1. ニッポン人のシアワセ

先日、出張でオランダ、ドイツへ行く機会があった。緊急の仕事だったので、3チームに分かれて日本人一人がリーダーになり、海外の生産拠点のマレーシア人の社員を引き連れて現地に2週間居座るというなんとも心細い態勢。日本人は自分以外にいないのでカタコトの英語だけが唯一の意思の伝達手段となる。しかし幸い、私のチームにはマレーシア人のリーダー格の、物分りのいいC君がいてくれて、私は比較的楽に仕事をさせてもらえたと思う。
C君は英語も上手く、相手先への挨拶などもすべてわたしの代わりにやってくれた。そしてなお私から日本語を習得しようとするほどの貪欲ぶりである。
最初の仕事はオランダだった。流通倉庫で現地社員と、アルバイトの学生と一緒に仕事をする。
2日目の昼休みに、C君とこんな話になった。
私:「オランダっていい国だね。行政とかも、考え方が日本よりまともな気がする」
C君:「そうかなあ・・・」
私:「違うの?」
C君:「このままじゃ、オランダは永遠に日本に追いつけるとは思わないね」
私:「???」
C君:「オランダ人は気楽すぎるよ。仕事中に私語ばっかりしてるし、歌を歌ってる人もいるし・・・そもそも仕事場にラジオがかかっているなんてマレーシアじゃ信じられない。日本だってそうでしょ?だいたい、昼休みが1時間半なんて・・・8時半に仕事始めて、終わるのも4時半で、残業もなしだから、僕たちだって全然目標どおりの仕事なんてできないし・・・」
C君の言う事はその通りだったので、私も相鎚を打っていた。言いたい事は良く分かった。しかし、私が本当に言いたいのは実はそんな事ではなかった。
彼は本当に日本をすばらしい国だと思い、目標にして、頑張っている。実のところ個人レベルでは、私は彼の足元にも及ばない。
私が話したかった本当の内容は、これ以上、私より10歳以上若い彼に言うにはばかるものがあった。
その内容を要約するとこうなる。
「でも、それで、彼ら(オランダ人)が幸せなら、いいじゃないか。
それでも彼らは日本人よりずっと快適な家に住んで、昨日今日と見てきた、とっても美しい街や自然とともに暮している。
昔、日本人は欧米に追いつき追い越す事が夢だったり、目標だった。そしてそれは現実になった。でも、今の日本人を見てみろ。毎晩遅くまで残業しても、狭い家を高い値段で買って、一生かかって残業代全部つぎ込んで返している。それでちょっと不況とかになると、自分の身を投げて死んでしまう人がぽろぽろと出てくる。世界の技術大国、経済大国と言ったって、それを支えてる人たちの生活なんてその程度なんだよ。日本人の勤勉さって何の為だろうって思うよね。結局稼いだお金は無駄遣いするための税金で取られて、それで養われている人たちに流れていくだけだし・・・今の日本人はストレス、ストレスで顔をゆがめて仕事をしているんだよ。小さくて高い家でやっと生活していくために。オランダが日本を目標にしない理由のほうが、俺は理解できるよ・・・」
私の貧しい英語力でこれだけの内容を伝える事ができなかったというのが本当のところだが・・・
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