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大海原をかける船(メリーゴーイング号)の上、ウソップは盛大なため息をついた。
「なんだ、ウソップ、ため息なんかついたりしてよ」
それを見たサンジがタバコ片手に声をかけた。
「ため息つきたくもなるようなことをしてるのはお前だろ!。・・・・ったく、俺はさ、てめえが誰とイチャつこうが男とデキようが全く関係ないからそれでいいけどよ、落ち込んでるルフィの前でイチャつくのはよせ!!」
ビシッ!、と指を差したその先にはサンジが完全に寝ているゾロを愛おしそうに抱き寄せて腕枕をしている。そして3人からかなり離れた場所にこの船の船長のルフィがすねたようにぐったり寝そべっていた。
事は3日前に起きた。
いや、起こるべくして起きたと言った方がいいだろう。
ずっとルフィとサンジがゾロを取り合っていたことをゾロ自身は知らなかったが、同じ舟に乗っているウソップとナミは呆れながらも黙認してきた。二人でいつかは結果が出るだろうと話していたが、とうとうゾロが結果を出した。
――――――ゾロはサンジを選んだ。
サンジよりも長い付き合いのルフィは当然自分を選ぶと思っていただけにショックは大きかった。
しかもなんでショックを受けているのか当事者のゾロは全く分かっていないとなれば惨めさもひとしおだ。
負けたものは自分の気持ちを告げない、という暗黙のルールが尚更ルフィを苦しめているようだ。
その上、勝利者のサンジはルフィに見せつけるようにゾロとイチャイチャしてみせるのだから余計だ。
「サンジ、お前さ、ちょっとはルフィの気持ちも考えてやれよ。イチャつくだけならルフィのいないところでやれよ。・・・・ったく、ナミなんか辛気臭いっつって船室に篭ってるぜ」
「そんなのはルフィに言えばいいだろ。辛気臭いのはルフィなんだからよ」
「そりゃそうだけど、ルフィを辛気臭くさせてるのはお前達だろうが!」
「俺たちは恋人同士なんだ。イチャイチャしてどこが悪い」
嬉しそうに、「なぁ、ゾロ?」と眠っているゾロに話し掛けてるサンジを見てこれは何言ってもダメだ、と思うしかなかった。
「もういい。イチャついていいからそろそろ飯作ってくれよ。もうすぐ夕飯の時間だ」
「おっと、もうそんな時間か。今日は何作ろうかな――・・・」
すっごく楽しそうなサンジを見た後でルフィを見ると、なんとも言えない哀愁が漂っていた。
「しゃーないな――――・・・・」
ウソップはまた盛大な溜息をつくと、ルフィに近づいていった。
「ルフィ、起きてるか?」
「・・・・・起きてる」
「釣りするから付き合えよ。一人じゃつまんねえからさ」
ウソップは何気にサンジとゾロを時々見ているルフィに気を使って釣りに誘ったのだ。
「・・・・・・・おう」
答えるとゆっくりと起き上がった。
二人で釣竿を持って釣り糸を海に垂らしながらボーとどこかを眺めていた。ルフィは生気を失ったかのようにうつろな目をしているのを見かねてウソップは度々声をかけた。
「どうせぼうっとしてるんなら釣りしてるほうがなんぼかましだぜ」
「・・・・・・・・・・うん、そだな」
と答えるルフィにいつもの笑顔はない。
気の毒に思ったウソップはそれから何かある度ルフィに声を掛けて付き合わせた。そうすることでルフィの気を紛らわせてやろうと言うウソップの気遣いからだった。そのかいあってかルフィもだんだんと笑顔を見せるようになった。一緒に遊んでやって、愚痴を聞いてやって、サンジとゾロが少しでもいちゃつく素振りをすれば体でルフィの視界から2人の姿を隠して遠ざけた。
「ウソップも大変ね。すでに保護者振りが板に付いて来てんじゃない」
ナミが楽しそうに手伝いをしているルフィを見ながらウソップに声を掛けた。
「保護者とかそういうんじゃないけどさ、あんまりにもルフィが可哀想っつうか、惨めっつうか・・・・」
「ああ、同情したって訳ね」
