『世界は誰が造ったのか』
 子供のころ、親戚のおじさんがオレに聞いた。オレは子供だったから、自分の持っている知識を総動員させて、なにしろ負けたくなかったものだから、一生懸命になって反論していた。
「宇宙の大爆発で空気とかちりとかが出来て、それが集まって生き物になったんだよ。それが進化して恐竜になって、絶滅してからは小さい生き物が進化して、それで人間になったんだ。人間はそうやってできたんだって、本で読んだよ」
 オレはまだ小学生だった。自分ではあんまり意識していなかったけど、たぶんインテリを気取っていた。みんなが知らないことでも、オレはたくさん知っていたから。だからオレは、中学しか出ていないようなおじさんに、討論で負けたくはなかったんだ。
「それじゃあ信市に聞くけど、その爆発するまえの宇宙を作ったのは、一体誰だったんだろう。生き物を進化させたのは? 人間の魂はどこからきたんだい?」
 オレは言葉に詰まった。そんなオレを見て、おじさんは更につづけた。
「時間を作ったのは誰だろう。空間を作ったのは。おじさんは全て、神様のしたことだと思うんだ」
 オレは必死で反論した。知っている言葉と本で読んだことを思い出しながら懸命に。だけど、絶対に詰まってしまうのだ。『始まりを造ったのは誰か』というところで。そして、もう一言も反論出来なくなったころ、おじさんは静かに言ったのだ。
「どんなに考えても、神様の存在を否定することは人間を超えないかぎり、出来はしないことなんだよ。そして、人間である以上、人間を超えることは出来ないんだ。そのうち信市にも判るよ」
 今思えば、あのときおじさんは、オレの驕りをたしなめようとしていたんだろう。それからのオレは、自分の知識を友達にひけらかしたりはしないようになっていた。
 あのころの思い出は今でも、オレの中にくっきりとした輪郭で残っていた。
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