簿記2級・基本テキスト −商業簿記 |
1章 手形 |
!まず、3級合格テキストで復習してください。
・3級 4章-4 手形取引 ・・・
手形には、"約束手形"と"為替手形"の2種類があります。
"約束手形"は、手形の作成者である振出人が、名宛人(受取人)に対して、一定の期日に一定の金額を支払うことを約束した証券です。
振出人は債務者なので[支払手形・負債勘定]に、名宛人(受取人)は債権者なので[受取手形・資産勘定]に記帳します。
振出人の仕訳:
(借方)仕入、買掛金 ××× /(貸方)支払手形 ×××
名宛人の仕訳:
(借方)受取手形 ××× /(貸方)売上、売掛金 ×××
"為替手形"は、手形の作成者である振出人が、名宛人(支払人・引受人)に対して、受取人(名指人・指図人)に支払うことを委託した証券です。
振出人は手形の発行と引受けの依頼をするだけで手形の債権債務は生じません。名宛人(支払人)は債務者で[支払手形・負債勘定]に、名指人(受取人)は債権者として[受取手形・資産勘定]に記帳します。
(―→商品の流れ、← - -・手形の流れ)
┌─────┐
┌――――→│振出人・A│――――┐
│ └─────┘ │
│仕入先 ↓得意先
┌─────┐ ┌─────┐
│受取人・B│← - - - - - - - - - ・│支払人・C│
└─────┘ └─────┘
(名指人・指図人) (名宛人・引受人)
為替手形は、通常この3者間の取引になります。
振出人Aの仕訳:
(借方)仕入、買掛金 ××× /(貸方)売上、売掛金 ×××
支払人Cの仕訳:
(借方)買掛金 ××× /(貸方)支払手形 ×××
受取人Bの仕訳:
(借方)受取手形 ××× /(貸方)売上、売掛金 ×××
3級でも少しだけふれましたが、特殊な手形として"自己受為替手形"と"自己宛為替手形"があります。
自己受為替手形は、「自己指図為替手形」ともいい、振出人と受取人(指図人)が同一であるような為替手形をいいます。
売掛代金の回収の目的で利用され、「取立手形」ともいいます。
例えば、売掛金を手形債権に転換して名宛人に引受けさせるもので、債権の存在や支払期日を明確にする手段として使われます。
振り出した場合、振出人が手形の受取人であり、手形債権が生じ、[受取手形・資産の勘定]を借方に記入します。
(借方)受取手形 ××× /(貸方)売掛金 ×××
引き受けた場合、手形債務が生じ[支払手形・負債の勘定]を貸方に記入します。
(借方)買掛金 ××× /(貸方)支払手形 ×××
◆次の取引について仕訳しなさい。
(1) A商店は、得意先C商店に対する売掛金50,000円について、同店を名宛人、当店を受取人とする為替手形50,000円を振出し、同店の引き受けを得た。
(2) C商店は、仕入先A商店に対する買掛金50,000円について、同店振出し・指図人の為替手形50,000円の提示を受けたのでこれを引き受けた。
↓
(1) (借方)受取手形 50,000 /(貸方)売掛金 50,000
(2) (借方)買掛金 50,000 /(貸方)支払手形 50,000
自己宛為替手形は、振出人と名宛人(受取人)が同一であるような為替手形といいます。
例えば本社が支社にそこの地域の仕入先に対して買掛金を支払ってもらいたいとき、本社が支社を名宛人、仕入先を受取人とする為替手形を振り出すというように使われます。
振出人が本社で名宛人が支社というケースです。(「送金手形」ともいいます。)
振り出した場合、振出人が名宛人であり、手形債務が生じ、[支払手形・負債の勘定]を貸方に記入します。
(借方)買掛金 ××× /(貸方)支払手形 ×××
引き受けた場合、受取人は手形債権が生じ、[受取手形・資産の勘定]を借方に記入します。
(借方)受取手形 ××× /(貸方)売掛金 ×××
◆次の取引について仕訳しなさい。
(1) A商店は、仕入先B商店に対する買掛金50,000円について、同店を指図人、名宛人を当社Y支店とする為替手形50,000円を振出した。
(2) B商店は、A商店に対する売掛金50,000円について、当店を指図人とする為替手形50,000円を受け取った。
↓
(1) (借方)買掛金 50,000 /(貸方)支払手形 50,000
(2) (借方)受取手形 50,000 /(貸方)売掛金 50,000
3級では手持ちの手形を譲渡した場合など、[受取手形・資産の勘定]の減少、つまり債権の減少としましたが、2級ではこの手形を"偶発債務"として捉えて処理します。