「同情って訳じゃ・・・・ねえ訳でもねえけど、嫌だろ」
「何が」
「仲間が苦しそうな顔してんの」
「ふーん、なるほど・・・。ま、しっかり保護者やって立ち直らせなさいよ。船長に覇気がないなんて士気が高まらないし、海賊じゃないからね」
少し寝てくるから進路よろしくね、と言うと船室に入っていった。
「そう言うんだったらナミも少しは協力してくれてもいいじゃねぇかよ・・・・」
ぶつくさと文句を言いながら作業場へ戻るとルフィが難しい顔をしてハンマーと格闘していた。
「何変な顔してんだ?」
「あ、ウソップ〜〜。わりぃ、壊した」
「なんだと、コノヤロ――!。これで5度目じゃねえか!!。もういい、お前は見るだけにしててくれ」
「え―――、俺やりたいのにぃ――・・・」
「ダメだ!!。これ以上失敗されたら材料がなくなっちまうだろうが!!」
「ちぇっ、つまんねーの」
こうやって言い合うようにもなってきたしこのままいけばサンジやゾロと普通に会話できるのも近いかもしれない、と考えるとウソップは自然と笑顔になった。
それから数日後だった。
昨夜遅くまで実験に没頭してしまったウソップは寝坊してしまった。
「おい、ウソップ、さっさと起きろ。朝飯なくなるぞ」
「お?、おお・・・・・」
サンジに起こされてふわぁ・・・、とあくびをしながら船室に入って行ったウソップは信じられないものを見たかのように入り口で固まってしまった。
なぜなら、ルフィがサンジとゾロ、両方と普通に笑いながら話していたからだ。
「ウソップ、突っ立ってないで座りなさいよ」
「あ、ああ・・・・・」
ナミの隣に座りながらウソップは呆然と目の前の光景を見ていた。
「どうやら吹っ切れたみたいよ、ルフィ」
「ん、そうみたいだな・・・・」
なんだか夢を見てるみたいだとウソップはしばし呆然としていたが、
「ウソップもやっと保護者の任が取れたわね」
とナミに言われてハッと我に返った。
「そうだ、もうルフィのお守りしなくて良くなったんだな。―――やーっとこれで武器の実験に打ち込めるってもんだぜ」
ウソップはパァ――と輝くような笑顔で言うと
「今日は前から試そうと思ってた『必殺痺れ玉』を作るぞ―――!!」
ウキウキと体を躍らせ鼻歌を歌いだした。
「これで辛気臭さも取れるわね」
ナミも元に戻った日常にうるさいながらも良かった、と安堵のため息をついた。
「ル〜〜〜フィ〜〜〜〜〜・・・。お前はぁぁあああああ!!。邪魔すんなって何度も言ってんだろうがっ!!!。いきなり飛び掛ってくんなっ!!!」
「違う。抱きついてんだ、俺は」
「その抱きつくのをやめろっつってんだよ!!」
「やだ。俺が抱きつきたいんだからこうしてんだ」
「だ・か・ら!、それをやめろっつってんだよ、コノヤロー!!」
ゴーイングメリーゴーは数日前とは打って変わって騒々しかった。
以前と同じくゾロやサンジと仲良くやってることに関してはウソップは良かった、と思ったものだったが、おまけがついていた。それはルフィがウソップの側にまとわりつくようになったことだ。しかもそれにはちゃんとした理由があった。
「俺は今新しい武器開発中なんだよ。お前がいたら気が散ってできないだろうが!」
「すりゃいいじゃねーか」
「するよ。だから俺から離れろって言ってんだよ!!」
「やだ」
「やだ、じゃね――――!!!」
ウソップは叫ぶのと同時にルフィに蹴りを入れて船室の外に出すと
「夕飯まで入ってくんな!!」
と捨て台詞を吐いて扉を閉めた。
と、居合わせたナミがクスクス、と笑い出した。
「なんだよ」
「ん?、あんたって鈍感だなぁと思ってさ」
「何がだ?」
「外見てみたら分かるんじゃない?」
何のことを言われているのか分からないウソップは素直にナミの言うことに従って丸窓から外を覗いた。
船の舳先ではルフィがつまらなそうにしながら前方を眺めていた。
