PDFヴァージョンはこちら。そのまま印刷して脚本としてご利用いただけます。

プライドハート


脚本 凛子(Rinz)


登場人物
  音川 苗子
  早乙女 金次郎
  藤堂 宏人
    ・
  友達  ユウ
      カエデ
    ・
  早乙女の仲間 権太郎
         ルイ

プロローグ

早乙女私は夢に生きる者、人でもあるようで、人ではなし。
権太郎例えば影のような存在。
ルイ情を持つ影、温かさを持つ影。
早乙女それでいて冷酷な影、見下した影。
権太郎強さの中の弱さ、広さの中の狭さ。
ルイ埋めて差し上げるのが私の使命。
早乙女そう、あなたはもうすぐ死ぬのだから。
権太郎夢の世界の使い人、最後の夢ならかなえましょう。
ルイ死のキーワードを口にするまで。
早乙女私には聞こえる、あなたの呼び声が。
ルイ今日も行こう、あなたの元へ
権太郎今すぐに
ルイ今すぐに
早乙女今すぐに




ACT1  三人娘
 [軽い女の子三人のはしゃぎ。思いっきりはしゃいで]
ユウねえ、聞いたぁ?ゆり子の彼氏って、超おナルなんだってぇ。
カエデおまる?
苗子おまるじゃないわよ、彼氏がおまるでどうすんのよ。おナルよおナル、ナルシストの事。
カエデふうん、で、おナルがどうしたって?
ユウはたから見るとね、その彼氏がゆり子をないがしろにしてる様に見えて、かわいそうって感じなんだけど、な
んかそう言う所がいいみたいよ彼女。
苗子で、そんなにカッコイイの?その彼氏。
ユウそれがぁ、味男らしいのよ。
カエデ味の素?
苗子味男!見てくれじゃない男って事よ。でも、おナルじゃ味も何もないんじゃない?
ユウて言うかぁ、ゆり子が自分でそう言ったらしいわよ。
カエデうわぁって感じよね。
苗子勘違いしてるう。でもでも、勘違いヤローでも、好きな人がいていいわよね。私も彼氏ほしいーみたいな。
ユウそうよねぇ
カエデハァって感じ・・・・
ユウこれでもね、あたしって結構付き合った事あんのよ。そうねえ、秀人君でしょ、雅也君でしょ、伸二くんでし
ょ、石川くんに松井君にあきら君に、孝君に、正明君に・・・
カエデ土屋君でしょ、元ちゃんでしょ、織田君にこうじ君でしょ、シバくんでしょ正樹君でしょ、広瀬君。あんたの
お下がりばっかりだわよ私は。
ユウあんたあたし押しつけたのと全部と付き合ったワケ、信じらんない。
苗子いいわね−、いっぱいいてぇ。
ユウでもでも、苗子って口でしょっちゅう『彼氏がほしい』って言ってるクセに、紹介しても付き合わないし、浮
いた話も聞かないわよね?
苗子えー、だってぇ。
カエデだって何よ、苗子ってどういう男が好きなのよ。
苗子えー、身長百七十センチ以上で、デブじゃなくって骨川筋男じゃなくって、頭がちっさくって、優しくて、お
もしろくって、年収5〇〇万円ぐらいの人!
ユウ・カエデキァァァ!(突然白ける)
ユウどんな人よ・・・。
カエデそれだけそろってる人を見てみたいわ。
ユウあっちにいるかしら?こっちにいるかしら・・・・いないいない。
苗子いいわよ、明日っから気合入れてマジで探すんだから!
カエデそうね。アッシーでもネッシーでもヨッシーでも・・・イッシーてのもいたわよね。
苗子いたわよね──!
ユウ 違う違う、何言ってんのよ!(呆れて、遠くの見る)アアアアーッ!イイ男!
カエデえっ?えっ?ドコドコドコ!
ユウちょっ、ちょっと!こういう時だけ早いんだから・・・抜け駆けは許さないわよ!カエデ── !
苗子裏切り者ォォォォォ!(台詞に被せて暗転)