手形を割引いたり、裏書きなどで他人に譲渡したとき、手形代金が決済日に決済されない場合があります(いわゆる"不渡り"です)。手形の裏書人はその責任を問われ、手形代金の支払義務が生じ、代金の請求を受けることになります。(手形の遡及効といいます)
このように、将来、一定の条件が発生した場合(この場合は不渡りという偶発事象)に、債務として確定する可能性があるものを"偶発債務"といいます。
偶発債務は、それが確定債務になるまでは、一般に簿記上の取引とはいえませんが、通常、割引や裏書した手形の金額を"評価勘定法"と"対照勘定法"いずれかの方法で備忘記録をします。
裏書譲渡と割引に分けて説明します。
手形を裏書きし、他人に手形を譲り渡し手許になくなっても、その手形の支払人が支払いができなくなる場合があり、偶発債務を負うことになります。
(―→ 手形の流れ)
┌────┐ ┌────┐ 譲渡 ┌────┐
│支払人A│――――→│裏書人 │ ――――→│所持人C│
└────┘←・・・・・・・・└────┘←・・・・・・・・ └────┘
遡及 遡及
○評価勘定法
手形を裏書きしたとき、受取手形勘定を直接減らすのではなく、[裏書手形勘定]という偶発債務を示す勘定に備忘記録をしておきます。
そして、手形が決済されたときは、偶発債務がなくなるので、[裏書手形勘定]を減少させるとともに、同額の[受取手形・資産の勘定]を、この時に減少させ相殺します。
このように裏書手形は受取手形に対する評価勘定という性質のあることから"評価勘定法"といいます。
◆ 次の取引について、評価勘定法で仕訳をしなさい。
(1) 受取手形10,000円を裏書して、買掛金を支払った。
(2) かねて裏書していた手形10,000円が決済された。
↓
(1) (借方)買掛金 10,000 /(貸方)裏書手形 10,000
(2) (借方)裏書手形 10,000 /(貸方)受取手形 10,000
○対照勘定法 裏書したとき、裏書した金額を[受取手形勘定]の減少とし、同時に偶発債務を表す対照勘定である[裏書義務見返勘定]と[裏書義務勘定]で備忘記録をします。
手形が決済されたときは、(受取手形の減少は済んでいるので)偶発債務をなくす反対仕訳をします。
◆ 先の取引について、対照勘定法で仕訳をしなさい。
↓
(1) (借方)買掛金 10,000 /(貸方)受取手形 10,000
(借方)裏書義務見返 10,000 /(貸方)裏書義務 10,000
(2) (借方)裏書義務 10,000 /(貸方)裏書義務見返 10,000
"手形の割引"とは、単なる"手形の取立依頼"と異なり、所有する手形を支払期日前に取引銀行に一定の割引料を支払い買い取ってもらうことをいい、裏書きと同じように偶発債務を負うことになります。
手形の支払期日に支払人が支払いできなくなったときは、銀行から不渡りの通知がされて、手形代金の請求を受けます(遡及権の行使)
"評価勘定法"または"対照勘定法"といういずれかの方法で備忘記録をします。
(―→手形の流れ)
┌────┐ ┌────┐割引き ┌────┐
│支払人 │――――→│所持人 │ ――――→│取引銀行│
└────┘←・・・・遡及└────┘←・・・・・・遡及└────┘
○評価勘定法 手形を割引いた時は、[割引手形勘定]という偶発債務を示す勘定に記録し処理します。手形が決済された時は偶発債務がなくなり、[割引手形勘定]を減少させるとともに、同額の[受取手形・資産の勘定]を、この時に減少させます。
◆ 次の取引について、評価勘定法で仕訳をしなさい。−"評価勘定法"または"対照勘定法"で解答すること
↓
(1) 受取手形10,000円を取引先銀行で割引き、割引料500円を差し引かれた残りを当座預金とした。
(2) かねて割り引いていた手形 10,000円が決済された。
(1) (借方)当座預金 9,500 /(貸方)割引手形 10,000
(借方)支払割引料 500 /
(2) (借方)割引手形 10,000 /(貸方)受取手形 10,000
○対照勘定法 同時に偶発債務を表す対照勘定である[割引義務見返勘定]と[割引義務勘定]で備忘記録をし、処理します。
手形が決済されたときは、(受取手形の減少は済んでいるので)偶発債務をなくす逆仕訳をします。
◆ 次の取引について、対照勘定法で仕訳をしなさい。
↓
(1) (借方)当座預金 9,500 /(貸方)受取手形 10,000
(借方)支払割引料 10,000 /
(2) (借方)割引義務見返 10,000 /(貸方)割引義務 10,000
