あたしがランドの手を振り払うしぐさをすると、きつく掴んでいたことに気がついたのか、ランドははっと手を離した。あたしはそのまま立ち上がって、ランドを置いて歩き始めたの。
「リョウ、リョウ、どこにいるの? 隠れてるの? …もう、いいでしょう? 出てきてくれてもいいでしょう?」
今、出てきてくれるんだったら許してあげるよ。あんまりにもひどい冗談で、ぜんぜん笑えなかったけど、でも許してあげる。きっとリョウがやろうって言い出したんじゃないと思うもん。こういうのを考えつくのっていっつもランドで、リョウは引き込まれて乗せられてるだけだったもん。
あたしが神殿の扉の前まで来て、扉を開けようとするよりも早く、ランドがうしろからあたしを捕まえた。
「ユーナ、やめろ。…リョウはもういない。探してももうどこにもいないんだ!」
「嘘。ランドはいつもあたしをからかってばっかりだったもん。いつまでもランドの嘘に引っかかるほど、あたしは子供じゃないよ。…リョウ、そこにいるんでしょう? 判ったからもう出てきて?」
まるで、あたしのその声が聞こえたみたい。外側からゆっくりと扉が開かれて、そこには遠慮がちに立つ誰かの姿があったから。
「リ…タキ。…ローグ…?」
外からの月明かりでかろうじてそれだけが判った。タキは、あたしの姿を見ると凍りついたように動けなくなってしまって、そうと察したローグがタキの脇を抜けて神殿に入ってくる。あたしも今ローグがここへくる意味が判らなくて、見つめて微笑んだローグを呆然と見上げているだけだったの。
「祈りの巫女、今日はいろいろあって疲れただろう? 今タキに聞いたけど、巫女の会議なんかはぜんぶ明日に回されたから、君ももう帰っていいそうだよ。よく眠れる薬をあげるから、一緒に宿舎に帰ろう。カーヤも心配してるよ」
そういえば、今は扉も開け放たれているのに、しんと静まり返ってる。神殿のみんなもそのほとんどが休んでしまっているんだ。
「…でも、ローグ。リョウは? あたし、リョウに会わないといけないの」
「リョウは村で眠ってる。だから祈りの巫女も今日はゆっくり眠るといいよ。あとのことは明日、目が覚めてから話そう」
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