ミオは泣いていた。
 片手でオレのシャツを握り締めて、声を張り上げ、手放しで泣いていた。一気に子供に戻ってしまったようだった。無防備に身体中を震わせて、泣きじゃくる、という言葉がピッタリの泣き方だった。
 正直オレは戸惑ってしまって、ミオの肩を抱いたまま見守っていることしかできなかった。彼女がこんな泣き方をするような何を、オレは言ったのだろう。そんなにショックだったのだろうか。オレが幼い頃からのミオに恋をしていたかもしれないというのは。
 ミオはありったけの声を張り上げて、泣き止む気配は見せない。それどころか、どんどん感情が高ぶってきてきているようで、オレの胸に顔をうずめた。守るように抱きしめながら思う。もしかしたらオレの言葉はきっかけに過ぎなくて、泣いているうちに湧き上がってきたさまざまな思いがミオの中にはあるのかもしれないと。
 3年もの間、ミオの革命は続いていたのだ。オレたちが葛城達也のもとに人質を残して東京に戻ったあと、ミオはずっと皇帝とコロニーの掛け橋だった。おそらく緊張の連続だったことだろう。オレには想像のつかない苦労があったのだと思う。ミオの代わりは誰にもできず、誰に頼ることもできなかったのだから。
 ミオの革命は、今この瞬間に終わったのだ。
  ―― たまらなくなって、オレはミオをきつく抱きしめた。
 好きなだけ、気の済むまで泣けばいい。誰にも何も言わせない。ミオにはその権利がある。ミオの今の涙は誰にも判らない、ミオにしか判らない涙なのだから。ミオが背負ってきたものの重さはミオにしか判らないのだから。
 今夜のミオは、一生忘れられないだろう。

 ねえ、ミオ。オレは君の最高の恋人になれるか?
 君がオレの最高のパートナーになると言ったように、オレは君の最高のパートナーになれるか?
 いつも君を見守っていたい。傷つき涙を流す君を。
 いつか、最高の笑顔で笑えるように。

 君はいつしか大人になって、今日の涙を忘れてしまうのかもしれない。日々の忙しさにかまけて、少女の頃の一瞬は記憶の引き出しにしまわれてしまうのかもしれない。それでも、オレは忘れない。今日も、明日も、君の小さな毎日を、少しずつ大人に近づいてゆく心の揺らぎを忘れない。君のすべてを、心のパーツに刻み付けて。
 やがて、オレの心のハードディスクは、君の記憶でいっぱいになることだろう。

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