン。局長のご意見を伺おう。 |
| ウェイチン | 断る(席を立つ) |
| ランティエ | ウェイチン。失礼よ。 |
| ウェイチン | ・・・・約束がありますので、失礼します。(ハケる) |
| ランティエ | ウェイチン。 |
| (ツァイがランティエを引き止める) |
| ツァイ | (優しく)お前が代わりに歌え。 |
| ランティエ | え・・・・。 |
| 座長 | ランティエ、頼む。 |
| ランティエ | ・・・・はい。 |
| [劇場は暗く静まり返っている。今日は、満月。屋根の焼け落ちた劇場内は、 |
| 月明かりでほんのりと明るい。 |
| ウェイチン | ・・・先生。・・・・・先生?・・・・僕です、先生!(探すが姿はない) |
| 約束の10時は過ぎてるのに・・・・。先生・・・・・、はぁ。 |
| (ピアノの前に座る。) |
| 君は去った・・・ |
| 僕を残して・・・ |
| あれ程深く愛し合ってたのに |
| さよならも言わずに旅立ってしまった。 |
| 恋する二人を運命が引き裂く |
| (劇場にユンエンが姿を現す。ウェイチンの歌に、聞きほれている) |
| 結ばれるのは天国の門の向こう。 |
| 絶望の果てに青ざめた顔 |
| どうかもう1度目を覚まして |
| なんとむごい仕打ちだろう |
| せつない悲しみに、涙が頬を伝う |
| 君はもう二度とこの胸に戻らない |
| 二人の愛は花のように散った |
| 過ぎ去った日々を追憶するだけ |
| 夢の中でしかもう会えない |
| ユンエン | (拍手する)すばらしいわ、すばらしいわ。ほら見て、この雨の中、みんな |
| 傘の下で聞き惚れてたわ。 |
| ウェイチン | 雨?(上を見るが月が出ている)傘?(客席を見るが誰もいない) |
| ユンエン | (ボックス席を見上げながら)今日は私の席には、別のお客がいるみたい。 |
| 仕方ないわよね。しばらく見に来てなかったから。 |
| ウェイチン | ・・・・ユンエンだ。 |
| ユンエン | ねぇ、今日はあの場所に連れてってくれないの? |
| シェンテン | (ユンエンを見つける)お嬢様。お嬢様。 |
| ユンエン> | ああ、またお前か。 |
| シェンテン | さぁ、帰りましょう。 |
| ユンエン | もう時間なの? |
| シェンテン | ええ、そうですよ。もう時間です。 |
| ユンエン | そう・・・・。また来るわ、いいでしょう? |
| ウェイチン | ・・・・は、はい。 |
| (ユンエンとシェンテン出ていく) |
| ウェイチン | なんでユンエンが・・・・・。そうか今日は満月、ユンエンが現れる時間な |
| んだ。しかしなんで先生が現れず、ユンエンと・・・。待てよ、なんで僕は |
| 劇場で待たされたんだ?練習だったら、いつも奥の部屋なのに・・・。そう |
| か・・・・そういう事なのか。先生!・・・・・ソン・タンピン!! |
| タンピン | (拍手しながら出てくる)よかったぞ。完璧な演技だった。 |
| ウェイチン | 僕を自分の身代わりにする気だな。 |
| タンピン | 彼女は私が歌ってると信じきっていた。顔を見たか、あの日以来あんなうれ |
| しそうな彼女の顔を見たのは初めてだ。後はお前が私の気持ちになって彼女 |
| に接すればいい。 |
| ウェイチン | 最初からそのつもりだったのか? |
| タンピン | この十年間、女は不幸だった。私は彼女の為に、何をするべきかずっと考え |
| ていた。そこへお前が現れた。雰囲気が昔の私に似ている上歌声がそっくり |
| だったからな、これしかないと思ったんだ。 |
| ウェイチン | なぜ自分で会わない?僕は断る!(出ていこうとする) |
| タンピン | 断れば殺すぞ! |
| ウェイチン | どうかしてる・・・・。医者に行けよ。 |
| タンピン | 医者では・・・・直せない。・・・・この顔は直せない。 |
| (ソンタンピンがマントのフ−ドを取る。その顔の半分が焼けただれていた |