ACT2 苗子の部屋
(中で早乙女が誰もいない部屋を見渡している)
苗子もう、どうして帰りがけにナンパされなきゃいけないの?あの二人。それも私がちょっと離れてる時に・・・
・超サイテ−。何よって感じぃ。(ドアを開けて家に入る)ただいま。
早乙女あ、お帰りなさいませ。
苗子て、言っても一人ぐらしなんだから、返事があるわけないか。こういう時にお気にの子とかが『やあ、おかえ
り。遅かったね』なーんとかいっちゃって『ううん、お友達とちょっと』て、言って『そうか、メシ出来てる
から、冷めないうちに食べろよ』やっだー!もう!これじゃあ同棲じゃないのよ。もう苗子ったら幸せ者!
早乙女に気付く苗子
早乙女やあ、始めまして。
苗子──────── 誰よあんた!泥棒、泥棒ね。助けて殺されるう!ちょっと御近所さん!ここに泥棒が!強
盗が!人殺しがああああ!
早乙女わー!わー!どうしたらそこまで話しが行くんだ!違うんだよ。落ち着いて、落ち着いて、落ち着いて。
苗子落ち着くのね、落ち着いて、落ち着いて(落ち着く)
早乙女落ち着いた?落ち着いたね。
苗子落ち着いたわよ。そうよ、110番すれば・・・・
早乙女ちょっと待って!話を聞いて下さい、私は人ではありません。
苗子───── 人じゃない?(すっかり落ち着く)幽霊!ユウレイだわ、ギボアイコ、織田ムドウ、前田ワケイ
!近づかないで、幽霊がうつるぅぅぅ!
早乙女だから、落ち着いて下さい!私は夢の世界から来た者です!
苗子夢の・・・世界? 
早乙女はい、突然こんなイイ男がこんな汚い部屋にいたのですからびっくりなさったでしょうが、私はあなたの夢の
お手伝いをしようと思いまして。
苗子・・・・とりあえず、その話を信じるとしてよ。夢のお手伝いってなにすんの?
早乙女あなたの願望を現実にするのです。
苗子マジぃ?
早乙女マジぃです。
[しばらく不信気に早乙女を見る。早乙女は好感の持てるリアクションをして下さい]
苗子いいわ、信じてあげる。
早乙女いやぁ、ありがとうございます。と言う事で、当分はここで御厄介になりますので、どうぞお構いなく。
苗子ちょ、ちょっと、なにが『と言うことで・・』よ!御近所って怖いのよ!変な噂がたったらどうすんの!お嫁
に行けなくなっちゃうじゃない。
早乙女御心配には及びません、近所にはあなたの兄と言う事にしてあります。
苗子 兄妹関係?あんたと私がぁ?
早乙女はい、そっくりじゃありませんか(にっこり)それでは、お嬢さん。
苗子苗子よ、音川苗子。
早乙女ああ、苗子さん、あなたの夢はなんですか?
苗子夢ぇ?夢ねえ(長く考える)やっぱ彼氏が欲しいな・・・みたいな。
早乙女彼氏・・・ですか?
苗子いくらなんでも、ムリよね、人に頼む事じゃないし、自分で見つけろって。どうせ私には自分からどうこうな
んて事できないわよ。放っといてよね!
早乙女あなた、おもしろい人ですねぇ(しみじみ)。いやいや、本当にいいんですか?その夢で。
苗子え?え?叶うの?マジマジ?
早乙女ええ、やれない事はありませんが。その夢を叶えてしまうと・・・・
苗子(すでに聞いてない)ラッキィ!とうとう私にも彼が・・・・カッコイイのにしてね。背は高いにこした事は
ないわ。車は二台以上持ってて、別荘なんかがオーストラリアにあって、でっかいプールとかでっかい池があ
って、そこに金魚を一匹だけ飼うの!名前もカッコイイのにしてね。鈴木とか佐藤とかありきたりの名前は止
してよ。あ、そうよ、肝心のあんたの名前なんて言うの?
早乙女早乙女─────
苗子何よ、人間じゃないの、それも日本人。
早乙女いえ!降りて来る場所によって名前は違います。これは日本人用の名前でして、他にもアメリカ用や、ドイツ
用。ユーゴスラビア用に、今話題のカンボジア用なんかがあります。個人的にはパプアニューギニア用が好き
なんですがね。
苗子でもまあ、早乙女ってのは悪くない名前ね。早乙女なんて言うの?
早乙女早乙女 金次郎です。  
苗子あダサイ・・・金次郎?・・ダサすぎる・・・。
早乙女早乙女 金次郎・・ダサイ。
苗子ちょっと・・・・ユウジロウ、コウジロウなら・・・金次郎?・・あダサイ。
早乙女あー、ダサイダサイ─── 。(コロッと態度を変えて)それでは夜も遅い事ですし、私はこれで休ませて頂
きます。お休みなさい。
苗子ちょっとー、あんた私と同じ部屋で寝る気?
早乙女いいじゃないですか、兄妹なんですから・・・・。
苗子冗談じゃないわよ。ほらあっち、ベランダで寝てちょーだい。(蹴って追い出す)
早乙女ベランダですか?せめて、トイレぐらいに───── 。
苗子ダメよ、夜トイレに行けなくなるじゃない。ほら、さっさと出てよね。