(借方)割引義務 10,000 /(貸方)割引義務見返 10,000
*
受取手形の減は済んでいるので、偶発債務をなくす反対仕訳をします。
◆ 先の取引について仕訳しなさい。ただし、偶発債務は評価勘定法による。
(1)-1 先に得意先A商店より受け取った同店振り出し、B商店引き受け、当店受け取りの為替手形20,000円を、C商店から商品20,000円を仕入れた際、その代金支払いのため、裏書きしてC商店に渡した。
(1)-2 上記の手形が満期日に決済されたとの連絡があった。
(2)-1 先に、得意先D商店より受け取った同店振り出しの約束手形10,000円を取引先銀行で割り引き、割引料2,000円を差し引かれた手取金は当座預金とした。
(2)-2 の手形が満期日に決済されたとの連絡があった。
↓
(1)-1 (借方)仕入 20,000 /(貸方)裏書手形 20,000
(1)-2 (借方)裏書手形 20,000 /(貸方)受取手形 20,000
(2)-1 (借方)当座預金 8,000 /(貸方)割引手形 10,000
(借方)支払割引料 2,000 /
(2)-2 (借方)割引手形 10,000 /(貸方)受取手形 10,000
*
偶発債務は評価勘定法によるので、それぞれ裏書手形、割引手形を使います。また、決済後は、偶発債務の消滅により、受取手形を減少させます。
手形の所持人は、取引銀行に手形を持ち込み取立依頼をします。通常は、支払人の当座預金から手形金額が引き落とされ決済が完了し、手形の所持人に通知されます。
"手形の不渡り"とは、支払人の当座預金の残高が手形金額に満たないため(資金不足)、決済が完了しない場合で、このことを手形が不渡りになったといい、この手形を"不渡手形"といいます。
手形が不渡りとなった時の処理について、解説します。
手形が不渡りとなった場合、受取人は、手形の振出人または裏書人に対して、手形の額面金額のほか不渡りにより生じた支払期日以後の利息や買戻しに要した諸費用を請求することができます。その請求額は、手形の支払人に対する債権であることから[不渡手形・資産の勘定]で処理します。
不渡りとなった手形が償還されたときは、[不渡手形・資産の勘定]を減少させるとともに、受取った利息は[受取利息・収益の勘定]で処理します。
また、不渡手形が回収不能になったときは、不渡手形という債権が消滅するので、[貸倒引当金・負債の勘定]で補てんします。なお、補てんしきれないときは、その差額を[貸倒損失・費用の勘定]で処理します。
(―→手形の流れ)
┌────┐ ┌────┐取立依頼 ┌────┐
│支払人A│――――→│所持人B│ ――――→│取引銀行│
└────┘ └────┘←・・・・不渡り└────┘銀行間
←――――償還請求 の通知 手形交換
手許にある手形は[受取手形・資産の勘定]で記録されています。この手形が不渡となったときは、受取手形を貸方に記入し減少させ、支払人または裏書人に対する請求額(法定利息と諸費用)を不渡手形勘定の借方に記入します。
◆
(1)かねて得意先F商店振出し、A商店裏書きの約束手形 600,000円について、取引銀行に取立依頼していたが、支払いを拒絶されたので、A商店に対して償還請求を行った。なお、その際に拒絶証書作成費用15,000円を現金で支払った。
(2)上記の取引について、以下の2つの仕訳をしなさい。
-1. その後、A商店から、手形の満期日以降の法定利息¥4,000ともに、小切手による支払を受けた。
-2. その後、A商店が倒産したため、手形についての債権を放棄し、貸倒れとして処理した。なお、貸倒引当金は 500,000ある。
↓
(1) (借方)不渡手形 615,000 /(貸方)受取手形 600,000
/(貸方)現 金 15,000
(2)-1. (借方)現 金 619,000 /(貸方)不渡手形 615,000
/(貸方)受取利息 4,000
(2)-2. (借方)貸倒引当金 500,000 /(貸方)不渡手形 615,000
貸倒損失 115,000 /
*
不渡りとなった手形は、諸費用とともに不渡手形として処理します。
割引または裏書譲渡した手形が不渡りとなったときは、割引または裏書譲渡を行った者が所持人に対して不渡りとなった手形を買い戻すとともに、支払人・裏書人に手形代金と不渡りに伴う諸費用を請求します。
この手形が不渡りとなったときは、まず所持人から買い戻す処理として、所持人からの請求額を[不渡手形・資産の勘定]の借方と当座預金などの支払いの諸勘定の貸方に記入します。