| ウェイチン | (驚いて立ちすくむ) |
| タンピン> | 10年前。私はすべてのものを手に入れていた。役者としての栄光、自分の |
| 劇場、最愛の恋人。だが、あの夜・・・・・ |
| あの夜は、久々にいい舞台が出来た事で私はかなり気分を良くしていた。 |
| 控室には何百本もの真紅の薔薇、化粧台の上には何十通ものファンからの手 |
| 紙。最高の気分で手紙を読もうとした時、ドアをノックする音が聞こえた。 |
| ドアを開けると、見知らぬ男が二人立っていた。男は〔ソン・タンピンさん |
| ですか〕と聞いて、突然私の顔に何かをかけた。皮膚がジュ−ッという音を |
| たて、鋭い痛みと焼けるような熱さがどとうのように襲いかかり、私は叫び |
| ながら部屋の中を転がった。男達は部屋の中に油を撒き、蝋燭を倒した。 |
| あたりは瞬く間に火の海になったが、痛みで卒倒しそうになっていた私に |
| はどうする事もできなかった。劇場の方でも、人々の逃げまどう声、錯乱し |
| た叫び・・・・薄れゆく意識の中、もう終わりだと思った。 |
| その時、マ−さんが飛び込んできてくれた。命懸けで私を火の中から救い出 |
| してくれた。恩人だよ。それからマ−さんは懸命に看病をしてくれ、傷の痛 |
| みもなくなった頃、顔の包帯を取る事にした。包帯を取り、顔が現れはじめ |
| ると、マ−さんは私の顔をじっと見て、涙を流し始めた。 |
| 「どうなんだ?マ−・・・泣かないで言ってくれ。言ってくれ・・・・」私 |
| の悲痛な声に彼はこう答えた「残念です・・・悔しいです」 |
| 自殺する事も考えた。役者生命も劇場も失って、すべてが終わってしまっ |
| たと思ったんだ。しかし、彼女がいる。ツァイや親からも捨てられてしまっ |
| たユンエンが。自殺は断念したよ。彼女は満月の夜になると、私の歌を聞き |
| にくる。鞄を持って、誰もいない舞台を眺め、聞こえもしない私の歌声に聞 |
| き惚れている。彼女には・・・私の歌だけが慰めなんだ・・・・。こうする |
| しか・・・・こうするしかないんだ。他にどうすればいい。 |
| ウェイチン | ・・・・先生。この話はまた。帰らないと、団員達が心配するから。 |
| タンピン | 行くな!(ウェイチンの両肩を掴む)見ろ、この顔を。正視できるか? |
| ウェイチン | ・・・あ、あの(正視しようするが、できない) |
| タンピン | 頼む。もう一度だけ代役を。これで終わりだ。 |
| ウェイチン | いったい、何をしろと? |
| タンピン | (手紙を出す)これを、ユンエンに渡してくれ。 |
| ウェイチン | 手紙を・・・・? |
| タンピン | そうだ、頼む。 |
| (ウェイチンは頷いて手紙を受け取る。タンピンは顔を隠すようにマントを |
| 被り、出てきた場所へ戻る。ウェイチンはその場で悩む) |
|
|
|
|
| ユンエン | (鞄を引きずって)タンピン!タンピン! |
| ウェイチン | ユンエン!(タンピンを探す)あの・・・僕は。 |
| ユンエン | はぁ、荷造りしてきたわ。何それ? |
| ウェイチン | あ・・・ああ。手紙を預かって・・・ |
| ユンエン | あの時の返事ね!ね、読んで。 |
| ウェイチン | あの・・・・ |
| ユンエン | さ、読んで。 |
| ウェイチン | (手紙を開く。しかしその手紙には何も書かれていない)白紙だ。 |
| ユンエン | どうしたの。早く読んで。 |
| ウェイチン | ・・・読むよ。過ぎ去りし10年の歳月。ひたすら君を思う。再会の日を夢 |
| 見て・・・・。 |
| ユンエン | ・・・・・素敵。この手紙私に頂戴。 |
| ウェイチン | あっ! |
| ユンエン | ありがとう。一生の宝物にするわ。(鞄にしまう)さ、行きましょう。約束 |
| したわよね。満月の夜、この劇場で待ってるって、一緒に逃げてって。覚え |
