| | [この世の終わり。舞台の真ん中には、二本の剣の刺さった台がある。] |
| 剣 | (飛び出して来る)とうとう来たわ。近くて遠かった、この日が。・・・不思 |
| | 議ね、分かっていた事なのに・・・分かっていた事なのに、どうしてこんなに |
| | 体が震えるのかしら。どうしてこんなに苦しいのかしら。 |
| 幼夕貴 | (飛び出して来る)母上! |
| 幼孔杞 | (飛び出して来る)母上! (二人とも剣に抱きつく) |
| 剣 | 優しく)夕貴、孔杞。どうしました。 |
| 幼夕貴 | 母上。何この音・・・何この揺れ。 |
| 幼孔杞 | 怖いよ・・・母上。 |
| 剣 | これはね・・・、輪廻の道が崩れてゆく音よ・・・。 |
| 幼孔杞 | 輪廻の道・・? |
| 剣 | 人が生きて、死ぬでしょ・・・?そしてまた生きる為に通る道。その道が崩れ |
| | てゆく音なのよ。 |
| 幼夕貴 | 崩れちゃったら、人は死んだら次に生きる事はできなくなっちゃうよ?死んだ |
| | ら死んだままになっちゃうよ? |
| 剣 | そうよ・・・、死んだら死んだまま、もう生きる事はないの。この世界が・・ |
| | ・滅んでしまうからね。 |
| 幼孔杞 | どうして・・・、どうして滅ぶの?どうして?怖い・・・怖いよ! |
| 剣 | 大丈夫、大丈夫よ。母さんがあなた達を守ってるわ。さあ、顔を見せて(孔杞 |
| | の頬へ触れる)孔杞、男の子がそんなに泣いてばかりじゃ駄目よ。もっと強く |
| | なりなさい。(夕貴の頬に触れて)夕貴、あなたは強い子ね。私とよく似てる |
| | わ。でもね、女の子なんだからもっとかわいくなさい。(二人を抱き締めて) |
| | そう・・・大丈夫だからね。─── 誰か! |
| | [側近二人がそれぞれ上手、下手から出てくる。] |
| 側近A | 剣様! |
| 剣 | 状況は? |
| 側近B | はい、ほとんどの道はすでにあちらの世側から崩れ去って来ております。 |
| 側近A | あと少しで・・・ここも終わりかと。 |
| 剣 | そう・・・。 |
| 幼夕貴 | (心配そうに)母上? |
| 剣 | 夕貴・・・孔杞。これをお持ちなさい。(後ろの台のから、剣を抜き渡す) |
| | 何かあった時はこれを思い出しなさい。きっと何かの役に立つはずよ。 |
| 幼孔杞 | 母上・・・? |
| 剣 | (うなづく)二人を・・・。 |
| | [側近がそれぞれ一人づつ手を取る。それぞれ下手側、上手側に。] |
| 剣 | 夕貴、孔杞。あなた達はこれから人として生きなさい。人の喜びを知りなさい。 |
| | 人の悲しみを知りなさい。そうしていつか(止める)いいえ、私はずっとこ |
| | こであなた達を守っているから。安心して人間になりなさい。 |
| 幼夕貴 | 母上・・・母上−!嫌、嫌よ−! |
| 幼孔杞 | 僕もここにいる、母上と・・・一緒にいる!ねえ、母上! |
| 剣 | (聞かないように怒鳴る)早く!早く行きなさい!道が崩れてしまうから! |
| 幼夕貴 | 嫌よ!母上ぇー!(側近に強引に連れていかれる) |
| 幼孔杞 | 母上! (同じく) |
| 剣 | ごめんね・・・、またいつか、あなた達がここへ戻ってくる事になっても、人 |
| | として生きる道を選ぶのよ。一度人間になったら、ここでの使命にはとても |
| | じゃないけど耐えられない、だから二度とここには戻って来ないで、人とし |
| | て何も知らないまま生きなさい。最後の道が塞がれた時、私の使命も終わ |
| | るわ。でもね、あなた達の事はずっと・・・どこへ行っても見守ってるわよ。 |
| | 大きな音がして、全てが止まる。 |
| 剣 | 夕貴・・・孔杞・・・・。元気でね。 |
| | [クラブ・みんな楽しそうに踊っている。その中にめい子が入って来る。] |
| めい子 | うわぁ、何ここ?空気悪ーい、それに・・・・こんなに音でっかくしたら、耳 |
| | が壊れちゃうわよ。(踊っている人にぶつかる)ご、ごめんなさい! |
| | (相手は気にもしない)・・・・もう、麻里ちゃんも絵美ちゃんも、どうしてこん |
| | な所で待ち合わせするなんて言ったのよ。それに当の本人達が来てないし・・・。 |
| 店の客 | ねえ君、一人で来たの?さみしいじゃん、一緒に踊らない? |
| めい子 | いえ、いいです。 |
| 店の客 | そんな事いわないで、ほら。(自分の方へ引っ張る) |
| めい子 | いいって言ってるでしょ!放してよ。 |
| 店の客 | 別になんにもしてないだろ、いいじゃん。 |
| めい子 | もう!嫌、帰る! |
| [男物姿の夕貴が二人の間に割り込む。] |
| 夕貴 | おっと・・・、嫌がってる子を強引に捕まえるなんて、いっくらなんでもデリ |
| カシーに欠けますよ。見た所、こういう所に来たのは初めてみたいだし、ごめ |
| んね、怖い思いさせちゃって。お嬢さん、おもいっきり踊ってってね。 |
| 冴子 | (ちょっと外れた場所で)夕貴ー! |
| 夕貴 | はいはい!じゃぁね。 |
| めい子 | ・・・・・かーっこいい・・・・。 |
| [夕貴、ドアを開けて入る、音は小さくなる。] |
| 冴子 | まーったく、またあんた女の子を酔わせちゃって。 |
| 夕貴 | 変な事言うなって。男にからまれてたから、こう、紳士的に助けてあげたんだ |
| | よ。 |
| 冴子 | なーにが紳士よ。どうせ『お嬢さん、怖い思いさせちゃってごめんね』とーっ |
| いわよ? |
| 夕貴 | いいの!どうせ男じゃないんだから。 |
| 冴子 | だったらこんな所で、そんなカッコして働かないの。間違えて下さいって言っ |
| | てるようなもんじゃない。ほら、あの子だって『かーっこいい』って目して、 |
| 夕貴の事見てたわよ。 |
| 夕貴 | だって、ここのバイト割りがいいんだもん。天涯孤独の私としては、一生懸命 |
| 稼がないとやってけないんでございますのよ。ホッホッホッ。 |
| 冴子 | の?わりには随分板についた男っぷりですこと。夕貴君、お酒頂戴(グラスを |
| 差し出す) |
| 夕貴 | はい、奥様(注ぐ)。なんてね。まぁ女ってして生きてると、何かと一人じゃ |
| 生きて行きにくいしさ。こんなカッコしてりゃ、まず変な目で男は寄ってこな |
| いから。 |
| 冴子 | そういうもんかしら。 |
| 夕貴 | 冴子見て思ったんだぜ。 |
| 冴子 | それって、私が男寄せ集めてるって言いたいの? |
| 夕貴 | そうでーす! |
| 冴子 | かっわいくなーい。・・・・でもあんただって、女集めてるんじゃないの。そ |
| ろそろ止めたら、亡くなったお母さん、ホントに泣くよ?あんたに『かわいく |
| なさい』って言い残したって、いつか教えてくれたわよね。 |
| 夕貴 | そう、『夕貴は私に似て強い子だけど、これからは女の子なんだからかわいく |
| なさいね』って・・・・それだけだよ、母さんの思い出ってね。 |
| 冴子 | それも不思議な話ね。顔とか温かさとか覚えてなくて、言葉だけって言うの。 |
| 夕貴 | うん・・・、大きくなるにつれて忘れて行くってのはあるけど、そうじゃない |
| んだよ。始めっから忘れていた気がするんだ。まるで・・・他界したのは母さ |
| んじゃなくて・・・自分のような。 |
| 冴子 | ・・・・・。 |
| 夕貴 | 変な感じ!あーあ、なんか思い出しちゃった。いろいろ昔の事。 |
| 冴子 | そうよね・・・あんた、変よね。親のみならず、兄弟だって親戚だって・・・ |
| ・見たことも聞いた事もないもんね・・・。 |
| 夕貴 | でも不思議、ちっとも一人って気がしない。どっかでいつも、誰かが見守って |
| てくれてるような気がしてさ。・・・・やめよやめよ、こんな話。ほら、大酒飲み |
| の冴子がどうした。明日までにこのボトル開けたらタダなんだから、頑張 |
| って飲んで飲んで。 |
| 冴子 | よっしゃ、見とれよー。(グラスにいっぱいに注いで)はいっ!(一気飲み) |
| 夕貴 | おおー!さっすが冴子ちゃん、はいっ、もう一杯! |
| 冴子 | もうっ!夕貴ったら、飲ませ上手○(どんどん飲む) |
| [めい子が入ってくる。] |
| 夕貴 | 飲んで飲んで飲みまくれよ! |
| めい子 | あのぉ・・・。 |
| 冴子 | 朝は一緒よ!はいっ(飲みまくる) |
| めい子 | あのぉ! |
| 夕貴 | え?・・・はい? |
| めい子 | さっきは・・・どうも、ありがとうございました。 |
| 夕貴 | ・・・ああ、お客に絡まれてた。いや、気にしないでください。 |
| めい子 | (冴子を見て)いいんですか?・・・もう・・すごく酔っちゃってるけど。 |
| 夕貴 | いいのいいの、こうやって酔いつぶしちゃえば、うるさい口も開かずにすむか |
| らね。 |
| めい子 | でも・・・、酔い潰しちゃったら、この人帰れなくなるでしょ? |
| 夕貴 | 私が送りますよ。もうすぐ仕事も終わりますから。 |
| めい子 | ふ・・・・・不潔です! |
| 夕貴 | ええ? |
| めい子 | そんな、女の人酔い潰して・・・そんなそんな・・・。 |
| 夕貴 | あのねー、ちょっと・・・。 |
| 冴子 | 夕貴・・・・朝まで一緒よぉ○(寝る) |
| 夕貴 | 冴子ぉ?寝た寝た・・(残りの酒を飲み干して)ッアー!これでこの酒はタダ |
| ・・と。さて(時計を見て)そろそろ帰ろうかな。 |
| めい子 | 嫌、不潔です!私男の人って怖い人ばっかりだと思ってました。今日だってこ |
| んな空気が悪くって、不健康な電気の所で、男の人から手を掴まれて、泣きた |
| いぐらい怖かったんです。でもそこに、あなたが来てくれて優しく追っ払って慰 |
| めてくれて、すっごくすっごく嬉しかったんです。なのに・・・そんな優し |
| い人が・・・駄目です!そんな不潔な事しちゃ駄目です! |
| 夕貴 | 駄目ですって・・・。 |
| めい子 | 分かりました。この人私が送ります。この人の家を教えて下さい! |
| 夕貴 | あのねぇ! |
| めい子 | (びっくり) |
| 夕貴 | よく聞きな。私はこの人の家でやっかいになってんの。一緒に住んでるんだよ。 |
| だからあんたに冴子だけ送ってもらっても一緒なの。分かる? |
| めい子 | ・・・って、事はあなた、この人と結婚してるんですかぁ! |
| 夕貴 | だぁ・・・だからどうして結婚なんて出来るわけ?住む所がないんだからしょ |
| うがないでしょ。訳わかんねえ奴だなぁ。 |
| めい子 | ・・ふ・・・不潔です。うっ・・うっ・・うえ〜ん!(ハケる) |
| 夕貴 | ちょっと!・・なんなんだ?あの子。 |
| 冴子 | (起きて)あんた、自分が女だって言った? |
| 夕貴 | あっ・・・! |
| 冴子 | いいのかなぁ、あの子そうとうショック受けてるよ。『私を助けてくれた王子 |
| 様が・・・なんてこと!ああ、不潔。あんな、女と、ど・・どどど同棲してる |
| なんてぇぇぇぇ!』 |
| 夕貴 | 自分であんな女なんて言ってりゃ世話ないよ。 |
| 冴子 | あっ、そんな事言ってていいの?女の子傷つけちゃって、惚れ込んでたじゃな |
| い?夕貴にさ。罪なお・ひ・と。 |
| 夕貴 | バッカ言うな。あたしは生きていく為にこういうカッコしてるだけで、正真正 |