ACT3 行動開始!彼氏登場
[待ち合わせ場所・ユウとカエデがイライラしながら待っている。
少し離れた高い所で、権太郎とルイが様子を見ている。人間の目には見えていない]
カエデ苗子遅いねー。
ユウ何やってんかしら。
(早乙女、苗子入って来る)
苗子あーあ、ちょっとその名前嫌よ私。ユウとカエデに馬鹿にされるわ。
早乙女どうしろって、言うんです?
苗子名前変えなさいよ。何かほらカッコイイのないの?
早乙女権太郎ってのはどうです?友達の名前なんだけど、この際借りても─── 
苗子ダッサーイ、あんたにはネーミングセンスって物がないの!(二人を見つけるとコロッと態度が変わる)ゴメ
ンねー、待ったぁ?
カエデ(苗子の横に、不信な男を見つける)苗子、誰その人?
苗子う、うん(チラッと嫌そうに見て)私の、お兄ちゃん。
カエデ・ユウエエエ──ッ!うっそー、苗子にお兄さんがいたのぉ。信じらんなーい。
早乙女金次郎と申します。いつも妹が御世話になっております。
カエデキンタロウ?
苗子金次郎ですぅ。
カエデ[同時に内緒話しの様に]
ユウ 金次郎だって、超ダサァ(ケラケラ)
苗子 どうしてあれほど名前を変えろって言ったのに!
早乙女 いろいろ考えたのだが、つい口走ってしまって・・・
[カエデとユウが早乙女の品定めを始める]
ユウところで金次郎さんは、今フリーですか?
早乙女ええ、まあ今は・・・。
カエデ彼女とかぁいたんですか?
早乙女ええ、夢の世界の方で・・(苗子慌てて止める、殴ってもいいかもしれない)
苗子夢に出るほど好きだった人がいたのよね、ね?
ユウお仕事は?
早乙女夢をかなえる事です。
カエデ年収はどのくらいですかぁ。
早乙女年という物はないので分かりかねますが、一回ごとに人の魂を三十個ほど。
ユウ車は何に?
早乙女いつもは空を飛べますので車など・・。
カエデどんな女性がタイプですかぁ?
早乙女肉体がない方が・・・
苗子お願いだから、これ以上こいつを喋らせないで!
ユウ・カエデ苗子のお兄さんって、おもしろーい。シブーイ。
早乙女あなた達の会話って、よく意味が分かりませんね。
苗子早乙女さんが、わかんなくしてんでしょ!
ユウ(気付いた様に) あ、いっけなーい。約束の時間忘れてた──。
カエデあー、ホントだー。
苗子何?誰かと待ち合わせ?
カエデこの前の彼とね、どぇーとよ、どぇーと。
ユウと、言う訳で帰らせてもらうわ。お兄さんもまた今度。
カエデ苗子じゃね、バイビー。
苗子バイバーイ。(早乙女と顔を見合わせて)はあ、いい加減なもんね。あれだけ早乙女さんの石高聞きあさっと
いて、彼が待ってるからバイビー・・だって。
早乙女あなたの彼もすぐに現れますよ。
苗子えー?
早乙女(ちょっと振り返って)ちょっと、失礼。トイレに行って来ます。
苗子うん、行って来れば!