| てるでしょ? |
| ウェイチン | ・・・ああ。 |
| ユンエン | ねぇ、どこへ行く? |
| ウェイチン | ・・・そうだね。 |
| ユンエン | タンピンは女の子にモテるから、だ−れもいない所がいいかも。 |
| ウェイチン | そうだね。 |
| ユンエン | そ−だ、タンピンが行ってた西洋って言う所に連れてってよ。この劇場みた |
| > | いな建物いっぱい建ってるんでしょ。見てみたいな。 |
| ウェイチン | そうだね。 |
| ユンエン | もう、どうして”そうだね”しか言ってくれないの? |
| ウェイチン | そうだね・・・あ、いや。 |
| ユンエン | タンピン。 |
| ウェイチン | う・・・うん? |
| ユンエン | いつまでも、一緒にいて。 |
| ウェイチン | ・・・・・。 |
| ユンエン | それだけで、私はいいの。 |
| ウェイチン | ・・・・愛してる、よ。 |
| ユンエン | 何? |
| ウェイチン | ずっと、君だけを愛してるよ。 |
| ユンエン | (うれしそうに)私もよ。(抱きつく) |
| ウェイチン | (どうしていいものか迷っているが、抱きしめ返す) |
| ユンエン | ずっと、待ってたの。こうやってくれるの、ずっと待ってたの。 |
| ウェイチン | もう絶対、離れない。 |
| ユンエン | うれしいわ。(キスしようとする)あっ! |
| ウェイチン | な、何? |
| ユンエン | やだわ、私ったらお化粧もしないで。(鞄の中をさばくる)あ−、口紅がな |
| いわ・・・・。タンピン、口紅買ってよ。 |
| ウェイチン | あ、ああ。いいよ。 |
| ユンエン | じゃぁ私、お店で見てくるわ。(出ていく) |
| [ウェイチン、ユンエンを見送る] |
| タンピン | 誰が本気になれと言った。お前は代役だぞ。 |
| ウェイチン | かわいそうだとは思わないのか?あの人はずっとあんたを待ってたんだ。な |
| のにあんたは自分の身代わりを立てて済まそうとしている。 |
| タンピン | この顔を彼女に見せられるか? |
| ウェイチン | 彼女を愛してるんだろ!僕を身代わりにして自分をごまかすのはよせよ。彼 |
| 女にその顔を見られて嫌われるのが怖いんだろ。結局自分がかわいいから、 |
| 自分が傷つくのが怖いんだろ。 |
| タンピン | 黙れ。 |
| ウェイチン | 自分の顔がそんなに嫌だったら、死んじまえ! |
| タンピン | 黙れ!出ていけ・・・。 |
| ウェイチン | 僕はあんたにずっと憧れていた。役者としては、あんたは最高だ。だが、一 |
| 人の人間としては、最低だ。(ハケる) |
| [タンピンは、ウェイチンの言葉を考える。確かにその通りだった。こんな |
| 醜い顔をユンエンに見せて、嫌われるのが怖いのだ。そんな事をユンエン |
| は気にしないはずだという思いはあるが、確信がない。そんな間でタンピン |
| は迷っていた] |
| タンピン | ・・・・。(ハケる) |
| [劇団員達が休憩をして、それぞれおしゃべりやゲ−ムをしている。そこへ |
| ツァイとランティエが歩いてくる] |
| ツァイ | (豪華なネックレスを取り出す)君にこれをやろう。 |
| ランティエ | (思わず目を奪われる)あの。 |
| ツァイ | (ランティエにつけてあげる)綺麗だよ。 |
| ランティエ | ありがとうございます。 |
| (ユンエンが口紅の持って飛び出してくる) |
| ユンエン | タンピン、タンピン!この口紅を買って!タンピン! |
| 男優1 | なんだ、あの女。 |
| 男優2 | かわいそうに、気がふれてるよ。 |
| 女優3 | タンピンって、ソンタンピンの事かしら。 |
| 女優2 | まさか、十年前に死んでるのよ。 |
| ツァイ | (ランティエにコ−トを預ける)ここで、待ってろ。 |
| ユンエン | タンピン!どこにいるの?買ってよ。タンピン(ツァイに掴まれ、杖で殴ら |
