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簿記2級・基本テキスト −商業簿記− 


6章 株式




・2002年6月からの新出題区分の変更点は以下の2点です。

  (1)額面株式の廃止
  (2)最低発行価額5万円という規定の撤廃

・株券には、1株の額面金額の記載のある"額面株式"と、額面金額の記載がなく株式数のみが記載されている"無額面株式"があり、従来、商法では「会社は額面株式と無額面株式のいずれも発行することができる」と規定していましたが、2001年10月の商法改正により、額面株式固有の規制が廃止されました。

・また、従来、商法では「会社の設立に際して発行する株式の発行価格は株式の1株の発行価額は、額面・無額面をとわず、5万円を下回ることはできない」という制限がありましたが、最低発行価額5万円という規定は撤廃されました。(昭和56年の商法改正以前に設立された会社では5万円以下でもよい)。

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6-1.株式の発行


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(1)株式会社と株券

株式会社は"株券"という証券を発行し、出資者に取得させて資金を調達します。これを"株式の発行"といいます。
この出資者のことを"株主"といい、"株式"とは、株主としての権利をいい、利益の配当を受ける権利(利益配当請求権)や株主総会の決議に参加する権利(議決権)などがあります。



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(2)設立時の株式の発行

株式会社を設立するには、会社の名称や目的などを記載した「定款」などを作成し、次に株式を発行してその引受けと払込みを受け、最後に会社設立の登記を行います。
「定款」には発行する株式の総数(これを"授権資本"または"授権株式数"といいます)を記載し、設立時にこの株式の4分の1以上を発行しなければなりません。
なお、残りの株式(未発行株式)は会社設立後に、取締会の決議により随時発行することができます。これを"増資"または"新株の発行"といいます。

株式会社の資本金(法定資本ともいわれます)とは、株主による会社に対する出資額のうち、資本金に組み入れられた金額をいいます。(2000年の商法改正により最低額は1000万円と定められています。)

株式を発行したときは、発行価額の総額(1株の発行価額×発行株式数)を計算して、[資本金・資本の勘定]に計上するのが原則です。

しかし、株式の発行価額の総額の2分の1の金額まで資本金に組み入れないことも認められています。
このとき生じる発行価額の総額と資本金との差額、つまり資本金に組み入れない金額を"株式払込剰余金"といい、[株式払込剰余金・資本の勘定](または[資本準備金勘定・資本の勘定])に計上します。なお、貸借対照表では"資本準備金"として表示されます。


次の取引について仕訳しなさい。 −新出題区分
会社の設立にあたり、授権資本1,000株のうち株式400株を1株あたり¥70,000の価額で発行し、払い込み金は当座預金とした。なお、資本金の金額は商法が認める最低額を資本金とする。


  (借方)当座預金 28,000,000 /(貸方)資本金      14,000,000 
                  /(貸方)株式払込剰余金  14,000,000 



 株式の発行価額の2分の1の金額は少なくとも資本金としなければならない。
したがって、資本金は400株×¥35,000= 14,000,000となり、発行価額の総額の残額を株式払込剰余金とします。
 28,000,000−14,000,000 =14,000,000 




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(3)創立費

株式の発行費用には、株式募集のための広告費、金融機関や証券会社への取扱手数料、株券などの印刷費などがあります。 これらは、[創立費・資産の勘定]で処理します。

創立費は"繰延資産"のひとつで、会社を設立するのために必要な費用をいい、株式の発行費用のほか定款や諸規則を作成するための費用、設立登記の登録免許税などが含まれます。
これらの費用を支出したときには、[創立費・資産の勘定]を計上し、 償却は、商法の規定により会社の設立後5年以内に、毎決算期に均等額を償却し、償却額を[創立費償却・費用の勘定]で"直接法"により処理します