| 銘の女なんだからね。こういう事になった方が、面倒臭い弁解しなくて済むの |
| よ。 |
| 冴子 | でも・・あんたの選んだ人生って・・・結構辛いと思うわよ。 |
| 夕貴 | 私もそう思う。 |
| 冴子 | 私としては・・・こんな友達面白いけど・・・ちょっと困るわね。 |
| 夕貴 | どうして? |
| 冴子 | どぁってぇ、あんたと住んでると、女二人暮らしに見られないんですもの。男 |
| が連れ込めないじゃない。 |
| 夕貴 | あんたって、女は!いいよ、じゃ私が出ていけばいいんだろ?分かった、すぐ |
| に出ていったるわ。 |
| 冴子 | ホントー!すぐによ、明日じゅうにでてくわね。 |
| 夕貴 | あの、おい、冗談・・・ |
| 冴子 | (聞いてない)どうせ夕貴の荷物なんてほとんどないんだから、なーんだ簡単 |
| じゃない。そうと決まったらすぐ帰るわよ。ほらっ、支度して! |
| 夕貴 | ごめん!冗談でした。ねえ、冴子ちゃーん許してよぉ。なんでもしますから! |
| ね?ね? |
| 冴子 | ホント?本当になんでもする? |
| 夕貴 | はい、できる事ならなんなりと。 |
| 冴子 | (ニッコリ)すぐに出てって。 |
| 夕貴 | 冴子ちゃーん! |
| [二人ハケる] |
| | [東洋的なシーン] |
| 孔杞 | 未経!未経はおるか! |
| 未経 | ここでございます。どうかなされましたか?孔杞様。 |
| 孔杞 | どういう事だ、ハクトと麗帝が決戦の火蓋を切って落としたそうではないか。 |
| それに奴らはいま戦場をこの国近くに移動しつつあるとの事。未経、お前知っ |
| ておったのだろう? |
| 未経 | ・・・・はい、報告は受けております。 |
| 孔杞 | なぜ言わぬ!なぜその事を私に言わなかった! |
| 未経 | 報告致す必要はないと判断したからでございます。 |
| 孔杞 | 私はこの国の王だぞ。戦火が忍び寄っていると言うのに、王がその事を知らず |
| | して何とする! |
| 未経 | 民はすでに知っております。万が一こちらが戦いに巻き込まれるような事があ |
| った時は、城の裏手に逃げ、砦前でわが兵が迎え撃つ、と民には教えてござい |
| ます。・・・あなたの御命令という事でね。 |
| 孔杞 | 未経・・・・貴様・・・。 |
| 未経 | 孔杞様、言葉をおつつしみなさいませ。これも孔杞様に余計な心配事をかけま |
| いと、側近としての心遣いでございます。これしきの事、貴方様のお手をわずら |
| わす事ではございませぬ。貴方様に報告して、命を受けたとしても、きっと |
| わたくしの判断と変わらぬでしょう?(笑う) |
| 孔杞 | お前・・・お前は、私をなんとする。 |
| 未経 | この国は男が少のうございますからなぁ・・・その上、あなたはわが守り神の |
| お子でございますれば、この国の神と崇めてもよいお方です。粗末に扱う訳に |
| はまいりますまい。 |
| 孔杞 | つまり・・・私は、飾り・・・そう言いたいのだな。 |
| 未経 | 王は男と決まっております。男が王であればそれだけで威厳も保たれますし、 |
| 他国に見くびられる事もございません。それに民も女よりも男の言う事に素直 |
| に従いますしなぁ。 |
| [孔杞、何か言おうとするが、未経に止められる。] |
| 未経 | 私にお任せなさい。悪いようには致しません、あなたはこの国の有能な王。私 |
| はそれにつつましやかに仕える側近でございます。これからもずっとそのお立 |
| 場を、続けさせてあげようと言うのではありませんか。(終始笑顔で) |
| 孔杞 | ・・・・好きにしろ。 |
| 未経 | では、失礼させて頂きます。(ハケる) |
| |
| [しばらく姿を追う。] |
| 孔杞 | 畜生・・・あの女。私の素性を知っているからと・・・、大きく出やがって。 |
| [早太と加月が入って来る。] |
| 早太 | 確かに、男は少ないですからな。 |
| 孔杞 | 早太、加月、どうであった? |
| 加月 | ハクトは麗帝の軍を我が国の近くの谷に、追い詰めております。このままハク |
| トが麗帝の軍勢を負かせば良いのですが、麗帝が反撃できるような体制になる |
| と戦火は我が国を巻き込む物と。 |
| 孔杞 | そうか・・・そんな所まで来ておったのか・・・。未経め。 |
| 加月 | 男と言うだけで持てはやされるのは事実。未経もそこの所を上手く利用したも |
| のですね。 |
| 早太 | 『きゃあ、孔杞様よぅ!いつみても素敵ー』って。オレじゃあそうは行きませ |
| んからね。チビの頃から、食い逃げしたとか、砦の上から落ちたとか、まあその |
| 他いろいろな悪さを住民は知ってるから、孔杞様のような謎の男にはなれな |
| いですから。 |
| 孔杞 | そなたらは言っておれば良いだけだからいいが、私の立場はどうする。表向き |
| の権力者は私だが、実際動かしているのは未経だ。あげくの果てには危機差し |
| | 迫った報告さえ私の耳にも入らないのだ。 |
| 加月 | 確かに、物心ついた時から王となられていた貴方様としては、この女主体のお |
| | 国柄は今一掴みにくいでしょう。 |
| 孔杞 | 男というだけで、こんな目に会うなら、いっそ女に生まれれば良かった。私は |
| | 母を恨みたい。 |
| 早太 | そんな事、言われますな。オレだって孔杞さまの母君を知りませんが、あなた |
| | の記憶の中には、言葉一つの思い出しかない方でございましょう。 |
| 加月 | いつか話してくださいましたね。『孔杞、男の子がそんなに泣いてばかりじゃ |
| | だめよ。もっと強くなりなさい』・・・母の思い出はそれだけだと。 |
| 早太 | (加月に)泣き虫ってのは、言えるよな。もうちっさい頃なんて、『加月が殴 |
| った』『加月が蹴った』『加月がおどかした』『加月が便所に突き落とした』 |
| ってしょっちゅう泣いてたっけ。 |
| 加月 | 私ばっかり苛めてたみたいな言い方しないでよ。 |
| 早太 | お前、嫌な奴だな。 |
| 加月 | こらっ! |
| 孔杞 | そんな事、どうでもいいだろう。ただ私は今この未経のやっている事が、嫌だ |
| | と言ってるんだ。あの者は私をただの飾りとしか見ておらぬ。 |
| 早太 | あなたの御命令と、自分は遣りたい放題。 |
| 加月 | なにか失敗したり、面倒な事が起これば、『王にはもうついて行けません』と |
| 罪や責任を全て孔杞様に被らせるつもりなのでしょうね。 |
| 孔杞 | 余計腹ただしくなってきたぞ。いっそ未経を殺して・・・。 |
| 加月 | そんな事したら、あなたは一生自分の事を知らないままになりますよ。この国 |
| の中で、あなたがどういう所からどういうふうに出現したのか、知っているの |
| は未経ただ一人なのですから。 |
| 孔杞 | なら・・・その事をなんとしてでも知ってから。あの者を討つ! |
| 早太 | 調べましょうか?未経があなたに喋らざるえない事になるような証拠を。 |
| 孔杞 | しかしお前たち、そんな事をして未経に切られはしないか? |
| 加月 | 私達は未経の部下ではなく、あなたの、孔杞様の部下ですよ。お任せ下さい。 |
| 孔杞 | (頷く)頼んだぞ。 |
| 早太・加月 はいっ。(二人ハケる) |
| | [夕貴の夢の中] |
| 幼夕貴 | 母上、どうして人間は死んでからも、この道をまた歩き始めるの? |
| 剣 | 人はいつも何かを追い求めているのよ。肉体の世に生まれてからずっと、富み |
| や権力や、愛とか理想とか・・・。追って追って、追い求めている内にまた死んで |
| しまう。ここに戻ってきた人間の精神は、今度こそ追い求めていた物を掴もうと、 |
| この道を歩き出す。そしてまた肉体の世へ辿りつき、挫折をし、また |
| ここへ戻ってくる。それの繰り返し、繰り返し。 |
| 幼夕貴 | 追い求めている物は、いつか捕まえる事ができる? |
| 剣 | さぁ・・・。生きている時は、捕まえたと思っても、ここへ来た瞬間また物足 |
| りなさを感じる。捕まえたかもしれないし、捕まえなかったかもしれないわ。 |
| 幼夕貴 | 母上は、追い求める物はないの? |
| 剣 | 追い求めるって言うのは、欲しいと思う程自分にとって価値のある物がある時 |
| でしょう。 |
| 幼夕貴 | 自分にとって価値のある物? |
| 剣 | そう、母さんはここであなた達を育てる前から、ここでこの人達がまた生まれ |
| 変われるように見守って来たの。其以外、なにもしてこなかったし、何も知ら |
| ないわ。だから自分にとって捕まえたいと思うほどの価値あるものは知らない |
| のよ。 |
| 幼夕貴 | ・・・・ふうん。 |
| 剣 | (ちょっと笑って)夕貴には、ちょっと分かんないかな。 |
| 幼夕貴 | うん、分かんない。 |
| 剣 | 夕貴にはある?自分が欲しいと思うほどの物。 |
| 幼夕貴 | 母上・・かなぁ。 |
| 剣 | 私? |
| 幼夕貴 | そう、母上になるの。母上みたいに、強くて優しくなるの。 |
| 剣 | そう・・・。夕貴なら捕まえられるわ。 |
| 幼夕貴 | ホント? |
| 剣 | (頷いて)さあ、家へ帰りましょうか。孔杞がすねてるかもね。 |
| [迷いこんで来た死者。剣が近寄って話を聞き、道を教えてあげる。幼夕貴が嬉 |
| しそうに剣の手を掴む。一緒に帰りがけ、横たわっている夕貴を見つける剣。] |
| 剣 | 夕貴。(寝ている夕貴を見つめ少し触れてからハケる) |
| |
| 冴子 | (忙しそうに入って来る)夕貴・・・夕貴! |
| 夕貴 | えっ!(飛び起きる) |
| 冴子 | おはよう、夜のお勤め御苦労さん。もうお昼近くだよ。 |
| 夕貴 | 夢かぁ・・・。 |
| 冴子 | ほらほら、片づかないから起きて起きて。 |
| 夕貴 | お前はかあちゃんか?(着替える為に一時ハケる) |
| 冴子 | ねえ、きのうどうやって帰って来たか覚えてる。店を出た所までは覚えてるん |
| だけど。 |
| 夕貴 | (声だけ)いつもと一緒、私が引きずって帰ったの。 |
| 冴子 | えー、その割りにはすり傷が少ないわ。 |
| 夕貴 | そっか、そういえば途中で誰かが送り届けてくれたような。 |
| 冴子 | 誰よそれ!ちょっと夕貴知らない人なんて言わないでよ。 |
| 夕貴 | 知ってる人だった気もするけど・・・・アレ・・・。 |
| 冴子 | あんたは男だからいいけど、私はまだ『ウブッ』なお嬢さんなんだからね。気 |
| |
| 持ち悪い。 |
| 夕貴 | 誰が男なんだよ。 |
| 冴子 | あら、女がお嫌じゃなかったの?夕貴ちゃん。そうね、あんたはそっち方面は |
| 弱い物ねー。いい?男ってのは怖いのよー。こっちがいくら安心できる人よ、 |
| って思ってても、向こうはそう思ってなくて、体が目的って事があるんだから |
| ねー。知らない人の車なんか乗ったら大変な事になるわよ。 |
| 夕貴 | へえ・・・。でも冴子は、そんな『男』って物が好きなんだろ? |
| 冴子 | それとこれは別よ。 |
| 夕貴 | なんじゃそりゃ。 |
| 『ピンポーン』とチャイム。 |
| 冴子 | ちょ、ちょっと・・・。まさかその車の人じゃないでしょうね。 |