| れる)うっ! |
| ツァイ | くたばれ!(ユンエンを殴り引きずる)クソ女!(蹴る)私は昔この女と結 |
| 婚した。10年前だ。この女は尻軽で、ソンタンピンと寝やがった。この淫 |
| 乱女に同情などいらん。(蹴る、殴る)死んじまえ! |
| ウェイチン | うぉっ!(棒でツァイを殴る) |
| ツァイ | うぁ!(よろめいて振り返る) |
| 男優3 | ウェイチン! |
| ツァイ | お前、覚えてろよ!(ランティエの手からコ−トを取って逃げる) |
| ウェイチン | ・・・・ランティエ。 |
| ランティエ | ・・・・。 |
| ユンエン | ・・・タンピン・・・タンピン、どこ? |
| [ウェイチン、口紅を拾って、ユンエンを助け起こす] |
| ユンエン | タンピン・・・劇場で待っててね。・・・私、行くからね。 |
| ウェイチン | ユンエン、ごめん。僕はソン・タンピンじゃないんだ。 |
| ユンエン | タンピンじゃない?(顔を良くみる) |
| ウェイチン | ・・・・うん。でも、劇場で言った言葉は、ソンタンピンの本当の気持ちだ |
| ユンエン | タンピンじゃない?(ウェイチンの顔を触る) |
| ウェイチン | それに、今あなたが言った事も、ちゃんと彼に伝えるからね。 |
| ユンエンを探していたシェンテンが、ユンエンを見つける。 |
| シェンテン | お嬢様!お嬢様、勝手に出歩いて・・・・お嬢様、どうしたんですこの怪我は! |
| ウェイチン | ちょっと、いざこざに巻き込まれたんだ。 |
| シェンテン | ありがとう、後は私が。 |
| ウェイチン | 頼む(ユンエンを渡す) |
| ユンエン | きっとよ! |
| ウェイチン | (うなずく) |
| シェンテン | さ、お嬢様。(二人ハケる) |
|
|
| ランティエ | ウェイチン・・・・。何、今の女の人? |
| ウェイチン | お前こそ、なんであんな男と一緒にいるんだ。 |
| ランティエ | 座長に頼まれたのよ。あなたが途中で出て行くから。 |
| ウェイチン | それでその首の宝石を貰うのか? |
| ランティエ | これは・・・・。分かったわ、あの女でしょ。 |
| ウェイチン | なんの事だよ。 |
| ランティエ | 夜中になると、あなたあの劇場に行って、明け方まで帰らない事があったわ |
| よね。あの女と会ってたんでしょ。 |
| ウェイチン | 馬鹿馬鹿しい。 |
| ランティエ | 馬鹿馬鹿しいとは何よ。だったら夜中劇場で何してたのよ! |
| ウェイチン | お前には関係ないよ。人の話で自分の事をはぐらかすな。 |
| ランティエ | 私だって少しは人気が出たわ。贈り物だっていっぱい貰ってる。これもその |
| 一つじゃない。 |
| ウェイチン | ああそうか、そういえば以前僕がくれてやった下着、前は大切にしてたが最 |
| 近は、他のもっといい下着の脇に丸めてしまってるんだってな。もう、お前 |
| にとって、あれが贅沢でもなんでもなくなったんだな。 |
| ランティエ | あなただって、そうやってあの人の事はぐらかしているじゃないの。 |
| 男優3 | おい、落ちつけって。 |
| 女優1 | そうよ、ウェイチンは彼女が殴られていたから助けただけよ、ね? |
| 男優1 | ウェイチン、お前も言い過ぎだぞ。 |
| ウェイチン | 僕は・・・この芝居を降りる。 |
| 男優2 | 何言いだすんだ! |
| 女優3 | そうですよ。 |
| ランティエ | 明日は北京のとても偉い人が見に来るのよ。 |
| 男優3 | 劇場の席半分も買ってくれているんだ。 |
| 女優2 | 寄付もして頂いてるし。 |
| 男優2 | すっぽかす事なんてできないぞ。 |
| ウェイチン | どうしちゃったんだよ・・・・みんなどうしたんだよ!金か・・・金なのか |
| 芝居をするのも金の為か! |
