時事備忘録・2002年(平成14年)−イシュー編 その3  




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37. 会計ビッグバン

企業経営、財務戦略が様変わり
 
2000年3月から始まった一連の会計制度の変更はその影響の大きさから会計ビッグバンと呼ばれ、その柱は連結決算中心への移行、退職給付会計の導入、時価会計の適用が柱となっている。

連結重視でグループ経営を見直し
連結決算は2000年3月期の決算から重視されるようになり、連結決算の対象範囲の会社を厳密にするようにルールが変更され、出資比率が40%程度でも社長を派遣していれば子会社にすることが義務ずけられた。実質支配力基準という考え方で、出資比率だけでなく役員の派遣、資金援助などを通じて実質的に支配している会社は子会社として連結決算の対象に含めないといけない。
関連会社についても持ち株比率が15%程度でもその会社の経営に実際に影響を及ぼしている場合は関連会社とみなされることになった。これにより、グループ企業の再編、整理をした企業が続出し、グループ会社にたまっていた含み損が一挙に顕在化した。

年金積み立て不足は企業収益の足かせに
退職給付会計は、2001年3月期決算から導入された。これまでは退職金や企業年金全般について開示するルールはなかったが、社員の高齢化などで企業の年金や退職金の負担は増え、業績を左右する重要な投資情報としての意味合いもある。
日本の多くの企業では準備すべき資産を下回る額しか積み立てていなかったため、この退職給付会計の導入 により積立不足が一気に表面化した。

時価会計で株の持ち合い崩れる
時価会計は2001年3月期から始まった。正確には金融商品会計の導入という。
企業が保有している株式などの有価証券、貸付金、売掛金を時価に基づいて算定し財務諸表に反映させる。実際は時価との差額を直接、株主資本に参入する。これに対して、金融商品の時価が簿価を50%以上下回った場合は、簿価との差額を損失として計上する。減損処理(強制評価減)という考え方だ。
企業の持ち合い株については、2002年3月期から導入される。こちらも減損処理の対象となるほど値下がりしている株については損失計上を迫られる。

一連の会計ビッグバンは単に会計制度の変更にとどまらず、企業が経営戦略を見直す契機となった。
 

会計ビッグバンの日程
[2000年 3月期]
・連結決算中心に
・子会社の範囲を実質支配力基準に
[2001年 3月期]
・退職給付会計基準
企業が将来にわたって年金や退職金を支払うためにどれだけの資金を手許に確保しておく必要があるかを明示する。積み立てた資金が不足している場合には新たに資金を拠出するなどして15年以内で穴埋めしなければならない。
・時価会計(金融商品会計)導入
有価証券や金融派生商品、売掛債権、貸付金、ゴルフ会員権などについて時価に基づいて財務諸表に反映させる。財務の透明性を高めるのが狙い。
有価証券は、売買目的有価証券、満期保有目的の債権、子会社・関連会社、その他有価証券の4つに区分し、売買目的有価証券は簿価と期末の時価との差額を損益に算入する。その他有価証券は持ち合い株などのことを指し、これは簿価と期末の時価との差額を株主資本に反映させる。ただし減損処理の場合は損益へ算入する。 。
・販売用不動産の現存処理を厳格化
開発や分譲などを目的に取得した販売用不動産のうち、時価が簿価の50%以下に下落し、回復の見込みがないものは損失処理を義務づける
[2002年3月期]
・持ち合い株に時価会計適用
[導入時未定]
・固定資産に減損会計適用

連結調整勘定
企業を買収した際、買収価格が帳簿価格を上回った際に、その差額を連結貸借対照表の資産として計上した額。事実上のれん代(営業権)の性格を有するため、時間の経過とともに陳腐化するという考え方にたち毎年一定額を償却する必要がある。従来償却期間は5年だったが、新しく20年以上に延びた。これにより1年あたりの償却負担が軽くなるため海外子会社を通さずに日本企業自らが企業買収をしやすくなるといわれている。

退職給付債務
企業が年金・退職一時金を確実に支払っていくのに現時点で必要とする計算上の額。
具体的にはまず、社員が定年まで勤務すると仮定したうえで、退職時に企業が個々の社員に支払わなくてはならない退職給付見込み額を計算、その額をその社員の定年までの年数に応じて割引現在価値に直す。全従業員に対してこの額を算出し、それを合算した額が退職給付債務となる。

時価会計
企業が保有する金融商品を市場で取引されている実勢価格(時価)で算定し、評価損益や新しい資産価格を損益計算書や貸借対照表に反映させる会計手法。
ここでいう金融商品とは株式や債権、特定金銭信託やデリバティブ(金融派生商品)だけにとどまらず、売掛債権、貸付金、ゴルフ会員権なども含める。時価会計の考え方は国際的にも受け入れられつつあり、時代の趨勢となっている。

減損処理
簿価より時価が30%以上下がった際に、その差額を損失として計上する会計処理。
50%以上値下がりした場合は、価格が回復すると認められるケースを除いて損失を計上しなければならない。株式が減損処理の対象となる代表例だが、最近は値下がりした事業用不動産や、操業がストップして設備が遊んでしまっている工場なども減損処理をする企業が出てきている。


減損会計2005年度全面導入・実質2年間猶予 (日経2002/4/19)
土地や工場など固定資産の価値が著しく下がった場合に企業に損失処理を義務づける「減損会計」が2006年3月期(2005年度)から全面導入される見通しだ。企業の自主判断で2年間早めた適用も認める。業績への影響を懸念する産業界に配慮し、導入時期に幅を持たせた。日本の会計基準を国際水準に合わせる会計ビッグバンの総仕上げとなり、企業はバブル期の負の遺産の最終処理を迫られる。

会計基準を決める金融庁の企業会計審議会が、導入時期を盛り込んだ減損会計の公開草案を19日に発表する。減損会計は企業の業績悪化や地価下落などで固定資産の資産価値が大幅に低下した場合、価値の下落分だけ資産の帳簿価格を引き下げ、差損を特別損失として計上する会計処理。土地や工場、賃貸ビル、借地権などが対象となる。米国会計基準や欧州連合(EU)が2005年から導入を決めた国際会計基準ではすでに導入している。


■参考
・日本経済新聞 *文中では「日経」と略します。
・日経経済記事の読み方 2002年版(02/1/7 日本経済新聞社)*文中では「読み方2002」と略します。
・その他

(更新日:2002/04/13)