退職体験雑感
会社を去る日の体験
                              

「何か身分を証明するものを見せてください。」こう言われて私は愕然とした。証明する
ものはなにも無かったのだ。                                   
職場に退職の挨拶を済ませ、最寄りの地下鉄の駅で、もう不要になる通勤定期券の解
約と払い戻しを受けるときのことであった。                          

そう言えば、身分証明書も健康保険証も人事課へ返却したし、自動車免許証も持ち歩
いていないし、私が何者なのかを示すものはなにも無いという今までに経験したことの
ない戸惑いと焦りを感じた。                                   
大きな花束とカバンを両手に抱えて、「名刺ならあります。」と必死に言う私の状況を理
解してくれたのか、駅員は無言で精算に応じてくれた。                   

会社を辞めて会社のビルから一歩外へ出たとたんに、退職すると言うことの意味を痛
いほど知らされてしまった。                                   

今まで35年間通勤定期の購入や経路変更などすべて会社がしてくれており、一度も自
分で手続きをやったことが無いことに気づいた。このことは退職以後、確定申告や健康
保険、失業保険、厚生年金等の手続きをすべて自分でやらなければならないという現
実から思い知らされることとなった。                              

今まで名刺一枚を差し出せば、相手は何となくすべてを理解するサラリーマン世界に身
を置いていて、急に個人となった身の心細さを今後体験することにもなった。      
電話でもEメールでも自分の名前を名乗るときは、名前の前に会社の名前と部署の名
前を付ければ、それ以上の説明なしで本題に入れたが、退職後は自分のアイデンティ
ティをどう相手に示すか、戸惑いを感じることが多かった。                 

退職直後は会社で仕事に追われている夢をよく見たし、現役でばりばり仕事に励んで
いる人を見るとまぶしかったり、何となく引け目を感じたり、会社に行かなくなった生活
に慣れるのに多少時間が必要だった。                            

 しかし今では、ウイークデイでがら空きの中央自動車道を車でぶっ飛ばしているうちに、
爽快な開放感に浸ることができ、四季折々変化して飽きない長野の山荘での生活に心
休まる毎日となった。                                       

退職後の諸手続き雑感                           

退職直後は自分で手続きしなければならないことが多く、「結構忙しく過ごせる」と、笑
いながら先輩に言われたことがある。                           
確かに厚生年金、健康保険、雇用保険及び税金の手続きと結構ある。       

退職後の手続きで感じたことをここでは述べています。手続きの詳細内容は多くの詳し
い情報があり、かつ、毎年のように内容が変わっているので、ここでは割愛します。
それにしても毎年変わる内容は、受給者にとって条件が悪くなる一方だと実感してま
す。                                                
退職後の健康保険                                 
 
退職したら今までの健康保険組合から脱退することとなり、国民健康保険に加入す
るか、現在の健康保険組合の任意継続となるかのどちらかである。          
たいていは会社とのつながりを持っていたいことと、何となく安心で任意継続とする人
が多い。                                             

任意継続の保険料は収入によって決まり、収入の無くなった退職後は従業員の平均賃
金によって決められる。                                      
これによって収入もないのに毎月4万円ほどの保険料は重い負担となるが、国民健康
保険は前年度の収入によって保険料が算定されるのでもっと多いことになるので致し
方がない。                                             
しかし幸いにも退職後も健康で、一度も病院へ行ったことが無く、一年が終わってみる
と大金を無駄に払ったような錯覚に落ちる。                         

この任意継続は2年間に限り利用できるが、2年目は加入辞退し脱退した方が良い。
これは前年度収入がないので国民健康保険の方が断然安いからである。       
ただし、自己負担は3割で一割余分な負担となるが、11月に60才となり、厚生年金に20
年以上加入していたので、退職者医療制度により2割の自己負担となる。        

11月に市役所にその手続きに行ったところ、厚生年金に20年以上加入していた証明と
して厚生年金証書を提出するように言われた。証書発行が3ヶ月後と社会保険事務所
から聞いていたので、要件が満たしているのに手続き上の形式がそろわないと言う前
時代的理由により切り替えができなかった。                         
私の厚生年金加入年のデータなどは、市役所の端末ですぐ分かることなのに、視点を
手続きする市民の側ではなく、手続きの事務処理を行う側の視点に立っているからこ
のようなことが生じたと思われる。                               

     雇用保険                                               

ハローワーク(藤沢公共職業安定所)へ行きました。失業者として失業保険をもらう所
として、暗いイメージを持っていたが、明るく近代的建物であった。            
驚いたことに、大勢の人が狭い部屋に溢れており、その中に若い人も大勢いた。しかし
もっと驚いたのは、事務所職員の人数の多さであった。失業者を率先して雇い入れた
のではないかと好意的に考えることとした。                          

私の提出した書類を見て、担当が上司に相談している声がよく聞こえた。「転進援助制
度による退職とは会社都合の退職でしょうか」「それはよく分からないがたぶん自己都
合だろう」会話はこれだけだったが、私は自己都合による退職者扱いとなった。    
そのことによって取り扱いは全く異なってくる。                        

そのうえ驚いたことに私の担当者は、提出書類の欄外に「私は自己都合退職です。」と
書いて捺印しろと言ったのです。その判断は安定所でするもので私が裏書きするのは
おかしいと、当然断ったのだがその後の取り扱いに不利になっても嫌なので、結局その
ようにしてしまった。                                        

同じ理由で一緒にやめた人は、東京都の安定所であったが「これは会社都合扱いで
す」と言われそのようになっている。                              
どうも統一した基準のようなものはなく、安定所毎に勝手な判断で事務処理しているよ
うだ。                                                
おかげで私は3ヶ月の給付制限を受けてしまった。                     
昨年から自己都合の場合は会社都合に比べて40%減の金額になるので、このようなこ
とは重大な問題になると思われる。                              

雇用保険の個別延長制度という300日の雇用保険給付の後に60日の追加給付がある
ものについても、何の説明も文書もなく、友人は予想外の給付を受けたと喜んでいた
が、理由は本人も知らないでいる。                              
このようなことは安定所の職員のさじ加減でどうにでもなるとしたら不公平な制度といえ
る。                                                  

野菜づくり雑感                                 

野菜の作り方は、私が幼かった時代に両親がやっていた家庭菜園の記憶に基づいて
いた。                                               
従って化学肥料も農薬も使うことはなく、自然に世で言う「無農薬・有機栽培」をやって
いた。                                               
農薬を全く使わずに野菜を作ることはできないと言っている専門書を多く見るが、これ
は生業としての農業で、商品として出荷する野菜のことであり、家庭菜園では安全性と
健康のため無農薬は絶対必要である。                            

以前朝日新聞の記事で、「東京の人は、丈夫だなあ。こんなに農薬かけた野菜食べ
て、おかしくならないんだもの。」そう言いながら農家は大量に農薬をまいている、という
記事があった。                                          
自分たちで食べる野菜やお茶は農薬を控えるという話も聞いたことがある。      
農薬を使わない野菜は確かに虫食いだらけだ。しかし、最近では全く虫食いのあとのな
いキャベツや白菜は逆に不自然で気持ちが悪いと思うようになった。野菜が鳥や虫に
食べられるのは、「自然」への税金だと考えて甘受している。               

私は輸入野菜は食べないようにしている。船での輸送中の虫の発生防止のため野菜
に農薬以外に殺虫剤をかけていると聞いたからである。                  
また、最近日本人に回虫が発生するようになったのは、東南アジアの人糞を肥料にし
た輸入野菜を食べるようになったからと聞いて気分が悪くなったからである。