| 夕貴 | さぁ・・、ありえるかもしれない。 |
| 冴子 | 夕貴のせいなんだから、ほらっ、あんた出なさいよ。(押す) |
| 夕貴 | ええっ! |
| 冴子 | 大丈夫よ、夕貴は男だから。 |
| 夕貴 | もう・・・(開ける)はい。 |
| めい子 | こんにちわぁ! |
| 夕貴 | 君は・・・。 |
| 冴子 | ああ・・・。 |
| めい子 | ちょっと、離れて下さい!(夕貴と冴子を引き剥がす)きのうは運転手、なか |
| なか運転上手かったでしょ? |
| 夕貴 | 運転手・・・ああ、じゃあ昨日の車は。 |
| 冴子 | なんだぁ、あなたの車だったの。良かった良かった。 |
| めい子 | あなたはおまけです。夕貴さんが、あなたを引きずってて、大変そうだったか |
| | ら車に乗せてあげたんです。 |
| 冴子 | 引きずられてた私は可愛そうじゃないっていうの? |
| 夕貴 | でも、ありがとう、助かったよ。あっ・・・君の名前は・・えっと。 |
| めい子 | めい子です。浜口めい子です。 |
| 夕貴 | 私は、 |
| めい子 | 夕貴さんでしょ?知ってます。 |
| 冴子 | 私は冴子って言うの。 |
| めい子 | (嫌そうに)知ってます。きのうさんざん夕貴さんが口にしてましたから。 |
| 冴子 | あっそ。 |
| 夕貴 | で、今日はどうしたの? |
| めい子 | 実は・・・ひどいんです。 |
| 冴子 | (夕貴と顔を見合わせ)何が? |
| めい子 | 夕貴さん、車で送った時に、この人の家に住んでいるのは、家がなくって、仕 |
| 方無く住んでるって言ってましたよね? |
| 夕貴 | ・・そんな事言ったっけ?(冴子に)覚えてる? |
| 冴子 | ダメダメ、私酔い潰れてから。 |
| めい子 | だから、父様にその事を話して、夕貴さんを家の空いている部屋に入れてほし |
| いって頼んだら『そんな見ず知らずの、飲み屋の男など飼えるか!』なんて言 |
| ったんですよ。ひどいと思いません! |
| 冴子 | ははーん、お嬢様な訳だ。めい子ちゃんは。 |
| 夕貴 | 『飲み屋の男など飼えるか!』・・・いい表現だな。 |
| めい子 | 今まで父様、私が言った事に反対なんてしなかったんです。だから・・・びっ |
| | くりしちゃったし・・・。こっちも腹が立って来て・・・『父様なんか、もう |
| 嫌い!』って出て来ちゃったの。 |
| 冴子 | 出て来ちゃったの!・・・だってよ、夕貴。 |
| 夕貴 | で?だからどうしてここにいるの? |
| めい子 | ・・・だって夕貴さんに会いたかったから・・・。 |
| 夕貴 | ─────── 分かった。どんな言葉がいい?慰めてほしいんだろ? |
| めい子 | そんな、そんなんじゃ・・・。 |
| 夕貴 | (無感情に)私の為にありがとう。そんなに怒ってないで、君が悪いんじゃな |
| い。君は私の為に頑張ってくれたんだ、その気持ちだけでも嬉しいよ。悲しく |
| なっからいつでもここへ来ればいい、いつでも話を聞いてあげる・・・ |
| めい子 | やめて、止めて下さい! |
| 夕貴 | はみ出した感情を、すぐ人に当てるのはやめた方がいいね。人はすがりつかれ |
| る程、余裕なんて持ってない。どんなに君の身になって相談にのってくれる人が |
| いても、結局他人の傷みなんて分かりゃしないんだ。君みたいにちやほやされ |
| て育った子に分かる訳ないだろうけど、結局すがっていた奴が居なくなった時、 |
| 自分がどれだけ自分の意志と言う物を持っていなかったか、虚しく感じる日が |
| 来るのさ。なぐさめの言葉が欲しいなら、いくらでも言ってやる。ただその言葉に |
| 寄り掛かり、責任を問うのだったら、私はゴメンだよ。 |
| 冴子 | 夕貴・・・それよりもアレ。 |
| 夕貴 | そうだ・・・それから、オレは女だ。 |
| めい子 | えっ? |
| 冴子 | オレって言わないの! |
| 夕貴 | ああ・・つい興奮してたから。 |
| めい子 | (笑って)うそぉ・・・ウソです。 |
| 夕貴 | ホントなんだよ。あれは仕事の為に男の姿の方が都合がいいから。 |
| めい子 | そんな・・・そんな、見え透いたウソ言わないで下さい。いくら私を追っ払い |
| たいからって─── 。 |
| [夕貴がめい子の手を自分の胸に当てる。] |
| 夕貴 | どう、女でしょ? |
| めい子 | (そのまま、飛び出して行く) |
| 冴子 | ちょっと・・・きついよ。 |
| 夕貴 | どっちが? |
| 冴子 | 両方。 |
| 夕貴 | 私・・・ああいう子ダメなんだ。なんか、砂糖水に漬かったアイスクリームっ |
| て感じしない。 |
| 冴子 | そりゃ、気持ち悪いぐらい甘いわ。でもあの言い分、育ち悪かったってより、 |
| 人間の表も裏も知っちゃってるような言い方だったわね。なんだか、私まで叱 |
| られてるようだったわ。 |
| 夕貴 | 冴子は、さんざん人にぶちまけて泣いてわめいて。『そんな事ないわよ、元気 |
| 出して』って雑誌読みながら言ってるだけで『そうよね、なーんだばっかみた |
| い』って勝手に元気になってるたちだよね。ああいうのとは違うと思う。 |
| 冴子 | そうなのか・・・。でもこれで、あの子も夕貴の本性が分かったから、諦める |
| 事が出来たでしょうね。よかったよかった。 |
| 夕貴 | でもなんか、一気に傷つけちゃったかな。 |
| 冴子 | んもう、夕貴はあんな事言っといて、結局心配してるんだから。 |
| 夕貴 | だってさぁ・・・。 |
| めい子 | (勢いよく戸をあける)夕貴さんが女の人だって言ったら、父様部屋を貸して |
| くれるって言ってくれました! |
| 冴子 | 懲りてない・・・・。 |
| 夕貴 | 心配して損した・・・。 |
| めい子 | あら、どうかしたんですか? |
| 冴子・夕貴 | (ひれ伏す)おみそれしました。私達の負けでーす。 |
| | [孔杞の時代] |
| 側近 | 未経様・・・。 |
| 未経 | 帰ったか。して? |
| [耳打ちをする。] |
| 未経 | 分かった。引き続き見張っておれ。 |
| 側近 | 孔杞様に報告は・・・。 |
| 未経 | その必要はない!・・・・後で私がしておく。 |
| 側近 | はっ。 (ハケる) |
| 孔杞 | 本当に、後で私に報告するつもりだったのか? |
| 未経 | これはこれは、またこんな雑な所へ足をお運びになるとは、何か私に御用でも |
| ございましたか? |
| 孔杞 | (明らかにいいたい事を黙っているって感じ)昨夜、わが国にハクトより使者 |
| | が参ったそうだな。 |
| 未経 | 存じません。 |
| 孔杞 | 嘘を申せ、『王は今病にふせっておられるので』とお前が話を聞き取ったそう |
| | ではないか。 |
| 未経 | だれにお聞きになりました。・・・ああ、早太の奴でございますね。 |
| 孔杞 | なぜお前は私に知らせたがらない。だったら始めから私を王などにする事はな |
| | かっただろう?お前が国を治めれば済む事だろうが。なぜ私を王にしたんだ。 |
| 未経 | 話す事は何もありません。あなたはいつまでもそうやっていればよろしいと、 |
| | 前から言っているでしょう。 |
| 孔杞 | もう我慢できん。覚悟しろ!(刀を振り上げる) |
| 未経 | (片手で刃を受け止める)そうお怒りになられてばかりいては、身が持ちませ |
| ぬぞ。 |
| 孔杞 | な・・なんだと。 |
| 未経 | (刀を奪い取る)いつか、時期が来たらお話できる事でしょう。でもそれで納 |
| 得がいかないと申されるなら、一つだけ言っておきましょうか。私はあなたを苦 |
| しませるつもりはございませんし、あなたさまが幸せならそれでいいんんです。 |
| なんと言っても、私はあなたの、ずっと昔からの側近なのですからね。 |
| [出ていこうとする。] |
| 早太 | 孔杞様!未経・・・。 |
| 未経 | 早太・・・サルがこんな所に何の用? |
| 早太 | サルだぁ? |
| 加月 | まぁまぁ、サルには変わりないんだから、おさえておさえて。 |
| 早太 | 加月後で殺す。 |
| 未経 | 何の用なのかって聞いてるでしょ! |
| 早太 | お前なんかに用はない。孔杞様。 |
| 孔杞 | ん? |
| 加月 | これを。(剣を差し出す) |
| 未経 | それはっ!おのれ、私の部屋へ下りたのか! |
| 孔杞 | なんなんだ?なぜ未経は怒っている? |
| 早太 | 本当に何も知らないんですね。 |
| 加月 | 未経、これで少しは孔杞様の事、話して差し上げる気になったかしら? |
| 未経 | ・・・。 |
| 早太 | それとも、私達が話してもいいんですよ?別に隠すほどの大した事実はないと |
| 思ったけどね。 |
| 未経 | お前達には分からぬだけだ。 |
| 孔杞 | 未経、お前は一体。 |
| 加月 | 未経もあなた様と同じ、もともとこの国の者ではないのです。 |
| 早太 | この神殿の裏に、我が神が住むと言われる塚があり、お二人はそこに突如現れ |
| たそうです。 |
| 加月 | 『このお子は神のお子であれば、この国の王とすれば必ずや良き国になるだろ |
| う』なーんて、出現した場所がいい事に、民はみんなそれを信じて孔杞様を王にした。 |
| オレ達はまだ生まれてない事だが、未経、お前が孔杞様の手をひいて |
| 現れた事をうちのババがしっかり見てたそうだ。 |
| 未経 | そんなバカな。第一── |
| 早太 | うちのジジイも不思議がってたよ。未経殿はその時よりお歳を召されていない、 |
| あの方もまた神の遣いに違いないってね。 |
| 加月 | あの剣は、その時に孔杞様が手に握っていた物だそうです。 |
| 孔杞 | 未経が手を?私がこの剣を? |
| 未経 | お考えになりませぬな。でたらめを申すでない! |
| 早太 | でたらめじゃない、お前の部屋から、その時の生き証人から調べたんだ。 |
| 加月 | そして、この剣にまつわる話がもう一つ・・・。 |
| 孔杞 | (思い出しながら)・・人になりなさい。・・・・ずっと守っているから、安 |
| 心して人になりなさい。 |
| 未経 | いけませんっ!(剣を奪い取る) |
| 孔杞 | (剣を見て)・・・これは・・・母の・・母の! |
| [未経、剣の柄で孔杞を殴って失神させる。] |
| 早太・加月 | 孔杞様!・・・おのれ! |
| 未経 | お前達はなんだ!なんの権利があって調べた。私が・・・私がなぜこんなにま |
| でして隠していたのか、なぜ分からぬのだ!(孔杞を抱き締めながらネ) |
| 早太 | なに・・。 |
| 未経 | 孔杞様はお前達などには恐れおおい、正真正銘の神のお子なのだ。私がお仕え |
| していた剣様のお子であるぞ。私は約束した、孔杞様を無事この世へ送りだすと。 |
| 孔杞様をこの世へ送り出した後は、私も剣様の後を追って、剣さまの元で死のうと |
| 思った。・・しかし、まだお小さい孔杞様がずっと私にすがりついたままお泣きになって・・・。 |
| そしてこの世へ出てみれば、時は荒れに荒れた戦国の時代。私は剣様と死ぬのを諦め、 |
| 孔杞様を一生守り、剣様の願われた孔杞様の幸せを身を持って貫く事をしたのだ。 |
