煉獄アイルランド紀行


第11話「ギル湖畔、西へ」

 ライゴの2日目は ギル湖へ自転車でいくことにする。といってもルートについては 特にアイディアはなく、この時点では西岸のあたりまでいって 引き返すつもりでいた。

 自転車をレンタルはあるコンビニの店の奥でやっている。 自転車といえば、私は”地道”と書かれた自転車をみたことがあるが、 あれは地道さんの持ち物なのか、自転車の名が”地道号”(遅そうな。。。) なのか、それとも座右の銘でも刻んであったのか、それは多分一生 分からないことであろう。
 ひととおり自転車を見せてもらうも、私には 大きすぎるものばかり で、足がつくどころか、ペダルをこぎきることすら難しい。 でも、ここは立ちこぎでカバーすると勝手に決めて、一番小さいのを 選んでもらうことにする。親切にも店員さんは空気入れを貸してくれた。 でも小型のバックパックには入りきらず、はみ出た空気入れのせいで なんだか忍者ハットリくんみたいだ。

   坂の多い市街では、この自転車をこぐのは大変で、ブレーキのききも いまいちでこわいものがあったが、市街をでればそれなりにサイクリング らしくなってくる。B&Bを通り際に手などふってみるも、あっさり無視された。 グラサンに手拭いという格好は少し変であったか?
 地図を調べて南岸を通る道を外れて ギル湖東岸の公園のようなところにいってみるも、ちっとも 面白くない。南岸沿いの道路に戻る際に、ルートを変えてみると、 意味不明なトーテムポールなんかがあって、これは結構楽しめる。 さらに進んでみると、 この道はどなたかの邸宅らしきところで行き止まりになっている。 興味本位で中をのぞいてみたら、なかでは人皮をかぶった大男が チェーンソーふりまわしてたりしそうな気もするが、もちろん そんなことをするはずがない。
 引き返し際にチェーンがひっかかって、全くこげなくなってしまう。 こんなやくざなチャリよこしやがってとぶちぶちいいながらも、 アバウトさを発揮して適当にいじくりまわしてたら、 なんとかもとどおりになったので勘弁してあげることにする。 でも、手は真っ黒になってしまったので湖で手を洗うことにする。 初めて間近に見るギル湖の水はちょっときたなくていやだった。


第12話「ギル湖一周へ」

 ル湖の南岸沿いの道にもどると 、延々上り坂続きである。しかも湖はめったに見えてこず、 たまに木々の間から除くギル湖は、はるか眼下でなんか遠いとこ まできてしまったなぁという感じである。

 上り坂の当然の結果として、次は下り坂である。 この下り坂はやたらと急で、道もどろどろなので 大変こわいものがあるが、ここは気合でカバーである。 しかし、途中でコケそうになったのは気合がたりなかったからではない。

 しばらく下ると、よい道が続き、遠くにベン・ ブレベン山などを望む事ができるようになってサイクリングも それなりに楽しいものになってくる。坂を下りきると、 再び湖岸へ出るが、湖岸にはなぜか城が建っている。 こんなとこに建っているのが風雲たけし城(実家に近くにありました) だったり、中に城みちるとかアニマル・レスリー がいたらどうしようとかいう心配はこの場合はありえない。 次にどうするかをなにも考えていないので とりあえず、城に入ってみることにする。

 城のなかにはジブラルタル海峡ならぬギル湖の写真や近辺の遺跡の 写真があり、ビデオの上映なんかもあるようである。 湖にうかぶ島には上空からみると十字架のように見える教会跡 があり、近くからでている船でそこまでいけるようであるが、 ここは自転車のこともあるので、それはあきらめることにする。

 さて、これからどうするかであるが、今まで来たところを引き返す のは、坂のアップダウンを考えると気がすすまないものがある。地図を みると幸いこれからの道はそれほどアップダウンがなさそうであるので、 ここは、湖を一周することにする。しかし、私はここで重大なことに 気がついた。食べるものをなにも買っていないのだ。


第13話「廃墟の教会」

 けない、いけない。前回は気をもたすような 終わり方して。未来少年コナンなみに後味のよい結末をこころがけていたのに。

 で、気がつくと食料は水しかない。途中に食べ物を売ってるところはなかったから、 これは突き進むしかない。スーパーくらいどっかにあんだろう。

 湖をしばし離れ、自転車をこいでいくと、少し高くなったところに 石造りの建物が見える。目の前の門がその入り口かとおもいきや、 どうも出てきた人の話だとそうではないようだ。もう少し坂を登ると 道を外れてさっきの建物が見えた。教会である。有刺鉄線なんか あるようだが気にしない気にしない。

