遠い聖地に旅立つその日を、僕達はどれほど心待ちにしていたことだろう。
 赤い風に追われ、赤いクラプトを踏みしめるその両足は、僕達を緑豊かな聖地へと導いてくれる。白く輝く太陽に向かって、僕達は歩いて行かなければならなかった。太陽の真下の、真冬で唯一暖かな聖地へ。
 その日、深い眠りから醒めた僕達を迎えたのは、優しい母の声と、褐色に輝く二つのチェルクだった。
「渉、裕、チェルクが出来上がりましたよ」
僕と裕は同時に飛び起きた。裕は僕の片方だから、僕を鏡に映したかのような、そっくりな身体を持っていた。
「じゃあ、今日旅立てるんだね」
「デールは?」
裕の問いに、ルターは少しだけ悲しそうに答えた。
「昨日眠る前に、ほんの少しだけ風の色が変わったの。旅立ちには吉日を表わすから、デールは皆が眠っているあいだずっとチェルクを造ってたの。今は眠っている。デールに別れは言わなくていいから、早く旅立ちなさい」
 レイとリオは七十日前に旅立っていった。セイルとロエラは三十日前だった。ルターが産みデールとルターが育てた六人の子供達は、今日、そのすべてが旅立ってしまう。冬になり、やがて凍りついてしまうこの地で、二人はどうやって暮らして行くのだろう。一緒に行きたいと思った。だけど、二人にはもう、その力は残ってはいないのだ。
 旅立ちの儀式で、僕と裕は、ルターの双の手からチェルクを受けた。これから始まる長い旅と、太陽の真下に輝く最終目的地、聖地に思いを馳せながら。

(つづく)

チェルク…短刀。

製作者 黒澤弥生
mio_k@a4.shes.net
http://www.fan.hi-ho.ne.jp/cb-triangle/i-mode/index.html
ミニまぐID M0005432
http://mini.mag2.com/

登録フォーム
トップ