次の取引について仕訳しなさい。 −新出題区分
(1)会社の設立にあたり、株式500株を1株の発行価額¥60,000で発行し、全株式の払込を受け、払込金額は当座預金とした。なお、株式発行のための費用¥400,000と設立登記のための費用¥300,000は現金で支払った。
(2)決算にあたり、上記の創立費について5分の1の金額を償却する。


(1)  (借方)当座預金  30,000,000 /(貸方)資本金     30,000,000 
    (借方)創立費     700,000 /(貸方)現 金       700,000 
(2)  (借方)創立費償却   140,000 /(貸方)創立費       140,000 



繰延資産である創立費の償却は、会社の設立後5年以内に毎期均等額以上の金額を直接法により行います。



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(4)参考
  −新出題区分以前の問題とその解説

!従来、「会社は額面株式と無額面株式のいずれも発行することができる」と規定していましたので、2002年6月以前の過去問題では、以下の計算方法になっています。 
(設立時の資本金への組入れ最低額の計算)
  額面株式 :発行価額の1/2と額面金額のいずれか多いほうの金額
  無額面株式:発行価額の1/2と最低発行価額 5万円のいずれか多いほうの金額

次の取引について仕訳しなさい。 −旧出題区分
(第97回(2001/02)2級・第1問-1) 
会社設立に際して、授権株式総数 80,000株のうち、額面普通株式(額面¥50,000)10,000株、無額面株式10,000株を、いずれも1株の発行価額¥90,000円で発行し、払込金額を当座預金とした。なお、資本金には発行価額のうち「商法」で認められる最低限を資本金に組み入れることにした。また、株式発行のための費用¥1,800,000は現金で支払った。


 (借方)当座預金  1,800,000,000 /(貸方)資本金     1,000,000,000 
                  /(貸方)株式払込剰余金  800,000,000  
 (借方)創立費     1,800,000 /(貸方)現 金       1,800,000 


* "会社の設立と株式の発行"の問題です。
(設立時の資本金への組入れ最低額の計算)
  額面株式 :発行価額の1/2と額面金額のいずれか多いほうの金額
  無額面株式:発行価額の1/2と最低発行価額 5万円のいずれか多いほうの金額
 額面株式は、発行価額の1/2=45,000円 < 額面金額=50,000円 よって、額面金額が大きく、 50,000円(額面金額)×10,000株=500,000,000円を資本金とします。
 無額面株式は、発行価額の1/2=45,000円 最低発行価額=50,000円 よって、最低発行価額が大きく、50,000円(最低発行価額)×10,000株=500,000,000円を資本金とします。
 以上から、500,000,000円+500,000,000円=1,000,000,000円を資本金とし、発行価額 90,000円×20,000株=1,800,000,000円 との差額、800,000,000円を株式払込剰余金とします。
 会社設立のために必要な株式の発行費用等は、[創立費・資産の勘定]で処理します。



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6-2.新株の発行


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(1)増資

"増資"とは、株式会社の設立後、新たに株式を発行して資本金を増加させることをいいます。
増資のうち、取締役会の決議によって、未発行の株式を発行する"新株の発行"が一般的です。

新株発行の場合も、原則は発行価額の総額を資本金としますが、株式の発行価額の総額の2分の1の金額までは資本金に組み入れないことも認められています。この場合も、発行価額と資本金との差額は"株式払込剰余金"で処理します。 


次の取引について仕訳しなさい。 −新出題区分
A商事株式会社は、取締役会の決議により、増資を行うため、未発行株式1,000株を1株あたり80,000円の価額で発行し、全株式の払込みを受け、当座預金とした。なお、発行価額のうち、商法で認める最低額を資本金に組み入れた。


 (借方)当座預金  80,000,000 /(貸方)資本金     40,000,000 
                 /(貸方)株式払込剰余金 40,000,000 



増資の場合も株式の発行価額の2分の1の金額は少なくとも資本金としなければならない。したがって、資本金は1,000株×¥40,000= 40,000,000となり、残額を株式払込剰余金とします。



