0015. 動かない拉致問題とその背後の大きな問題
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2025年6月2日執筆
「拉致問題こそ、政権の最重要課題である。」
この発言を、一体何人の内閣総理大臣から聞いただろうか。
5人の被害者の方々が帰還された小泉純一郎内閣の次から数えても、安倍晋三、福田康夫、麻生太郎、鳩山由紀夫、菅(かん)直人、野田佳彦、第二次の安倍晋三、菅(すが)義偉、岸田文雄、そして今の石破茂でのべ10人…。もう、石破茂で終わりにしてほしい。
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本音はこうだろう。「拉致問題をやっても選挙の票にならない。」。でも、そんなことでいいのか?
どれだけの日本国民が意識しているのか分からないが、被害者の方々は、私たちの隣人である。横田早紀江さんが、もう何十回も訴えていらっしゃるが、いつもと変わらない、普通の生活をしていた人たちが、ある日突然いなくなって、気が付いたら他国に連れていかれた、と判明したという、重大な人権侵害である。昔風に言えば「人さらい」、この現代に、いまだにそんな問題が存在しているのである。一刻も早く解決せねばならない。「0014」で靖国神社参拝のことを訴えたが、それは亡くなった人たちの話、一方、こちらは、今生きている人たちの話である。問題の切迫感が違う。
石破総理、ご自身の身に置き換えて考えてほしい。もし、明日、大切な佳子夫人がいなくなって、それが北朝鮮への拉致と判明したら、どんな悲しい思いになるだろうか。「何としても取り返さねばならない」と思うのは、誰でも同じだろう。ときどき行われる決起集会では、日朝首脳会談の実現を求めておられるようだが、首相官邸の椅子に座っているだけでは実現しない。5人の被害者を取り返した小泉純一郎総理のときのように、総理自身がピョンヤンに乗り込んで、帰りの飛行機に、1人でもいいから、連れて帰って来られないのか? 1回で一人だけでも、17回行けば、全員帰ってくる計算だ。それくらいの往復の飛行機代、税金から支払われても、文句を言う国民はいないだろう。小泉総理も、当時のキムジョンイル総書記とがっちり握手して、5人の帰還につながったわけだ。今のキムジョンウン総書記と握手して被害者を取り返すためにこそ、その手を使うべきだ。あれだけ口汚く、「小さなロケット男」と罵っていたトランプ大統領でさえ、2回も直接会って、握手できたのだ。石破総理にもできないわけがない。国民のために泥をかぶるのが政治家の仕事だろう。「私はそのために生まれてきたのだ」と、飛行機の中で自分に言い聞かせてもらいたい。
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今、「被害者は17人」という旨の事を述べたが、問題はそれだけでは済まない。
私は平成21年(西暦2009年)11月に、自宅の近くで開かれた、拉致問題の集会に参加した。そこで初めて知ったのだが、「17人」というのは、日本国政府が「認定している」拉致被害者の人数で、「認定していない」拉致被害者が、約900名いらっしゃるというのだ。これを、「特定失踪者」と言い、警察庁が発表している。集会には、被害者ご家族の横田滋さん・早紀江さんご夫妻や増元照明さん、西村真悟衆議院議員(当時)、そして、特定失踪者問題調査会代表の荒木和博氏らが参加され、いろいろなことを知った。
会では、各ご家族のお話、荒木代表・西村議員による講話、そして、特定失踪者問題調査会作製のビデオ映像の視聴などがあった。印象に残っているのは、荒木代表の話の中で、「北朝鮮がなぜ拉致ということを行うのか」ということがあった。それは、北朝鮮、自称・朝鮮民主主義人民共和国という国家が、最初から、武器から何からソ連(ソビエト連邦)に用意してもらってできた国だ、という、創立の背景が語られた。そして、今でこそ国産のミサイルを開発したりしているようだが、当時は「自前で何かを作り上げる」という発想も技術もなく、「なくなればよそから取ってくればいい」という思想が背景にあるからだ、ということだった。また、拉致被害者・特定失踪者のご職業や特徴などが紹介され、例えば、印刷工が拉致されたのは偽札作りのため、一般人女性などは、日本語教育係として拉致された、などと解説された。さらに、ビデオ映像では、拉致の現場のシミュレーションの模様が映され、被害者に見立てた、いずれも武道の有段者の人たちが、複数人の工作員を模した人たちの連係によって、背後から忍び寄られて、一瞬で頭から目隠しの袋をかぶせられて視界を奪われ、手足を縛られて自由を奪われ、ワンボックスカーに積み込まれて連れ去られる、という状況や、また、海岸を散策しているカップルを模して、同様に一瞬で複数人に身体の自由を奪われてゴムボートに乗せられ、海へと漕ぎ出され、沖合に停泊している船で連れ去られる、という状況も映し出された。その後、シミュレーションに被害者役として参加された人の感想として、背中に触れるゴムボートの感触が、砂浜の上から海の上へと変わった時に、たちまち絶望的な気分になり、抵抗を諦めさせられる、といった荒木代表の話もあり、私は非常に驚愕した。そして、海岸付近でなくても、内陸部や都会・住宅街など、日本中のどこでも、こうした手法によって拉致が可能、という話もなされた。政府は、拉致問題を「政権の最重要課題」と位置付けるのならば、もっと大々的に、政府の公式ユーチューブチャンネルや、各テレビ局の協力も得て定期的に特別放送を組んで、こうした荒木代表の講話や拉致の現場のシミュレーション風景などを国民に広く知らせ、何よりも、特定失踪者も「拉致被害者」と認定すべきだ。国民全体の、拉致問題に対する意識を高め、被害者奪還の機運を盛り上げる努力が必要だ。そうすれば、下世話な話だが、「拉致問題に取り組んでも選挙の票にならない」という状況から脱し、各政治家が真剣に拉致問題に取り組むことが期待できる。拉致問題解決を公約に掲げる政治家や政党が現れれば、しめたものである。ちなみに、日本国政府は、北朝鮮を国家と承認していない。今は朝鮮戦争の休戦中という戦争状態にあり、「大韓民国と戦闘状態にある集団」という意味の「北朝鮮」という呼称を用いている。
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横田めぐみさんは、60歳になるという。13歳で拉致されて、それから現在もなお、拉致被害者として生きていらっしゃるのである。一人の人について、それだけの重みのある問題、それが900人である。米の値段も大事だが、それより遥かに少ない国費で、解決できる問題ではないのか? 何しろ、こちらは人命にかかわる問題なのだ。石破総理、あなたの本気度を見せてください。
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