リョウと別れて1人で宿舎に戻ると、探求の巫女とシュウは言い合いを終えていたようで、食卓に重苦しい空気が漂っていた。タキも食卓の空いた席に座ってる。あたしの顔を見るとまるで救い主が現われたかのように声をかけてきたの。
「あれ? 祈りの巫女、リョウは?」
「会議まではまだ時間がありそうだから、1度家に帰るって言ってたわ。ほら、昨日の夜から狩りの道具を持ったままだったから」
カーヤがいなかったから、あたしはタキにお茶を出して、途中だった食事を再開する。探求の巫女とシュウは互いに目を合わせないように下を向いたまま残りの朝食をかき込んでいたの。ちょっとしか聞かなかったから判らないけど、シュウが秘密にしていたことが探求の巫女にバレちゃったみたいね。仲裁するつもりじゃなく、あたしはシュウに声をかけていた。
「どうかしたの? なんだかリョウのことで喧嘩になってたみたいだけど」
「ちょっとね。…祈りの巫女、彼は本当にこの村で生まれ育ったの?」
「そうよ。あたしが小さい頃からずっとこの村にいたわ。だからシュウが知ってる人とは別人よ。あたしが証明する」
タキの何か言いたそうな視線を頬に感じていたけれど、あたしは無視した。
「シュウはどうしてそんなにリョウにこだわるの? 昨日カーヤを見たときとずいぶん違うけど」
「…トツカはオレたちと同じなんだ。つまり、オレたちもトツカも、理由の判らない旅をずっと続けてた。一緒に旅してた訳じゃないんだけどね、どきどきすれ違って…。数日前にオレたちがヤケンの群れに襲われてたとき、トツカはオレたちを助けてくれたんだ。それきり会ってなかったから心配してた。…ここに来ててもぜんぜんおかしくないんだよ。もしも本人だったら一言お礼が言いたくてね」
シュウはすごく言いづらそうで、できるだけ言葉を選びながらしゃべってたみたい。シュウが言うヤケンという動物――たぶん動物だろう――のことはあたしには判らなかったけれど、それがどんな姿をしているのかは想像できる気がしたの。
「シュウは見捨てたんだよ、トツカサンのこと。…あたしたちを助けてくれたのに。トツカサンがリョウチャンだって知ってたのに!」
「あの時はそうするしかなかったって、おまえも納得したじゃないか! オレたちにいったい何ができたって言うんだよ!」
探求の巫女の言葉にシュウが反論したそのとき、とつぜんパチンと音がして、探求の巫女がシュウの頬を平手で叩いていた。
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