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(2)募集と株式申込証拠金

"新株の発行"の手続きは、会社が、株主の募集を一定の申込期間を定めて開始します。新株を引き受けようとする人は、引受予定額を"申込証拠金"として払込期日までに払いこみます。
会社は、"申込証拠金"を、新株の引受人の申し込みの証拠として預ります。株式の割り当てが済むまで"別段預金"として預かり、割り当てが済めば当座預金に預け替えます。

処理は、
申込証拠金を受け取ったとき[別段預金勘定・資産の勘定]の借方に記入し、[株式申込証拠金・資本の勘定]の貸方に記入します。

払込期日の翌日には、 株式申込証拠金勘定から[資本金勘定]に振り替えます。
同時に別段預金から[当座預金勘定]へ振り替えます。
なお、株式を割り当てられなかった人には申込証拠金を返却します。


次の一連の取引きを仕分けしなさい −新出題区分
(1)増資を行うため、A株式会社は、取締役会の決議により、未発行株式のうち1,000株を1株当たり¥80,000の価額で発行することになり、株式の申込みに際して発行価額の全額を申込証拠金として払い込むという条件で株主の募集をおこなったところ、申込期日までに1,100株の申込みがあり、払込まれた申込証拠金は別段預金とした。
(2)上記の新たに発行する1,000株分の株式の割当てを行い、割当てからもれた100株分の申込みについては申込証拠金を別段預金から払い戻して支払った。
(3)払込期日に1,000株分の申込証拠金を株式の払込金に充当したので、その翌日に増資の記帳を行い、同時に払込金を別段預金から当座預金に預け替えた。なお、商法で認める最低額を資本金に組み入れることにした。



(1)(借方)別 段 預 金 88,000,000 /(貸方)株式申込証拠金 88,000,000
(2)(借方)株式申込証拠金  8,000,000 /(貸方)別 段 預 金  8,000,000
(3)(借方)株式申込証拠金 80,000,000 /(貸方)資 本 金   40,000,000
                    /(貸方)株式払込剰余金 40,000,000
  (借方)当 座 預 金  8,000,000 /(貸方)別 段 預 金  8,000,000



(1)払込まれた申込証拠金の総額は、1,100株×80,000=88,000,000 
(2)払戻された申込証拠金の総額は、100株×80,000=8,000,000 
(3)株式の発行価額の2分の1の金額は少なくとも資本金としなければならない。したがって、資本金は1000株×40,000=40,000,000 となり、発行価額の総額の残額を株式払込剰余金とします。
 80,000,000−40,000,000 =40,000,000 



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(3)新株発行費用と償却

新株の発行費用には、株式募集のための広告費、金融機関や証券会社への取扱手数料、株券などの印刷費などがあります。
これらは、[新株発行費・資産の勘定]で処理しますが、新株発行費は "繰延資産"のひとつで、支出した会計期間だけでなく将来の期間にわたって効果が及ぶため、費用を償却します。

償却は、商法の規定により発行後3年以内に、毎決算期に均等額を償却し、償却額を[新株発行費償却・費用の勘定]で直接法で処理します。


次の一連の取引について仕訳しなさい。 −新出題区分
(1)A株式会社は、増資のため、取締役会の決議により新株の発行を行い、全株式について払込みを受け払込金全額10,000,000円を当座預金に預け入れた(株式払込剰余金は5,000,000を計上)。
なお、新株発行にあたり、広告費、取扱手数料、印刷費、変更登記の登録税などの費用600,000円は、小切手を振出して支払った。
(2)決算にあたり、上記の新株発行費の3分の1を償却した。



(1) (借方)当座預金  10,000,000 /(貸方)資本金     5,000,000
                   /(貸方)株式払込剰余金 5,000,000
  (借方)新株発行費   600,000 /(貸方)当座預金     600,000
(2) (借方)新株発行費償却 200,000 /(貸方)新株発行費    200,000



