「――えないか」
「え?」
あたしは自分の考えに沈みこんでいて、リョウの言葉を聞き逃してしまったみたい。あわてて顔を上げて問いかけたけど、次にリョウが口にしたのはたぶん別のことだった。
「明日の朝、西の森の沼で待ち合わせしよう。命の巫女たちにはおまえから伝えておいてくれ。食料や水は用意するが、祈りに必要な道具があったらそれは自分で用意しろよ。くれぐれも、ほかの連中に気づかれないようにな」
「うん、判った。でも食料ってどう用意するの?」
「明日の朝食と一緒にミイに頼んでおいた。おそらくたいしたものはできないだろう。それに夏場だから3日分くらいしか持ち歩けない。だから3日以内になんとかする」
そうか。村を離れるって、食事のことだけでもすごく大変なことなんだ。もしもリョウがいなかったら、今まで1度も村を離れたことのないあたしではそこまで頭が回らなかっただろう。
「3日で影を倒さなくちゃいけないのね」
「できればそこまで時間をかけたくない。3日でも多いくらいだ。体力勝負になるから今日は早めに休めよ」
あたしがうなずく頃にはそろそろ神殿が見えてきていて、それ以上この話を続けることはできなかった。もうほとんど日が落ちていたから、リョウは宿舎まで送ってくれたんだけど、カーヤが夕食に誘ったのは断って帰っていったの。たぶんリョウはランドの家へ行くんだろう。宿舎にはシュウと命の巫女がいたから、カーヤがオミの部屋へ行っている間に2人にも話したんだけど、やっぱり黙って出かけることには引っかかるものを感じたみたいだった。
カーヤに断って、今日もカーヤの部屋で命の巫女と寝床についた。あたしだけ眠る前に日記をつける。今度はいつこの日記を付けられるか判らない。もしかしたら、今日の日記が12代目祈りの巫女の最後のページになるのかもしれない。
あたしは今日までに感じたさまざまなことを書き綴った。それと、明日影の国へ行くことを、この日記にだけ告白したんだ。
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