| 最後に剣様は、二度とここへは戻るなと申された 戻れば辛い使命を負う事になる。 |
| だから孔杞様には昔の事に触れらないよう、勘づかれまいと、孔杞様に憎まれても隠し |
| て来たのだ。孔杞様があの場所の道を開いたら、孔杞様は元よりこの世と言うものはめ |
| ちゃくちゃに、絵図にも書けぬ恐ろしい事になるの
|
| だ。それ知った上で私は隠し通して来た。・・・それを・・・お前達は! |
| 早太・加月 | ・・・・・。 |
| 未経 | 孔杞様、御安心くださいませ。あなたを死なせるような事は、私が絶対いたし |
| ませぬ。剣様に誓って、あなた様を守り通します! |
| | |
| [早太と加月が孔杞を運んで寝かせる。] |
| | |
| | [孔杞の夢の中]> |
| 剣 | (探しながら)孔杞?・・孔杞? |
| 幼孔杞 | (飛び出して)は、母上! |
| [孔杞を追って、亡者が手を延ばして捕まえる。] |
| 幼孔杞 | わぁ! |
| [剣が亡者達を止める。一振りすると亡者は帰ってゆく。ゆっくり顔を上げる孔杞。] |
| 幼孔杞 | (安心して)はは・・・うえぇぇ・・。 |
| 剣 | 立ちなさい。自分の力で立って、ここまで来なさい。 |
| 幼孔杞 | はい・・・(立って剣の元へ行く) |
| 剣 | 孔杞、通る人間の精神に情を掛けてはならないと、あれほど言ったでしょう。 |
| 幼孔杞 | だって母上、あの人達は何回も何回も、ああして人の世とこの道を自分の追い |
| 求める物に向かって歩き続けているって。届きもしない願いを求めて、ずっとず |
| っとああしているしかないって・・・・。僕はそれを分かっているのにあの人達は |
| 知らないって・・・・。だから、言ってあげようと思って・・・。 |
| 剣 | 孔杞はやさしくいい子ね。でもやさしいと甘いは違うの。届かない願いと知っ |
| ているのは、あなただけじゃないわ。そう、人間達だって知っているのよ。 |
| 心の隅では気付いているはず、その人の周りには、同じ事をしている人達がい |
| るんですもの。でもね、心のどこかで『私はみんなと違う、みんなが届かない願 |
| いだと思っても、自分の願いはもしかしたら届くかも』って思ってるわ。だから歩 |
| き続けるのよ。泣き事、愚痴、そんな物は表面でしかない。ただ戦いは一人だ |
| から、誰か自分に手を差し延べる者がいたらそれに甘えたいだけなの。どんな |
| に親身に思っても、さっきみたいに結局ボロボロになるのはあなたよ。分かった? |
| 幼孔杞 | ・・・はい。 |
| 剣 | 時には・・・母の屍に剣を突き立てるほどの事が出来なければならないという |
| のに。 |
| 幼夕貴 | あっ、孔杞!(駆け寄る) |
| 幼孔杞 | 夕貴。 |
| 幼夕貴 | ああ、よかった。家の中で孔杞の姿が見えないから、また亡者に追いかけられ |
| てるんじゃないかって、母上とずっと探し回ってたんだよ。 |
| 幼孔杞 | うん、本当にそうだった。僕、夕貴みたいに強くないから、同じ兄弟なのに夕 |
| 貴みたいになれないから。 |
| 幼夕貴 | そんな事言ったら、私だって孔杞みたいに優しくないし、孔杞みたいにややこ |
| しい事考えられないよ? |
| 剣 | そうよ、孔杞は孔杞、夕貴は夕貴。二人共いい所もあれば、悪い所もあるわ。 |
| [子供二人じゃれあう。] |
| 剣 | 二人とも・・・。ここにいらっしゃい。(子供二人、剣の横につく)いい?今 |
| から言う事は、今は忘れたとしても、心のどこかで覚えておくのよ。 |
| 幼夕貴・幼孔杞 | うん。 |
| 剣 | 母は、少なくともあなた達より先に死ぬでしょ? |
| 幼夕貴 | ダメ、母上は死なないもん。 |
| 剣 | そうね、死なないけど。でもあなた達が死ぬまでには、きっと死ぬわよ。 |
| 幼孔杞 | 大丈夫だよ、僕たちだって死なない。 |
| 剣 | (頷く)でもね・・・、何かのはずみで死んでしまった時、私の後ここを預か |
| るのは、夕貴と孔杞よ。その時になったら、この母の持っている剣、あなた達 |
| に上げるからね。 |
| たとえ体は消えても、私はここの守り神。いい?この世界でなにか大変な事 |
| が起こって、どうしても困った時は、その剣で母の屍を突きなさい。 |
| 幼夕貴・幼孔杞 | (驚いて言葉も出ない)・・・。 |
| 剣 | 分かった? |
| 幼夕貴 | どうして、ねえ、どうしてなの。 |
| 幼孔杞 | そんな事、できないよ。 |
| 剣 | 出来るわよ、出来るはずよ。その時になったら。 |
| 幼孔杞 | 嫌・・だもん。 |
| 剣 | あなた達が母さんを好きでいてくれる気持ちがあるなら、きっと出来るわよ。 |
| 幼夕貴 | ・・・出来たくない! |
| 幼孔杞 | 僕も! |
| 剣 | ・・・夕貴・・・孔杞。(二人を抱き締める) |
| 側近A(未経) | 剣様!孔杞様! |
| 剣 | ほら、未経がまだ探してくれてたわ。もう見つかったって、報告しなきゃね。 |
| 幼夕貴 | 未経はいっつも『孔杞様孔杞様』って、孔杞の周りには必ずいるわ。初音なん |
| てちっとも私の事なんてかまってくれないんだから。 |
| 幼孔杞 | 夕貴はほっといても大丈夫だから、僕はほっとくと何するか心配なんだよ。 |
| (ちょっと声を顰めて)ちょっとうっとうしい。 |
| 剣 | さぁ、戻りましょう。 |
| [幼孔杞と幼夕貴はじゃれながら帰って行く。その後を追って剣、ちょっと倒れ |
| ている孔杞に微笑んで少し触れてから、ハケる。] |
| |
| |
| 孔杞 | (飛び起きる)・・・未経・・・?夢なのか・・・ただの。違う・・・違う! |
| ただの夢じゃない。あの剣だ・・・あれは、母の言っていた。 |
| ・・・しかし、ッアー、覚えてない・・・。どうして夢という奴は、おぼろげになって忘れて |
| 行ってしまうのだ。 |
| 加月 | あっ・・・、お気がつきになられましたか。未経め、恐れ多くも孔杞様を殴る |
| なんて。 |
| 孔杞 | そうだったな。もう忘れてた。 |
| 加月 | でも孔杞さま。未経は(いいかけて止める)・・・・いえ。 |
| 孔杞 | なんだ?・・・なんだよ。 |
| 加月 | みんな、孔杞様が好きだって事に変わりはないんだなって思ったんです。 |
| 孔杞 | ええ? |
| 加月 | 未経の援護力じゃなくて、孔杞様には人を魅せられる何かがあるんですね。 |
| 孔杞 | んー、よく分からんが、取り合えず、ありがとう。 |
| 加月 | いえ。 |
| 早太 | 孔杞様、孔杞様! |
| 孔杞 | どうした? |
| 早太 | ああ、目覚められておいででしたか。実は只今火急の連絡が入りまして、麗帝 |
| の援軍が谷の南よりハクトを追いまして、まさにハクトの軍勢は、我が国の方 |
| へ流れながら、戦闘をしていると。 |
| [馬の音、金属のぶつかり合う音が、遠くに聞こえてくる] |
| 加月 | このままでは、すぐにでも我が国の領内へ。 |
| 未経 | 孔杞様!この様子では、すでに状況の程、御存知でございますな。 |
| 孔杞 | 未経、国の者達に避難の命令は告げたか。 |
| 未経 | はっ、たった今程。 |
| 孔杞 | 砦は固く閉じて、兵も二手に分かれせ、二重の防備を敷くように。そして戦闘 |
| が激しくなった時は、兵の者も城の裏手に逃げれるようにいたせ。 |
| 未経 | はっ。それでは孔杞様、はよう裏手の方へ。 |
| 孔杞 | いや・・・未経、さっきの剣を私にかせ。 |
| 未経 | 何と? |
| 孔杞 | あれはもともと私の物だろう?そして、あの剣には何か私の信じる方がついて |
| いる気がする。あの剣を持って、私が出てきたという、塚へ参る。 |
| 未経 | なりませぬ! |
| 孔杞 | たった今、自分の子供の頃の夢を見た。おぼろげだけど母の影も見た。自分は |
| この世の人間というものではない事が、よく分かったんだ。お前もそうなんだろう? |
| 私と同じ所から来たから、私の事をよく分かってるんだ。だったら、きっと私には |
| 人間ができない何かが出来るはずだ。と、言っても私には何をすれ |
| ばいいのかも分からんから、とりあえず、その剣と、塚へ参るのだ。 |
| 未経 | ・・・孔杞・・様。 |
| 孔杞 | 頼む、返してくれ。 |
| 未経、ゆっくり差し出す。 |
| 孔杞 | (頷いて)早太、加月。ついてこいっ!(ハケる) |
| 早太・加月 | はっ!(ハケる) |
| | [舞台中央奥に塚があり、その上に古びた剣がささってる。] |
| めい子 | こちらへ、どうぞ。 |
| 夕貴 | ひょえー!あんたお嬢様だろうとは思ってたけど・・・。でっかい家に住んで |
| るんだな。 |
| 冴子 | 本当に町中?世の中には信じられない金持ちがいるもんだ。 |
| めい子 | 夕貴さん、洋室と和室どちらがいいですか? |
| 夕貴 | いや。一番小さい部屋でいいよ。 |
| めい子 | そうですか・・・。じゃ、庭側の洋室にしましょうか?居間と寝室併せて五十 |
| 畳しかない部屋ですけど。 |
| 夕貴 | 充分です! |
| 冴子 | うちのマンションの三個分だわ・・・。ねー、それじゃ今日私も泊まってって |
| いわよね? |
| めい子 | 嫌です。冴子さんと一緒に住まないように、夕貴さんここにお連れしたんです |
| からね。 |
| 冴子 | まー、はっきりいいますのね。あんたね、夕貴は女だって分かってるんでしょ? |
| なのにどうして、私と離れさせなきゃいけないのよ。いいじゃない女同士だ |
| から。 |
| めい子 | それだから、危ないって事もあるでしょ。 |
| 冴子 | なーんですって、なんですって!それじゃ私と夕貴が危ないみたいじゃない。 |
| 夕貴 | お前何が危ないかって分かって言ってるのか? |
| 冴子 | いや。 |
| めい子 | それは冗談ですよ。ただ・・・ |
| 冴子 | ただ? |
| めい子 | 夕貴さん、そんなカッコして男の人みたいだけど。すっごくお母さんのにおい |
| がするんです。・・・怒ってくれててもどっかやさしい、お母さんみたいなに |
| おいがするの。 |
| 冴子 | だってよ・・・夕貴。 |
| めい子 | と、言っても、私もお母さんの顔なんて知らないですけどね。 |
| 夕貴 | 死んだ・・・とか? |
| めい子 | 父様はそう言ってるけど、本当はどうだか。ときどき夜に窓の外を見ると、い |
| つも違う女の人をつれて、帰って来たりする父ですから。本当にお母さんって |
| 響きに憧れてるだけなんです。 |
| 夕貴 | そうか・・・。 |
| 冴子 | (気分を変えようと)あ・・・・ねえ、さっきから思ってたんだけど、なんか |
| 水の流れる音がしない? |
| 夕貴 | そういえば・・・。するする! |
| めい子 | ああ、滝の音じゃないです? |
| 冴子 | えーっ、近くに滝があるの? |
| めい子 | ええ、庭に。 |
| 夕貴・冴子 | 庭!? |
| めい子 | なんでも物凄く古い滝で、この地区をならす時に潰されそうになって、こんな |
| 見事な滝を潰してはいけないって、昔の先祖が滝ごと買い取ったそうで。 |
| 夕貴・冴子 | すっげーや。 |
| めい子 | 後で見にいきますか?実はあの滝、とっても面白い遊び場があるんです。 |