| ランティエ | 変なのはあなたよ。あなたの気まぐれで劇団を潰すつもり?みんな困るわ。 |
| ウェイチン | 困る?じゃ、また宝石を貰ったみたいに、媚売りゃいいだろ! |
| ランティエ | (ウェイチンにピンタ)最低よ!(ハケる) |
| ウェイチン | もううんざりだ!(ハケる) |
| みんな | ウェイチン、ランティエ! |
| 男優1 | なんか知らないが、ウェイチンの奴そうとう荒れてるな。あいつは俺たちに |
| まかせろ、ランティエ頼むぞ。 |
| 女優1 | 分かったわ。 |
| [男優達は、ウェイチンを追って、女優達はランティエを追ってハケる] |
| [ユンエンが劇場で待っている。雨が降って来た。雷も鳴りだした。そこへ |
| マントを着てフ−ドで顔を隠しているタンピンが現れる] |
| ユンエン | (マントの男に気づく)・・・・・タンピン? |
| (タンピン、マントのフ−ドに手を掛け綺麗な方の顔半分を見せる) |
| ユンエン | (嬉しそうに)タンピン・・・・来てくれたのね。(近づく) |
| (意を決してフ−ドを全部取ろうとした時。雷の稲妻が劇場内を明るく照ら |
| し出す。タンピンは慌てて隠し、逃げる) |
| ユンエン | 行かないで(追いかける)、タンピン、私よ。お願い、私を置いて行かない |
| で、タンピン!お願い! |
| (タンピン立ち止まる。ユンエンはタンピンの背中を見ている) |
| ユンエン | タンピン・・・(近づく、タンピンもフ−ドを取ってゆっくりと振り返る) |
| (突然、銃声が響く) |
| ユンエン | うっ!(崩れ落ちる) |
| タンピン | ユンエン!(ユンエンを抱きとめる) |
| ツァイ | ソン・タンピン、やっぱり生きてたんだな。 |
| タンピン | ツァイ。 |
| ツァイ | 久しぶり・・・と改めて言った方がいいのかな?私の事はすべて知っている |
| んだろう。 |
| タンピン | 相変わらずな傍若無人ぶりに、最近ますますお前の父親に似てきたよ。 |
| ツァイ | それは最高の賛辞だな。そうだ、そういえばさっきそこでお前にそっくりな |
| 役者を拾ったぞ。 |
| (痛めつけたウェイチンを連れてくる) |
| いつか親父がお前にやったように、顔を焼いて劇場に火をつけ、ソンタンピ |
| ンの祟りに仕立ててやろう劇場に来てみたら、お前たちまでいるとは。 |
| こいつはお前が育てたんだってなぁ。通りて・・・、今まで私に逆らった人 |
| 間はお前とこの女と、この役者だけだ。私に恥を欠かせる人間はすべてお前 |
| に関わっている。こいつもその女と一緒に連れていけ(ウェイチンを殴りつ |
| けてタンピンの前に転がす) |
| タンピン | なぜ、ユンエンを撃った。昔愛した女だろう。私から力ずくで奪った女だろう。 |
| ツァイ | その女は僕だけのものじゃなかった。その女は僕がこんなに好きなのに、同 |
| じぐらい僕を好きになろうとはしなかったんだ!おまえだ!ユンエンの目に |
| は、いつだっておまえしか映っていないんだ! |
| タンピン | だから撃ったっていうのか?すべて自分のわがままで、こんなにユンエンを |
| 傷つけて、おまえはそれでもまだユンエンを許せないというのか。 |
| ツァイ | 黙れ!タンピン!ロミオとジュリエットの様に心中しろ!(銃を撃つ) |
| ウェイチン | うぁ!(銃を発射する直前に飛びついて銃口を上向きにさせる) |
| タンピン | (ウェイチンが振り飛ばされた直後にツァイに飛びつく)頼む、ユンエンを |
| 連れて逃げろ! |
| ウェイチン | は、はい!(ユンエンを連れてハケる) |
| ツァイ | お前がいなきゃ、僕の人生は完璧だったんだ。殺してやる、覚悟しろ! |
| (二人もみ合って、物陰に倒れ込む) |
| ツァイ | あ−!! |
| タンピン | うぁぁ!死んで償え!! |
| [銃声が響く] |
| 暗転 |
