2人のシュウの想いが伝わってくる。大人のシュウの脳裏に浮かんだものは災厄に壊され廃墟になった村。あたしに正確に判った訳じゃないけど、これもひとつの村の運命なんだ。シュウは村を救いたくて過去に希望を託した。そして、小さなシュウの胸にあるのはただ、今死にかけている小さなユーナを救いたいという想い。
 大人のシュウが思っているのは、あたしを助ければ村の歴史が変わるということ。だったら今シュウを助けられたらシュウは生きていたことになる。2人とも助けることができたら、シュウは今でもあたしのそばにいてくれる――
「助けて命の巫女。お願い!」
「判ったわ。あたしの力が及ぶ限り努力する。でも覚えておいて。あたしにできるのはシュウが思い描いた呪文を増幅することだけなの。だから彼が知らない呪文の力は使えない」
 あたしは、この空間にも確かに存在する神様に向かって祈り始めた。今ここに存在するシュウを助けて欲しいと。でも、神様はあたしの祈りにほんの少しの反応も示さなかったの。それはまるで、神様にはあたしの存在が見えていないとでもいうかのように。
 まさか、ここにいる神様も同じなの? 幼いあたしやシュウのように、こちらから存在を感じることができるのに、干渉を受け付けてくれることはない。神様にとっても、あたしは存在していないのと同じなの?
 それまで片膝を立てて沼に手を伸ばしていたシュウが立ち上がる。
「命の巫女!」
「シュウが呪文を唱えてくれないの! たった一言でいい、影を攻撃する呪文を言ってくれさえすれば救えるのに」
「シュウ! お願い、あたしの声を聞いてよ! 行かないで!」
 あたしが見守る前で、シュウの両足は岸を蹴って、次の瞬間水音とともにシュウの身体は沼に吸い込まれていった。
「いやあぁぁーーー!!」
 自分が叫び声をあげたことすら気づいていなかった。あたしの身体は両側からシュウとリョウに抑えられていて、少しも動くことができなくなっていたの。それまで小さな自分を覆っていた邪悪な靄が、しだいにシュウの身体をも覆い始める。
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