| 夕貴 | 行く行く! |
| 冴子 | なんだか、ワクワクしてきた! |
| めい子 | (笑って)とにかくまず家の方へ、昼御飯食べてから行きましょう。(ハケる) |
| 冴子 | 夕貴。 |
| 夕貴 | ん? |
| 冴子 | あの子、甘ったれたお嬢様じゃなかったのね。ちょっと、嬉しいでしょ? |
| 夕貴 | うん、とっても嬉しい。 |
| 冴子 | 私もあの子、ちょっと見直したわ。 |
| 夕貴 | でも、あの子冴子の事好きじゃないみたいだったぜ。 |
| 冴子 | うーん・・・。 |
| めい子 | (声だけ)あら?夕貴さん、冴子さん。どうかしました? |
| 冴子 | (嬉しそうに)そうでも、なくなったみたいよ。 |
| 夕貴 | ちょっと、嬉しい? |
| 冴子 | うん、とっても嬉しい。(二人ハケる) |
| |
| |
| [逆方向から、孔杞、早太、加月が現れる。] |
| 早太 | 声が大きくなっております。このままでは、領内へ戦闘がくい込むのも、時間 |
| の問題ですね。 |
| 孔杞 | それまでに、私に何が出来るか。そして何が起こるのか。すべてはその上にあ |
| る塚と、この剣にあるはずだ。 |
| 加月 | それでは、私が先に。 |
| 側近 | 申し上げます! |
| 孔杞 | どうした。 |
| 側近 | はっ、未経様が先程砦におでましになり、砦前の我が軍をハクトに加勢するよ |
| う命令を下されました。 |
| 孔杞 | 何っ!あの者、どこまで私をバカにすれば気がすむのだ。でっ、未経は今砦に |
| いるのか? |
| 側近 | いえ、わたくしは未経様に、今申した事を孔杞様にお伝えするようにと言われ |
| まして、本当に砦へ向かったかは分かりませぬ。 |
| 早太 | 加月・・、もしかして未経は、孔杞様をこの塚に登らせない為に時間を稼ぐつ |
| もりじゃ。 |
| 加月 | えー?でも、なんでそんな事を? |
| 孔杞 | なんだ?何か引っ掛かる事でもあるのか? |
| 早太 | いえ、違う事です。 |
| 孔杞 | とりあえず、未経が帰って来たら、ここへ来るように言ってくれ。 |
| 側近 | はっ!(ハケる) |
| 孔杞 | 何が待っているか、楽しみだな。 |
| 早太・加月 | はい。 |
| [三人ハケる。] |
| |
| |
| 冴子 | へえ、滝の裏にほこらがあるの。 |
| めい子 | 私が小さい頃に見つけたんです。父様にはこの滝に近づく事さえ、禁じられて |
| ましたから言えなかったですけど、じい様に言ったら、面白い事を教えてくれ |
| たんです。 |
| 夕貴 | このほこらの事で? |
| めい子 | (頷く)これなんです。(塚の前に) |
| 冴子 | なんか、こんもりしてるけど・・・・アアッ!もしかして、お墓なの!やだ、 |
| 夕貴。 |
| めい子 | 夕貴さんにくっつかないで下さい! |
| 冴子 | なんでよ、いいじゃないの。 |
| めい子 | 女だと思っても、見過ごせません。 |
| 夕貴 | まぁまぁ、落ち着きなさいって。で?どうしたの、この塚が? |
| めい子 | ああっ、どうして塚だって分かったんです? |
| 夕貴 | だってさっきから、冴子が墓だって言ってるじゃない。 |
| めい子 | でもここ、人の塚じゃないんです。ほら、よく見て下さい。この土、すっごく |
| 固くて崩れないんです。 |
| 冴子 | (叩く、つつく)ホント、何これ削れもしないわ。 |
| めい子 | それからこれです。(刺さっている物もさす) |
| 夕貴 | 錆びてるけど・・・剣? |
| めい子 | そうですっ!夕貴さんスゴーイ、すぐわかっちゃうんですもん。 |
| 夕貴 | いや、感だけどね。 |
| 冴子 | ねえ、で、これがどうしたのよ。 |
| めい子 | この剣も、ずーっと昔からここにささったままでなんですけど。この剣、いろ |
| んな武人とか、力自慢の人とかが抜こうとしたんですけど、ちっとも抜けなく |
| て、結局今まで抜いた人がいないんですって。 |
| 冴子 | へーえ、どりゃ。(抜こうと頑張る)ホント・・・、びくともしないわ。 |
| 夕貴 | ホントなの?(周りを見る) |
| めい子 | じい様が言うには、これは何かの封印じゃないかって。この剣が抜ける者は、 |
| 人間じゃなくって、神の使いや神であるんだ。(夕貴が剣に手をかける) |
| そしてこの剣が抜かれた時、この世は何に何か新たな動きが生まれるだろう。 |
| (夕貴がいとも簡単に剣を抜く)・・・そうじい様はそのじい様からきいてる |
| んですって。 |
| 冴子 | ふうん、一体この剣を抜く人って誰なんだろうね。 |
| 夕貴 | (剣を見て)抜けたぜ。 |
| めい子・冴子 | ええっ! |
| 夕貴 | や、ヤバかったか?もう一回戻しとくな。 |
| 冴子 | そういう問題じゃないのよ。これ、ずっと誰も抜けなかったのよ? |
| めい子 | 抜ける者は、人間じゃないんですよ! |
| 夕貴 | だから、悪かったって。 |
| 冴子 | 悪いとかそんなんじゃなくて・・・。夕貴?・・あんたって一体。 |
| |
| [『ドーン』と言う音と共に、物凄い光り。] |
| 夕貴 | うわぁ! |
| 冴子・めい子 | キャアアア! |
| | |
| [暗くなる。つまり暗転。] |
| |
| |
| 加月 | 孔杞様、足下にお気をつけを。 |
| 孔杞 | 不思議だ、こんな横穴の奥と言うのに、明かりがなくとも道が見えるぞ。 |
| 早太 | (塚の前に来て)これが塚でございましょうか。 |
| 孔杞 | そうだ、これだ。 |
| 加月 | しかし、一体何をする事が出来るでしょうね。 |
| 孔杞 | うん・・(塚をよく見る)おや・・・。早太、加月。 |
| 早太・加月 | はい? |
| 孔杞 | これを見てみろ、なにか・・刺さっていたものが抜かれたような跡だ。 |
| 加月 | そう言われてみれば(塚に触れる)何?この固い土は・・・なのにとても温か |
| く感じる。 |
| 早太 | このほんのりとした明るさも・・・もしや、この塚から発しているのでは! |
| 孔杞 | やはり・・・。では、ここに刺さっていた物は・・・。この剣では。 |
| [早太、加月、孔杞共に頷く。] |
| 孔杞 | よし・・(刺そうとする) |
| 未経 | 孔杞さま!お止め下さい! |
| 孔杞 | いい加減にしてくれ。 |
| 未経 | いいえ、この封印が解かれたら、人間は救われるかもしれませぬ。でも、あな |
| | た様にとっては、つらい使命のはじまりとなるのですよ。 |
| 孔杞 | 私はこの国の王ぞ。我が国の者が救われるのなら、それで本望。我身はそれか |
| ら考えるまでだ。(剣を突き立てる) |
| [『ドーン』と言う音。風が吹く。人々の声や乱闘の響きが大きくなり、前がま |
| っくらになる。] |
| | [呆然と立ち尽くしている夕貴。辺りは地面から引っ繰り返ったような有り様。] |
| 夕貴 | ・・・冴子・・・?・・めい子・・・?なんだよ、まるで空から崩れ落ちたよ |
| うな有り様だ。でも、何処かで見たことのある・・・風景。 |
| めい子 | (出てくる)あっ、夕貴さん! |
| 夕貴 | めい子、大丈夫だったんだね。 |
| 冴子 | ちょっと、私の心配もしてくれない? |
| 夕貴 | 冴子は大丈夫だって思ってたよ。 |
| 冴子 | でもさっきは、すごい光りだったわね。その剣を抜いたら・・・。ちょっと! |
| それ。 |
| 夕貴 | それって、さっき抜いた。(剣が新品である)・・こ、これは・・・。 |
| めい子 | ちょっと、お二人共、それよりここ塚の跡なんですか?どこだか気にならない |
| んですか? |
| 冴子 | そうよね、なんかシ−ンとしてるし。・・夕貴、あんた分かんないの? |
| 夕貴 | (剣を見て)この剣は・・・母さんの・・母さんの。 |
| めい子 | 夕貴さん? |
| 冴子 | あんたここが分かるの? |
| 夕貴 | ここは・・・私の住んでいた世界。母と兄弟と・・人間の精神達がいた。帰っ |
| てきた・・帰ってきたんだ! |
| 冴子 | はぁ?・・何言ってんの? |
| めい子 | しっ、・・・誰か・・いませんか? |
| |
| |
| 側近B | (ポツリポツリと歌う声) |
| (初音) | いつか知った終わりの道 悲しみに染まった摩天楼の |
| 崩れてゆく響き背に聞きながら あの時は聞こえないふりをして |
| どこか分からない道を過ぎ行く おきざりの選択選んだのは過去 |
| なつかしき夢を見ながら 空気すら動かなくなった果てた空を見ながら |
| もう一つのおきざりを悔やんで ずっとここから離れられない |
| どのくらいたったのか あの頃の川も温かい光りも見えない |
| あの空が見たい あの笑顔がみたい |
| 遙か・・・遠くて近い・・・遙か・・・遙か・・・ |
| |
| 夕貴 | ・・・初音・・・初音じゃない? |
| 初音 | (ゆっくり、夕貴を振り返る)ああ・・・あなた様は・・・。 |
| 夕貴 | 夕貴・・・夕貴だよ?初音でしょ?母上の側近で、私の世話をしてくれてた。 |
| 初音だよね? |
| 初音 | (はかなげに笑って)夕貴さま・・?夕貴さまですね。ああ、やっと会えまし |
| たわ。 |
| 夕貴 | 初音!(手を握ろうとするが、すっと抜けてしまった)・・・。 |
| 初音 | 夕貴さま、本当に申し訳ございませぬ。私はあなた様をそちらの世へ送り出し |
| た後、剣様の元へ戻り剣さまと一緒にここが崩壊するのを見届けました。ただ、 |
| いくら夕貴様がしっかりなさっていたと思っても、たった一人ぼっちで置いてき |
| てしまった事が、ずっと心残りで・・すでに道は封印した後。いつか会える日を |
| 願って・・こうして、肉体がなくなった後も、ずっとここで待っており |
| ました。 |
| 夕貴 | 初音・・・(泣き出しそうになって)。お前はいつも私をほったらかしで、い |
| つも厳しいばっかりで・・そんな事思って・・ずっと、ここに居たなんて。 |
| 初音 | こんな御立派になられて。それにお忘れではなかったんですね。ここの事を、 |
| その剣の事も。 |
| 夕貴 | う・・・うん。ねえ初音?ここは、私達がいなくなってから、どのぐらいたっ |
| てるの? |
| 初音 | あの日から、あなた達が大きくなられた分だけです。 |
| 夕貴 | 私が大きくなった分だけ・・・。 |
| 初音 | で?どうなされたのです?何かそんな困り事がございましたか? |
| 夕貴 | 困り事・・・?(二人を見る) |
| 冴子 | こ、困り事なんて・・別に。ね、ねえ? |
| めい子 | は、はい・・・。 |
| 初音 | では、一体どうして封印が解けたのか・・・。あの封印は夕貴様を守る為の物 |
| です。ここへ戻るなら、戻られなけれはいけない程の困り事が起きなければな |
| らないのですから。 |
| 夕貴 | そうか・・・でも別に何も。 |
| 冴子 | ねぇね、口はさんで悪いんだけどね。夕貴自体が困ってるわけじゃなくって、 |
| だれか別の人が困ってて、その為にその封印って奴が解かれたとか、考えられ |
| るんじゃないかな? |
| 夕貴 | 誰か違う人がか。 |