 教会といっても近くに街なんかない。この教会自体茂みの中に 突然あらわれたようなもんだし、人を集めている感じは 全然しない。そもそも、建物からして天井が抜けちゃっている。

 石組みの塀を乗り越えて中に入ると教会の周りはお墓でいっぱいである。 見てみると古いものもあるが、比較的新しいものがおおいようである。 いずれにせよ、ちょっと入ってはいけないとこに来ちゃったのかな という感じはする。
 しかし、廃虚となった教会のたたずまいはなかなか じびれるものがある。街中でどーんとたってる教会はあまりそそられる ことがないが、こうして自然と一体になりかけのものはいい。 廃墟といっても、荒れ放題というわけではなく、どことなく手入れ されている感じもあって、そういうさりげない人の営みが感じられるのは ほっとするものがある。

 それにしても、私はこんなとこに足ふみいれてていいんだろうか。


第14話「救済者。その名は、、」

 会をあとにした私は、再び湖畔にたどり着くに およんでようやく悟った。ここには食いもんはないと。

 どっと疲れがきた。大体、私は坂本ちゃんのために自転車をこいだりしている わけじゃないので、自分がピンチに陥るととっても弱くなるのだ。

 手を振ってくれるおばさんがいたかと思うと、ブルドック母子の群れに 追いかけられたりと、歓迎なんだか、うとまれているのかわかりゃしない。 悪いことにスライゴ市街の直前は延々坂道になっており、ここで 完全にエネルギー切れ。こんなときヤナイくんがいれば。。なんの 役にもたちません。

 それでも、なんとか坂道を乗り越えれば中心部までは下り続きである。 やった。なんかくえるぞ。下り際、すれ違う子供たちにアチョーーとかいわれてる 気がするが気にしない気にしない。みるのではなく感じるのだ。そしてなにも 感じないのだから。

 チャリを返却してデポジットを取り返した私は嬉々として食いもん屋に むかうはず。。だったが。わ、ワニワニパニック!なんと店みせはシャッター を閉じはじめているではないか!まだクソ明るいやんけ!

 結局、私の飢えを救ってくれたのはアブラケバブラという ケバブのファーストフード店であった。これが私の後の ヨーロッパ旅行を大きく左右することになろうとは。。そのとき 思う由もなかった。


第15話「非道はつらいよ」

 腹をいやした私がB&Bにもどろうと病院の 前を歩いていると、車から降りて私に声をかけてくるものがいる。 なんかボロっちい車に、ドイツからきたという夫婦と子供2人。 男の話とは要するに、車を修理しなくてはならなくなったので 金を貸してくれというものだった。

 どう考えたってあやしい。ボロとはいえ 車のどこが壊れてんだよとつっこみたいところだが、 延々トークに巻き込まれるのもごめんだ。 それにドイツって、ここ陸続きちがうっすよ。車こっちで買ったんかい? 第一、私は旅行者なのだ。そういうのはここの人間に頼めよ。

 それを言うと彼は、私の住所を教えてくれという。 一応、金は返すつもりらしい。返すってポンド?それともマルク? いやー、そんなん返されても困りますー。新松田の本屋の おつりがそこでしか使えない図書券というのよりは ましだけど。。

 やっぱりあやしいので私も向こうの住所を聞いた。ん?なに? めっちゃ近所やん。。そんなん取りに帰れよ。。ドイツはどういう 関係なのだ。。番地はないし。。
 さらに念のためIDの提示をもとめると、それは家に忘れたという。 なんてあやしさ丸出しなのだ(ってか、無免?)。。江頭総裁もトルコではこんな風に あやしさ丸出しだったのだろうか?
 そんなこんなやりとりを車の外でしていると、そのうち奥さんは なんかよくわからない言葉で旦那になんかいうと、そのまま車で 走り去ってしまった。こいつはどうなるの?つーか、車、一応走るんだ。

 まぁ、人間いきてりゃ全く知らん人間に金貸してくれと 頼まれることも一度ならずあることだろう。海外にでもいけば なおさらだろう。ただそれで金を騙しとろうという人間について いうと、自分がこんなに信用できる人間だから、 絶対返すからといって少なからぬ金を 貸してと頼むのはどうかと思う。騙される側としては、 理由は少々強引でも、金額がたかがしれていれば、 それは施しみたいなもんとして納得もできる。
 そもそも、乞食とかには、なんかつい金あげたくなっちゃう オーラ発してる人がいて、そういう人に金あげるのは、 せこいことして少しでも金ふんだくろうという根性の人間 に金やるより、よっぽど気持ちがいい。まぁ当然か。