ACT4 夢の使い人の使命
   (席を外す早乙女、ルイと権太郎のいる所へ行く。ここから先は上下同時進行)
 『早乙女・ルイ・権太郎『苗子』
権太郎よう早乙女。どうやら今回の仕事はすぐ
に終わりそうだな。(早乙女がいなくなって、近くの椅子に座る)
早乙女ああ──── 
ルイこっちは出来るだけ多くの願いを聞いて
やろうってのに。運が悪いって言うかさ。
頭が悪いって言うか。
早乙女頭は悪いと・・・思う。
ルイ顔も悪いしねぇ。(しみじみ)
早乙女・権太郎人の事言えるのかよ!(おしぼりで顔を拭く苗子。)
ルイあの女よりは自信持っちゃうよ、私。ほ
ら、おしぼりで顔拭いてるし。もう何て
言うか、存在自体が下品じゃない。
早乙女まあ、調べた所、この歳になるまでに関
わった男が、三・・・いや二・・・いや
いや一人・・・。とにかくモテなかった
訳だ。(気張る)
権太郎おっ、彼氏の影がお出ましだぜ。[藤堂宏人登場]
ルイ(向こうの様子を見ながら)うわぁ、何
だか手の早そうな男だね。
早乙女そうか───?
苗子えっ?えっ?早乙女さーん、早乙女さーん(探すがいな
い)。え、はい、どどどどうぞ!
権太郎ま、でも良かったじゃねえか。これで千
人の人間を一度の失敗もなく、こっちの
世に送る事になるんだぜ。
ルイお前の目指していた上層部への扉が開か
れたって訳だ。
早乙女いや、まだこの仕事は終わった訳じゃな
 いじゃないか。
権太郎(笑い飛ばす様に)何言ってんだよ。
[向こうの様子を見る]苗子はい!ここここ、こちらこそよろしくお願いします。
ルイ(重々しく)もう決まりさ。



ACT5 幸せな妹
 [早乙女・権太郎・ルイ。それぞれ台に座って、下で藤堂と遊んでる苗子を見下ろす。ポテチでも食いながら。
夢の使い人の喋る声は苗子には聞こえない。]
早乙女名前は藤堂宏人。二十代にして年収1000万ぐらい。車は真っ赤なポルシェと白のトゥディ
権太郎白いトゥディ?そんなのあったか?
ルイあった・・・よね。たしか・・・・。
権太郎でもよー、真っ赤なポルシェはまだいいとしても、白のトゥディってのは、ちょっとなぁ。
早乙女そうか?別にいいと思うけど。
権太郎オレなら、レインボーでメタルの軽トラ!これだよ。
早乙女┌ちょとなあ・・・・。
ルイ └ちょっとねえ。
早乙女まあ、車の事は置いといてだな。将来出世間違いなしで、会社内の女の子の中でも人気が高い・・って事にし
たよ。
ルイへえ。これまた随分頑張ったねえ、苦労したろ?ここまでいい細工をさせる為にはさ。
早乙女なに、元々はただの夢なんだから、いくらでも操作できるだろう。
権太郎力はいっちゃってるんだろう、記念すべき千回目だもんな。
ルイなるほどね、この子にしてみれば、不運のどん底のそのまた深い底へ落ちてく事になるのにねえ。早乙女も罪
な奴だよ。
早乙女そんなんじゃないさ。
苗子キャァ!宏人さんったら、まだ早すぎるぅぅぅ!あーだ、こーだ───
権太郎(感心して)それにしても、仲がいいこって。お兄さんとしては、焼けるかぁ?
早乙女なに、言ってんだよ・・・・。
ルイおいおいおい、こりゃまんざらでもなさそうだぜ。
早乙女・・・・・・帰る。(後ろの台の裏に引っ込む)
権太郎お、おい!
ルイちょっと、待ちなよ。
(後を追う)


ACT6 揺れる心・早乙女決断
 [早乙女の心内。苗子が宏人と幸せにしている様を見ながら、早乙女の自信に満ちた気持ち]
早乙女彼はたしかにエリートである。彼だけでなく、彼の実家も資産家でほしい時にほしいだけの金を持つ男である
金の事に糸目はつけない。外国生活の長かった彼は、女性を大切にする事も知っている。車に乗る時、食事
の時、怪しげな所に至まで、徹底して彼女を大切に扱った。まさに何百分の一の確立であろう男を彼女に与えた
のだ。彼女はいつも帰って来ると私に言う、『もー、宏人さんったらすっごくすっごくおもしろくってぇ、あっ
たしお腹がヤメローって感じだったのよぉ。 今って不景気なんでしょ?なのに彼ったら一見お断りの店とかぁ、
イタメシとかぁよく分かんないけど高そーな店に行くのよ、全部おごりで。これってみーんな早乙女さんの御陰
みたいなぁ』半分は意味がわからない。しかし、いつも楽しそうで幸せそうである。私も満足できる仕上がりだ。
しかし、彼女は知らないだろう。彼が世界で五本の指に入るほどあきっぽい男だと・・・。
今は知らないほうがいい、後のショックは、大きくなくては。今の内に離れられなくなる、忘れられなくなる。
しかし私は・・。一週間・・・・二週間・・・・三週間・・・・・そして、一カ月。