新株発行の費用は繰延資産なので、払込費用と相殺せず、[新株発行費・資産の勘定]で処理します。 新株発行費 600,000 /3 = 200,000 




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(4)参考
  −新出題区分以前の問題とその解説

!従来、「会社は額面株式と無額面株式のいずれも発行することができる」と規定していましたので、2002年6月以前の過去問題では、以下の計算方法になっています。 
(増資時の資本金への組入れ最低額の計算)
  額面株式 :発行価額の1/2と額面金額のいずれか多いほうの金額
  無額面株式:発行価額の1/2と最低発行価額 5万円のいずれか多いほうの金額

次の取引について仕訳しなさい。 −旧出題区分
(第93回(1999/11)2級・第1問-3)  
札幌産業株式会社は、取締役会の決議により額面株式200株(額面¥50,000)と無額面株式100株をいずれも1株の発行価額¥90,000で発行し、全株式の払い込みを受け、払込金全額を当座預金とした。なお、商法に定める最低限度額を資本金に組み入れる。


  (借方)当座預金 27,000,000 /(貸方)資本金     14,500,000
                 /(貸方)株式払込剰余金 12,500,000


* "会社の設立と株式の発行"の問題です。
 額面株式は、(1)発行価額の1/2=45,000円 < (2)額面金額=50,000円 よって、額面金額が大きく、50,000円(額面金額)×200株=10,000,000円を資本金とします。
 無額面株式は、(1)発行価額の1/2=45,000円 よって、 45,000円(最低発行価額)×100株=4,500,000円を資本金とします。
 以上から、10,000,000円+4,500,000円=14,500,000円を資本金とし、発行価額 300株×90,000円=27,000,000円 との差額、12,500,000円を株式払込剰余金とします。




次の取引について仕訳しなさい。 −旧出題区分
(第87回(1997/11)2級・第1問-5)  
日商株式会社は、かねて募集していた新株(額面株式<額面金額¥50,000>500株、無額面株式5000株)について、申込期日の翌日に申込証拠金を資本金に振替え、同時に別段預金を当座預金に預け入れた。
なお、申込期日までに全株式の申込みがあり、発行価額(額面株式・無額面株式ともに¥80,000)の全額が申込証拠金として振込まれ、別段預金としていた。また、「商法」で認められる最低額を資本金に組入れる。



 (借方)株式申込証拠金 80,000,000 /(貸方)資 本 金   45,000,000
                     /(貸方)株式払込剰余金 35,000,000
 (借方)当 座 預 金 80,000,000 /(貸方)別 段 預 金 80,000,000


* "会社の設立と株式の発行"の問題です。
"新株の発行と株式申込証拠金"の問題です。
額面株式は、発行価額の1/2=40,000円 < 額面金額=50,000円 よって、額面金額が大きく、50,000円(額面金額)×500株=25,000,000円を資本金とします。
無額面株式は、発行価額の1/2=40,000円 よって、40,000円(最低発行価額)×500株=20,000,000円を資本金とします。
以上から、25,000,000円+20,000,000円=45,000,000円を資本金とし、発行価額 1,000株×80,000円=80,000,000円 との差額、35,000,000円を[株式払込剰余金・資本の勘定]に計上します。
・問題分より払込期日まで受け取った申込証拠金は、「(借方)別段預金勘定・資産の勘定/(貸方)株式申込証拠金・資本の勘定」で処理していますので、払込期日の翌日に株式申込証拠金勘定から[資本金勘定]に振り替え、同時に別段預金から[当座預金勘定]へ振り替えます。
   (借方)別 段 預 金 ××× /(貸方)株式申込証拠金 ××× 
 → (借方)株式申込証拠金 ××× /(貸方)資 本 金   ××× 
 → (借方)当 座 預 金 ××× /(貸方)別 段 預 金 ××× 





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6-3.まとめ












(更新日:2002/08/28)

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