| [いきなり強い風が襲う。夕貴、冴子、めい子は吹き飛ばされそうになる。] |
| めい子 | びっくりしたあ・・・。物凄い風。 |
| 冴子 | ねえ、今の風で空が崩れて来たりしないわよね? |
| めい子 | ま、ま、まっさかぁ。でも、(心配そう)あり得そうですよね。 |
| 初音 | 今の風・・・・、じゃあもしかして。 |
| 夕貴 | どうかしたの? |
| 初音 | もう一つの封印が解けた。・・・孔杞様の方に何か起こったのだわ。 |
| 夕貴 | 孔杞の方に?あー、孔杞の軟弱かぁ、あいつどうしてたのかな? |
| 初音 | 孔杞様は夕貴様のいた所のようにたった一人でもどうにかして生きていける場 |
| 所にいたのではないのです。少しでも気をゆるせば死んでしまう、目の前でど |
| んどん権力が変わってゆく、そんな場所にいるのですよ。 |
| 夕貴 | へえ、あの軟弱が・・・。それじゃなんか困った事があっても不思議じゃない |
| な。よし、ちょっと様子を見に行ってくる。 |
| 冴子 | ああー、じゃあ私も行くよ。分かんない場所で、こんな頼りにならない女とい |
| るの嫌だもん。 |
| めい子 | それは、こっちのセリフですよ。私も行きます。ここの入口は私の家にあった |
| んですからね。 |
| 夕貴 | いいけど、面倒見ないからね。 |
| 冴子 | いいわよ、勝手にやってるからね。ね? |
| めい子 | ね? |
| 夕貴 | お前らいつのまにそんなに仲良くなったの? |
| めい子 | そんな事ないですよー。フンっだ。 |
| 冴子 | そうよ、フンっだ。 |
| 夕貴 | 分かんない奴ら。 |
| 初音 | 夕貴さま、これだけはお気をつけ下さい。 |
| 夕貴 | ん? |
| 初音 | 今のあなた様は、この世界にいても死にます。ここが崩壊した事で、ここの使 |
| 命はすでに終わっていますから。人が死ぬのとは違うもう一段上の世界に行っ |
| てしまうんです。ですから、くれぐれも無茶はしないように。 |
| 夕貴 | 分かったよ。 |
| 初音 | それから・・・ |
| 夕貴 | 初音、お前死んでしまってから随分心配症になったね。前の初音は私がなにか |
| 危ない事をしてたって、軽く怪我をするまで放っておいたくせにさ。大丈夫、 |
| 初音に教えてもらった限度って奴、まだ覚えてるからさ。 |
| 初音 | (言おうとしていたが、うなずいて)それでは・・・私の望みはかなえられま |
| したから、行くべき場所へ参りますわ。夕貴様のお姿が見られて安心致しまし |
| たから。 |
| 夕貴 | そ・・・、そっか。 |
| 初音 | 夕貴さま、いつでも強く優しいあなたでいて下さい。剣様も私も、いつでもあ |
| なたのお側にいると言う事、忘れないで下さいね。(ゆっくりハケる) |
| 夕貴 | ありがとう・・・・。ありがとう初音。 |
| 冴子 | 消え・・・ちゃった。 |
| めい子 | じゃ・・・本当に幽霊だったんですね! |
| 冴子 | さっき言ってたじゃないの。 |
| めい子 | うーん(気絶する) |
| 冴子 | ああ、めい子?めい子ちゃーん。倒れちゃった。 |
| 夕貴 | いいや、ここに置いて行こう。これは楽な道のりじゃないからさ。こんなお嬢 |
| 様つれてけないよ。 |
| 冴子 | そうね、行きましょうか。 |
| 夕貴 | 冴子も大丈夫? |
| 冴子 | 失敬な、これでも大学時代山岳部だったのよー。 |
| 夕貴 | えー、初めて聞いた。 |
| 冴子 | ふもとでキャンプとコンパしかやった事ないけど。 |
| 夕貴 | そうだと思った。・・・じゃ、行こうか。 |
| 冴子 | 行きましょ。なんだか、ワクワクしてきたわ。だって、夕貴の兄弟が見れるんV
|
| だもん。カッコイイ?その孔杞さんって? |
| 夕貴 | もう、冴子はそればっかりだ。(二人ハケる) |
| |
| |
| 孔杞 | あの光りが、この場所を開いたのか・・・。 |
| 早太 | 孔杞様、見てください。軍の者達が流れ込むように、この場所へ。 |
| 加月 | 不思議だわ、どうやってこの場所に流れ込んで来たのかしら。おかげで国の者 |
| 達は被害を受けずに済んだようですが。 |
| 孔杞 | お前達、実に冷静だな。 |
| 加月 | そう言う孔杞様だって、随分冷静じゃないですか。でも水も花も何もないとい |
| うか、この場所をかくはんしてしまったようなというか。とうてい人が住める
|
| 場所とは思えませんね。 |
| 孔杞 | あたり前だ、ここは人の住む場所ではない。精神だけになった時に来る所だ。 |
| つまり死人が集まる世界だな。 |
| 早太 | へえ、そうなんですか。 |
| 加月 | でもいいんですか?そんな所開放して。 |
| 孔杞 | それなんだよな・・・。ここが開かれたのはオレの意志じゃない。ここの主が |
| ・・・母上が開いたんだ。 |
| 未経 | (出て来て、孔杞を見てホッとする) |
| 早太 | では・・、孔杞様の母上は、生きておられるのですね。 |
| 孔杞 | いいや、この有り様を見ろ。もうここは生きてはいない、母上と言うのはこの |
| | 場所そのものと言ってもいい。と言うことは・・・。(少し間) |
| 未経 | いいえ、剣様はお亡くなりになどなっておりません。 |
| 孔杞 | またお前か。 |
| 未経 | 人と同じなのです。器がなくなっただけで、器があれば剣様をお迎え出来るん |
| です! |
| 孔杞 | お前も分からない奴だな。お前は私がここへ入る事を嫌がってたのだろう。な |
| のに今はどうだ、母上が死んだという事をムキになって否定する。お前はなん |
| なんだ? |
| 未経 | そのセリフ、何度も何度も聞いております。だから私も何度も何度も申し上げ |
| ます。私は、あなたの側近です。ずっとあなたをお守りいたします。 |
| 加月 | 話になんないわ。 |
| 孔杞 | じゃあ聞くが、母上が死んだという事にどうしてムキになる?どうして母上が |
| 死んだと認めない? |
| 未経 | あなたがお生まれになる前から・・・私はずっと剣様と御一緒でした。まだ可 |
| 愛らしい遠くて近いあの日から、そして孔杞様がお生まれになり、私の手元に |
| はいつもあなたと剣様の笑顔があった・・・。ですから剣様が死ぬはずはない |
| んです。 |
| 早太 | (からかいぎみに)それではその・・孔杞様の母上は、今どこにいるって言う |
| んです。 |
| [未経、孔杞のにぎっている剣を孔杞の手ごと突き上げる。孔杞、早太、加月は |
| 警戒する。刀の刃の部分をゆっくり指で撫で上げ、切れた指先を口許へ。] |
| 未経 | この・・・剣の中に。(全員絶句、ゆっくりと孔杞を見る)
|
| 他の者 | (こ、怖い)・・・。 |
| 未経 | おや・・・?これはこれは誠うまく行きましたなぁ。軍隊をそのままここへ連 |
| れ込めるとは。まったくあの者達、戦いに夢中で気付いておらぬ。(笑う) |
| 孔杞 | あいつをまともに相手をしていたら、身がもたない。ひとまず我が国は救われ |
| たのだから。あの後・・・・どうなってしまったのか、少し見たいな。 |
| 未経 | (笑って)そういえば、さっきここを開いた時風が吹き抜けましたなぁ。もし |
| かしたら風の通り道が出来てるんじゃないんでしょうか? |
| 孔杞 | お前の頭の回転には付いて行けぬ。オレが分かるように言え。 |
| 未経 | もう一つの出入口、つまり夕貴様のおられた所も開いてるのではないかと言っ |
| てるんです。 |
| 孔杞 | 夕貴・・・夕貴もここに戻ってきているのか!? |
| 早太 | 孔杞様?夕貴・・って? |
| 孔杞 | オレの兄弟だ・・・。姉か妹か・・・。そんな事はどうでもいい、あの気の強 |
| い夕貴が、どうなっているだろう。 |
| 早太 | その夕貴様って・・・美人でしょうか? |
| 加月 | もう、早太は! |
| 早太 | おっ、もしかして妬いてくれてんの?うれしいなぁ。 |
| 加月 | そんな事ないわよ。私は孔杞様一筋・・・(いいかけて孔杞を見る) |
| 孔杞 | (聞いてない)そうか、もしかしたら、この機会にまた夕貴とここで暮らせる |
| のかもしれない。 |
| 早太 | そうと決まったら、早く行きましょう。 |
| 加月 | 私も。 |
| 孔杞 | お前達・・・、しかしここから先の状況は分からないぞ。危険だがそれでも・ |
| 早太 | 何言ってるんです。オレ達は孔杞様の側近、はなっから死ぬ覚悟は出来てます |
| よ。(加月も頷く) |
| 孔杞 | ・・・よし。未経、反対はしないな? |
| 未経 | 反対した所で・・聞くお方ではございますまい。 |
| [三人、未経を残して去る。] |
| | |
| 未経 | 本当に、これが私が長年愛した輪廻の道の成れの姿か・・・。本当にどれだけ |
| たっているのか。夕貴様も孔杞様と同じだけ、成長された事でしょうな。夕貴 |
| 様を育てたのは、初音。あの者の事だから夕貴様を外に放って置いたに違いな |
| い。あいつはことごとく私のやり方を批判していた。私も初音のやり方を気に |
| いってはおらんかったが。そう、あの時だって────── |
| | |
| 幼孔杞 | うえーん、未経、未経(未経に飛びついて来る) |
| 未経 | まあまあ、孔杞様どうなされたのです。泥だらけではございませんか。 |
| 幼孔杞 | 夕貴と石になった魂で遊んでたら、精神の泉に落としちゃって、それを初音が |
| 自分で拾えって言うから、泉の土手から手を伸ばしたんだけど届かなくて。 |
| 夕貴 | 孔杞・・・もう、すぐ泣くんだから。 |
| 初音 | 孔杞様、男の子があれしきの事で泣いていてはいけません。 |
| 未経 | 初音、なぜお前がお取りしなかったの?孔杞様にそんな危ない事させて。 |
| 初音 | 未経は孔杞様をかまい過ぎよ。そんななんでもかんでも手を出していたら、自 |
| 分が一人になった時何も出来ない方になるわ。 |
| 未経 | 一人になった事?一人になる事などないじゃない。あなたは夕貴様を、私は孔 |
| 杞様をずっとお守りしていくのよ?それが使命じゃない。 |
| 幼孔杞 | いいよ未経。僕が落とした物だから、自分で拾うべきだったんだ。 |
| 未経 | いいえ、私がその場におりましたら、私がお取りしましたのに。これからは外 |
| に出る時も私がついていきますから、安心して下さい。いつまでも私がお守り |
| いたしますからね? |
| 幼孔杞 | ・・・うん。 |
| 幼夕貴 | (未経を見て初音を見る)初音・・・。 |
| 初音 | (そっと夕貴を肩を抱き、少し微笑む)・・・未経・・・。あなたはいつかこ |
| こをめちゃくちゃにする側近になるかもしれないわね。 |
| 未経 | 何を言う・・・。 |
| 初音 | さぁ、お二人共。その汚れた体を洗いましょう?未経、孔杞様を後でお迎えに |
| 来てね。(三人ハケる) |
| (思い出終わり) |
| 未経 | 初音の奴・・・。今思い出したたけでも腹立だしい、私がこの世界をめちゃく |
| ちゃに?・・・笑わせるんじゃないわよ。私が望む事は孔杞様がずっと私の側 |
| で幸せに生きてゆける事・・・・そうね、それに剣様がいて下されば、言うこ |
| とはないわね。・・・いつか、この世界で剣様と孔杞様と住める日が来るとい |