苗子の部屋・その日
 [いつものように帰ってくる苗子。いつものように迎える早乙女]
苗子(元気がない)ただいまぁ・・・。
早乙女お帰りなさいませ。今日は早かったですね、お食事はして来なかったんですか?もし何だったら、サボテンの
炊き込み御飯作っておきましたから、どうぞ。
苗子ふえ〜ん!
早乙女あ、あの・・・?もしかして、サボテンはお好きじゃなかったとか・・・。
苗子自殺するっ!もう生きていけな〜い!
早乙女ええ!?
苗子今日もね、彼と会ういつもの店に行ったの。絶対遅れてきた来たりしない宏人さんが、今日はぜんぜんこなく
って。それでも私二時間待ったのよ。そうしたらやっとあの人来て、座るやいなや『好きな人出来たんだ。だ
から別れような』って、コーヒー飲んで・・・・はい、終わり。
早乙女(独り言で)そうか、今日だったんだ・・・・。
苗子何か、服も靴も口も真っ赤っ赤な女の人が、宏人さんに手ぇ振ってて、彼ったらそっちの方に行っちゃって、
そう!私、二人分のコーヒー代払ったのよ!
早乙女・・・はあ。
苗子冗談だと思ったから、宏人さんの家に電話したの。そしたらね、めちゃめちゃ冷たい言い方で『あなた、誰で
すか?』だってぇ。
早乙女(独り言で)しかし、私の筋書きでは、この人は・・・。
苗子もう生きていけなーい、自殺する!そうだあそこなら死ねるかも・・・・(立つ)
早乙女ちょっと待って、どうしてここに戻って来たの?
苗子え?・・だって早乙女さんがいると思ったから・・・。
早乙女私・・・・が?
苗子いつも報告してたじゃない。今日御飯おいしかったよ、宏人さんって優しい人だよ・・・って。報告してたじ
ゃない。・・・・・本当のお兄ちゃんみたいに思っちゃってたのね。
早乙女え・・・。
苗子早乙女さんのお兄ちゃん・・・結構嫌いじゃなかったよ。いろいろありがとう、死んだら、早乙女さんのいる
世界に行けるのかな・・・(出てく)
[複雑な気持ちの早乙女。苗子と出会ってからの事を思い出し・・・決心して、部屋を後にする]



ACT7 自殺する!・そして二人は
 [どこかのビルの屋上もしくは連絡通路・この様子も離れた所からルイと権太郎が見ている]
苗子単純だと思われるかもしれないけど、こうでもしなきゃ彼への思い忘れられないのよ。顔も
よくないし、頭も悪いし、世の中なめ切ったような人間にしか見えないだろうけど、あたし
はあたしなりに一生懸命生きて来たつもり。自分の行動に自信があったわ。自分から恋をし
ようと思わなかったのは、そんな自信が崩れるのが怖かったからよ。自分が選んだ人間に、
間違いがあるのが怖かったの。いつもうわべの付き合いで、彼氏がほしいなんて言ってたけ
ど、早乙女さんが本当にかなえるなんて思わなかった・・・・・・・。
自分のケリは自分でつけなきゃ・・・・。

[飛び下りる寸前。カエデとユウが飛びついて止める]