| [客席のざわつきが聞こえる中、支度を整えたメンバ−が暗い表情で座っている] |
| 座長 | おい! |
| みんな | (ぱっと顔を輝かすが、座長と気づいてがっかりする)なんだ、座長か。 |
| 座長 | ウェイチンは戻ったか? |
| 男優1 | 戻ってたらこんな顔してませんよ。 |
| 座長 | まったく、何を考えてるんだ。今日はお偉方が見に来ているのに、あいつが |
| 来なけりゃ幕が開けられないじゃないか。 |
| みんな | そんな事分かってます。 |
| 座長 | 席も半分買ってもらってるし、寄付もしてもらえるかもしれないんだぞ。 |
| みんな | は−・・・。 |
| 座長 | なんだよ。 |
| 男優2 | 俺たち・・・いつの間にか、座長にそっくりになってたんだな。 |
| 女優1 | 座長は偉いわよ。劇団が有名になっても自分を見失わないんだから。 |
| 座長 | 何をいきなりわしを褒めだしてるんだ?そんなヒマがあったらウェイチンを |
| 探せ。あと三十分もないんだぞ(ハケる) |
| みんな | 分かってまぁす。 |
| 男優3 | お客さん・・・・どれぐらい入ってる? |
| 女優3 | (幕間から覗く)満席です。お芝居が始まるのをすごく楽しみにしてくれて |
| ますよ。 |
| 男優1 | 客席はいつも満員で、町の金持ちや名士達がいつも宴会を開いてくれて、女 |
| の子が黙っていても寄って来る。・・・・それを当たり前だと思うようにな |
| っちまってたんだな。 |
| 女優1 | 昔は一生懸命チラシ配って、一人でも多くのお客さんが見に来てくれて、お |
| 芝居を気に入ってくれて拍手を貰えるのが何よりも嬉しかったのに。 |
| 女優2 | ウェイチンの言うとおり、私たちどうかしてたわね。 |
| ランティエ | 違うわ、私が悪いのよ。高価なプレゼントに目を奪われて、いい気になって |
| たから。 |
| 男優2 | そんな事ないよ。みんなどうかしてたんだ。 |
| ウェイチン | いや、僕が悪かった。 |
| みんな | ウェイチン! |
| ウェイチン | (ランティエの前に出る)・・・・ランティエ。きっと本当の事を話しても |
| 信じてはくれないと思うけど・・・。なんか、うまく説明出来ないんだけど |
| いろいろ深いワケがあって、いろいろあって・・・・その・・ゴメン。 |
| ランティエ | 私の方こそ、こんなに劇団が有名になったのはウェイチンのお蔭なのに、ひ |
| どい事ばっかりいって、ごめんなさい。 |
| 女優2 | 私も。 |
| 男優3 | オレも。 |
| 男優2 | オレも。 |
| 女優1 | 私も。 |
| 女優3 | 私もです。 |
| 男優1 | オレもだ。 |
| (みんな顔を見合わせる) |
| 女優1 | ・・・こうなったら、みんなで謝っちゃおうか。 |
| みんな | ごめんなさい。(笑顔になる) |
| 男優1 | よし、これで仲直りだ。ウェイチン早く着替えて来い。もうすぐ開演だ。お |
| 客さんが待ってるぜ。 |
| 座長 | 大変だ。 |
| 男優3 | ウェイチンなら芝居に出られますよ。 |
| 座長 | 違うそんな事じゃない。客席にツァイ局長の父親が当局の警察署長を連れて |
| 押しかけてるんだ。ウェイチンを出せと言っている。 |
| みんな | ええ! |
| [客席の一番前に、ツァイの父親と警察所長がいる] |
| ツァイ父親 | ウェイチンという役者を早く出せ! |
| (劇団員が出てくる) |
| 署長 | ウェイチンというのはお前か。 |
| ウェイチン | はい、そうです。 |
| 署長 | お前を、ツァイ芸術局長殺害の容疑で逮捕する。 |
| ウェイチン | 何ですって!僕は知らない、僕は無実だ。 |
| ツァイ父親 | 息子は昨日お前に復讐をすると言ってこの劇場に入って行った。そして戻ら |
| ないんだ。 |
| ウェイチン | 本当に知らない! |