サンジはめずらしく起きているゾロと何やら楽しそうに話しこんでいた。時々サンジがゾロの肩を抱いたりするのをゾロが鬱陶しそうにしているのがおかしかった。それを見てなんだかさっきまでの自分とルフィに似ているな、と思った。
(え?、ま、待てよ。ナミが言ってることがそういうことだとしたら・・・・・・・)
「どう、気づいた?」
「あ、いや、その・・・・、何ていうか、・・・・・・そうなのか?」
「そ。どうやらウソップのこと好きになっちゃったみたいよ。しかも本気でね」
ナミは楽しそうに笑いながら言ってのけた。
「でもよ、ルフィはゾロが好きなんだぞ?」
「・・・あんた近頃ずっと一緒にいてルフィの世話してたからその間に好きになっちゃったんじゃないの?」
「・・・・マジかよ・・・・・」
ウソップは信じられない思いで外を眺めた。
「あっ・・・」
そこで目に入ってきたのはサンジとゾロがキスしている光景だった。次の瞬間、ウソップはゾクゾクッとするような悪寒を感じた。―――途端、バン!、と扉が開いてルフィが勢い良く入ってきた。
「ウソップ――――ッ!!」
顔を見ればどこかいっちゃってる感じに笑いながら目を異様に輝かせている。
「ル、ルフィ、お前まさか・・・・・」
「俺達もチュ―――しよう!」
ウソップはあんぐりと口を開けて呆れるしかなかった。
「ルフィ、その前にすることあるんじゃない?」
ナミがまたもや笑いながら口を挟んだ。
「なんだ?」
「告白よ。順序良くいかなきゃハッピーエンドまで持ち込めないわよ」
「そうか!。ありがと、ナミ!」
「よけいなこと言うな、アホンダラ――!!」
と言ったウソップの前に素早く移動すると両肩に手を置いて
「ウソップ好きだぞ。まずはチューしよう。それから・・・・」
と、楽しそうに話すルフィに
「ゲッ!、その先は言うな、聞きたくない!。―――ルフィ、俺はホモにはなりたくない。だから断る」
青くなりながらもきっぱりと断った。
「?。俺はホモじゃないぞ」
「お前男が好きなんだろ?。だからゾロとか俺に、その・・・・」
「俺はホモじゃないけどウソップが好きだ」
「いや、堂々と胸を張られてもよ・・・・・。って何顔近づけて来てんだよ!」
ひいい・・・、とウソップが恐怖に目を見開く先にはルフィがうちゅ〜と唇を尖らせて迫ってきていた。
「だああ!、止めんかい、コラァ!!」
「なんだよ、いいじゃねぇかキスくらい」
「よくねぇよ!。嫌だって言ってんだろうが!!」
「俺はウソップが言ってた通りにしてんだぞ。何が不満なんだ」
「へ――?」
言われてウソップは首を傾げた。そしてハッと思い出した。
『どうしときゃよかったかって?。そりゃお前の場合は少し積極的にやっときゃよかったかもな。ま、今度があったらお前らしく攻めてけば?』
ルフィに聞かれたとき、答えた言葉を思い出した。そう、ルフィは今ウソップが言ったことを実行しているのだ。
「ま、待て。あれはなんていうか・・・・」
「ウソップ〜〜・・・」
再びぐい、と近付いてきた顔に
「ぎゃああああ!」
ウソップは情け容赦なくビンタをくらわせると、一目散に逃げ出した。
「あ、どこ行くんだウソップ!」
「お前がいないとこだよ!!」
(あいつらの仲間入りなんてなってたまるか!!)
あいつら、とはもちろんサンジとゾロのことだが、二人を見ていて、自分は絶対ホモにはならん!、と誓ったものだった。まさかその恐怖が自分に襲って来るとは思ってもみなかった。
「ウソップ待てよ――♪」
「待つか、バカ――ッ!!」
ギャーギャー騒ぎながら追いかけっこをする二人を見ながら
「ウソップも堕ちるのは時間の問題よね。・・・・・・あーあ、この船のクルーの中でまともなのは私だけか・・・」
ナミが溜息を付きつつ呟いた。
二人の行く末に、幸あれ―――。
「って、終わるんじゃねーよ!。幸なんかあってたまるかい!!」
「ウソップ、一緒に幸せになろーぜ―――!!」
「嫌だ――――!!!」
-fin-
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