ユウ苗子!
カエデきゃあ!やめてよ!
苗子(びっくりして)ユウ、カエデ!?
ユウなに考えてるのよ!
カエデ死んだら、死んだらどうすんのよ!
苗子離して、あたし死ぬんだから。
ユウ死ぬなんて言わないで。一カ月前に出会った男の為に、どうして終わらなきゃいけないの。
苗子あたしにはズーッと昔からいた様な気がしたわ。一生に一度の様な気がしたわ。もう終わりなのよ、恋も人生
も───── 
カエデじゃ、あたし達は何?一緒に御飯食べたり、噂話したりしたのは何?あんたにとってはただの通りすがりの物
だったの?死ぬ前に相談も出来ない様な物だったの?
苗子え・・・・。
ユウたった一回はずれクジ引かされただけで何よ。
カエデそうよ、あたし達なんて、何回はずれクジ引かされた事か。どうしてもっと前向きに考えられないのよ。
ユウあたし達今までなんで世の中を軽く歩いて来たと思ってるの?世の中には深く考えちゃいけない事とか、知ら
なくてもいい事とか沢山あるからでしょ?
カエデ特にこう言う恋なんかわね、一番楽にいかなきゃ持たないものなのよ。また探せばいいじゃない、苗子だった
ら、きっと大丈夫だよ。
苗子ユウ・・・カエデ。ふえーん。
ユウよしよし、やっと分かってくれたか。
カエデもう死のうなんて、考えないでね。

ルイあれあれ、あの子生きちゃったぜ。早乙女でも失敗する事があるんだね。
権太郎千回無失敗がいかに難しいかって事だな。

苗子でも、どうしてここにあたしがいる事が分かったの?
ユウそれが、ねえ。
カエデうん、あんたのお兄さんが教えてくれたの。
苗子え・・・
権太郎・ルイえ!?
ユウそれが変なのよ、どう考えても人が登れそうにない所に金次郎さんいてね。すっごく冷徹な顔で『苗子を救っ
てほしい・・』って、苗子の事言ったの。
苗子早乙女さんが?
カエデねえ、金次郎さんって、本当に苗子のお兄さん?あたし会った時から思っていたんだけど。
ユウうん思った。ほら兄妹ていっても、兄弟愛の表現っていろいろあるじゃない。いっくら仲の悪い兄弟でも、二
人でいて自然じゃない。あんた達にはそれがなかったよ。
苗子・・・・そうよ、そうよね。あって一箇月の兄貴じゃ、無理だよね。
カエデ苗子?
苗子うん、実はね─── 
[早乙女の素性を話す。ユウ、カエデも驚いたような信じらんなーい と言う身振り。その間、以降の台詞及び芝居
をかぶせる。] 