| いわ。 |
| 剣 | (声だけ)未経・・。 |
| 未経 | (びっくりして見回す)つ・・・剣様・・?今呼ばれましたのは剣様ですか? |
| こちらから・・・こちらからだわ・・・。(ハケる) |
| 夕貴 | 冴子、大丈夫。 |
| 冴子 | (ブリッコして)ええ、大丈夫よ。きゃあ、夕貴さん怖い! |
| 夕貴 | 大丈夫じゃなさそうだな。 |
| 冴子 | どぁってぇ、疲れたんだもん。ふざけなきゃやってられないわよ。 |
| 夕貴 | 酒飲んだ時のパワー。ありゃなんだよ・・・。戻りなよ、その方がいい。 |
| 冴子 | あら?私は足手まといだとでも言いたいの。私はね、夕貴の為に付いてきた訳 |
| じゃないのよ、夕貴の兄弟に会いたいの。 |
| 夕貴 | そうじゃないんだよ、なんて言うのかな、嫌な予感がするんだ。 |
| 冴子 | そんな事言って追い返そうとしても無駄だからね。あんたの兄弟見るまでは絶 |
| 対帰らないんだから! |
| 夕貴 | ・・・分かったよ。きっと、ただの思い過ごしだと思う。 |
| 冴子 | 当たり前でしょ、夕貴に女の感なんてありゃしませんよ。 |
| 夕貴 | ひっでぇ────!(言いあらそい) |
| |
| |
| 加月 | はあ・・・どああ・・・。ここ、どこです?なんか・・・今までの荒れほうだ |
| いの道と違って、大分落ち着いて来てますけど。 |
| 早太 | 本当にこんな所に住んでたんですか?なんか、孔杞さまってますます分からな |
| い方ですね。 |
| 孔杞 | はははっ、前はもっと綺麗で楽しい所だったさ。・・・・・・(夕貴を見つけ |
| て)・・・・夕貴。 |
| 夕貴 | (言い争いを止めて、振り向く)・・・・孔杞? |
| 孔杞 | 夕貴! |
| 夕貴 | 孔杞! |
| [二人寄ろうとする。未経が飛び出して来て、ストップモーション。] |
| 未経 | 聞こえます・・・、聞こえます。剣さま、どうなさいました?私に出来る事な |
| んなりと、さあ・・・えっ?───── (ゆっくりと下の状況を見て、夕貴 |
| を見る)・・・分かりました。 |
| [ストップモーション解除。足を一歩踏み出す前に孔杞の前に未経が来る。] |
| 夕貴 | お前は・・・未経。 |
| 未経 | おひさしゅう。御立派になられましたわ。・・・お母上に似てきて、そう剣さ |
| まと重なる程にね。 |
| 夕貴 | ・・・? |
| 未経 | 孔杞さま、やっと私の苦労がむくわれる時が来ました。お母上と孔杞様と私と |
| また暮らせる日が来ましたわ。 |
| 孔杞 | ・・・なんだって? |
| 未経 | 剣様が復活なさるそうです。今私にお告げになりました。(夕貴を見て)私と |
| よく似た者の体に、再び戻るのだと・・・その為にはその剣にやどりし精神を |
| 吹き込めと・・・。 |
| 冴子 | ちょ・・・ちょっと夕貴、何よこの人頭変なんじゃない? |
| 夕貴 | 危ないから前に出るな。 |
| 孔杞 | お前の言っている事はいつもめちゃくちゃだぞ。 |
| 未経 | 本当の事よ、私の願いはいつでも孔杞様を私の側に置いて置くこと、そして剣 |
| 様が私の前に現れる事。さぁ孔杞様、分かっているはずです。この剣で誰に剣 |
| 様を宿らすか・・・。あなたは母上に会いたくはないのですか?大好きだった |
| 母上ですよ?さぁ・・・(暗示のように言う) |
| 孔杞 | (ゆっくり夕貴を見る)オレは。 |
| 夕貴 | 孔杞・・・。 |
| 孔杞 | オレは・・・。(剣を夕貴に向ける) |
| 早太 | 孔杞さま、何をするんです!夕貴さまとはあなたの兄弟なんでしょう。 |
| 加月 | お止めください、未経の言葉に惑わされてはいけません。 |
| 未経 | お前達は本当にうるさいわね。 |
| 早太 | うるさいのはお前だ。 |
| 加月 | あんたなんか大っ嫌いよ。 |
| 未経 | それは嬉しい告白ね。 |
| |
| |
| [夕貴側の方から、疲れているめい子が来る。] |
| めい子 | もう、夕貴さんたち、あんな冷たい所に置いて行く事ないじゃないの。・・・ |
| ・・あっ、夕貴さ・・(様子に気付く) |
| [孔杞、夕貴の方に向かう。夕貴は何もせず、少し冴子から離れる。] |
| 夕貴 | あんたは・・・やっぱり軟弱孔杞なんだね。母さんがそんなに欲しいのか。 |
| 孔杞 | ・・・欲しい、だけど。(夕貴目掛けてと思いきや、なんと冴子を刺す) |
| 冴子 | !・・・夕貴(裏手に落ちる) |
| めいこ | あっ! |
| 夕貴 | お前・・・お前、何するんだよ! |
| 未経 | 孔杞様? |
| 孔杞 | たとえ母の為とは言え、夕貴は刺せない!御免、剣が勝手に向くんだ。 |
| 夕貴 | 何? |
| 孔杞 | 剣が勝手に、お前に向かって行くんだよ! (そう言いながら夕貴を切りに行 |
| く) |
| 夕貴 | (剣で受け止めながら)バカな事言うなよ!それで冴子を切ったってのか?冴 |
| 子にお前の言う母さんが下りて来たのか?死んじゃったかもしれないんだぞ! |
| 冴子を返せよ! |
| 加月 | 孔杞様!(止めようと前に出ると、夕貴の払った先で、加月が切られる) |
| 早太 | 加月!(裏に落ちてゆく加月を見ている) |
| 孔杞 | 夕貴・・・。(一度刀を下げるが、導かれるようにまた夕貴の方へ) |
| 未経 | そうよ、そう。夕貴さま・・・夕貴の精神を殺してしまいなさい。いくら夕貴 |
| が剣様のお子でも、私を慕わない者は私に必要はない。その者の精神を絶って |
| 剣様を・・・。 |
| 夕貴 | (未経を見て)そうか・・・そういう事か。おい、軟弱孔杞!お前は完全に未 |
| 経に乗っ取られたんだな。その剣を動かしてるのはなぁ、母さんなんかじゃな |
| い。お前自身だよ。 |
| 孔杞 | バカな、オレはお前を殺したくないんだぞ?(と、いいながら切りかかる) |
| めい子 | 夕貴さん(飛び出そうとする) |
| 早太 | (めい子を押さえる)止めなさい、今はもう二人とも手におえる状況じゃない |
| 夕貴 | 気付かないのか?未経が操作してるんだ。私を殺したいと願ってる未経に操ら |
| れている。 |
| 孔杞 | そんなんじゃない。オレは未経の言うことなど、何一つ聞いている覚えがない |
| んだ。 |
| 夕貴 | 覚えがなくても、お前はいつも未経の言うことを聞いてたんだ。未経に育てら |
| れたから、しょうがない事かも知れないけどね。だけど、未経はその剣を動か |
| している訳じゃない、剣を動かしているのは、体の何処かが未経の言うことを |
| 聞いてるお前自身だ。 |
| 孔杞 | うそだ!(再び剣が夕貴を方へ向く) |
| 夕貴 | なら・・・証明してやるよ。 |
| [夕貴、自分の剣を投げ捨てる。そこに孔杞が突っ込む。夕貴の腹に剣が刺さる] |
| めい子 | 夕貴・・・さ・・ん。(膝から力が抜ける、早太支える) |
| 夕貴 | どうだ・・・。孔杞、剣はあたしに刺さったよ。 |
| 孔杞 | (剣を握ったまま、弱気になる) |
| 夕貴 | ほら!(自分から深く剣に刺さってゆく)・・・母さんが来たか?・・あたし |
| が死んで母さんが宿るなら、とっくに宿ってる筈だろう! |
| 未経 | バカな・・・。 |
| 夕貴 | 孔杞はいつもそうだ。いい言い方をすれは、やさしすぎるのかもしれないが、 |
| そりゃただの甘ったれだ。どんなに体が否定してても、心では信じてる。だか |
| らクールになれずに人の言うことを信じてしまうんだ! |
| あたしはね、あの時からずっと一人で生きてきた。たまたま拾ってくれた叔父 |
| さんや伯母さんも、あたしの素性を知っていて気に掛けてくれた学校の先生も、 |
| 心のどっかであたしを世の中のマニュアルから外れたどぶ鼠扱いしてたんだみ |
| んなそうだった。どこへ行っても同情と悲劇のドラマに入り込んだつもりにな |
| っている奴らばかり何かのきっかけで簡単にいみ嫌っていた言葉を口にする人 |
| なんてしょせん信じる価値なんかないんだよ。 |
| (ゆっくりと冴子の落ちた所まで行く)それなのにね・・・、冴子はボロボロ |
| になって駐車場の前でうずくまってたあたしを『コーヒー飲んでかない』って、 |
| 何にも聞かずに入れてくれた。それから先だってなんにも聞かずに、勝手に部 |
| 屋に出入りする私を置いてくれて・・・気がついたら自分から冴子に素性を話 |
| してたよ。 |
| 孔杞・・・あんたにはいないでしょ。それぐらい好きで、100%安心しても |
| たれ掛かっていられる奴って・・・いないでしょ! |
| [ガクッと膝が折れて、はいつくばって塚へ進む] |
| 孔杞 | 強くなりなさい・・・って、母上が言っていたのは、そういう事だった。 |
| 夕貴 | 母さんがこんな事、望んだとでも思ってるのか、少なくとも母さんはあたしと |
| 孔杞を愛してくれていた。あたしだって孔杞が好きだ・・・・好きだから、せ |
| めて最後に気付いて欲しかったんだよ。(母の塚の真上で、一回立って、仰向 |
| けに倒れる) |
| めい子 | 止めて!止めてよ!・・・・もう、私の好きな人がいなくなるのは沢山よ! |
| 早太 | 分かってくれ。悪いのは孔杞様じゃないんだ。 |
| 孔杞 | いいや、悪いのはオレだ。 |
| 未経 | 何を申されます。あなた様を使って夕貴様を殺させたのは、私です。あなたが |
| 責任を負う事はないんです。 |
| 孔杞 | 悪いのはオレだ。関係ない二人が死んだのもオレのせいだ。夕貴が死んでしま |
| ったのも、オレの責任だ。だれのせいでもない、オレが自分の意志で自分で殺 |
| してしまったんだ。 |
| 未経 | いいえ、孔杞様が責めを負う事はございません。すべて私の責任、それでいい |
| ではありませんか。(孔杞に近づく) |
| めい子 | 違うわ、夕貴さんが言いたかったのは、誰が罪を被るかなんて事じゃないわよ |
| 孔杞 | そうだ、オレは自分の侵した罪ぐらい自分が全て責任を負わなければならなか |
| ったんだ。まわりの言葉に甘えて、責任という重さにさえ耐えられなかった。 |
| 夕貴の言う通りだ、オレは軟弱者だった。人に甘えすぎていた。 |
| 未経 | いいのです、孔杞様はそのままで。夕貴様は夕貴様の生き方の末の結論ですわ。 |
| あなたには私と言う一生の盾があるのですもの。そのままでいいのです。 |
| 孔杞 | オレは強くなる。今から強くなって見せる。・・・・母は昔言っていた。どう |
| しても困った時は、母の屍を突けと・・・(夕貴の倒れている近くへ) |
| 未経 | こ・・・孔杞・・・様? |
| 孔杞 | 母さん・・オレは強くなる。その代わりにあの女の人と加月と、夕貴をなんと |
| かして下さい。オレが強くなった代償に!(剣で自分の首を切って、そのまま |
| 倒れ込むように屍の上に剣を突き立てる) |
| 未経 | ・・・・どういう事?何が起こったの?(笑って)早太?孔杞さまはどうした |
| の?答えなさい!孔杞様はどうしたの! |
| 早太 | 見りゃ分かるだろ。 |
| 未経 | こんなの、私の筋書きの中にはなかったわ。孔杞様が死んでしまうなんて、そ |
| して剣さまも復活しないなんて。 |
| 早太 | お前が・・自分でやったんだろう!自分でめちゃくちゃにしたんだろう。 |