また、手形を割引または裏書譲渡したときに偶発債務として処理していますが、この偶発債務が消滅するので、[裏書手形勘定]や[割引手形勘定]を減少させるとともに、同額の[受取手形・資産の勘定]を減少させ相殺します。
(―→手形の流れ)
┌────┐振出し ┌────┐裏書き ┌────┐
│支払人A│――――→│裏書人B│ ――――→│所持人C│
└────┘ └────┘←・・償還請求└────┘←・・・・不渡り通知
←・・・・・・請求 買戻し・・・・・・→
◆ 次の取引について、対照勘定法で仕訳をしなさい。
かねて裏書譲渡した100,000円の手形につき、支払人が支払を拒絶し不渡りとなった。
得意先から償還請求を受けたので、拒絶証書作成費1,000円、延滞利息200円は小切手を振り出して支払った。なお、偶発債務は評価勘定法を用いて処理している。また、この手形を裏書譲渡した時の処理は評価勘定を用いていた。
↓
(借方)不渡手形 101,200 /(貸方)当座預金 101,200
(借方)裏書手形 100,000 /(貸方)受取手形 100,000
*
裏書した手形が不渡りとなったときは、不渡りとなった手形を買い戻し、支払人に対する債権であることから[不渡手形勘定・資産の勘定]で処理します。
支払拒絶証書作成費、その他延滞利息は手形金額とともに後にその全額を手形債務者である支払人に請求することができるので、諸費用とともに不渡手形として処理します。
問題では評価勘定を用いていたとありますので、裏書譲渡したときには、[裏書手形勘定]という偶発債務を示す勘定に備忘記録をしています。
偶発債務がなくなるので、[裏書手形勘定]を減少させるとともに、同額の[受取手形・資産の勘定]を減少させ、相殺します。
手形を受取った時の仕訳:
(借方)受取手形 100,000 /(貸方)売掛金など 100,000
裏書時の仕訳
(借方)買掛金 100,000 /(貸方)裏書手形 100,000
手形の買戻し
(借方)不渡手形 101,200 /(貸方)当座預金 101,200
(借方)裏書手形 100,000 /(貸方)受取手形 100,000
手形の更改とは、手形の支払人(手形債務者)が手形の支払期日までに資金の都合がつかず、手形の所持人の承諾を得て支払日を延期してもらうことをいいます。
処理としては、新しい手形を振り出し、古い手形と交換する処理をしますが、支払人は、支払期日の延長日数に対応する利息を所持人に対して支払わなければなりません。
手形の所持人は、手形債権者であり、旧手形債権の消滅と新手形債権の取得について、貸借ともに[受取手形・資産の勘定]で処理します。旧手形の消滅を[受取手形]の減少(貸方)とし、新手形のの発生を[受取手形]の増加(借方)として処理します。
手形の支払人は、手形の債務者であり、貸借ともに[支払手形・負債の勘定]で処理します。
旧手形の消滅を[支払手形]の減少(借方)とし、新手形のの発生を[支払手形]の増加(貸方)として処理します。
◆ 次の取引について仕訳をしなさい。
かねて得意先C商店振出しの約束手形100,000円について、同店より支払期日の延期を依頼されたのでこれを承諾し、延長期日に対応する利息2000円は小切手で受け取った。
所持人、支払人それぞれの仕訳を示しなさい。
↓
(1)所持人(当店)の仕訳
(借方)受取手形 100,000 /(貸方)受取手形 100,000
(借方)現 金 2,000 /(貸方)受取利息 2,000
(2)支払人(C商店)の仕訳
(借方)支払手形 100,000 /(貸方)支払手形 100,000
(借方)支払利息 2,000 /(貸方)当座預金 2,000
*
支払期日の延長日数に対応する利息の取扱いについては、上記のように利息を別に支払う場合のほか、利息を含めた新手形を振り出す方法があります。
◆ 上記の問題で、利息を含めた新手形を振り出す、支払人それぞれの仕訳を示しなさい。
↓
(1)所持人(当店)の仕訳
(借方)受取手形 102,000 /(貸方)受取手形 100,000
/(貸方)受取利息 2,000
(2)支払人(C商店)の仕訳
(借方)支払手形 100,000 /(貸方)支払手形 102,000
(借方)支払利息 2,000 /
*
所持人にとって、旧手形債権の消滅は[受取手形・資産の勘定]の減として貸方に、新手形債権の取得は受取手形勘定の増として利息を含めて借方に記入します。
支払人にとって、旧手形債務の消滅は[支払手形・負債の勘定]の減として借方に、新手形債権の振出しは支払手形勘定の増として利息を含めて貸方に記入します。