権太郎早乙女が・・・・そんなはずはない。
ルイあいつが他人の仕事を手伝って、そのミスの穴埋めをする事はあるが。自分から仕事失敗させるなんて。
権太郎それにあいつには、築き上げてきた実績の最後を飾る仕事だったんだ。これが成功すれば、全てがいい方へ向
かったのに。
ルイそれだけじゃない。死ぬ人間を故意に生かせたりする事は、重罪だ。あいつがそれを知らないハズはない。
権太郎そうだ、あいつらが嘘をついてるんだ。
ルイそうに決まってるさ。(下界に下りて、三人の所へ行く)おい、そこのバカ三人!
[突然姿を見せた二人にびっくりする]
ユウきゃあ!な、なによ誰よ!
権太郎お前らいくら脳が足りないと言っても言っていい冗談と悪い冗談があるんだぞ。早乙女がその女を救うワケが
ないじゃないか。
ユウ間違いないわよ。早乙女さん?これでも一度見た男を見間違えた事ないのよ!
カエデそうよ、絶対、絶対あれは早乙女さんよ。明日のお昼御飯かけてもいいわよ。
ユウえ?え?何おごってくれるの?
カエデ学食のカレーライスなんてどう?
ユウえー、私あそこの食べておなかこわしたからパス。
カエデそうなのー?
ルイあいつがそんな事をするハズがない!いいか、音川苗子、お前はここで死ななければならなかったんだ。
苗子・・・・・なによそれ・・。
権太郎私達は夢の世界から、人の最後の願いをかなえる為に降りてくる者。
ルイ人にはある願いが、死ぬキーワードになる。それがかなった時、その人間は死ぬ。
権太郎お前達も知ってるだろう。兄弟がみんな集まった後に死ぬ者、いつも蒲団に寝てばかりだった者がいきなり仕
事をしていて行ってしまったり、おいしい物をたらふく食べた後にしんでしまう者。これらはみんな最後の願
いとして、我々の仲間がかなえているものなのだ。
早乙女あなたの場合、彼氏がほしいと言う願いが、死のキーワードだった。その願いがかなえられた一箇月後。彼氏
を失ったあなたは、ショックに耐え切れずこの連絡通路から飛び下りて死ぬ・・・そういうはずだったんです
苗子・・・・・早乙女さん!
権太郎早乙女!お前本気なのか?本気でこんな女の為に・・・・!
ルイお前の目指していた上層部への道が閉ざされる事になるんだよ。
権太郎それに、死ぬべき人間をお前の力で生かせてしまう事が、どれほどの重罪か知らない事はないハズだ。
早乙女分かってるよ。
ユウあたしにはよく分かんないけど、とにかく逃げよう。
カエデそうだよ、苗子早く。
[苗子をつれて逃げようとする]
権太郎とにかくあの子は死ななくては、いけないんだ。
ルイお前ができないんなら、私達がやってやる。
[苗子を殺そうと権太郎とルイが飛び出そうとする]
苗子  ┌ちょっと待って!
早乙女 └待てよ!
[苗子と早乙女以外の動きが止まる]
苗子ねえ、早乙女さん。あたしはここで死ぬ事になってたんでしょう?それってあたしの寿命ってヤツで、もう決
まった事で、避けられない事なんだよね。夢の世界でどうなっちゃうの?頭悪いから考えつかないんだけど、
死なないといけない人間が生きてて、それを助けてくれた早乙女さんが悪くなっちゃうなんて、変だよね。
あたし、死んでもいいよ?
早乙女今まで私は九九九人の願いをかなえ、それが死んでいくのを見た。私の送った人達は皆、幸福の中で死んでい
った人ばかりで、私もこの仕事が良い為の事と信じていました。でもあなたは違った。私はあなたが悲しみの
中に幸福を見つけて死んで行くものと、信じていた。あなたがこの一箇月、毎日毎日私に彼氏の話をしていた
時(表情で訴える)、そしてさっきあなたが部屋で言った時、今。あなたはもっともっと幸せになるべき人だ。
まだ死んではいけない人なのです。これは、誰にも譲れません。
苗子あたしは今まで好き勝手に生きて来たわ。
早乙女私は人に夢をかなえて差し上げる事を生き甲斐として生きて来ました。
苗子これからも、きっと面白くなくて無意味な生き方をするわ。
早乙女これからは、人間をもっとよく知りたい。たとえ夢の世界から消されても。
苗子早乙女さんは、いいお兄ちゃんだった。
早乙女あなたは、それを気付かせてくれた人だった。
苗子だからあたし、本当に死んでもいいよ。ホントの最後の夢をかなえてくれるなら。
早乙女もしかしたら、あなたに生きてほしいって願いは、私の死のキーワードだったのかも知れませんね。
苗子早乙女さんが、本当のお兄さんになってくれる・・・・。
[早乙女と苗子それぞれ自分の友人の方へ向き直る。丁度背中を向け合う状態]

早乙女さて、2人共。オレはどんな罰でも受けに、夢の世界へ帰ろうと思うのだが。
権太郎・・・・・・付き合う以外、方法はないか!
ルイあたし言い訳なら得意。
早乙女アテにしてるよ(微笑)。

ユウ苗子、今度は自分で男見つけるんだよ。自分で自信を持って、見つけるんだよ。
カエデ見つけるまでなら、あたし達も協力するからね。
苗子うん、ありがとう。
[お互い振り返って、カッコよく]
早乙女それじゃ、いつか、な。
苗子うん、またね。


[それぞれの運命に向かって去ってゆく]


エンディング
権太郎あなたは、これはハッピーエンドだと感じますか?ジ・エンドだと感じますか?
ユウあなたは、誰が悪くて、誰が正義だと思いますか?
ルイあなたは、誰の心が一番分かりますか?
権太郎私は友として、早乙女を失いたくなかった。
カエデ私は友として、苗子を失いたくなかった。
ルイ私は早乙女の為に、苗子を憎む。
ユウ私は苗子を殺そうとした早乙女が、憎い。
カエデあなたの心はあなたのものでしか無いように、それはあなたが感じたまま、あなたが思ったまま、あなたの心
が決めて下さい。
権太郎それが、このお話の結末なのです。
ルイよかったと感じたのなら、これは良いお話なのです。
カエデ悲しいと思ったのなら、これは悲しいお話だったのです。
ユウこれが、このお話の結末なのです。
ルイそう、本当の・・・
権太郎そう、あなただけの・・・・
                                                 END
脚本ページへ戻る