| めい子 | 駄目よ。孔杞さんはどうして死んでしまったのかちゃんと考えて。じゃないと |
| みんな、みんなうかばれないよ。 |
| [二人の死んだ所から、光りが出る。だんだん広がってゆく。] |
| 未経 | 剣様だわ。(駆け寄る)さあ、復活には誰を?夕貴様、それともあの二人の内 |
| の誰かですか?(暫く光りを見ている)・・・え?私?(柱のような光りが天を指す) |
| ・・・嫌よ、そんななんで私が・・・。私の精神を殺すと言うのですか。 |
| 私は死にたくないわ。・・・夕貴さまでも・・、この際孔杞さまでも構わ |
| ない。私だけは、止めて下さい。(どんどん後ずさる) |
| 早太 | あいつ、とうとう狂ったな・・・。 |
| めい子 | なんて人なの。 |
| 未経 | 剣様・・・、そんな。私は死にたくないの!(冴子達が落ちた所へ落ちてゆく |
| 光りは一番大きくなって消える。 |
| [ごく短い、暗転] |
| | [エンディング] |
| 初音 | (声だけ)夕貴様、孔杞様。 |
| 剣 | (声だけ)夕貴、孔杞。 |
| 幼夕貴 | 夕貴(夕貴の側に駆け寄る) |
| 幼孔杞 | 孔杞(孔杞の側に駆け寄る) |
| [二人顔を見合わせて、それぞれ夕貴の体から剣を抜き傷に手を翳す。 |
| 孔杞の方も同じ。世界がみるみる昔の道の姿に戻ってゆく。幼夕貴と幼孔杞はハケる] |
| |
| 夕貴 | (起き上がって)・・・・おい! |
| 孔杞 | (同じく)・・・・生きてるのか?夕貴、大丈夫だったのか? |
| 夕貴 | バカ、今そんな事言ってる場合じゃないだろ? |
| 孔杞 | 今一番言ってる場合の事だと思うけど。 |
| 夕貴 | 見てみなよ、ここ元に戻ってるよ。 |
| 孔杞 | ・・・・やっぱり別の世界なんじゃないのか?そんな事あり得ない。 |
| 夕貴 | (孔杞を殴る) |
| 孔杞 | いってえ!何するんだよ。 |
| 夕貴 | 痛い?んじゃ夢じゃないんだ、やっぱりここは、私達が育った輪廻の道なんだ |
| よ。 |
| 孔杞 | じゃ、どうして───── あー、そう言う事なのか。 |
| 夕貴 | どういう事だよ? |
| 孔杞 | 母さんが復活したって、こういう事だったんだよ。この世界が母さんそのもの |
| だったって言うんだ。ここが復活した事ってのが、母さんが復活したって言う |
| 意味だったんじゃないかな。 |
| 夕貴 | なんか難しいけど・・・、つまり今度は私達がこの世界を守って行くっていう |
| のか?その為にこの場所に戻って来たっていうのか? |
| 孔杞 | (頷く)本当にオレ達、神になったんだ。 |
| 夕貴 | いつでも見守っている・・・か。これからは、私達が母さんにならなきゃいけ |
| ないんだね。 |
| 孔杞 | 夕貴の念願だったんだろ?母さんになる事。 |
| 夕貴 | そのきっかけをつくったのは、孔杞だね。もう軟弱なんて呼ばないよ。 |
| 孔杞 | ハハハ、そりゃ嬉しいけど・・・なんかオレ達忘れてないか? |
| 夕貴 | そう、なんか忘れてる。(間) |
| 二人 | ・・・・ああっ! |
| 夕貴 | 冴子・・・冴子大丈夫かな、それにめい子も近くにいたようだし・・・。 |
| 孔杞 | 加月、ごめんな!死んだのかな。どうなったのかな。早太の奴も・・・。夕貴 |
| 見てみようよ。 |
| 夕貴 | はぁ?どうやって。 |
| 孔杞 | 昔母さんがよくやってたようにやればいいんじゃないか? |
| 夕貴 | ああ・・・。じゃ、ジャンケンでどっちが先にやるか決めよう。 |
| 孔杞 | なんだそのジャ・・ンケンって。 |
| 夕貴 | (グーを出して)と(チョキを出して)と(パーを出して)のどれかを出すん |
| だよ。 |
| 孔杞 | へえ、分かった。 |
| 夕貴 | ジャンケンポ。(夕貴負ける)うっ。 |
| 孔杞 | なんだ?これじゃ駄目なのか? |
| 夕貴 | いいの、私が先になった訳。(思い浮かべながら、指を弾く) |
| |
| [下の段にて。] |
| |
| 冴子 | (忙しそうに出てくる)やだー、早くしないと遅れちゃうじゃないの。ちょっ |
| と、夕貴!夕貴。 |
| 夕貴 | 夕貴ぃ? |
| 男 | なんだよ昨日は夜勤で大変だったんだからな。 |
| 孔杞 | おいっ、お前やっぱり男だったのか。 |
| 夕貴 | やっぱりってなんだよ・・・でも、あたしの方がいい男・・ぶりだな。 |
| 冴子 | 御飯はここに置いて置くから、勝手に食べて出て行ってね。それから、今日は |
| クラブで飲んできちゃ駄目よ。 |
| 男 | なんでー? |
| 冴子 | 今日はお客さん連れてくるのよ。じゃ、行ってくるから。(ハケる) |
| 男 | あー。じゃ・・もう少し寝よっと。(ハケる) |
| 孔杞 | はーっ、お前ってあんな生活してたんだ。 |
| 夕貴 | 違うって、あいつは本物の男だろ? |
| 孔杞 | でも夕貴がいたからあの男があそこにいるんだろ? |
| 夕貴 | うん。 |
| 孔杞 | って事はあれは元々夕貴で、あの男の人はその夕貴とそっくりって事だ。つま |
| りあれは夕貴そのものなんだよ。 |
| 夕貴 | ・・・・・・うん。(よく分かってない)うん? |
| 孔杞 | ほら、あれ。あの子。 |
| 夕貴 | ん?(指先でチャンネルを変える) |
| |
| めい子 | (ほこらの前に来る、花を添える)・・・よし。 |
| 冴子 | あー、いたいた。やっぱり先に来てたのね? |
| めい子 | 冴子さんには負けられません、何事も。 |
| 冴子 | 今日、家に来なさいよ。夕貴が会いたいって。 |
| めい子 | えー、ホントですか?行く行く。そっか、夕貴さんが。やっとこの家に来てく |
| れる気になったのかな。ふふふふふ○ |
| 冴子 | どーだかねー。(めい子と同じ所にウイスキーのボトルを置く。夕貴お礼をす |
| る)なんなんだろうね、ここ。 |
| めい子 | なんだか、大切な思い出があるようで、いつもお花を置いちゃいます。 |
| 冴子 | そうなんだよね、私の場合なんだか酒なのよ。 |
| めい子 | なんなんでしょうね、ここ。(二人しばらく、浸る) |
| 夕貴 | 冴子、めい子。楽しかったよ、ありがとう・・・・って、聞こえてる訳ないか |
| よね。 |
| [二人瞬間顔を上げる。] |
| 冴子・めい子 | どういたしまして。 |
| [夕貴暫くびっくりしている。冴子とめい子もお互いびっくりしたように顔を見合わせ |
| る。不思議そうな顔をするが、気に留めない様子でハケる。] |
| |
| 夕貴 | (場所を消す)・・・なんか(うるうる)。 |
| 孔杞 | へえ、泣いてるの? |
| 夕貴 | うるさい。ほら、今度はあんたの番。 |
| 孔杞 | はいはい。(夕貴と同じようにやる) |
| |
| 側近 | 早太殿。早太殿。 |
| 早太 | どうした? |
| 側近 | 帝を捜しておりますが、どこへまいられたか知っておりますか? |
| 早太 | 帝は・・・ああ、戻って来た。 |
| 加月 | (帝姿で)何?私を捜していたの? |
| 側近 | これは帝。 |
| 孔杞・夕貴 | へぇ− |
| 加月 | 挨拶なんかいいから。何かあったの? |
| 側近 | はい。ハクトと麗帝の戦いなのですが。なぜか我が国にもつれ込んで行った兵 |
| 士達がそのままごっそり消えてしまったそうで。もう帰って来ないだろうと思 |
| っていた所、全員無傷で無事戻って来たそうなのです。麗帝の皇帝とハクトの |
| 将軍が、我が国の神が争いをいさめる為に兵士達をお隠しなり、我々が心を改 |
| めた頃にお返しくださったと考え、停戦とわが国との和解を申し出て来たので |
| ございます。ついては、わが国の神の前でその近いを立てたいと言って来てお |
| るのでございますが。 |
| 早太 | いいじゃないか。 |
| 加月 | いいお話じゃない。お受けする旨、すぐに伝えなさい。 |
| 側近 | はぁ・・・・。で、神なのですが。我が国の神と言うと・・・。 |
| 早太 | 決まってるだろ?上のほこらにおられる。 |
| 側近 | ですが、その御神体といいますか、崇めたてまつる物という物が・・・。 |
| 加月 | 私達の神様にはそんな物いらないわ。神はいつでもこの土地を見守っていらっ |
| しゃるのよ。たとえば、こうやって「ご機嫌いかがですか?」って聞けば・・ |
| 孔杞 | とてもいいよー。 |
| 早太 | ・・・・って聞こえて来るんだぞ? |
| [自信満々で見返す二人に、側近は怪訝な顔をする。] |
| 側近 | そうでございますか?私には一行にそのような声は聞こえませんが・・・。 |
| では、御神体の件はなかった事に致します。使者の方は早々に。(ハケる) |
| 加月 | ばかね、本当に聞こえる訳ないじゃない。でも・・・ |
| 早太 | 今、さっき聞こえたよな。孔杞様の「とてもいいよ」っていう声。 |
| 孔杞 | えっ・・・? |
| 加月 | やっぱり早太も聞こえた?孔杞様、きっと生きていらっしゃるのよ。そしてい |
| つか、私達の所へ戻って来るわ。 |
| 早太 | 孔杞様、聞いておられますか?未経は、ほこらの崩れ落ちた岩に挟まれ死んで |
| おりました。今度こそ、孔杞様の思い描いていた政(まつりごと)を行う事が |
| できます。 |
| 加月 | お戻りになるまで、皆でこの国を守って行きますからね。 |
| 夕貴 | 良かったね。あんたの事覚えてる見たい。 |
| 孔杞 | (加月、早太に向かって)頼んだぞ。 |
| 加月・早太 | (同時に気付いて)・・・はい! |
| 孔杞 | (夕貴と同じように、指で閉じる) |
| [少し寂しい気分になる、二人。しばらく思い出に浸っている。] |
| |
| 夕貴 | さてと・・・、やるか。 |
| 孔杞 | 夕貴とオレ以外誰もいないこの世界で、生まれ代わったばかりのこの世界で。 |
| 母様の様に、やっていけるんだろうか。 |
| 夕貴 | やっていくしかないだろ?自分達の言葉と行動がこの世界の運命を決めて行く |
| それに気付いた孔杞なら、大丈夫だよ。 |
| 孔杞 | そうだな・・・。オレそうなるようにがんばるよ。だからさ。 |
| 夕貴 | ん? |
| 孔杞 | 夕貴がもう少し女の子らしくなってくれると嬉しいなぁ。 |
| 夕貴 | 孔杞が、泣かなくなって、うじうじ言わなくなって、喧嘩が私よりも強くなっ |
| たらね。 |
| 孔杞 | ・・・・(何も言い返せない) |
| 夕貴 | ほらほら、輪廻の道を人間達が歩きだしている。うじうじ言ってるヒマはない |
| よ。 |
| 孔杞 | あ−、又絡まれるのかなぁ。 |
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| [迷った人間が、二人の前に出て来る。夕貴はいつかの母ように優しく道を教えてあ |
| げる。孔杞は怖々近づき声を掛け、道を教える。 |
| 二人は、決意したように顔を見合せ、剣を掴むとそれを元あった場所へ突き立て |
| た。そして、それぞれ初仕事の為に、別れていく(両側にはハケる) |
| しばらくすると、台と剣が光り、その光りが世界の色を変えていく。 |
| 世界が元の光りを取り戻し、二人の使命が始まった事を物語っている。] |