 結局、私が警察にでもいって相談したら、というと彼はあきらめて どこかへ去っていった。しかし、この後すぐ、警察のお世話になるのが 私のほうになるとは。。


第16話「ポイントデポへの道のり」

 ライゴをめっちゃ朝早く発った私は 再びダブリンにもどった。
 帰国までもう日のない私が、ダブリンにもどってなにをするか? そう、到着翌日にチケット買った チーフタンズのコンサートにいくのである。 チケットには会場はポイントデポとある。
 もう、あんまり街歩きした気分でもないので本屋で周到に会場の場所を下調べする 私。でもって、バーゲンの写真集なんか買って荷物重くしてる私。。

 ありきたりにバーガーキングなんかで腹ごしらえした後、 たっぷり時間に余裕をもって出発。ルートはもうばっちり。 要はコノリー駅のあたりから海の方に行きゃいいのだ。

 予定どおり海のほうに向かっていくと、予想通り道にはライブの告知 ポスターなんかがいっぱいになってゆく。そしてさらに予想通り道 の左右は倉庫だらけ(デポなだけに?ん?)。 予想通りでないのは、全然人通りがないことだが。。
 延々歩いても一向にポイントデポは表れる気配がない。ついでに雨も 降り出したころ、もしかしてずっと前に通りすぎたデカめの建物が そうだったのかなと思い、きた道を引き返してしまう私。
 結局、それもはずれ。でも、近くの広場みたいなとこに警官が 立っていたので、ストレートに道をきくことにした。

 答えは「橋の手前を左にまがるんだ」。あぁ橋ね。 ということで、引き返してきた道を更にもどることに。。
 おっ、今歩いているところはなんか橋っぽいぞ。下は一応、 海みたいだし。ということで手前の道を左に。。

 ん?ここはなんだ?突然広がる不穏さ200%のこの荒野は。。 なんか、遠くのほうで車燃えてるみたいだし。。そんなマッドマックス な世界に足を踏み入れたと思ったその時、後ろからマイクで私に 呼びかけるやつが。。それはパトカーであった。。


第17話「初めての。。」

 イントデポに向かう私に声をかけてきたのは パトカーに乗った警官だった。
 警1「こんなところでなにをしてるんだ」
 私 「いや、ポイントデポに行こうと。。」
 警1「なにー、ポイントデポだぁ?ここは全然違うぞ」
 私 「え、そうなんすか?(やっぱ、そうなんかい)」
 警1「お前はどこから来た?」
 私 「日本から。。」
 警1「ここは危険なところだと分かっているのか」
 私 「いやー。。(やっぱ、危険なんか。でも警官がこっちっていうし。。)」
 警1「ちょっと車にのれ」
 私 「え゛!(連行されちゃうんすか?)」

 生まれて初めてパトカーに乗るのがダブリンとは想像もしていなかったが、 一応、おまわりさんは私をポイントデポのほうに連れていってくれるようだった。

 警1「一体誰があんな道を教えたんだ?」
 私 「(やべ!)。。あ、ある男だ。。」

 全く訳の分からない答えであるが、まさかおまわりさんとは言えまい。  

 警2「全く悪いやつもいるもんすね」
 警1「全くだ!悪い連中はこらしめてやらんと」

 これだけでも冷や汗たらたらもんであるが、さらに悪いことに道を教えた 警官とパトカーがすれ違いに。。そして敬礼。そしてとっさに身を隠してしまう私。。

 結局、パトカーはポイントデポの真正面で私を降ろしてくれた。。 会場にむかう大勢の環視の中、サンキューオフィサーとお礼をいう顔も 少し引きつっていたのはいうまでもない。
 ありがとうよ、ダブリン警察。おかげでチーフタンズのほうはあまり頭に入らなかったよ。


最終話「煉獄的劇終」

 国日の朝、 昨日の余韻と低血圧とで鉛のような雰囲気のB&Bの朝食。 机におかれた異常な数の種類のシリアルを ぼーっとしながら闇雲に器にぶちこんでいく私。 うーん、この配合は再現不能だわ。。

 そんなしているとB&Bのおばさんが、親切にも(おとといの夜は帰国する日を一日間違えて 真夜中に金を払えといっておしかけてきたのも忘れて)空港までのタクシーをよんでくれるという。 (やっぱり電話代はとられたけど)
 おばさんの呼んでくれたタクシーを待つ間、しばし旅の余韻にふける私。 うーん、ギネスはおみやげにはちと重過ぎたわい。。 

 そのうちタクシーもきたということで、最後におばさんとおおげさに抱擁して お別れ。ま、なんだかんだいってもいい人だったかなと思いつつ、運転手とタクに向かう我々の目の前に あったのは、隣のおっさんちの車であった。おっさん。。(終)


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