オミが話してくれたことを、あたしはきちんと考えることができなかった。どう考えていいのかが判らなかった。…たぶん、オミ自身が苦しかったんだ。だからオミは、自分の苦しみから逃れるために、あたしにこの話をしたの。でも今のあたしにはオミの言葉をきちんと受け止める準備ができてなかった。リョウが死んだ今、あたしはこの話をどう受け止めたらいいのか、ぜんぜん判らなかったの。
オミ。あたしの弟。ずっと小さな頃から傍にいた、あたしの家族。今、あたしはあなたが煩わしい。父さまと母さまが影に殺されるところを間近で見て、心と身体に大きな傷を負って、死の恐怖の苦しみや身体の痛みと必死に戦っているあなたが。
オミ、あなたが大好きよ。…でもあたしは独りぼっちだ。母さま、いつもみたいにあたしを助けて。あたしがこれからどうすればいいのか、誰かあたしに教えてよ――
――リョウ、苦しい…
「ユーナ…?」
その時、宿舎の扉が開く音がして、間もなく部屋に飛び込んできた人がいた。カーヤだった。
「ユーナ! …よかった…!」
あたしはカーヤの言葉に反応することすらできなかった。ずっと椅子に腰掛けたままだったあたしの様子を注意深くうかがったあと、カーヤはオミに向き直ったみたい。
「オミ、無理なお願いをしてごめんなさい。本当にありがとう」
「いいよ。それよりユーナが…。オレ、余計な話をしすぎたかもしれない。様子がおかしい」
カーヤがもう1度あたしを振り返った。あたし、またカーヤに心配かけてるよ。しっかりしなくちゃ。
「ユーナ…? どうしたの? 大丈夫?」
あたしは椅子から立ち上がって、なんとか顔を上げることができた。
「大丈夫よカーヤ。…オミのことをお願い。また、めんどうをかけるけど」
そのままオミの病室を出ようとした時、あたしはカーヤに呼び止められた。
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