| ツァイ父親 | じゃ、息子はどこへ行った?誰の仕業だ! |
| タンピン | 私だ。 |
| (劇場の後ろから顔をさらしたソンタンピンがいる) |
| ツァイ父親 | お前は! |
| タンピン | そうだ、ソン・タンピンだ。(みんなおどろく)皆、10年前の火事を思い |
| 出してほしい。あの火事はツァイ親子が仕組んだものだ。あの頃、私とユン |
| エンは深く愛しあっていた。そこに権力に任せてユンエンを横取りしようと |
| したツァイが、私からユンエンを奪うためにやった陰謀だったんだ。私は命 |
| を狙われ、こんな顔にされて、彼女と会えなくなった。ユンエンは心の病に |
| ・・地獄だった。死ぬより辛い日々だった。お前らは同じように、ウェイチ |
| ンまで不幸にする気か。悲劇はたくさんだ。二度と許さない・・・。客席の |
| 皆!!本当の人殺しは、ツァイ親子だ! |
| マ− | (縛られたツァイが天井から吊るされる)ほらよ! |
| ツァイ | あ−! |
| ツァイ | 僕のせいじゃない。悪いのは父さんだ!白状しろ! |
| ツァイ父親 | バカ!黙るんだ。 |
| ツァイ | あの時、タンピンの顔に硫酸をかけ、劇場に火をつけろって用心棒達に言っ |
| ているの、知ってるぞ!白状しろ! |
| ツァイ | 余計な事を言うんじゃない。おい、署長。早くウエイチンを逮捕しろ。 |
| 座長 | 警察署長。この街は、悪人の指示に従うのですか? |
| みんな | そうだぞ!どうなんだ! |
| 署長 | 安心しろ。私は法の指示に従う人間だ。(ツァイ親子に)観念しろ! |
| ツァイ父親 | 恩知らずめ。誰のお蔭で出世できたと思ってるんだ! |
| [署長とマ−で二人を連れてハケる。 |
| みんな喜ぶ。ウェイチンとランティエ抱き合って喜ぶ] |
| ウェイチン | 先生!(見るがもういない)・・・先生、今度こそユンエンを幸せにしてあ |
| げてください。 |
| 座長 | さ、みんな開演の準備だ。 |
| (ハケる)暗転 |
| [オ−プニングと同じく、マ−が蝋燭を持って劇場に入って来る] |
| マ− | (客席を見渡して)ああ、皆さん。またお出ででしたか。あの劇団が去って |
| この劇場もいつぞやの様な静寂さを取り戻しましたからね。私も随分歳をと |
| ったでしょう?この前お会いしたときから、もう十年になりますから。 |
| 皆さんは、幸か不幸かまったくお変わりになってない。あの時のままだ。 |
| そうだ、覚えておられますか?ソンタンピンとユンエンという恋人の事。あ |
| の日二人は遠くのどこかへ行ってしまいました。もうこの街の人誰も二人の |
| 居場所は知りません。しかし何処からか噂が流れてきました。ユンエンが死 |
| んだ。二人がいなくなって丁度一年後の事です。傍らにはソンタンピンがず |
| っと添っていたそうです。結局ユンエンの目に光りがさす事はなかったが、 |
| その死に顔は幸福そうだった、と聞きました。そして何年経った後に、ソン |
| ・タンピンも他界したという噂が流れてきました。その死はユンエンとは裏 |
| 腹に一人寂しく誰にも死に目を見取られる事なく、寝台の上で亡くなってい |
| たと言うことです。しかし、タンピンもユンエンも人生で一番幸福な日々だっ |
| た事でしょう。 |
| そういえばこの劇場、取り壊される事になりましたよ。ソンタンピンの再来 |
| と言われたウェイチンと言う役者がこの土地を買って、また劇場を建てるのだ |
| そうです。そうなると皆さんともお別れです。私もこの劇場を去ろうと |
| 思います。ここには思い出が多すぎる。年老いた体では支えれません。 |
| さて、それでは皆さん。機会があればまたお会いいたしましょう。もっとも |
| 今度は、私も皆さんと同じ客席にいるかもしれませんね。 |
| そうそう・・・・ソンタンピンですが。死んだ時、その手にこれを持って |
| いたそうです。(オルゴ−ルを置いて去る) |